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【2021ハロウィン】大荒野のハロウィンパレード!

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【2021ハロウィン】大荒野のハロウィンパレード!
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リアクション


―第三章―
 円滑なイベント運営というのは、その準備で八割決まるものである。
 ハロウィンパレードも、楽しいお祭りとして定着するか、或いは無法者の暴走行為の乱舞パーティに堕ちるかは今年に掛かってると言っても過言ではない。そのため、観客の目に見えぬところで暗躍するスタッフ達がいた。
 そんな皆と同じでヤル気に燃え、ハロウィンパレードのイベントプランナーとして仕事をしていたルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、運営本部の仮設テント内の机に座り、頭を抱えていた。
 ルカルカの仮装衣装は、猫耳、猫尻尾付きの白ゴスロリ魔女であるが、凹んだ本人に合わせて耳と尻尾の角度は低い。
 ルカルカに、お揃いの白ゴスロリ魔女姿のルカ・アコーディング(るか・あこーでぃんぐ)が声をかける。
「ルカ? 平気だよ!!」
「平気じゃないでしょ……あー、ノーンに付き添ってルカが行くべきだったわ……」
「だから、平気だって! ね、これ見てくれる?」
 ルカアコがルカルカの前にノートパソコンの画面を見せる。
 表計算ソフトに数字が何やらたくさん書きこまれてある画面。ルカアコの傍にいた算術士が手伝って作った今回のイベントのここまでの収支表である。
「これが録画テープの販売や放映権の収益……ほら、警備員やダンサー達に金一封配ったとしても全然余るくらいだから!」
 明るく話すルカアコが見せた表の傍には、被害予想金額の赤字が書かれてある。
「この赤字……本来は無かったものでしょう?」
「燃えたイコンの修理に結構お金掛かるけど、何とかペイ出来そうだよ。ペイできたら毎年しても負担にならないからね!」
「炎上事故は毎年起こって欲しくないわ。いつか、天井に付けたロープで首を伸ばそうとする人が現れそうだし……」
 ルカアコは算術士にも手伝って貰い、財産管理の計算能力も駆使し今回の会計を担当していた。
「ルカ? ここはシャンバラ大荒野なんだよ? 凶暴な野獣や巨大昆虫の生息域をなるべくルートから外した結果なんだし、それでも完全には防げないんだからさ。頭を切り替えようよ! ね?」
「はぁ〜。でも、ペイ出来たお金が減った事には変りないじゃない?」
「ルカ。それがそうとも限らないんだ」
 悪魔と執事をミックスさせた仮装をしていたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が、先程までしていた電話を切って振り返る。
「なぁに。セバスチャン?」
「……なんだそれは? ほら、好物のチョコバーをやるから立ち直れ」
 ダリルがルカルカの好物のチョコバーを冷凍庫から取り出して渡す。
「ありがとっ!! それにしても悪魔のコスプレが似合いすぎてるわ。実は……本質は人間の敵ってかワルイヒトでしょ?」
 からかうようにダリルに笑うルカルカ。
「否定はしない……と、話を戻すぞ? 今、警察や軍関係に行事予定表、つまりタイムスケジュールの変更を願い出て許可を受けた」
「うっわ。硬……」
「悪いか?」
「ううん。姿はともかく中身は悪くないわよ? 頼りにしてるもの」
 大好物のチョコバーをかじり、いつものテンションに戻るルカルカ。
「……まぁいい。」
 ダリルはパレード当日は自分のやる事なんてないだろう、と思うほど、今日のために動いてきた。
 担当は、関係各所への根回し、説得、その他もろもろ……である。
 予め、ダリルは警察や軍等に行事予定表を地図や責任者連絡先と共に提出し、政治集会や集団的暴走行為でないと説明して屋外行事の実施と集会の許可を取っていた。
 そして、この日もパレード開始から椅子に腰掛けノンビリしていた。それを見過ごすルカルカではなく、サッと彼の前に書類の束を置く。
「何だ? ……これはTVの取材許可や放映権契約等の契約関係、まさかこれも俺……ルカ、お前がやらんか」
「現場との連絡で手が塞がってまぁす!」
 しかし、そんなTV局とのやり取りは、自ら剛腕と名乗るプロデューサーに一任したため、やる事が無くなったと思っていた。
「何か、ハプニング起きてイキイキしてない?」
「どうかな? 俺以外に出来る者がいれば譲ってやってもいいが……」
 ルカとルカアコを見たダリルが、薄く笑ってフゥーと溜息をつく。
「今の間は何?」
「そんな事より! このハプニングが起きたため、TV局が中継を最後までしてくれるらしい」
「え? 途中でドラマになるって話だったんじゃ?」
「筋書きの無いドラマを楽しむ人間が多いのだろう、この大陸には」
「そういうものなのかしら?」
「しかし、そのお陰でパレードの収益が倍増している。他にも、ツンツルテンかツルンデネーヨンとかいうアイドルのファンからの問い合わせも凄いらしい」
 ダリルの話を聞いていたルカルカが目を閉じて頷く。
「確かに、あの炎上爆発事件は、大多数のまともな感覚の人々の苦情と、一部のモヒカン達の賞賛を受けたからね……」
 テントの扉を開けて入ってきたのは三鬼となななである。
「遅れて悪いな。なななを連れてきたぜ?」
 ルカアコが二人に気付いて、ダリルと今後のプランの話をしていたルカルカを呼ぶ。
「ルカー! 三鬼となななが来たよ!」
「あ〜、疲れた。でもなななの大活躍で騒ぎも収まったようね! よかったよかった!」
「「よくない!」」
 ルカとルカアコの非難の声がハモる。
「ノーンがフォローしてくれたからいいけど、ななな? カメラの前で無駄なサービスしてる暇あるなら、警備員のお仕事してよ」
 巨大昆虫との戦闘時、なななは「ハロウィンだからかぼちゃパンツのパンチラね!」とカメラに向かって無駄なサービスをしようとしての強制退場させられた。
「もしパレードが無くなったら、なななの大活躍も見れなくなっちゃうしね?」
 ルカアコが笑う。
「そうね……それは困るわね」
 珍しく真面目な顔で「うーん」と考えるななな……ハッと顔を上げて、

