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【カナン復興】新年マンボ!!

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【カナン復興】新年マンボ!!

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(2)マンボ(地下水道)−2

「むっ! どうかしたか?」
 コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)がこれに気付いた。「アナグマ」の一人が辺りを見回している。
「空気が来ていない」
「何だと……?」
 横穴掘削と同時進行で行われているのが縦穴修復である。大きな縦穴は岩塊や瓦礫を地上に引き上げるのにも使われるが、基本は地下水道内に空気を送るための空気穴である。そんな縦穴から空気が来ていないのだという。
「つまり何かで塞がったという事か?」
 ハーティオンの問いに工員は首を傾げた。
「いやぁ、それなら砂が大量に落ちてくるはずだ。あの姉ちゃんたちも落っこっちまう」
「二人とも! 無事か?!!」
 聞きたいことは他にもあるが、まずは二人の安否確認が先だ。ハーティオンは縦穴を見上げて呼びかけた。
「オイ姉ちゃん、聞かれてるぜ、応えてやんな。ちなみに俺は必要無ぇ、俺はいつでも無事故無違反安全牌な男だからなぁ!」
 応えた一人は「アナグマ」の工員。筋骨隆々、なのにオカッパ頭な掘削野郎。
「あたしだって平気よ、何の事を言われてるのか全く分からないわ」
 張り合うように言ったのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)、何でも雑で何でも壊す「壊し屋セレン」の異名を持つ軍人だ。二人は地上から下りるロープの中央付近、地下からの高さにして15mの位置に居た。無論、ロープにしがみついている状態である。
 つい先程まで崩落した岩盤の粉砕を『機晶爆弾』と『破壊工作』をもって行っていたのだが、「ありゃあ壁面がヤられてやがんな。ちょっくら昇って補強すっぞ、やれるか?」と問われ、
「もっちろんよ」
 と快諾したのだった。故に彼女は今ロープの上で、鋼材の交換と溜まった砂の除去を行っている。
「空気が来ていないようだが。変わったことは無いか?」
 ハーティオンの呼びかけに、今度はセレンフィリティが首を傾げる。
「変わったこと? そういえば暗いわね」
「暗い?」
「誰が暗いかっ!! 俺のテンションはマックスだぜっ!!」
 オカッパの横やりにセレンフィリティも張り合っているのが聞こえてきたが、ハーティオンはとりあえず無視した。聞きたいことはそこではない。
 地下のハーティオンたちは光源の元で作業を行っている。地上からの光も感じなくはないが、セレンフィリティたちが体勢を変えるなら遮られる事もしばしばだったので今回もそれだと思っていたのだが―――
「やっぱり、穴が塞がったという事になるのかしら?」
 言ったのはセレンフィリティのパートナーであるセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)だ。彼女も土砂を取り除いたり岩盤の粉砕を手伝っていたのだが、縦穴の壁面修復に向かったセレンフィリティには同行せずに地下での作業を続けていた。水着に『軍用ヘルム』と『キュイラム』という面白格好だけは同じだったが。
「まぁそうなんだろうが、「砂」じゃないだろうな。大方、何かが被さるなりして塞がったんだろう」
「被さる……ですか」
 この縦穴は単に空気穴の役割をしているものだが、それでも直径は3mほどある。地上は砂漠地帯、人工物はもちろん、それを塞ぐほどの植物等も無い。
「ドラゴンか怪鳥の類……あるいは「砂漠バク」か」
「砂漠バク?」
「バクの一種だ。軽トラくらいはある巨大な奴なんだが、この辺りで群れてるなんて聞いたことが無い。居るならもっと上流だ」
