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【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの真実

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【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの真実

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――テラス。集まった人を前に、ドロシーがゆっくりと口を開く。
「今から話す事は、私の覚えている限り昔のお話です……」

――その昔、どれくらい過去かはわからないが、このハイ・ブラゼル地方は普通の人が暮らす場所であった。元々住んでいた、というよりは何処からか人達が集まって暮らしていたような場所だったらしい。
――ドロシーもその一人であった。彼女は、彼女の持ち主と共に何処かからハイ・ブラゼル地方へと流れてきたらしい。

「もう名前もお顔も思い出せませんが……良い方、だったのは覚えております……」
 昔を懐かしむよう、目を細めドロシーが呟いた。

――彼女は主の身の回りの世話をし、他の住人たちとも平和に暮らしていた……あの時、『大いなるもの』が現れるまで。
――彼女と主は、モンスター達の襲撃から何とか逃げ出せたらしい。

「私の役割は身の回りのお世話くらいです……戦うような力はありません……あれば、お守りできた方もいたのでしょうが」
 少し悲しそうな目をして、ドロシーが言う。
「……『大いなるもの』が現れた理由などは私にはわかりません。戦いが起きていた間、私達は避難を続けていました……その間、どのような戦いが起きていたのかはわかりません。しかし、ある時『賢者』様があの『大いなるもの』を封印した、という事を私達に知らせてくれました」
 そう言って、彼女は『原典』を手に取る。
 開かれた『原典』は既に力を失い、白紙の頁だけの本となっていたが、ドロシーはそれを大切そうに胸に抱いた。
「その時、『賢者』様は私にこの『原典』を預けました。いつか遠い未来、『大いなるもの』を倒せる者達に伝える為に、と」

――その後、彼女は村の復興に尽力を尽くした。長い間をかけ、荒れ果てたこの地にも草木が生えるようになってきた。
 だが、その長い時間により、村で機晶姫である彼女のメンテナンスができる者が少なくなってしまった。このままではいずれ、機能を停止してしまうだろう。
 その為、彼女は永い眠りについた――託された『原典』を抱えて。

「……目が覚めた時は、この自然があり――あの子供達がいました」
 そう言って彼女が遠い目をする。
「しかし、あの封印はそのまま残っていました。その時は何もありませんでしたが、いずれまた封印が解かれる時が来る、と思いました。その前に、私が機能停止する事もあります……だから、子供達にも当時の話を伝えようと思いました……ただ、あの話をそのまま伝えるのは難しいので、『おとぎばなし』として語り継ぐことにしたのです」
――そうやっている内に、子供達を喜ばせる為に話をすることが楽しくなってしまい、遂にはあの書庫の膨大な蔵書ができてしまったというオチがつくのだが、それは今は関係のない事である。
「以上が、私の知っている全てです……」



「……ドロシーさんのパートナーは普通の方だったようですね」
 ドロシーの話が終わり、白星 切札(しらほし・きりふだ)が呟く。
「パートナー、というより主だったようなの……通りで、何処を見てもいなかった訳なの」
 ふぅ、と白星 カルテ(しらほし・かるて)が溜息を吐く。
――二人は『原典』の中で、ドロシーの姿を探していた。ドロシーには『異国の者』のパートナーがいる、と予想した事からの行動であったが、結局その姿は見つけられなかった。
「それもそのはずですよね、避難していたそうですし」
「まあ、わかったことも一つあるかな」
 黒崎 天音(くろさき・あまね)がぽつりと呟いた。
「わかったこと? 何ですか?」
 切札の言葉に、天音がうん、と頷いた。
「ドロシーさんがあの四つの世界……仮想世界を見たことないような口ぶりだった理由だよ。ちょっと気になってたんだよね」
「ほう、どんな理由が?」
 天音の後ろを歩くブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が問う。
「実際見てないから……じゃないかな。『記録』を見る限りじゃ封印した際にゲートで隔離しちゃったようだし、まぁ簡単に説明は受けただろうけど、仮想空間とか言われてもわからなかったんじゃないかな?」
「……わからないことを聞かれてもわからないし、話せない、ってことなの」
「そういうこと」と天音が頷いた。