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もみのり

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「……?」
 ヒラニプラを出発してしばらく。
 バックミラーで後方を確認していたみすみは首をかしげた。
 なんか、乗客の人数が大幅に増えていないか?
 というか、明らかにさっきまでいなかった人物までが車内にいる。
「……」
 ワゴンの前方のシートに腰かけ物思いにふけっているのは、シャンバラ教導団の小暮 秀幸(こぐれ・ひでゆき)ではないか……。
 何をしているのだろう、こんなところで……?
「ふむ、これが教導団のバスである確率は3%ほどあったのだがな」
「それだけの確率で、この車に乗り込んだのか?」
 怪訝な表情をしたのは、秀幸と共にワゴンに乗り込んできたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)だった。いつもと違う彼の様子が引っかかる。
「例え1%でも可能性があるなら考慮し、時にはそれに賭けることもある。参謀としての判断だろう」
「どうした、なななと同行したおかげでななな病でも移ったか? 秀幸がボケるとは……」
 ダリルが視線をやると、目が合った金元 ななな(かねもと・ななな)がこちらにやってくる。
「どうしたの、ダリ。なななのこと、呼んだ?」
「おかしな名で呼ぶな。後ろでルカとでも遊んでいろ」
「うん。でもさ、それより大変なのよ。このバス、教導団のじゃないんだって! しかも猫バスでもないのよ」
「そんなことはとっくに知っている」
「そうなの? 凄いじゃない、名探偵ね! ……ん〜んっふっふ、実はですね、犯人は知らなかったんですよ、このバスが教導団のじゃないってことを。……って、しまったぁ、これじゃ宇宙刑事じゃなくて地球刑事じゃないの……。いや、いいのかな? 地球も宇宙の一部だし……」
 額に手を当てなにやらよくわからないことをぶつぶつ言いながら後ろの席に戻っていったなななを見やりながら、ダリルは聞く。
「降りるつもりは無いんだろう?」
「ああ。何か惹かれるものがあってな」
 と秀幸。
「なら、ゆっくりしていこう。たまにはこういうのもいいだろう。多分、疲れてるんだろう……」
 ダリルは言った。
「疲れているとかそれ以前の問題でしょ、これ。うちの学校の連中何人乗ってるのよ? 間違いすぎでしょ。これが作戦行動なら完全失敗よ。なんか、先行きが心配になってきたわよ」
 人数を数えていたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)はため息をつく。
「冒険で見知った連中もゴロゴロいるし。ねえ、ガイドさん……って、げっ。あいつも教導団の生徒じゃない」
「一緒にしてもらっては困りますね。私は最初からこのバスに乗っていますので。乗り間違えたわけではありません」
 答えたのは、解説役として活躍中の戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)だった。セレンティフィの顔をまじまじと見つめて。
「……パス、ですね」
「うわ、ウザッ」
「あなたたち、一般人も乗っているのにみっともないマネはやめなさいよ。教導団が誤解されるでしょう」
 セレンティフィと同じくなし崩し的に乗り込んできたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が吉井 真理子に視線をやってたしなめる。
「ごめんなさいね。びっくりしたでしょう」
 セレアナが上品に微笑むと、真理子は興味津々ながらも微笑み返してくる。
「いいえ、面白い人たちばかりで見ていて癒されるわ」
「面白いって言うか、ヤバいのも多いけどね。彼女なんか、宇宙刑事だしね。毎回悪の組織と戦ってるのよ」
 セレンティフィはあからさまに指差して言う。
「……呼んだ?」
 もう一度、ななながやってくる。
