天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

アニマルパニック!

リアクション公開中!

アニマルパニック!

リアクション


<part5 わんにゃん大作戦!>


「解毒薬は、まだまだ時間がかかりそうだねー」
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)はエリスの実験室を出て、ヴァイシャリーの中心街へと歩いていた。百合園生の彼女は、事件のとき家庭科室に戻っていたので人間のままだ。
「むう、できあがるまでどう時間を潰したものか」
 猫に変身したミア・マハ(みあ・まは)は、レキの肩に乗っていた。
 キツネやタヌキが言葉を交わしながら歩道を走っていくのが見える。
「おい、動物を捕まえてる悪質なハンターがいるらしいぞ」「ホントか?」「ああ。動物に変身しちゃった奴らも何人か捕まったらしい」「やばいな」「敵はトラックで移動してるってさ。助けに行くか?」「おう」
 レキとミアは顔を見合わせた。
「聞いた、ミア?」
「うむ。物騒なことになっておるようじゃな」
「これは放っておけないね! もふもふスキーとして、ボクはもふもふを守るっ!」
 レキは拳を握り締め、敵のトラックとやらを捜し始めた。


 ゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)は精悍な人間の青年に変身していた。黒い髪、黒い肌、そして鮮やかな朱色の瞳が力強い。
「では、我は服を買ってくる。大人しくしているようにな」
 カジュアルショップの店先で、ゴルガイスはグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)に言い聞かせた。
「……分かった」
 グラキエスの姿は黒い子猫。金色の眼が輝き、背中に二対の小さな強化光翼がついている。
「なるべく早く戻りますからね」
 ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)はそう言い残して、ゴルガイスと一緒に店に入っていった。メモリーカード型の魔導書であるロアは、事件当時はケースの中に入っていたので無事だ。今は人の姿を取っている。
 グラキエスは店先の歩道にうずくまった。路面に顎をつけ、ぐったりとする。
 狼のレリウスとハイラルがじゃれ合いながら通りがかった。
「あ、グラキエスさん。大丈夫ですか、随分具合が悪そうですが」
 レリウスがグラキエスの容体を気遣う。
「少し体がだるいだけだ。大したことはない」
「そうですか。悪質なハンターがトラックに乗って動物を狩っているそうです。誘拐されないよう気をつけてくださいね」
「ああ。ありがとう」
「俺たちはハンターを取っ捕まえてくる。またな」
 ハイラルが言い、二匹はいずこかへと走っていった。
 グラキエスは横たわったまま、仲間たちが買い物を済ませるのを待つ。
 十分くらい経っただろうか。一台のトラックがグラキエスの前に停まった。
 サンボがトラックの助手席からグラキエスを指差す。
「おい、あの子猫は弱ってるみたいだ。あれなら捕まえられるだろ。最後に頂いていこうぜ」
「え、でも、病気の猫なんて売れるんで?」
「動物実験の材料くらいにはなるさ。さっさと取ってこい」
「ガッテンです!」
 ポンチョは運転席から降りてグラキエスに近づいてきた。
 ――なるほど、これが悪質なハンターって奴か?
 グラキエスの頭に一計が閃いた。
 逃げもせず、ポンチョに抱えられてトラックの荷台に入れられる。
 荷台の扉が閉じ、鍵の閉められる音がした。
 真っ暗な閉鎖空間。そのスペースは軍用の輸送車両のように広い。
 運転席とは壁で仕切られており、檻がたくさん積んである。そして、古今東西ありとあらゆる動物が閉じ込められていた。
 
 ロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)は赤毛のライオンのような姿に変身していた。レヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)はカラス。
 二匹が運河沿いを歩いていると、ゴルガイスとロア・キープセイクが大慌てで走っているのに出くわした。
「おい、そんなに慌ててどうしたんだよ、キース」
 ドゥーエはキープセイクに声をかける。
「エンドがさらわれたんです! 私たちが買い物で目を離している隙に!」
「はあ!? どこのどいつに!?」
「動物ハンターです! トラックでこの街の動物を掻き集めてるみたいなんです!」
「マジかよ!? ぶち殺……ぶちのめす! 案内しろ!」
「それが……、なかなか行き先が掴めなくて……」
 キープセイクは途方に暮れたように言った。
 ドゥーエはレヴィシュタールを見やる。
「レヴィ!」
「分かっている」
 レヴィは黒羽を散らして飛び立った。空高く舞い上がり、上空からトラックを捜す。
 と、キープセイクのHCのインジケータが点滅した。キープセイクは画面を見て驚きの声を漏らす。
「エンドから救難信号が入りました!」
「どこだ!?」
 尋ねるドゥーエ。
「こっちです! 移動しているようです!」
 キープセイクに案内され、一同は走り始めた。


