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我が子と!

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我が子と!

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〜 9th phase 〜


 当セントラルビル内に多数の侵入者確認
 行動予測……いずれもコアマテリアル目指して移動中の模様
 コアマテリアル【アダム】より拒絶の波長を確認、迎撃命令と判断
 警備システムをコントロール、侵入者の駆除を実行開始


 「激戦とは予測してましたけど、まさかここまでとは……大丈夫ですか輪子」
 「何を今更!父上には遅れを取らぬ!」

セントラルビルに投入してから間もなく六鶯 鼎(ろくおう・かなめ)達を襲うようにビルの警備システムが作動した
仮想空間とはいえ、それを司る肝心要の建物だ、降りかかってくる攻撃は立派なリアルそのものである
娘の輪子をかばいながら、攻撃を回避しつつ再び鼎は進入経路を探す

いつもならこんな修羅場は慣れているはずなのに、今回ばかりはそうも行かない
愛する娘が心配だし、何より同行者と連携が取れていないのだ

 「九条さん、急いで別のルートを検索します!援護を……九条さん!?」

はっと向かいの障害物で被弾を避けていた九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)が顔を上げ
慌てて状況を確認し始める、傍らの子供がどうしたらいいかわからず、ずっと彼女から離れない
……さっきからずっとこの調子で思わず鼎も舌打ちをしてしまう
連携を取れない以上、彼は3人の人間を守って戦っているような者だ。相当なハンデである
何とか彼女に動いてもらおうと、鼎は九条に激を飛ばす

 「しっかりしてください!ずっとその調子ですが……大丈夫なんですか?」


……すぐ傍の彼の声はもちろんわかっている
しかし自分の事に足をつけられない九条にはどうする事もできない
子どもがいる戦闘がこんなにも厄介だとは思わなかった

傍らには不安そうに、でもしっかりとロビンが、娘がしがみついている
これが望んだ子であれば、子を守る母にでもなろう
だが、全てが自分と父との生き写しのような、この仮初の子と
頭に残っている作られた記憶の残滓が邪魔をして同行どうしていいかわからないのだ

  危ないから下がれ、ここで待ってろ!……そうロビンに言えばいいのかもしれない
  だがその瞬間、自分に背を向けた父の姿が甦る
  共に進むべきと手を差し伸べれば、作られたとはいえ愛する人を失った恐れの記憶が邪魔をする
  どっちにも進めず、苛立ちを募らせれば、心の底から嫌な感情が自分に囁きかける
  
  【放って置けばいいじゃない?
   どうせ本物じゃないんだからこの子、死んでもただのデーターなのよ?】

  そしてそんな感情を生み出す自分自身に一番嫌気が差してしまう
  ……この葛藤を、きっと父もずっと抱えていたのだろうか?
  強く、時に怖く威厳のあった父も、こんなに繊細で脆い何かを抱えていたのだろうか?

 「九条殿!危ないっ!……あうっ!」
 「輪子!大丈夫ですか輪子!」

電撃の着弾音、そして少女と父の叫びに九条は我に帰った
目の前には小型の全方向移動型の警備ロボット、その下に輪子が倒れていた
すぐにそれを撃破し、鼎が彼女に歩み寄る

 「大丈夫じゃ父上、実弾ではない……電撃じゃからな」
 「だから大丈夫かと聞いてるんでしょう?あなたの体にはこっちの方がやばいんです!」

輪子の体の一部が一瞬、ショックでぶれる。それは紛れもない異形、生きている者ではない。
だが、自分をかばってくれた……何故?大丈夫……だってあの子も作られたデーターだから。
でもなんであの男は、父親みたいに必死で抱き上げている?
……何で自分は足が震えてる?何で泣きそうになっている?

何であの子が消えそうになるのをどうしようもなく恐れている?

思考が状況を超越し、何もわからなくなる
気がつけば目の前に電撃芯を向けているもう一体の警備ロボが見える
その姿を思考が飽和し、ぼうっとした顔で眺めていた中……九条の思考が突如クリアになった

目の前に小さい、ロビンと呼んでいる、自分の子どもが手を広げ立ちはだかっていた

 「……お母さんにっ!手を出さないでっ!」

今までの下らない思考が霧散し、彼女を抱き寄せ守ろうと手を伸ばす
だが時は遅く、その手が届く前に……その機械の棒から電撃の閃光が迸った………!




