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リアクション
第6章 鮮やかに彩られる魔列車…青空の下に根付く模様
「やっと塗れるところまできたけど、上のほうは小型飛空艇に乗らないと無理っぽいね」
下地の防錆塗料の上から空の色を重ねようと、北都は缶を抱えて小型飛空艇オイレに乗る。
「スプレーでやれば楽なんだけど。それじゃ、なんか味気ないよね」
丁寧に満遍なく、ムラ無く塗っていく。
「えぇ、刷毛のほうが私たちの手で、新しく誕生させている感じがしますよ」
列車本来である黒に近い青色をベースを生かし、塗料が乾いた部分にリオンが色を重ね、鮮やかな青空のグラデーションを作り出す。
「あんなに汚れていたのに、どんどんキレイになっていきますね」
「汚れもそうだけどさ、藤壺がいっぱいいて大変だったよ…」
「あはは、確かにそうでしたね」
「私も空の色塗りたいなー…」
小型飛空艇に乗っている北都を見上げ、透乃が小さな声音で呟く。
「やっちゃん、私にもふわふわ気分かけて!」
「数分間だけだから落ちないように気をつけてくれ」
「うん!こーゆうのってさ。ケーキのクリームを塗る感じで、やっちゃえばいいんじゃない?」
「(透乃ちゃん、ムラができちゃってますよ…)」
彼女が塗りきれなかった部分を陽子が塗り直す。
「空飛ぶ魔法って、結構便利そうだなー」
「やっちゃん危ない!」
「―…へっ。ぉあっ!?」
透乃がうっかり缶を落としてしまい、泰宏の頭に直撃する。
不幸はそれだけで終わらず…。
「退いて、退いてぇええ!!!」
「んぎゃぁあーーーーーっ」
ふわふわ気分の効果が切れたパートナーが彼の上に落下し、断末魔のように悲鳴を上げる。
「ごめんねー。やっちゃん、大丈夫?」
「透乃ちゃんが無事ならオッケーだ…ぜ。ぐはっ」
地面に突っ伏したまま言い、そのまま気絶してしまった。
「負傷者第一号ね。まっ、やっちゃん以外に、犠牲者は出ないと思うから問題ないわね」
哀れむ様子すら見せずさらりと言い放ち、芽美は客車の1両目に木々の模様を描く。
「今までは失敗しても修正しやすかったけど。こういうのはミスすると直すのが大変なのよね」
鉛筆や絵筆、デジタルで描いたり塗ったりすることはある。
しかし列車の塗装は今回が初めてで、小筆を使い真剣な眼差しで作業する。
「そこ、葉の模様が足りませんよ」
ノウェムがイコンの中からジガンに指示を送る。
「細かいところは小筆で書いてくださいね!」
「(思ったよりも静かだな…。皆、集中しているからか?)」
デザイン画を見て形を確認しつつ、黙々と塗装作業を進める。
時折、話し声が聞こえても塗り方についてや、塗料が乾いた場所へ人を集め、マスキングの手順を話している会話くらいだ。
「おっと、木は茶色だったか」
集中するあまり、そのまま緑を使おうとする寸前、車体から筆を離す。
色が混ざらないように、筆をバケツに入れてバシャバシャと洗う。
「リアルな画風じゃないにしても、森らしくするとなると、大変な作業だな」
「ジガン、休憩にしましょう!」
「もうそんな時間か?」
「午後2時ですよ、2時っ」
「―…昼食時間をとっくに過ぎてるじゃないか。ま、キリがいいから休憩するか」
イコンの腕から降りると、シートの上に座る。
「まだ日が高いとはいえ、冷えてきましたね。お茶でも飲んで、温まりましょう」
「そうだな…」
ノウェムからお茶をもらい、SR弁当の余った試作品を遅い昼食代わりとして食べる。
「乗り物に対して、いい思い出が1つもない気がするな…」
弁当を食らいつつ、ジガンが思いにふけり始める。
飛行機に乗ると滅多に出会うことのない、ハイジャックに遭った。
さらに空中でのドラグーン部隊の奇襲。
自動車に乗れば出遭いたくもないのに、強襲部隊と鉢合わせしカーチェイス。
無論、好んで災難を呼び込んでいるわけもない。
イコンは元々闘うものだからよいが、闘うためのものではない乗り物で、なぜか数万分の1の確立のようなことに曹禺しまくっている。
「魔列車…。戦場の列車といえば武装列車か?否、兵士の間での魔列車とは死兵を彼の世に運ぶ死の魔列車。無論、魔法で動く列車という意味ではなく、魔物の列車という意味だ…」
そうとは知らずに乗車し、彼の世に連れ去られそうになったことを、昨日のことのように思い出す。
最後尾を切り離して難を逃れることはできた。
もちろんジガンの部隊は無事だった。
しかし、別の部隊である1部隊が、まるごと連れ去られたようだ。
「他の人が気にしちゃうから止めましょうね」
昼間から怪談めいた過去の思い出を呟くジガンに対し、ノウェムが眉を顰める。
「もう昔のことだ、気にすることはない。この列車がそうなら、とっくに向こう側へ連れ去られているだろうしな」
「それはそうですけどねー…」
「休憩は終わりだ。作業に戻るぞ」
「えぇっ、もう終わりですか!?」
「きっちり塗るなら、日が沈む前に終わらせるべきじゃないか」
「夜間作業はナシでしたっけ?」
「そうだと思うが…。セレアナ、塗装は日が沈む前までだろ?」
念のため確認するべく、早くも作業に戻っているセレアナに聞く。
「いくら明かりを用意しても、塗装を夜間にするのはちょっとね…。静香、夜間作業ってあるの?」
「ううん、夜はやらないよ。塗りムラがあっても、見落としちゃいそうだからね」
「だそうよ」
「ふむ…了解。日没まで2時間くらいか…」
「焦らなくてもいいわよ。って…ちょっとセレン、何やってるの!?」
恋人のありえない行動にセレアナ大声を上げる。
「何って、コートを脱いだだけよ?」
「風邪引くからちゃんと着て!あ〜もぅ、どうして平気なのっ」
まさかと思っていたが、コートの下に着ているビキニだけの姿になったパートナーの姿に、セレアナは頭を抱える。
「おかしなことを言うわね。こういうものって、フツー汚れてもいい格好でやるのよ」
「それにしても程度というものがあるわっ」
真冬の空の下でビキニ姿でいる彼女を知らない人が見たら、ユーアークレイジーガール!としか思わないだろう…。
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