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リアクション
★ ★ ★
「新年にあたり、去年を振り返ってみた。そして、一つ分かったことがある!!」
蒼空学園の訓練場の中央に立った健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)が、熱海 緋葉(あたみ・あけば)、枸橘 茨(からたち・いばら)、コルフィス・アースフィールド(こるふぃす・あーすふぃーるど)の三人を前にして、大声で言った。
「俺は、ろくな目に遭っていない!」
健闘勇刃が続けた。
「言い切ったわね」
「言い切ったわよ」
「そりゃあ、言い切るだろう」
三人がひそひそとささやき合う。
「氷漬けにされたり、デート中に他の人に邪魔されたり、バカにされたり……。どうにもヒーローをやっていた実感がない!!」
健闘勇刃の言葉に、あからさまに三人がうんうんとうなずく。
「そこで俺は考えた、俺に足りないのは修行だ。そして、模擬戦ですら相手を圧倒するゆるぎない自信。と言うわけで、かかってこいやあ。普段発揮していない実力、とくとその目に焼きつけてやるぜ」
「へえ〜、修行の相手になってほしいの? ちょうどいいわ! これであんたに今までたまってきたストレスが発散できるわ! 覚悟なさい、勇刃! 手加減しないわよ!」
渡りに船だと、熱海緋葉がやる気満々で拳を打ち合わせる。
「修行の相手ね。たまには、こういうのも悪くないかな。いいわ、相手になってあげる。私も用心棒だから、あなたを守れるようにたまに修行しないとね」
「おう、いいな、やろうぜ。って、でも勇刃を殴るのか? それはちょっとなあ……」
正面から相手になろうという枸橘茨とは対照的に、コルフィス・アースフィールドはちょっと消極的だ。
「遠慮するな。昔はよく、俺に殴られただろう。それを思い出せ。もっとも、この俺に触れられればの話だかな」
自信満々で、健闘勇刃がコルフィス・アースフィールドに言った。
「そういやそうだったな。よっしゃあ、気合い入れていくぜ!」
健闘勇刃に言われて、コルフィス・アースフィールドがやる気を出す。
「面白くなってきたじゃない。さあ、やりましょう」
了解したと、枸橘茨がニヤリと笑った。
「先攻をもらったわ! 寝ちゃえば、どんな奴だっていちころよ」
熱海緋葉がヒプノシスを放ったが、熱血状態の健闘勇刃はその程度で眠ってはくれなかった。不寝番の修行の効果が如実に表れている。
「小手先はなしだ。当たれ! 俺の猛烈闇気拳!」
コルフィス・アースフィールドが軽身功で突っ込んできた。それも予測していた健闘勇刃がバーストダッシュでそれをあっけなく避ける。
「うおっ、速い!?」
「なら、足を止めましょう」
すかさず枸橘茨が奈落の鉄鎖で動きを止めようとするが、護国の聖域に守られている健闘勇刃はそれを物ともせずに逆に殴りかかってきた。
「おらおらおら!」
枸橘茨がその身を蝕む妄執で牽制しようとするが、健闘勇刃は止まらない。
「俺を忘れるなよ!」
間一髪、コルフィス・アースフィールドが間に割り込んできた。
「顔は止めろ! 顔は!」
顔面へのパンチを、あわてて健闘勇刃が避ける。
二人の連係攻撃を回避しつつ、熱海緋葉の姿が見えないことに気づく。一瞬止まって、気を探した。
「隙あり! れれれ……。読まれた!?」
突如健闘勇刃の背後に姿を現した熱海緋葉が、ブラインドナイブスで必殺の一撃を与えようとした。だが、大きく空振りしてバランスを崩す。
「そんなに殺気満々じゃ、すぐに気配を読めるっていうもんだぜ」
精神感応で、気配はバレバレだ。
「ちょっと、どこ触ってんのよ!」
トンと突き飛ばされた熱海緋葉が、ギャアと叫んだ。
「よくもやってくれたわね!」
コルフィス・アースフィールドにだきとめられた熱海緋葉が、振り返って健闘勇刃に言った。
奇しくも、三人が一箇所に固まる。
「ちょっと使ってみるか。そろそろ、決着をつける!」
健闘勇刃が、気合いを溜めていった。
「消えてもらう! くらえ! 極雷疾電光!」
サンダーブラストが、三人にむかって放たれた。
「しびびび……」
一網打尽にされ、三人が痺れて床に倒れ込む。
「く、悔しい……」
熱海緋葉が、痺れてよく回らない口でつぶやいた。