 「……かぁさん!おかあさん!……おかぁさん!」

呼びかけられる声で、九条は再び目を覚ます
気がつけば閃光は消え、静寂の中ロビンが自分の顔を覗き込んで必死に自分の事を呼んでいる
警備ロボットは電撃を放つ直前で、何故か石と化していた。その傍にいる男がこちらを見つめるのがわかった

 「……何とか間に合ったようだな。
  ……九条 ジェライザ・ローズ殿だな。全く単身でこの都市に突入とは無茶をする」
 「あなたは……?」

【さざれ石の短刀】を降ろし歩み寄る彼…久我内 椋(くがうち・りょう)に九条は尋ねた

 「貴殿と同じ、この都市を救いに外から来た者だ。事情はわかっている、協力しようではないか」

彼が九条を抱き起こす傍ら
ロビンの傍には12歳に見える少女とロビンとそう歳も変らない子どもが彼女を覗き込んでいた
キラキラと瞳を輝かせながら12歳の少女…ミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)が口を開く

 「かっわいい〜!あなたの子どもですか?うちの子も可愛いけど、子どもってみんな可愛いのです!」
 「おかーさん、いたい……」

興奮してわしわしと隣の自分の娘の頭を撫で回し、自分の年齢そっちの気ではしゃぐミュリエルに
ロビンはおずおすと彼女の娘に質問する

 「あなたのお母さん?……お父さんは?」
 「……あっちだよ」

ロビンの問いに女の子は横を指さす
見れば一人の男が何やら罵詈雑言を履きながら壊れた警備ロボットを粉々に粉砕していた

 「まだだ!まだ足りねぇ!殺してやる…滅ぼしてやる…八つ裂きにしてやる…!!」
 「……怖いお父さんだね」

ロビンの言葉に、今度はミュリエルが何故か照れながら答える

 「ほら、お父さんは強いでしょう?あの強さで、今まで沢山の人を助けたりしたんですよ」
 「お前まで便乗して俺をお父さんていうなぁ!」

耳ざとく彼女の言葉を聞きつけて、彼…エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が振り返り
ずかずかと歩み寄った後、ロビンの隣の娘を指差して叫んだ

 「俺は決してこんな『現実』…断じて認めん…ッ!
  俺と…ミュリエルの…娘…だなんて……俺がまるでペ…ペド……ペドやろ」
 「……ぺどやろう?」

意味もわからず反芻したロビンの言葉に、エヴァルトは一瞬硬直する
そしてすぐに一層激しく壁に頭を打ちつけ始める

 「ち、違う!俺は被害者だ!ペドじゃない!ペドじゃないんだぁぁぁ!!」

あまりの空気の変り様に戸惑うも、何となく経緯は読める気がするので
呆然と見ていた九条が単刀直入にミュリエルに聞いた

 「システムのバグに巻き込まれたんですか?ひょっとして」
 「お兄ちゃんはそんなのじゃありませんから!
  ………まぁ、いつかは、お嫁さんになりたい…です……けど」

ごにょごにょと照れて最後の方が聞き取れないが
その態度に頭打ちをやめてエヴァルトがこちらを睨んでいった

 「当たり前だ、12歳のお前とどうやって6歳の子どもを作れというんだ!
  まったく……死にたくなるほどの自己嫌悪を味わわせるとはな
  俺は絶対に騒ぎを起した奴を八つ裂きにしてやる!だから最上階を目指す!!」

天に向かって散々呪詛の言葉を吼えた後、ふとエヴァルトが見下ろすと、自分の子が見上げていた
そして今度はばつが悪そうに、子どもの頭に触れる

 「わかってるよ、さっきも言ったろ?…ついて来るなら、勝手にしろ…
  あー、もうわかった、危なくなったら俺が守ってやる!だから……」 
 「うん…一緒に行ってもいい…?」

彼が差し出した手を子どもがしっかりと掴んだ



まったく解らない……その光景を見ながら九条は思う
自分が散々悩んでいるのが馬鹿らしいくらいに、彼らは本音をぶつけ合い、否定し合い
そしてアッサリと誰よりも簡単に手を伸ばす、自分や父が悩んでいたのは何だったのか?
もちろん、そんな簡単な問題じゃない
でも簡単でもいい、案外親子というのはそんなのもかもしれない、だから……

ロビンの頭を初めて優しく撫でながら、彼女は思う
自分もそれに従おう……何も考えられない自分の心がそれでも手を伸ばそうとした、その心を信じよう

 「……それでいい、それだけで子どもはうれしいものだよ、九条殿」

その様子を見ながら、輪子は満足そうに呟く
彼女を抱えたままの鼎が心配そうに彼女に話しかけた

 「大丈夫なんですか?輪子。あなたはここで待っていても……」
 「もう大丈夫じゃ、父上。ちょっと体はしんどいがの……
  わしもアダムにガツンと言うてやらんと気がすまんのじゃ」

ゆっくりと父の手から地面の降り立って、輪子が答えた

 「行こう父上!最後の最後まで共に踊るのであろう?」
 「……そうですね」

そこで周囲を調べていた椋が戻ってきて、全員に呼びかけた

 「行こう、また警備システムが復活する可能性がある、ゆっくりもしてられないぞ!」