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幼児化いちごオレ

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幼児化いちごオレ
幼児化いちごオレ 幼児化いちごオレ

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 幼女化したユリナ・エメリー(ゆりな・えめりー)をおぶりながら、黒崎竜斗(くろさき・りゅうと)は歩いていた。
「どこにいんだろなぁ、謎の女生徒」
「……うわさではふたりいるそうですが」
 と、ユリナは手にしたいちごオレをじっと見つめる。
 新発売と聞いて気になり、ゲットしたはいいものの、まさか幼児化するとは思わなかった。小さな身体で歩くのは大変なため、竜斗におんぶされているが、複雑な気分だ。
「んー……その謎の女生徒っつーのは、もしかすると犯人かもしれないしな」
 目撃情報のあった順路をたどっているが、一向にそれらしき姿は見えてこない。幼児が大量にいるため、普通の生徒がいたら目立つはずだ。
 ユリナは小さく息をつくと、竜斗の背に頬を当てた。本当に子どもになったような錯覚を覚える……こんな風に、自ら甘えなくとも触れ合えることが嬉しかった。

「お騒がせしてます。これで元に戻れるのでどうぞー」
 と、紫月唯斗(しづき・ゆいと)は解毒薬の入った小瓶を幼い少年へ手渡した。そして『光翼』を使い、他の被害者たちの元へ飛んでいく。
 彼は謎の女生徒に協力していた。分けてもらった解毒薬を幼児化した生徒たちに配っているため、彼の噂も謎の女生徒ならぬ謎の男子生徒として広まり始めている。
 校内を悠々と飛び回り、それらしき生徒を見つけたら解毒薬を渡す。そして次なる生徒の元へ。
 そうして唯斗は、男子生徒におぶられている少女を見つけた。
「お、解毒薬ならこちらにありますよー」
 と、彼らの前へ降り立ち、小瓶を取り出す。
 竜斗ははっとして彼へ尋ねた。
「あれ? 謎の女生徒しか解毒薬は持ってないんじゃ……?」
「いやー、ちょっと事情があってね。さあ、これで元に戻ってください」
 そう言ってユリナの持っていたいちごオレを取り上げ、小瓶を握らせる唯斗。
「では、これで」
 と、再び唯斗は飛び立つ。
「……とりあえず、もらえたみたいだな」
「はい」
 竜斗はその場にユリナを降ろすと、唯斗の消えた方向を見つめた。
「ってことは、あれも犯人の仲間か?」
 いつもよりも大きな竜斗を見つめた後、ユリナは解毒薬を飲んだ。途端に身体が異変を起こし、元の姿へと戻る。
「あ、やっと戻りました……っ」
「おう、そうだな。やっぱ、そっちのがいいよ」
 と、竜斗は安心している様子のユリナへ微笑んだ。
「はいっ」
 手も足も、いつもの感覚を取り戻している。
「だけど……解毒薬をくれるってことは、そんなに悪い犯人ではないんじゃないでしょうか?」
「……うーん、そうだよなぁ。目的が分からないし、何とも言えないな」
 と、竜斗は微妙な顔をした。

 中庭のベンチに座って、新風燕馬(にいかぜ・えんま)は伸びをした。
「あー……良い天気……」
 ぽかぽかとした陽光に両目を細め、買ってきたばかりのいちごオレを手に取る。
 普段ならきちんと弁当を持ってきている燕馬だが、今日は持ってくるのを忘れてきた。家で留守をしているパートナーへ連絡を入れ、弁当を届けてもらうついでに昼食を一緒にとることにしたのだ。
 パートナーがいつ到着するかは分からないため、燕馬はのんびりしていた。
 さしたストローに口をつけ、一口飲んでから脇へ置く。
「ふむ、美味なり」
 季節柄、空気は冷たいが日中は太陽光が暖かい。両目を閉じたら睡魔が襲ってきた。
「……」
 ぐう、と背もたれにもたれかかって燕馬は居眠りを始めた。