 上流とは地下水道の上流にあたる北東部のようだ。豊富な水と緑あふれる水源地帯だという。多くは砂に埋もれてしまったが、降砂が止まれば少しずつではあれ回復してゆくことだろう。今は動物たちも再び集まりつつあり、「砂漠バク」といった怪動物たちも姿を見せ始めているという。
 群れで無いならバグレか? ハグレ怪動物……怪動物…………。
「あっ…………」
 不意にハーティオンがそう漏らした。
 ふと思い当たる、そして沸き上がる不安。それはまさに「そういえば……」という程度の取っかかりからハーティオンの脳裏に飛来した。
ラブ! ラブっ!!」
 急いでパートナーのラブ・リトル(らぶ・りとる)を呼び寄せる。
「なぁに? リクエストかなー?」
 自称であれ蒼空学園のアイドルである彼女は「アナグマ」たちと目一杯に踊り楽しんでいた。
「いや、ちょっと地上に行って見てきてくれないか。ドラゴランダーの様子を」
「はいはーい、お任せあれー♪」
 ハーフフェアリーである彼女は少しと離れた別口の縦穴へと飛び向かっていった。
ハーティオンの口調も表情も非常に切羽詰まったものになっていたのだが―――
「このままだとマズイわね」
「あぁ、そうだな」
 ロープ上のセレンフィリティとオカッパ工員は―――
「このままだと「光合成」が出来ないわ」
「そうだな。栄養不足で握力は低下、腰はガクガク、このままでは落下してしまう」
「えぇ、由由しき事態だわ」
 真顔でボケていた。
「…………なるほど、だからあんなに露出の多い水着を選んだね」
「なっ……!!」
 ハーティオンの隣でセレアナが呟く。
「少しでも多く「光合成」をするために。だからあんなに露出の多い水着を選んで」
「…………君までボケられると、いよいよ手に負えなくなるのだが」
「冗談よ。「無事故無違反安全牌」は意味不明よね」
「!!! 今更そこをツッコムのか! 君も手強いな」
 ハーティオンがいろいろに手一杯になっている最中、心配していた地上ではハーティオンの予感が的中していた。
「あぁ゛ー!! やっぱり!!」
 一面の砂漠、その砂布団の上に龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)が横になっていた。目は閉じ、静かな寝息が聞こえてくる。
「起きてよー、ねー、ねーってばー」
「…………ん」
 大きな顔が僅かに揺れて…………いや、誤解のないように言うとドラゴランダーは身長20mはある巨体の持ち主で、ボディも鋼鉄製の恐竜型ロボットである。故に当然頭も大きいわけで決して彼の顔のパーツがデカいわけではない……はずだが。
 と、とにかく、ラブの呼びかけにドラゴランダーの顔が僅かに動いた―――
「起きた?」
「ん………………ZZZ……。」
「もぅー!! 起きてってばー!!」
 ドラゴランダーはちっとも起きなかった。
 もともと「崩落の修理だと? 馬鹿馬鹿しい」と彼は文句を垂れていた。自分がここに呼ばれた理由も「強者と戦える」ものと思い込んでいただけに落胆も大きかったようだ。
 無理矢理に連れてこられた上に待っているだけの時間が長く続いたなら眠ってしまっていたとしても無理はない。がしかし、問題は「眠っている場所」だった。
 彼の巨体が「縦穴」の口を塞いでしまっていたのだ。
「むー! 起きてよー!! 起きてってばー!!!」
 空気の供給が止まれば地下で活動する者たちにも影響が出る。もちろん「小一時間で窒息する」といったようなことにはならないが、その巨体が乗り続けていれば口壁が割れてしまうことだって考えられる、そうなっては修復した意味がない、というより単純に手間が増す。
「いえーい! オンステージ、いっくよー♪」
 言っても叫んでも起きないので、ラブは覚えたての「アナグマ」マンボを踊ることにした。リズムに合わせた歌だって、その場で思いつくんだから♪
「みんなー! 今日は最後まで盛り上がって行こー♪」
「……ZZZ……。」
 ドラゴランダーが目覚めるまで、それこそ小一時間、ラブは砂漠の真ん中「オンステージ」で歌い踊り続けたそうであった。