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【重層世界のフェアリーテイル】オベリスクを奪取せよ!(後編)

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【重層世界のフェアリーテイル】オベリスクを奪取せよ!(後編)

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 ――『雷霆』市長室。

「ありがとうございます。市長」
 恭しく聖・レッドヘリング(ひじり・れっどへりんぐ)が礼をする。
 対してシリス・サッチャーの表情は何も変わらない。
「わたしは都市のために当然の判断をしているだけ。市民の安全を守るのはRAR.だけのことではないわ。勿論あなた達の安全もね」
 聖はRAR.のアクセス許可と、早急な住民の避難を市長に直接要求した。
 市長はミネルヴァ軍の動きを知っていたのか、どちらにも二言目には承諾をしてくれた。
「心遣い痛み入ります。なら、私どもがシリス様の安全を守りましょう。よろしければ、私どもがお側で仕えてもよろしいでしょうか? けして仕事の邪魔はいたしません」
「そう。だけどわたしは最後までここに残るわよ? 巻き添えになってもいいなら」
「キャンティたちはそんなに軟じゃないですぅ」
 キャンティ・シャノワール(きゃんてぃ・しゃのわーる)が抗議する。ちび ちゃん(ちび・ちゃん)も籠の中で「きゅうぅ!」と彼女に賛同する。
「ところで、いくらか質問したいですがいいでしょうか?」
 と聖。
「どうぞ、わたしに答えられることなら」
「では――、シリス様はこの『雷霆』の最高責任者であるならば、RAR.のこと、『最終兵器』の封印の鍵をしっているのでは?」
「それはないわ。わたしの知り得る所ではないわ。わたしの知っているのはRAR.に『最終兵器』が隠されていたことと、それが音声入力、テキスト入力にて開放できること」
「つまり、最初から敵の目的が『雷霆』の封印と知っていたのですかぁ?」
 キャンティが驚く。
「最初からではない――が、軍部よりも早くそれに気づいていたのは確かだわ。市民、軍、そして議会に隠していたのは政治的混乱、中枢機関の空洞化を防ぐため。敵を撃つことを目的としている軍には、相手の目的が“なんなのか”なんて瑣末なことでしょう。彼らの目的自体が、相手の目的の阻止に繋がるのだから」
「じゃあ、キャンティからも質問ですぅ。敵は、オリュンズの姉妹都市、ヘリオポリスから攻めてくるですぅ。姉妹都市なら、あちらにもマザーコンピューターがあるんですのぉ?」
「可能性はあるわ。もっとも姉妹都市っていっても同時に作られたわけではなく、オリュンズ、嘗てヘルモポリスと名乗っていたこの都市は、ヘリオポリスを模倣して作られたの。ヘリオポリスもここと同じようにマザーコンピューターでの統治をしていた。と、RAR.から聞いているわ。今までの質問は嘗てわたしがRAR.に行ったものの復唱よ」
「――、最後の質問です。フィーニクスの開発発案者はどなたでございますか?」
「それはわたしではなくロンバートにでもする質問じゃなくて?」
 おかしな質問をするものだと、市長は聖に軽く笑った。
「じゃあ、逆に問うわ。――あなた方は彼ら軍に違和感はないのかしら? いえ、違和感があるからこそ軍の人間ではなく、わたしに尋ねた。そういうことよね?
 その違和感は、例えば、階級。ロンバートはああ見えても40代行かないわ。実質指揮官のアーノルドも30代。それぞれ、大将と中将。どんなに功績を上げてもその若さで将官というのはおかしな話よね? せいぜい准将。佐官がいいところ。なのに、上位将官がたかが都市一つの防衛基地のために配属されている。
 でも、彼らの階級を簡易的に上げることは出来るわ。あなた達の軍にその制度があるかわからないけど、それがなにか分かる?」
 キャンティが答える。
「それって、二階級特進ですぅ?」
「あら、そっちにもそんなのがあるのね、でもおしいわ。この世界では“三階級特進”よ。それが適応されるのは、軍人が“殉死”した時。でも彼らは生きている。けど、すでに三階級特進しているの。この意味わかる?」
「つまり、ミネルヴァ軍は、この防衛線に殉ずるために作られた軍と?」
 聖の答えに「体よく言えばね」とシリスは頷く。
「あなたの質問の答えだけど、フィーニクスの開発の発案者、というよりも開発を奨めたのは軍の上層部。軍が戦力を増強のために、次世代兵器の開発の場としてこの都市の防衛自体を実験場としている。
 ――、つまり、トロイア基地とこのオリュンズ、そしてドールズも新兵器開発とその実用性の実証実験の捨て駒に過ぎないわけ」