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ブラッドレイ海賊団2~その男、ワイバーンを駆る者なり~

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ブラッドレイ海賊団2~その男、ワイバーンを駆る者なり~

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●第4章 VSランスロット

 相手の船から出てくるのは、下っ端の海賊たちや、レッサーワイバーンの乗り手たちだけではない。
「逃げ隠れせず、来たようだけど……まさか、君が“黒髭”だとは言わないよねぇ?」
 自分の海賊船の甲板に立つ美緒を見て、レッサーワイバーンに乗ったまま高度を下げ、近付いてきたランスロットが軽く首を傾げ、訊ねる。
 彼の隣には、後ろ手に縄で縛られた雅羅が居た。
 “黒髭”の名だけを聞いていたランスロットが驚くのも無理はない。
 キュべリエのアドバイスの元、“黒髭”美緒は、海賊のハットとコートという姿ではなく、いつものラナのビキニアーマーより少しだけ露出部分の多いビキニアーマーを纏っていたのだ。
「そのまさかだ、名だけで判断するもんじゃねえぞ、若造が」
「!!」
 思わず全身をまじまじと見てしまっているランスロットに“黒髭”が答える。
「ああ、そういうことね、理解したよ」
 ランスロットは、“黒髭”の正体に納得したように、頷くと、ランスを構え、口を開く。
「彼女を返して欲しかったら、アーダルベルトを捕らえたように、僕たちを捕らえるといい。出来るなら……ね?」
 告げて、ランスロットはレッサーワイバーンへと指示して高度を上げていく。

「待ちやがれ!」
 声を上げたのは、だ。
「俺は夢野久だ。おまえに勝負を申し込む!」
 高度を上げ掛けていたレッサーワイバーンがその途中で留まり、ランスロットが彼を見下ろしてくる。
「見たところ、空を駆る術がなさそうだけれど?」
 久の周りを見回して、小型飛空艇もレッサーワイバーンなどもないことを確認したランスロットが嘲笑うような顔をしながら訊ね返した。
「空を駆る術がなくとも俺にはこれがある。それより、とばっちり行っても気分悪ぃだろ、少し離れた所にやっておいてくれよ」
 聖杭ブチコンダルを構えながらも、久が指したのは、雅羅のことだ。
「つか、俺の勝手な想像だけどよ。人質とかにする気は別にねえだろ? “黒髭”が来た時点でもう捕まえとく必要無いんじゃね?」
 続けて訊ねる。
 ランスロットはただ、アーダルベルト率いる3番隊が負け、顔に泥を塗られたが故に、ブラッドレイ海賊団全体の面子のために、“黒髭”を呼び出し、勝負を仕掛けてこようとしたのではないかと、久は考えていた。
「確かにね、“黒髭”が来てくれたからには、彼女はもう必要ない。でも……僕が連れている方が、お姫様を救う楽しみが発生するだろう?」
 頷いたかと思えば、続く言葉は少し楽しそうに、ランスロットはそう言って、再び上昇し始めた。
「ただの下衆野郎ってことか!」
 見込み違いだったことにムカつきを覚え、久は聖杭ブチコンダルを構えた。

