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動物たちの裏事情

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動物たちの裏事情

リアクション


第三章「想いの行きつく先は一つ」

「何っ? この揺れ、地震?」
「わわわっとと」
 奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)雲入 弥狐(くもいり・みこ)は、突如の揺れに戸惑いつつ軽く伏せた。ここは地下だ。崩れたりしたら一巻の終わりである。緊張した面持ちをしていた沙夢だったが、揺れはすぐに収まった。息を吐き出す。
「よくわからないけど……行くわよ、弥狐」
「わかった。動揺してる今がチャンス、だね!」
 2人は動物たちを私利私欲のために利用しようとしている盗賊の話を聞きつけ、ここへとやってきた。動物が大好きな沙夢にとって、それは許しがたい行為だった。
 【野生の蹂躙】を発動し、後ろから不意を突く。
「うおっなんだこいつら……くそっ」
 魔獣たちを追い払おうとする盗賊たちに、沙夢は弓を構え、容赦なく【ダブルインペイル】にて矢を放つ。ただでさえ動揺していた盗賊たちになすすべはない。
 鬼気迫る瞳で弓をつがえるパートナーを見た弥狐は肩をすくめて苦笑する。
(動物のこととなると本気になるね。ま、それがいいんだけどさ)
 【隠れ身】で盗賊の後ろに回った彼女は盗賊の背中をとんと押した。ふらつき前方へ足を踏み入れた盗賊に待っているのは、【トラッパー】で設置された罠地獄。
 沙夢に対して呆れていた弥狐だが、彼女もまた容赦ない。
「まったく、こう言う人達がいるから動物たちが安心して暮らせないんだよね」
「私利私欲のために犠牲にされる動物達の気持ちを考えたこと……はなさそうね。倒される準備はいいかしら? 言い残した言葉はないかしら? 助けを請う準備もOK? ま、出来てなくても知らないわ」
 盗賊たちの末路は、動物たちを狙ったその瞬間から決まっていたに違いない。
「そういえば奥に動物と話せる水があるって……まぁいいわ。この子達とは言葉が通じなくても、心が通じ合ってる気がするもの……弥狐、行くわよ……弥狐?」
 盗賊たちへたっぷりと怒りを発散した沙夢は弥狐を振り返り、微笑んだ。弥狐は落ちていた水晶球でネコたちと遊んでいた。


 クスクスクス。
 無邪気な笑い声が薄暗い空間に響く。その笑い声は無邪気であるというのに、どこか不気味であり、聞く者に恐怖を与える。
 盗賊たちは「ひっ」と息をのみこむような情けない声を上げ、腰が引けた状態で声の主を探す。
「クスクス……葛葉ちゃんに誘われたの。逃げ出す悪いお人形さん達を壊す簡単な遊びなの。だからもっと逃げないとだめなの」
 声と同様、無邪気な笑みを浮かべた斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)が、黒銀火憐を手に盗賊たちへとゆっくり近づいていく。
 ハツネが黒銀火憐を振った。鞭からは黒炎が発生し、まるで生きているかのように盗賊たちに絡みつく。
「ひぃ、たすけ」
「クス、捕まえたの」
 燃やすだけでハツネの動きは止まらない。そのまま放置しておけば確実に死ぬだろう盗賊たちへ容赦なく鞭を振るい、ギルティ・オブ・ポイズンドールで悪疫をばらまく。
 あるものは灰になるまで嬲られ、あるものは猛毒の粘液に包まれ、その身を焼かれた。
 だが何名かはそんな地獄から逃れようと必死に走って行き……そこでもまた地獄を見る。
「狩られる気持ちを理解できましたか?」
 ハツネをこの依頼に誘った天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)である。葛葉は以前から気にかけていた盗賊団が動きを見せたことで、壊滅させる好機とみてやってきた。
 自身も盗賊にひどい目にあわされた葛葉にとって、盗賊というだけでも憎しみの対象だが、特に動物を狙うものへの復讐心は根強い。
 禍津殺生石で自身を強化した葛葉は【アボミネーション】で逃げてきた盗賊たちを足止めする。葛葉が盗賊を逃がすわけがない。
 そして葛葉が、彼らに死という安息をすぐに与えることもまた、ないのである。
「ハハハっ盗賊なんて連中、皆殺しにしてやりますよ。それが僕の……復讐だ」
 【ファイヤーストーム】に【朱の飛沫】、玉藻さんに益材さんと、全力で嬲り殺す。
 2人の行動は誰にも止められない……はずだった。
 その存在は、2人の背後から唐突に表れた。
「父様、それにお姉ちゃんも、武器を置いてもうこれ以上の悪行はやめてください。でないと、2人の未来が変わらないのです!」
 天神山 清明(てんじんやま・せいめい)が、天乙貴人を構えて言うと、ハツネと葛葉が動きを止めた。
「何で怒るの? だって悪い事には罰を与えるんでしょ?」
 ハツネは何故褒めてくれないのか、と不思議そうに首をかしげ、葛葉は無言でうつむいている。
 2人の様子を見た清明は、必死に言葉を紡ぐ。
「それでもやるならっこの天乙貴人で撃つのです!
 清明は大好きな2人を撃ちたくはないのです。
 お願いだから、これ以上はやめて、一緒にお家へ帰りましょ?」
 未来人である清明の必死の説得に対する2人の答えは、
「むー、清明がそこまで言うのならもうやめるの。ハツネはお姉さんだから可愛い妹の言う事を聞いてあげるの」
「清明、あなたには見られたくはありませんでしたよ。
 まあ今回は、ここまでにしておきますが……次は」
「壊しつくしてあげるの」

