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学食作ろっ

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 ■ おいしい学食を作りましょう ■
 
 
 
 学食の料理はどんなものが良いだろうかと相談して、桐生 円(きりゅう・まどか)ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は天ぷらを作ることに決めた。
 天ぷらなら何でも衣をつけて揚げるだけで良いし、揚げるものを変えればどんな季節にも対応できるオールラウンダーだ。
 普段は料理しない円だけれど、恋人が料理得意なことだし、自分も上手になりたい。
「揚げるだけならボクにも出来るよね。けど、なに揚げようかなー」
 厨房にはお披露目会にあわせ、秋に旬を迎えるものが多く用意されている。
 円は悩みつつ、バットの中に適当に食材を入れていった。
「イワシとかカキとかスズキとか……あとはヤマイモとかー。カブって天ぷらになるのかな? まぁいいや。何でも試しちゃえ。食べてみれば分かるよね」
「円さんは魚とかお芋さん中心ですか? なら私はキノコ中心にしてみましょうか。キノコ類はカロリー控えめが嬉しいですし、秋の香りがしますよね」
 シメジやマイタケを中心にキノコを選ぶロザリンドに、円も対抗意識を燃やす。
「ロザリンはキノコ? 強敵だけど負けないよ!」
「負けないって、どういうのが勝ちでどういうのが負けなんでしょう?」
「よくわからないけど、とにかく頑張るー」
「はいはい、頑張りましょうね」
 ロザリンドはキノコを濡れ布巾で拭いたり石づきを切ったりして下ごしらえをすませると、天ぷらの衣作りに取りかかった。
「確かこうやって……」
 テレビ番組を思い出しながら、小麦粉をボールに振り入れる。
「ロザリン目分量? 前まで料理下手だったのに、慣れてくるとやっぱり違うんだねー」
 感心する円の前で、ロザリンドは衣の濃さを調制する。テレビでは衣にビールを入れていて、熱でアルコールが飛ぶから大丈夫と言っていたけれど、未成年が多く調理する場にビールを持ち込むのもはばかられ、ロザリンドは念の為とノンアルコールビールを用意してきた。しゅわしゅわと泡の立つノンアルコールビールで、衣をこれくらいかなという濃さまで薄める。
「きちんと覚えているわけではないですけど、ある程度は誤差の範囲内で済むはずです」
「へぇそうなんだ。じゃあボクも真似してっと……玉子に小麦粉ーっと。ビール余ってるなら借りてもいい? あ、衣にお塩混ぜといた方が美味しくなるのかなぁー?」
「はいどうぞ。えーと……お塩は確か少々と言ってましたから少しですよね」
「少々? 少々ってどのくらい? ひとつかみぐらい?」
 円はむんずと塩を握ってロザリンドに見せる。
「それは少々ではないと思いますけど……た、多分その手を上で軽く振って落ちたのが少量じゃないかなーと」
「うん分かった。ありがとー」
 言われた通りに塩を握りしめた手を衣の上で振って指の間にあった塩を落とすと、円は満足そうに衣作りを続けた。
「円さん、適量ってわかりますかー?」
 今度はロザリンドが尋ねる。
 円はしばし考えた後、こう答えた。
「適量とは、『自分の魂がここだと思える所』だと思う!」
「そ、その通りですね」
「それよりロザリン、油の温度って温度計とか入れられないし、どうすればいいんだろ?」
「えーと……ほら、早いうちから入れますと、中まで火が通っていいから、あまり気にしない、とか?」
 こんな調子で出来上がった天ぷらは……。
「……ぐっちゃぐちゃだー」
「見事に油を吸ってますね……」
 油の中で溺死した天ぷらを、ロザリンドは箸で持ち上げた。
「オ、オタケさーん!」
 これは自分たちでは無理そうだと、円はオタケに助けを求めた。
「てんぷらってのは知らないけど、要するに揚げ物なんだろう?」
 これが正しいのかどうか分からないと言いつつも、オタケは円とロザリンドの話を聞きながら、具の下ごしらえをし、衣を作った。
「温度が分かりにくいんだったら向こうにフライヤーがあるし、温度計のついた揚げ鍋だってあるよ。どちらがいいかねぇ?」
「私のはキノコのかき揚げなのであまり深すぎない方がいいです」
「じゃあ鍋で、っと」
 オタケの太い腕が揚げ鍋をコンロに置き、とくとくと油を注ぎ入れる。
 そうしてきちんと温度を計って揚げた天ぷらは、少し衣が厚めだったものの、それらしく出来あがった。
「できたー! 出来たよロザリン」
「きれいに揚がりましたね。うん、美味しいです」
 キノコのかき揚げを味見してロザリンドは微笑んだ。さくっとした衣の中からふわりとキノコの香りが口に広がる。
「山芋もほこほこだよー。オタケさんありがとー」
「いや、あたしも作り方や気を付ける点が良く分かったよ」
 はははと笑ってオタケは天ぷらを1つ味見し、また別の所を見に行った。
 
