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空京の街をきれいにしよう

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空京の街をきれいにしよう

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第一章 空京をきれいに!

 数日前、ドクター・ハデス(どくたー・はです)は朝早くからモニターとにらめっこをしていた。
「文章はこれで良いだろう。しかしデザインをどうするか……」
 いろんなサイトを参考にして、大胆に虎を配置することにした。
「こんなところか。じゃあ、印刷よろしく、っと」
 マウスをクリックすると印刷所への依頼が完了した。少々痛い出費だが、結社の野望のためにはこれも必要経費と自分に言い聞かせた。

 そんなこんなで届いたポスターが500枚。ドクター・ハデスは高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)ヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)の前で高笑いする。
「フハハハ! 我ら悪の秘密結社オリュンポスの名声を世に知らしめ、世界征服へ一歩近づくためにも、空京の街中に我らオリュンポスのポスターを貼りまくるのだ!」
 自分に酔いしれているハデスと違って、咲耶は至って冷静だ。
「天才科学者なら、こんなポスターじゃなくって、放送電波を乗っ取るとか、ネット回線を占拠するとかやりそうなものですけど……」
「と、とにかく、どうだ! この俺がデザインしたポスターの出来は! 全体に虎をイメージした図案を配し、来年の世界征服を目指し2022年という数字を入れ、秘密結社オリュンポスのロゴを印刷し、仕上げに挨拶文だ!」
 咲耶がポスターを広げる。
「えーと……」

  2022年 元旦

  昨年は大変お世話になりました。
  今年も変わらず世界征服に向けて邁進する所存ですので、
  どうぞよろしくおねがいします。

               秘密結社オリュンポス一同

「“おねがい”は漢字にならなかったんですか?」
 ハデスが咲耶からポスターを奪い取る。確かに平仮名のままだ。
「ふ、不覚……これから印刷し直す……か? しかしお金がかかるだろうし、このポスターがゴミになっては環境に良くないな」
 世界征服を企む秘密結社らしくないつぶやきが続く。
「そうだ! お子様にも優しい組織と言うことで……どうだ?」
 咲耶は『漢字1文字くらいで優しいもないものですけど』と思ったものの、ハデスの熱心な表情に、ため息まじりにうなずいた。
「よし、サクヤ、ヘスティア! さあ、このポスターを貼るのだっ!」
「かしこまりました、ご主人様……じゃなかったハデス博士」
 ヘスティアが命令に従う一方で、咲耶は不安がる。
「貼るのは、空京……ですよね?」
「うむ、あそこが一番宣伝効果が高いはずだ」
「こんなことがあるんですけど……」
 咲耶は大掃除のお知らせを見せた。



 シャンバラ教導団の掲示板には人だかりがしていた。しかし“掃除”の内容を見ると離れていく者が多い。
「ここはあたしが一肌脱がないとね」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)がロングコートを脱いでビキニ姿になると、あわててセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)がコートを着せる。
「この寒い中、バカやらないでよ」
「止めてくれてありがと。思った以上に寒かった」
 セレンフィリティは温もりを求めてセレアナに抱きつく。
「全くもう……」
「一緒に来てくれるでしょ」
 セレンフィリティの笑顔にセレアナもうなずいた。
 七瀬 雫(ななせ・しずく)リリア・アクイーア(りりあ・あくいーあ)も人込みの中に居た。
「七瀬、あなたは参加するの?」
 リリアに聞かれた七瀬は「もちろん」と答える。
「美化活動自体に勤しむことは、シャンバラを守る国軍の務めよ。他の人がどうあれ、私は参加するわ」
 七瀬の表情にリリアも納得する。
 空京の一角にはシャンバラ宮殿がある。そこに注目する者もいる。
「空京もですけど、シャンバラ宮殿の周りをきれいにしないといけないな。こんな機会でもなければやらないし、街を綺麗にして気持ちよく新年を迎えたいよね」
 樹月 刀真(きづき・とうま)が言うと、パートナーの3人も同意する。
「落書きも見方によっては自己表現の手段の一つだよね。もしその意図で落書きをしているのなら、どこかに壁画を描いても良いかも」
 刀真の思いつきに漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)は大賛成だ。
「うん壁画描こうよ! わざわざ壁に落書きしているんだもん自分が描いた物を他の人に見てもらいたいんだよね?」
「皆さんで自分達の想いを込めた作品を描いたら、関わった人達の名前はちゃんと残してもらいましょう」
「ラグナはどう?」
 はしゃぐ月夜と白花に対して、ラグナはOKマークを指で示した。
 掲示板を見たルカルカ・ルー(るかるか・るー)も乗り気だった。
「山葉や小暮君が動くとなれば、ルカもやらなくっちゃね。もちろんダリルも参加してくれるでしょ?」
 傍らのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、わずかに首を縦に動かした。
「小暮は理詰めで物事を考えるのでやりやすい。しかしやるのであれば企画をさらに拡大した方が良いだろう。ネットや街の広報誌、マスコミを利用したいところだが」
「んー、でも基本的には空京の街ぐるみの催しなんだよね。そっちの方はやってると思うんだけど……」
「そうか……となると、小豆やこし餡でも仕入れてくるか」
「じゃあ、ルカはサンタの衣装を調達してこよっかな。それと心当たりに連絡してみよっと」
 既に2人の頭の中では、更なる企画の拡大に思いをめぐらせていた。