「おお、なんだか新しい技を会得できたような気がする。イエイ! これで、今年一年活躍できそうだ。ありがとうな。はははは!」
御機嫌で、健闘勇刃が朗らかに笑った。
★ ★ ★
入り口横にゴーレムを立たせた食堂の中で、エリシア・ボックとノーン・クリスタリアがそばに今日の買い物の戦利品を積みあげながら、遅い食事をしていた。
「さて、わたくしは、和風ステーキセットでも注文いたしましょう。デザートは、……そうですわね、フルーツの盛り合わせがよいですわ」
「わたし、今日はオムライスを食べるよ! それと、ぜんざい!」
「斬新な取り合わせですわね」
まあ、そこがノーン・クリスタリアと、エリシア・ボックが変に感心する。
「今日は、いい物買っちゃった。そのうち、バンドとかいうのもやってみたいなあ」
「それは楽しみですわ」
何やら壮大なノーン・クリスタリアの野望を聞いている間に、頼んだ料理が運ばれてくる。
「おにーちゃんたちも、今ごろお昼ご飯食べてるかな?」
「さあ、どうでしょう。意外と、今ごろ朝御飯だったりして……。よろしければ、帰りにちょっと様子をのぞきに行ってやりましょう」
「わーい」
ちょっとお邪魔虫な二人であった。
そんなエリシア・ボックたちのそばのテーブルでは、熱海緋葉と枸橘茨とコルフィス・アースフィールドが、ちょっとぐったりしながら甘味を補給していた。
「ふう、接待戦闘も疲れるわよねえ」
肩を揉みながら熱海緋葉が疲れたように言った。あれっ、意外と肩こりがなくなっている。いい電撃だったようだ。
「まあまあ、あれで健闘君が自信を取り戻してくれれば上出来よ」
ポリポリと唐辛子せんべいを囓りつつ、緑茶をいただきながら枸橘茨が言った。
「接待とはいえ、結構やられた気がするけど……。まあいいか」
テーブルに突っ伏したままで、コルフィス・アースフィールドが言う。その言葉に、熱海緋葉と枸橘茨がちょっと顔を見合わせた。二人共、勝つつもりはなかったが、それほど手を抜いていたと言うことはない。
「まあ、実力は実戦で確認できるかな」
「ええ。そのときも、フォローは私たちがしっかりとしましょう」
二人は、そう確認し合った。
★ ★ ★
ドタドタドタ……。
『ガオォォォォォン!!!!』
「ああ、もううるさい。静かにしていないと解体するわよ!」
イコン格納庫を走り回る龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)に、高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)が怒鳴った。
「まったく、少しはハーティオンを見習いなさい」
静かにイコンハンガー横の小さなメンテナンスハンガーに横たわっているコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)を指して、高天原鈿女が言う。
シュンとした龍心機ドラゴランダーが、おとなしくその横にやってきて、メンテナンス中のグレート・ドラゴハーティオンを見あげた。今は、龍帝機キングドラグーン状態で、ドラゴンとも甲殻類とも見える形態で水平になったメンテナンスハンガーに乗せられている。
黄金のその機体を、龍心機ドラゴランダーがうっとりとした目で見つめていた。どうやら、早くもう一度この機体に乗りたくてうずうずしているらしい。
そんな龍心機ドラゴランダーとは対照的に、コア・ハーティオンは物静かであった。
当初、パラミタに来ると言うことになんの意図も感じなかったのだが、それは確実にコア・ハーティオンに変化を与えていた。数々の戦いによる仲間との絆、それとはまた違った、日々の行事でであうたわいない日常の数々。
それらが苛烈であるからこそ、それらがたわいないことであるからこそ、共に戦う「勇気」を、許すことのできない「怒り」を、救うことのできなかった「悲しみ」を、平穏の持つ「幸せ」を覚えた。
「ハーティオン? ……何か考えているのね。それとも、感じているのかしら」
感じる……、ならば、それは心なのだろうかと高天原鈿女は思う。
『ガオォォォォォン!!!!』
「よし、解体する!」
突然、空気読まずに雄叫びを上げた龍心機ドラゴランダーに、高天原鈿女がきっぱりと言った。