「じゃあ、なななの宇宙パレードにしたらいいのよ!!」
「それは素敵ね。絶対却下するけど?」


「何でー? みんなで宇宙電波感じながら練り歩くの!! きっと楽しいよ!」
「そのまま全員、鉄格子付きの病院送りになるのだろうな」
 自分の作業を再開しつつ、ダリルが突っ込む。イメージ的には、シャンバラの長寿アニメ『シジミさん』のエンディングのラストカットだろうか?
「まぁ、それはさせないわよ。一応、なななとアコとルカは天然仲間だからね!」
「ルカルカ!! やっとなななに追いついたようね!!」
「あ……そこは一緒にしないでね?」
「ステレオ電波がサラウンドになったのか……厄介だ」
「おまえ達も大変だな……」
 三鬼が呟き、時計を見る。
「お……丁度交代の時間だ。ほら、ルカルカ、パレードの警備に行くんだろう?」
「うん。じゃあ三鬼、後よろしくね?」
 ルカルカがチョコバーの棒をゴミ箱に投げ入れる。
「俺におまえ達程の仕事が出来るとは思わねえけど……」
 三鬼が自信なさげにルカルカがいた机の書類を見つめる。
 その書類には……各項目ごとにルカルカが走らせた赤ペンのメモが見える。

・ルートの検討と難所の事前チェック(地図に記載し配布)
・許認可手続き(ダリルに)
・収益管理と報酬配布(ルカアコよろしく)
・各担当へ連絡と指示(私……)
・適宜ルート変更(予備ルートを作れば地図見てすぐに変えれるかな?)
・エトセトラエトセトラ……。


 少し見つめただけで、ウンザリした顔をする三鬼に、ダリルが声をかける。
「安心しろ、三鬼。俺も残る」
「ダリル? 行かないの?」
 虹を架ける箒を手にしたルカアコが尋ねると、ダリルは机に積まれた書類を見て苦笑する。
「ハプニングがまた起こらないと言う保障はないし、その時、俺以外に任せられる人物はいないだろう?」
「そう……残念だけど、その通りね。あ、携帯で誘っていたセリヌンティウスさんも来れないって連絡あったよ?」
 セリヌンティウスとは、元第七龍騎士団の団長である。ただ、ドージェに首を刎ねられて、野球のボールにされた後、パラ実の教頭になって、最終的に頭をパンにされ教頭をクビになって以降は公の場に姿を見せていない。そんな波乱万丈な人物の連絡先を何故ルカルカが知っていたのかは謎である。
「残念だ。箒の後ろに乗せて飛んでみたかったな」
「パレード楽しみだなぁ! ずっとTVでしか見れてなかったし」
 楽しみにしていた上空警備の仕事にルカアコが声を弾ませる。
「アコ? ルカ達は上空から外敵監視するのよ? 見つけたら籠手型HCで各所に連絡、忘れてないでしょうね?」
「わかってるって! 見物しながら警備するもん!」
「……逆でしょう? さ、行くわよ」
 ルカアコと同じく虹を架ける箒を手にしたルカルカが扉を開けて、外へと出ていく。
 再開間近のハロウィンパレードに、再び観客たちが沿道を埋めていくのが見える。
「(全ての山車がゴールしたら、最後のお仕事が待ってるわよ。頑張れ、ルカルカ……)」
 自分にそう言い聞かせて、ルカアコと共に箒にまたがり、虹色の尾を引きながら、ルカルカは夜空に飛んでいくのであった。
「……て、何でいるのよ!?」
 箒に重みを感じたルカルカが後ろを振り向くと、なななが一緒に乗っていた。
「フフフ……呼ばれて飛び出てなななじゃん!とは、このなななの事よ!」
「……まぁ、いっか(何かあれば振り落とせばいいんだし)」
「ん? 今、何か言った?」
「なーにも言ってないわよー! しっかりつかまってて!」
 ルカルカがなななに微笑み、空飛ぶ箒の速度を上げて飛んでいく。