 骸骨のエングレーブが施された、魔銃モービッド・エンジェルを構えた小夜子は、ランスロットのレッサーワイバーンへと向ける。
 強力な魔力の籠もった弾――大魔弾『コキュートス』を含む4発の銃弾をただの一度の射撃で、放った。
 反動が大きく、すぐに次の一撃を……というわけにはいかなくなるけれど、その分、ただの銃弾によるダメージでなく、闇黒と氷結の魔法ダメージを撃ち込むことが出来る。
 ただの一撃で4発も放たれては、ランスロットのレッサーワイバーンも避けるのは難しかったようで、身体を貫く痛みに、悲鳴に似た鳴き声を上げた。
 けれどもすぐさま、小夜子に向かって、ブレスを吐き出す体勢へと立て直そうとする。
「小夜子さんに、そして船に、ブレスは吐かさせないわ!」
 軽くてしなやかな、ワイバーンの骨で作られた槍を手に、エノンが強化光翼をはためかせながら、大きくジャンプする。
 その一撃は、スキルの力だけでなく、槍自身の貫通力も手伝って、とても強力な痛みをレッサーワイバーンへと与えた。
 まさにブレスを吐き出そうとしていたレッサーワイバーンは痛みに、暴れるように翼を動かす。
「おぉう、落ち着け、落ち着け……」
 ランスロットがレッサーワイバーンへと声を掛け、落ち着かせると、再びブレスを吐き出すような体勢を取らせた。
「やれ!」
 指示され、レッサーワイバーンがブレスを吐いた標的は、小夜子やエノンでなく、“黒髭”だった。
「美緒、危ない!」
 盾になるように、ブレスと“黒髭”の間に入ってきたのは、正悟だ。
 大きな痛みを受けて、思わずよろけそうになる。
「ありがたい。だが、小娘ではなく俺様なんだがな?」
 何故そこまで拘る? とでも言いたげな視線を向けながら、“黒髭”は正悟に向けて、告げた。
「あんたは気にいらない……が美緒は俺にとっては大事な人なんでな。それ以上の説明はいるのか?」
「いらないな。そんなにこの小娘が大事なら、ほら、集中しろ。来るぞ!」
 告げて、顎でくい、と“黒髭”が指す。
 レッサーワイバーンを駆り、ランスロットが近付いてきていて、ランスを突き出そうとしていた。
 正悟は光条兵器、ディバインダンサーの刃で、それを受け流す。
 傍らから“黒髭”が、そこらで伸びているブラッドレイ海賊団の団員から奪った銃を構え、レッサーワイバーンの翼目掛けて、引鉄を引いた。
 放たれた銃弾は、若干照準に狂いがあったか、翼を掠めるだけ掠めて他所へと飛んでいく。
 戦闘に慣れぬ美緒の身だからか、ただ男性に比べて力の弱い女性の身だからか。
 それを扱う感覚に違和感を覚え、“黒髭”は銃を下ろした。
「もうだいじょうぶなんです〜」
 告げながらヴァーナーが正悟に向けて、天使の救急箱を開いた。
 ブレスにより受けた彼の傷が、たちまち治っていく。
「おいたはメ〜なんですよ〜!」
 神ですらおののく、ディーヴァの声をヴァーナーが放った。
 ランスロットとレッサーワイバーン、更に他の乗り手たちなどにも痛みを与える。

 小型飛空艇に乗り駆けつけた和輝が、ブラッドレイ側の手薄い船に狙いをつけた。
「シルフィー、頼みます」
「了解ですわ、和輝さん」
 彼のパートナー、クレアが頷き、その船目掛けて雷を呼び出す。
 降り注ぐ雷は、船の機関部を狂わせて行く。
 機関部へと攻撃を喰らい、甲板から海賊たちが銃や弓矢を構えて、反撃をしてきた。
 が防御体勢を取り、その攻撃を防ぐ。
 機関部の壊れた船は、本船へとぶつかり、大きく揺らいだ。
「俺の船が……!」
 ランスロットは本船の様子に、声を上げた。
 その気が逸れたチャンスを美羽は逃さない。
「ベアトリーチェ!」
「はい」
 美羽に声を掛けられたベアトリーチェは、天からランスロットの駆るレッサーワイバーンに向かって稲妻を落とした。
 レッサーワイバーンの身を雷電が駆け抜けていく。
 バランスを崩して、落下していくのを見て、美羽が空かさず氷を操る術の準備をした。
「上がれ……ッ!」
 ランスロットがレッサーワイバーンに向かって指示を出すけれど、雷電による痛みに翼を上手く動かすことが出来ないのか、バランスを立て直して上昇することが出来ない。
「くっ……」
 仕方なく、ランスロットは、レッサーワイバーンの背を蹴り、己の海賊船へと飛び降りた。
 連れようとしていた雅羅の手が離れ、彼女は宙へと放り出される。
「お姉ちゃん、今だよ!」
「任せて!」
 後部座席にクッションや毛布を敷き詰めれるだけ敷き詰めたエアカーで、落下する雅羅の下へと向かったのは、瑠兎子だ。
 毛布などは保険のため、実際に受け止める夢悠が、後部座席で腕を出し構えている。
 そうして、落下してきた雅羅を2人の息の合った連携で、受け止める。
 降下していくレッサーワイバーンが海へ落ちると同時、美羽が氷を操り、海面を凍らせた。
 海ごと凍らせるつもりであった美羽だが、流石にたくさんの海水を凍らせることは出来ず、レッサーワイバーンの周りや跳ねてその身に付着した海水を凍らせるぐらいに留まった。
 一方で、己の海賊船へと降り立ったランスロットに向けて、久の聖杭ブチコンダルがその右腕を貫く。
 そのまま大きく薙ぎ払われて、彼の身体が弾き飛ばされた。
「言うだけあって、やるね、君」
 ランスを左手に構え直し、ランスロットが笑う。
「出来たら気持ちよく喧嘩したかったんだがな!」
 再び、久が突き出した聖杭ブチコンダルに向けて、彼のランスが突き出された。
 ぶつかり合う音が響く。
 何度もそれが繰り返されて、先に相手の身体を貫いたのは、久だった。