 
 そうして皆が料理作りをしているところに、ダイア・セレスタイト(だいあ・せれすたいと)を連れた南天 葛(なんてん・かずら)はおどおどと入ってきた。獣人のダイアは今は大きな白銀の狼姿。というか、葛に獣の姿を激しく気に入られてしまったが為になんとなく人の姿に戻り辛く、葛の前ではいつもダイアは獣の姿を取ったままでいる。
「ボクもお手伝いしていいのかな?」
「それは聞いてみないと分からないですけれど、葛は料理が手伝いたいのですか?」
 ダイアに聞かれ、葛はこくりと頷く。
「ダイアにはいつもささみとか果物とかお野菜しかあげてないよね? ダイアはボクの大切なわんわんだから、動物でも食べられる美味しいもの食べさせてあげられるように、料理の練習したいんだ♪」
 それに、いつかこっちでお母さんを見つけられたら、日本の美味しい料理を作ってあげたい、という葛に、ダイアはじーんとくる。
「葛、その心だけでとっても嬉しいです」
 そうして話している葛とダイアに気づいて、オタケが入り口の所までやってきた。
「何か用なのかい?」
「ここでお料理してるって聞いたんだけど……ボクもお手伝いさせてもらってもいい? あの……ダイアも一緒なんだけど……」
 ダイアのことを大きな犬だと思っている葛は、犬を連れて入って良いものかと悩みつつ頼んだ。
「構わないよ。入っとくれ」
 何でもないように言うオタケに、葛はこっそりとダイアの耳に囁く。
「すんなり入れてくれたね。パラミタの人たちはわんわん好きなのかなっ♪」
「さあ、どうなのでしょう」
 ダイアは答えながら食堂を見回した。ダイアも人の姿になれば調理も出来るだろうけれど、狼の姿のままでは無理だ。この恰好で手伝えることはと言えば……。
(味見、味見専門で行くわ!)
 ダイアはくんくんふんがふんがとと匂いをかぐと、美味しそうな匂いに惹かれてぱくりと一口……。
 けれどそれを見た葛は青ざめた。
「ダイア、それネギ入ってる! わんわんはネギ食べたら死んじゃうんだから! だ、だめだってぇ!」
 呑み込ませてはいけないと、ぐいぐいぎりぎりと喉を締め上げる。
「死んじゃう! ダイアが死んじゃうよぅ! びえぇぇぇぇ!」
 死んでしまいそうなのは、ネギの所為ではなく葛の手が原因なのだがそれも口に出来ず、ダイアは目を白黒させる。
「ぐぎゅうぅぅ……」
「ちょっとそこ、大丈夫なのかい?」
 葛に首を絞められて呻くダイアに気づいたオタケが、慌てて駆け寄った。
 
