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【重層世界のフェアリーテイル】魔術師達の夜宴(後編)

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【重層世界のフェアリーテイル】魔術師達の夜宴(後編)

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   13

 ミラベル・オブライエン(みらべる・おぶらいえん)の小型飛空艇が遺跡へ着いた。
 飛空艇からエレインが下りてきたのを見て契約者たちはざわめいたが、アレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)麗華・リンクス(れいか・りんくす)の二人は最初から引っ張り出すつもりでいたので、驚かなかった。
「【ディテクトエビル】を使ってるが、まだ奴らは来てねぇようだ」
とアレクセイ。
「あたしは若造と一緒に潜伏ポイントを探しておいた。レディ、一緒に隠れるか?」
 エレインはかぶりを振った。
「今頃、スタニスタスが大騒ぎをしているでしょう。時間に間に合わないかもしれません。私が取引を行います。……向こうもそれを期待していることでしょうから」
 アレクセイと麗華、そしてミラベルは潜伏ポイントに身を潜ませた。彼らだけでなく、多くの契約者が遺跡を包囲している。
 大きな月がほぼ真上に来た。星の明かりが霞むほど赤い光を放っている。
 日比谷 皐月はどこから饗団が来てもいいように、周囲に目を配っていた。
 ゆっくりと遺跡の中央へ目をやった彼は、おやと首を傾げた。
 人数が増えている――ような気がする。
 石の敷き詰められた中心部には、エレインと何人かの契約者がいた。その契約者が多い、いや多すぎる。
 皐月が見ている間にも、ぽつぽつと人が増えていく。ふっと、まるで何の前触れもなしに現れる。
「何だ?」
 思わず立ち上がった皐月に、七日と夜空が咎めるような視線を送る。
 と、間もなくボボッと小さな火が灯ったかと思うと、たちまち大きな火柱が立ち、その中から黒いローブの男――イブリスが現れた。
 突然のことに、契約者たちは唖然とする。
 イブリスの足が砂利を踏み締めると、背後の炎はすうっと消えた。
「悠久の時の彼方で相まみえたな」
「『久し――』」
「そうね、何年ぶりかしら」
「!?」
 イブリスの言葉に、エレインがあっさりと返事をし、ネイラは唖然とした。
「あなたがこんなことをするとは、思っていなかったわ、イブリス」
「そなたには異界の勇者ども同様、慮外の出来事であったろう。だが我輩にとって、永久の時を生きるに等しい事実なのだ」
 エレインはかぶりを振った。
「あなたが『古の大魔法』にずっと拘っていたなんて……」
 エレインとイブリスが話をしている間、傍のサー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)はじっと周囲を観察していた。
 イブリスの周囲にはフードで顔を隠した魔術師が何人かいる。そうでないのが、契約者だろう。ちなみに仕事を奪われた格好のネイラが落ち込んでいる。
 一方、土方 伊織(ひじかた・いおり)は【光学迷彩】を使って、協会側に裏切り者がいないか、どんな動きを取るかを観察していた。
 メイザースが捕えられたと聞いたとき、伊織は目を回しそうになった。
『はわわ、僕の忠告も、あんまり意味がなかったのかもですぅ』
 契約者の中に協会に味方するフリをしながら饗団に力を貸す者がいるかもしれない、と忠告した矢先だった。
『しっかりなさいませ。私たちが出来る事は、与えられた任を全うすることだけですわ』
 話を聞いたメイザースは、饗団に内通している契約者がいたら捕えてよいという権限を二人に与えた。残念ながら、その時には見つけることができなかった。ならば、今こそ役目を果たすべきだ。だが、逮捕には確たる証拠がなければならない。
 しかし、この役目こそが、イルミンスールと第二世界の外交にとって重要なことだと二人は考えていた。何より、取引の成否がかかっている。
「そろそろ、肝心な話といかんか?」
 大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)が前に出たのを見て、伊織とベディヴィエールは警戒した。しかし泰輔は、
「頼んだわけでもないけど、メイザースはんを預かってくれておおきに。払い戻し請求書に印鑑、の代わりに『鍵』渡すけど、そっちはナンボほど利子つけてくれるん? それはっきりささな、『鍵』は渡せん」
「利子?」
 しゃがみ込んで落ち込んでいたネイラが立ち上がった。
「そんな物、あるわけ――」
「アホ! いくら不景気でゼロ金利と言われようが、預金したら利子がついて返ってくるンが当たり前やろ! 利子も払えんような銀行は潰れてしまえ!」
 ……何を言ってるかよく分からないけど、取り敢えず内通者ではなさそうですぅ、と伊織は思った。
「は、払う、払うとも!」
 ネイラもわけの分からないことを言っている。
「だがその前に、『鍵』を見せろ!」
「アホ! 順番が――」
「それなら僕が!」
 高々と右腕を上げ、そのまま進み出てきたのは周防 春太(すおう・はるた)だ。愛用の尺八を左手に持っている。緊張の余りか、右手を下げるのを忘れて尺八をこれまた高々と上げ、万歳になっているのに気付いて慌てて片方を下ろした。
「『鍵』はこの尺八です!!」
 その場が何とも言えない、気まずい空気に包まれた。取り敢えず泰輔としてはツッコむべきだろうと構えたが、春太は熱弁を続けた。
「尺八→しゃくはち→しゃくはぎ→しゃくかぎ→かぎ→鍵! ということなんですよ! 一見バカバカしく聞こえることにこそ真実が秘められている。あなたも魔術師ならそれぐらいご存じでしょう?」
「……すまないが、尺八と言うのはその棒のことか?」
「はっ!」
 しかし春太は失念していた。この世界には尺八がないということを! 彼の渾身のギャグは完全に不発に終わった!
「……春太さん……駄目すぎでしょう……」
 いざとなれば春太を救おうとスコープを覗いていた風間 宗助(かざま・そうすけ)は、ため息と共にツッコんだが、泰輔が代わりに実行してくれたので、まあいいかと思うことにした。