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リアクション
第一章
「如何なさいますか、海様」
ドロシー・リデル(どろしー・りでる)が高円寺 海(こうえんじ・かい)に『原典』を差し出す。
「今御覧になるのであれば、鍵を開けますが?」
そう言われ、海は『原典』を見る。
「過去に飛べる……か……なぁドロシー、聞いていいか?」
「何なりと」
「この『原典』ってのは過去に飛べる、って言ってたな……それは一人しかできないのか?」
「……私も詳しい事はわかりませんが、恐らくそのような事は無いと思います」
「なら今はやめておく……これは俺一人が見ていい物じゃない」
ドロシーが差し出した『原典』は、過去の出来事を知ることができるが、使用は一度きりの使い捨て。一人で見て、すべての情報を把握する方が難しい。
それならば複数人いた方が、海が見落とした何かを見つけられる。そう考えていた。
「……そうですね。その方がいいと私も思います」
ふ、とドロシーは海に微笑みかける。
「なら準備ができたら声をかけてください」
「わかった……そうと決まれば」
そう言うと、海はノートパソコンを起動。メールソフトからメールを作成。内容は『原典』についてを簡潔に説明、そしてその閲覧について。
「送信っと。これで皆に知らせたから、後で集まると思う」
そして、一斉に送信する。
「……」
その海の一挙一動を、ドロシーが眺めていた。その眼には驚きと、尊敬が混じっている。
「どうした?」
視線に気づいた海が問う。
「いえ……海様も魔法が使えるのだなぁ、と」
「は?」
何を言っているのか一瞬海にはわからなかったが、ドロシーの視線がノートパソコンにも向けられていた。
「魔法、ねぇ……」
ドロシーからしたら、この端末操作も魔法にしか見えないのだろう。
「ドロシーにも使えると思うけどな」
「御冗談を、海様。私に魔法は使えませんよ」
朗らかに笑いながら言うドロシーに、海は苦笑した。
「あれ、何の話してるの?」
その時、ドロシーの小屋をネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)が尋ねてきた。その後ろには夏目漱石著 夢十夜(なつめそうせきちょ・ゆめとおや)もいる。
「ああ、実は……」
海がネージュに、『原典』についてかいつまんで説明をする。
「……『記録』、ですか」
ふむ、と夢十夜が呟く。
「一度しか見れない、ということで俺一人で見るわけにもいかないので、今希望者を募っている所です」
「ね、それあたしも参加していいかな?」
ネージュが海に問う。あまり戦闘が好きではない彼女は、この『記録』を見る事で他の探索者達の支援サポートできるのではないか、と考えたのだ。
「構いません。大勢の方が得るものもあると思いますし」
「よし、決まり。夢十夜もついてきてくれる?」
「わかりました。私も魔導書として、主様をサポートしますわ」
夢十夜が頷いた。
「『記録』閲覧……ね
送られてきたメールを見てリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が呟く。
「参加するんですかい?」
またたび 明日風(またたび・あすか)の言葉にリカインが頷く。
「勿論するわよ。色々と気になることもあるし」
「ああ……あっしも気になりますね、あのナノマシンとか」
明日風が呟いた。第三世界で見たナノマシンの事だ。
「ええ、あのナノマシンとかが『大いなるもの』とどう関係あるのか……見極めていかないと」
「でしたらあっしもお供します」
「やけに張り切ってるけど……あんた、過去の世界漫遊とかするんじゃないでしょうね?」
「いくらあっしもそこまで馬鹿じゃありませんて。記憶の世界なんて範囲が限られているでしょうに」
「それもそうか」
そう言うと、リカインは海へ返信のメールを送る。
「……天音よ、一体どうした?」
「ん? いや、面白そうな知らせが届いてね」
黒崎 天音(くろさき・あまね)が、海から届いたメールをブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)に見せる。
「何だ……過去の『記録』?」
「一度限りの記録解放だって……まぁ、僕も気になるところが無いわけじゃないしね。参加しようかと」
「参加する前に一つ頼みがある」
「ん? 何?」
「……これを、どうにかしてくれぬか?」
困ったようにブルーズが自分の体を見回す。彼の体には、妖精の子供達が纏わりついていた。
「珍しいんだよ、やらせてあげな」
そう言って天音は面白そうに笑った。
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