 
 ジュンコ・シラー(じゅんこ・しらー)マリア・フローレンス(まりあ・ふろーれんす)は、料理を考えたり作ったりするのが好きで、普段から家であれこれ作って楽しんでいる。
 だから、蒼空学園緑ヶ丘キャンパスの学食がリニューアルされると聞き、料理の面で手伝いをしようと新メニューの試作会に参加を決めた。
「わたくしは建物のデザインは専門外ですけれど、料理なら家でマリアと一緒にいつもしていますものね」
「ええ、これならお手伝い出来そうね。でも、どんな料理を作ればオタケさんたちに喜んでもらえるかしら?」
 育ち盛りの生徒たちが食べることを考えると、栄養価の高いものが良い。
 様々な種類の料理が作られることを考えると、手軽に作れるものが良い。
 ジュンコとマリアは、秋になると家でもよく作るメニューの中からそれぞれリンゴのコンポートとさつまいものポタージュを選んだ。
「リンゴのコンポートを作る時には皮を剥く方が多いのですけれど、こうして皮付きにすると、自然とコンポートが綺麗なピンク色に染まるのですわ」
 オタケに説明しながら、ジュンコはリンゴを皮をつけたまま8等分に切って芯を取り、鍋に入れてレモン汁と砂糖で煮込む。
「弱火でしばらく煮て、あとは冷やしておくだけですわ。簡単に出来ますでしょう?」
「さつまいものポタージュも簡単よ。さつまいもを皮付きのまま切って茹でて、ゆだったら裏ごしして弱火にかけて、ヘラで混ぜながら少しずつ牛乳を足してのばすだけ。さつまいも新しい学食が歓声する頃が旬だし、栄養もあるから健康にもいいわ。味見してみる?」
 マリアが小皿に取ってさつまいものポタージュをオタケに差し出した。
「ランチに出すなら、ブイヨンや玉ねぎの風味を加えると良さそうだねぇ」
 普段は作る側で、人の作ったものを食べることはほとんどないからと面白そうに味見をしているオタケを、大谷地 康之(おおやち・やすゆき)が呼びにくる。
「オタケのおばちゃん、こっちも見に来てくれよ!」
「はいはい、今行くよ。そっちは何を作ってるんだい?」
「前に某の家で食わせてもらった『ジンギスカン』ってのがすげぇ美味くてな、これならきっとみんな美味しく食えると思うんだ」
 野菜をジンギスカン鍋の外周に。つけダレに半日ほどつけ込んだラム肉を中央に載せてじゅうじゅうと焼く。野菜はお披露目会にあわせて、秋のものを多めに入れてある。
「ジンギスカンはそれぞれの家で味付けが全く違うんだ。で、これが某の家で聞いてきた秘伝のタレのレシピな。うめーぞ!」
「本当に良い匂いがするねぇ」
「ほんとはこの鍋で焼きながら食べるのがいいんだけど、学食で鍋のままどんって出すわけにもいかねぇよなぁ〜。せめて盛る器をこんな感じに黒い皿にして、雰囲気だけでも味わえるようにしてみてぇな。ほい、食ってみな」
 黒い皿の上にジンギスカンを取り分け、康之はオタケに渡した。
「オタケのおばちゃんにはいつも美味いメシを食わせてもらってるからな。こんな時はいつだって協力するぜ!」
「これは羊肉かい? ああ確かに良い味付けだし、力が付きそうだ」
 美味しそうに食べているオタケに、今度は結崎 綾耶(ゆうざき・あや)がころころと丸いコロッケを差し出す。
「『ころころ丸形さつまいものクリームコロッケ』です。メニューで季節感が分かるのもいいですけど、そこに可愛らしさを足してみたら、皆さんも食べてくれるかもしれません」
 ふかしたさつまいもに、とうもろこし、牛乳、マヨネーズ少々を加えて混ぜ合わせて、真ん中にクリームチーズを埋め込んでころころ丸める。
 それを小麦粉玉子、パン粉をまぶして揚げれば完成だ。
「あまり目新しくはないんですけれど……」
「いや、さつまいもの甘味とクリームチーズがよくあってる。お皿にころころ盛りつけたら目に楽しそうだね」
 そっちは何だい、とオタケに聞かれ、某は『秋鮭ときのこの生姜炊き込みご飯』をよそった。
「だし汁、塩、醤油、少々の酒をよく混ぜて、研いだ米、焼いてほぐした鮭と椎茸、舞茸を入れて炊くだけの手軽さだ」
「ピラフとはまた違うんだねぇ。優しい味だ」
「ばあちゃんが作ってくれた料理だからな……」
 炊き込みご飯の匂いに、某は旬のことや色々な話をしながら作ってくれた祖母を思い出す。秋になれば秋の味。旬を美味しく味わえるように。そんな風に思いながら作っていてくれたのだろうか。
 
 季節には季節の味を。
 寒いときには温かいものを。
 美味しくなぁれ、健康になぁれ。
 大きくなぁれ、笑顔になぁれ。