「ルカルカが言ってたのはこれだな」
 空京大学構内ではエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)が掲示板を見ていた。
「エースは参加するの?」
 リリアの質問に「まぁ、時間もあるしな」とエースは答える。
「じゃあ、私もエースと一緒にゴミ集めするわ」
 リリアはエースの腕を取った。もっともその後の「こんな大規模な掃除とかした事がないんだけれどね……そういう事って使用人のする事だったから」の発言は心に留めて置いた。
 しかしエースはそんなリリアを見透かすように尋ねる。
「ルカルカが『クリーンアップ大作戦』をやるどそうだけど、世間知らずなリリアにできるかな?」
 リリアは不服そうに唇を尖らせる。
「だ、大丈夫よ。ただ土地勘イマイチだから、地図用意するわね」
「それがいい。ゴミを集めつつ街巡りしようぜ」
 地図を用意したのがもう1人。騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は掲示板を見るなり、すぐさま参加を申し込んだ。
「奉仕者であるセネシャルとして、住民の治安と安全を護るロイヤルガードとして、そして詩穂の最愛の人アイシャちゃん(アイシャ・シュヴァーラ)がいるシャンバラ宮殿から見える景色の為にも、空京の街を綺麗にしてみせます」
 誰に問われるまでもなく、しっかりと決意する。
「こうなったら全力でご奉仕させて頂きます」
 詩穂は銃型HC弐式に空京の地図をセットする。
「あとは掃除道具の用意です!」
 メイド服にアイロンをかけ、モップを整備する。軍手にゴム手袋にゴミ袋、ハタキにホウキにチリトリ、その他諸々の考え付く限りの道具を準備した。
「見てて、アイシャちゃん。アイシャちゃんの大好きな空京の街を、みんなといっしょにキレイにしてみせるよ」
 こうして真面目に取り組もうとする者もいれば、ちょっと異なった考えを持つ生徒もいる。
「掃除かぁ……掃除は良いことなんだけどさぁ」
 師王 アスカ(しおう・あすか)は黒髪を人差し指でクルクルと丸める。
「きれい過ぎるのも息が詰まっちゃうよねぇ。掃除はするとしてー、ちょっと遊んじゃおうかなー」
 アスカはパートナーのルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)ホープ・アトマイス(ほーぷ・あとまいす)を巻き込むべく計画を練る。
「下手なグラフィティは消しちゃっても良いけどぉ。そこにもーっと面白いものを描いたら楽しいんじゃないかなぁ」
 ふとアスカの脳裏にゆる族が思い浮かぶ。
「決ーめたぁ、ルーツとホープにも手伝って貰おーっと」

 その頃、アスカの自宅では、ルーツとホープが同時にくしゃみをした。
「アスカ、帰ってるのか?」
 ルーツがアスカの部屋のドアをノックする。ホープは瞬時に魔鎧となる。同じアスカのパートナーで、しかも元は双子の兄弟でありながら、事情もあって、ホープはルーツの前では魔鎧の姿しか見せていなかった。
 ルーツがドアを開けてアスカの部屋を覗きこむ……が、誰もいない。
「おかしいな、くしゃみが聞こえたと思ったが」
 ドアを閉める。と、ホープが魔鎧の姿を解く。
「やっぱり誰か居るのか?」
 気配を感じたルーツは勢い良くドアを開けたが、誰の姿も見えない。もちろんホープは魔鎧の姿に戻っている。
「おかしいな」
 わずかに魔鎧の位置が変わったような気がしたルーツが部屋に入る。魔鎧と化したホープに触れようとした時、ルーツの携帯電話にアスカから連絡が入る。
「アスカか…………掃除? まあ手伝っても良いが、……根回しだと? 我に何をさせる気だ?」
 電話の向こうでは、アスカがのんびりながらも弾んだ声を響かせていた。