 

 遺跡の中を、ビキニ姿で歩くのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)である。古代遺跡とビキニ……なんとも言えない組み合わせだ。
 セレンフィリティは、遺跡を歩きながら動物たちがどうしてこんな危険な場所に逃げたのかを考えていた。
『イキモさんが動物を虐待しているとか、或いは動物好きが高じてイキモさんが夜な夜な動物を相手にあーんなこととかこーんなこと(※以下自主規制)してる……?』
「セレン……あなた今、妙なこと考えてるでしょ」
 自分の妄想で段々と呼吸がおかしなことになっている彼女に、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が呆れた顔をして突っ込みをいれた。
「そんなことないわよ。どうしてここへ逃げたのか、をちょっと考えてただけで……まあ、聞いてみるしかないんだけど」
 セレアナが「そうね」と返事をしようとセレンの方を向いた時
「すみません! どいてください」
「え?」
 彼女の横を何かが猛スピードで駆け抜けていった。セレンたちと同じく動物を保護しようと動いていた佐野 和輝(さの・かずき)である。ものすごく焦った様子で、【ゴッドスピード】や侵食型:陽炎蟲までを使っての最高速度を出している。
 一体何が、と和輝がやってきた方向をセレンとセレアナが見ると、黒い毛が見えた。
「うっほ、うっほ」
「なんで(ゴリラが)俺に迫ってくるんだ!」
 そう、和輝はゴリラに追いかけられていた。ゴリラの後ろからは和輝のパートナーアニス・パラス(あにす・ぱらす)ルナ・クリスタリア(るな・くりすたりあ)が、箒や狼にのって追いかけている。
「にゃは〜、和輝まてまて〜」
「和輝さん達は良い人ですよぉ〜狼さん達が警戒してないのが良い証拠なのですぅ〜」
 アニスはなぜか楽しそうで、ルナは必死にゴリラを説得しようとしている、というなんとも不思議な光景である。
「何アレ?」
「……そういえば、あのゴリラは女の子で婚活中だとかイキモさんが言ってたわね」
 茫然とするセレンに、セレアナが冷静に返す。
 そして今度はいななきとともにユニコーン(と、タテガミにしがみついたマリモリス)、大声で叫んでいる鍵屋 璃音(かぎや・あきと)忍冬 湖(すいかずら・うみ)が通り過ぎる。
「待ってくれ。オレはお前たちに協力したいんだ!」
「アキト、待ちなって! 1人で突っ走るんじゃないよ!」
 なぜこんな追いかけっこになっているか、というと……。