「呼んでないわよ。ほら、飴あげるから帰ろうね」
「わ〜い飴だ〜……って、何させるのよ。あんたなんか、ビキニ怪人じゃん。どこのビキニ星からやってきたのよ。退治しちゃうぞ、トアッ!」
 なななは、セレンティフィの頭に軽くチョップをくれると、また戻っていく。
 セレンティフィは、コホンと小さく咳払いして、
「とまあ、こういう風におかしなのが多いのよ。この間、あたしがイコンで殴りあいした相手がね、このパラミタを統べる天下無敵の大王だったの。こいつが飛びっきりでね。配下には四天王と十二虎将と呼ばれる屈強極まりない戦士と、滅びたはずの太古の魔法を操る邪悪な魔法使いが三十六人いて、暴虐を尽くしていたわけよ。あたしは、カナンの地に赴き仲間を探したわ。そもそもこのカナンが、古代バビロニア伝説に出てくる聖地の一つで、天空へと続く塔が立っていたんだって。でもその塔はすでに滅びていて復活させるには聖霊の守る秘宝の封印を解かなければならなかったの。そこであたしは仲間と共に」
「ちょっと、よしなさいよ。まだ二十歳前なのに頭おかしくなってきたの?」
 セレアナが突っ込むが、セレンティフィは全く聞いてはいなかった。よくわからない話を繰り広げる。
「……」
 真理子は状況を一生懸命整理しているようだった。ややあって、納得したようにポンと手を叩く。
「そうだったの。その大王は貴女のお兄さんだったわけね?」
「話がさらに飛躍した!?」
 セレアナが目を丸くする。
「ちょっと待って。その話は初耳なんだけど。まさか兄弟を見たって言うのかい?」
 セレンティフィの話に真剣な表情で質問したのはエミン・イェシルメン(えみん・いぇしるめん)だった。彼女は、傍にいるパートナーの金襴 かりん(きらん・かりん)が、百年前の事故で生き別れになった兄弟を探していたのだ。
「いや、話の途中に割り込んで申し訳ない。でも、しばしの間、自分のやさしく美しいパートナーの為に、ちょっとその桜貝のような耳を傾けてはくれないかな。翡翠の様な美しい瞳を向けてはくれないだろうか」
「また変なの来た。しかも教導団の生徒よ」
「変なのとは失敬だよ君たち。これは事実なんだから」
 その、当のかりんは機晶姫だった。彼女は手に持っていた人形をおずおずと差しだし聞く。
「ええと……、この人形たち、に似た機晶姫。を……知りませんか? ワタシの兄弟……」
「ご、ごめんなさい。見たことないわ」
 まじめな表情で返答する真理子。
「ここ。に、わたしと同じ……名前と、ナンバーの刻印。が、あるはず」
 彼女が、人形のスカーフをはずし首の後ろの金属部を指差すと、そこには『AnneAnne01』と記されているのが見えた。
「ワタシの名前……。アンネ・アンネ一号、だよ」
「……ほらセレンティフィ、答えてあげなさいよ。大王は兄弟なんでしょ?」
 セレアナが、どう収集をつけるんだ? といわんばかりに聞いてくる。
「兄弟だなんて一言も言ってないじゃない。大体あれはホラ、というかインチキ話……」
「ホラ話だったの?」
 真理子はしょんぼりした顔になる。うっ……とセレンティフィは小さく笑って。
「そ、そんなわけないじゃない。ホラー話が好きだなって……。でね、教導団に伝わるとても怖い話があって……」
「嘘に嘘をつくろってさらに深みに入ってどうするのよ……」
「どうだろうか、諸君。すばらしいお知恵を拝借したいのだが。三人寄れば文殊の知恵、これだけいれば、それ以上」
 エミンが車内の乗客に問いかける。
「どうでしょうか、道中のイベントにしては? ずばり、カリンの兄弟を探そう! ちなみに、賞金額は?」
 小次郎が乗ってくる。エミンはクスリと笑って、
「そうだねぇ、麗しく優しいハートってのはどう?」
「ハートがゲットできそうですね。これは楽しみです」
 わいわいと騒ぎ始める。
「……終わったな、教導団。80%くらいの確率で」
 黙ってやり取りを聞いていた秀幸がポツリとつぶやく。
「悩むな小暮。なななやあいつらの見ている世界と、俺たちとは違う」
 ダリルが慰める姿が印象的だった。