『ロケットシューズ』で言葉通りに飛んできたサツキ・シャルフリヒター(さつき・しゃるふりひたー)は、待ち合わせの場所に子どもの姿を見つけて立ち止まった。
「あら、可愛い子」
 と、寝息を立てている少年を見つめる。
 そのそばに置かれているのは開封済みのいちごオレと、未開封のいちごオレ。そして少年のそばに無造作に落ちている見慣れたマフラー。
「まさか……もしかして燕馬?」
 ひらめいたサツキはその場にしゃがみこむと、彼へ顔を寄せた。見れば見るほど、パートナーの面影を認められる。そして燕馬は今、何故だか幼児化している。
 やわらかそうなほっぺにぷるぷるの唇、無邪気な寝顔はあどけなく隙だらけ。もういっそ、食べてしまいたい。
「そそ、そういえば昼食がまだでした。さっそくいただくとしましょう、では失礼して」
 と、高鳴る鼓動を抑えつつ、唇を近づけていくサツキ。
 その様子を少し離れたところから見ていたザーフィア・ノイヴィント(ざーふぃあ・のいぶぃんと)は、慌てて声をかけた。
「ま、待ちたまえ、サツキ君! 犯罪、犯罪だよそれ!」
 寸前のところで邪魔されたサツキは顔を上げるなり、ザーフィアを睨んだ。
「何ですかザーフィアさん、空気読みましょうよ。まったく」
「いやいや、空気とかそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
 と、ザーフィアが言い返している間にフィーア・レーヴェンツァーン(ふぃーあ・れーう゛ぇんつぁーん)が燕馬のすぐそばまで来ていた。
「それはそれとして、とても可愛い子ですぅ」
 と、サツキと同じ感想を漏らす。
「か、可愛い子って……」
 二人の様子がいつもと違うことに戸惑うばかりのザフィーア。話題の中心である少年を見たが、ザーフィアはぴんと来なかった。代わりにぴんと来たフィーアが言う。
「よし、持ち帰ってお姉さんがイロイロ教えてあげるとしよう」
「ペタンポポ、ちょっとそこに直れ」
 すかさず突っ込みを入れるサツキだが、目はマジだ。
「やだなぁ、冗談ですよぉ」
 と、同じく目がマジになっているフィーアが返す。
 二人の間で火花が散るのが見え、ザフィーアはついにうろたえた。――燕馬君、僕ではこの場を治められない……早く助けに来てくれ!
 その燕馬が目の前で眠っているということに、ザフィーアはいまだ気がついていない。
「あ、これって今日発売のいちごオレじゃないですかぁ」
 と、フィーアが燕馬の脇に置かれていた未開封のいちごオレを手に取った。
「それがどうしたんです?」
「噂になってるんですよぅ。蒼空学園限定の先行発売だから、なおさら話題で……クライベイビー、飲みます?」
「……一口だけ」
 気になった様子のサツキに、フィーアはそれを手渡した。開封し、一口飲み込んだサツキは数秒の内に縮んだ。
「え?」
「クライベイビーが小さくなってしまいましたねぇ」
「って、えぇー!? ちょっとフィーア君、いったい何をしたんだい?」
 と、慌てるザフィーアへ花妖精はにっこり微笑んだ。
「いちごオレを飲ませただけですぅ。つまり、これのせいでツバメちゃんも可愛らしくなっちゃったんですねぇ」
「え? 今なんて?」
「ですからぁ、ツバメちゃんもこのいちごオレのせいで――」
「えええええぇぇ!?」
 幼女化したサツキは言い合っている二人を横目に、燕馬の隣へ座った。
 太陽光が当たって心地良い。彼の眠ってしまった理由も分かると思いながら、慌てふためくザフィーアとそれを少し馬鹿にしているフィーアを見ていた。
 燕馬はまだ、眠りから覚めそうにない。

「小さくなっちゃった……」
 呆然とする漆髪月夜(うるしがみ・つくよ)を見て、樹月刀真(きづき・とうま)の表情が緩んだ。
「……刀真?」
 はっとして視線を上げる刀真だが、月夜の姿に愛らしさを覚えていることが見て取れた。
「ごめんごめん、月夜のこんな姿は見たことないからさ……」
「なによー、こどもあつかいするつもり?」
「あー、いや……月夜は小さくなっても可愛いよ」
 と、彼女の頭を撫でる刀真。
 月夜はむすっとしながらも、いつもより大きな手に撫でられて嬉しくなった。この姿ならいくら甘えたって許されそうだ。
「じゃあ刀真、だっこして」
 にこっと微笑を浮かべてねだる少女に、刀真は頷いた。
「まぁ、そうだな」
 5歳ほどに見える月夜を抱き上げたいと彼も思っていた。機嫌をとるためにもちょうどいい。
 刀真に抱き上げられて無邪気に甘える月夜。その光景を眺めていた玉藻前(たまもの・まえ)もまた、楽しそうに頬を緩ませている。
 比較的静かな食堂の片隅に腰を落ち着かせ、刀真は頬ずりをしてくる月夜の髪や背中を撫でていた。まるで小動物のように懐く彼女が可愛くて、さらに可愛がりたくなってくる。
「可愛いな、この姿だと」
「刀真、ちいさくなって『も』かわいいの!」
 と、訂正を求める月夜。喋り方も拙いせいで愛らしさが増すばかりだ。
「それにしても……いちごオレでこうなるとはな」
 隣に座った玉藻がふと呟く。今日の蒼空学園に多くの幼児が見られる理由もよく分かったが、月夜を見ていると不思議な気持ちになってくる。羨ましいというか、微笑ましいというか。
「……解毒薬、か。いつ効果は切れるかは分からないし、もらってこよう」
 と、ふいに噂話を耳にした刀真が言った。
 月夜を玉藻の方へ渡し、立ち上がる。
「玉藻、頼む」
 近くにいるらしい謎の女生徒を探しに行く刀真。
 玉藻は月夜の顔をまじまじと眺めた。
「玉ちゃん……ぎゅーってして」
「ん、分かった」
 そっと小さな身体を抱きしめてやると、月夜が嬉しそうに両目を閉じた。