 猛スピードで駆け抜け、【トラッパー】の技術を生かしてなるべく罠を回避し、戦闘も避けて進んでいた和輝たちは、賢狼の嗅覚で動物たちを追いかけていた。
 その作戦は成功し、一番に動物たちと出会うことができたのだが、一つ誤算が生じた。ゴリラが婚活中の乙女であり、男を見ると勝負を挑んでくる、という点である。
 たとえば魔物であったなら、和輝は容赦なく倒しただろう。しかしゴリラは保護対象である。傷つけるわけにはいかない……ということで逃げたのだが、乙女の力は侮りがたし。ゴリラは和輝と同等のスピードで追いかけてきたのである。その心境を言葉にするなら
『逃してたまるか婿候補おおおおおっ』
 という感じだろうか?
 そしてもちろん、パートナーを追いかけてアニスとルナも後を追う。アニスが楽しそうで、ルナが説得をしながら、だったが。
 
「この遺跡に入った事には意味があると思うんだ。だから動物たちが怪我せず最奥まで行ける様に、オレは【トラップ解除】でトラップを外していくぜ!」
 一方の璃音は元々トラップを解除していたのだが、そこへゴリラに追いかけられてやってきた和輝たち、ゴリラを追いかけているユニコーンたちと遭遇。まだ罠を解除していない方角へと進む彼らを心配し追いかけっこに加わった。
「姐さん! あの柱の足元だ」
「ほいよっと」
 追いかけつつ危険のありそうな罠を見つけた璃音が声を上げると、意味を察した湖がその場所へと攻撃を放ち、動物たちが引っかかってしまう前に破壊していく。

「えーっと……と、とりあえず、追うわよ」
「え、ええ」
 しばし呆然としていたセレンとセレアナだったが、我に返ると彼らを追いかけて走り始めた。


「マリモリスってどんな子なんですか?」
 目を輝かせた一ノ宮 総司(いちのみや・そうじ)に問いかけられたイキモは、笑顔で答える。
「そうですね。大きさはこのぐらい(サッカーボールほど)なんですが、ほとんどは毛なので、実際はもっと小さいですね。性格はおとなしく、他の子たちよりは人への警戒心が薄いです」
「へえ〜……でも、そんな大人しい子まで、どうして逃げちゃったんでしょう?」
「それは」
 首をかしげる総司に、イキモは曖昧に笑うしかできない。
(動物たちが脱走した理由……か)
 隣で話を聞いていた土方 歳三(ひじかた・としぞう)はふむと頷く。
「水を飲んで貰えば、直接言葉で聞く事も可能だろうな。頼んでみるか?」
「そうだね。僕らの目的は、動物さんたちと仲良くなって、お話して、遊んでもらうことだから」
「総司、動物たちと親しくなって話をするのはともかく、遊びたいのはお前だけの目的だろ?」
「…………」
 楽しみだなぁ、と微笑む総司に歳三は苦笑を浮かべるが、一方でイキモの表情は暗く沈んでいた。
「ちょっとどうしたのさ、突然」
 五十嵐 理沙(いがらし・りさ)がそんな様子に気づいて声をかける。イキモは深い溜息を吐きだしてから口を開いた。
「私はあの子たちに名前をつけていません。あの子たちの傷が癒え、体力が元に戻れば自然へと帰すつもりだからです。なるべく人間にかかわらず、あの子たちの故郷で他の仲間と過ごすのが、あの子たちにとって一番の幸せなはずですからね。
 今回の逃亡は、おそらくあの子たちの『私の手から逃れたい』と言う意思なのでしょう」
「イキモさん……」
 寂しい微笑みを浮かべるイキモに、セレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)はそうだろうか、と思った。今までのイキモの様子を見る限り、動物たちも同じように彼のことを思っているはずだ、と。
 しかし口にはしなかった。これは、本人たちで解決する問題だからだ。