 トラックの荷台の中。一頭のグレータードラゴンが大の字になっていびきをかいていた。真田 幸村(さなだ・ゆきむら)だ。
 すぐそばの檻には、彼の息子の真田 大助(さなだ・たいすけ)も捕まっているが、こちらは白いオコジョの姿だ。
 幸村は捕まったというより、運河の岸辺で昼寝中に変身し、目が覚めないうちにサンボたちに見つかったのだけれど。
 『なんでこんなとこにグレータードラゴンがいるか知らないけどラッキー!』てなわけで、サンボたちが爆睡中の幸村を荷台に運び込んだのだ。
「父上……、父上……!」
 大助は檻の隙間から前肢を出して幸村の顔をつついた。
「ん……?」
 幸村が目を覚まし、ぼんやりとした目で辺りを見回す。
「なんだ、ここは? 動物だらけだな」
「ふう、やっと起きてもらえましたか」
 大助が安堵して言うと、幸村はぎょっとする。
「うわっ!? オコジョが喋った!?」
「……詳しい説明をしている暇がないので手短に。僕は大助です。どうも僕たち、魔法かなにかで動物になっちゃったみたいなんです。そこに悪徳動物ハンターが来て、僕たちを捕まえたんです。このままじゃどっかに売り払われてしまいます」
「なるほど、俺はそんなわけのわからん状況に……ふ、ふふ……」
 急に幸村が笑い出し、大助は心配になる。
「あの、父上……?」
「ふざけるなぁああああ! 俺は誰かの良いように使われるのは真っ平だ!」
 幸村は無茶苦茶に暴れ始めた。火を吐き、尾を振り回す。
 悲鳴を上げる動物たち。
「ち、父上! こんなとこで暴れては!」
「あ、ああ、悪い」
 幸村は我に返った。

 幸村の昼寝していた河岸では。
 家族の分のアイスを買いに行っていた柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)が、幸村たちの誘拐されたのを知って怒り狂っていた。
「俺の妻子に手を出すとはいい度胸にゃ! 樹たちと協力して叩き……轢き潰してやるにゃ!」
 語尾が『にゃ』なのは、猫に変身しているからである。
 犬に変身した須佐之男 命(すさのをの・みこと)が、現場に残されていた幸村の鉢巻きの匂いを嗅ぐ。宙に鼻を突き上げ、匂いの流れを嗅ぎつける。
「真田の匂いを見つけたぜ! 来い!」
 命は駆け出した。
 氷藍は黒塗りの巨大ロードローラーに飛び乗り、車体の上によじ登る。二本脚でなんとか立って、器用に操縦桿を操り、ロードローラーを走らせる。
「ぶっ潰すにゃああああああ!」
 氷藍は完全に頭に血が上っていた。


 柴犬に変身した桜葉 忍(さくらば・しのぶ)、白猫の東峰院 香奈(とうほういん・かな)、獅子の織田 信長(おだ・のぶなが)も、動物ハンターを追跡していた。
 香奈は路地裏に溜まっている普通の猫たちに聞き込みをする。
「……ふんふん、なるほどなるほど。ありがとう。しーちゃん、ハンターは博物館の方に行ったって!」
「よし。急ぐぞ!」
 忍が促し、三匹は路地裏を駆け抜けて博物館の方角へと進んだ。
 五分ほどすると、走っているトラックの背中が見えた。三匹は全速力でトラックの進行方向に回り込む。
「まずはあのトラックを停めないとな」
 と忍。
「私に任せろ。行けー! ピヨ達よ!」
 信長は地面に足を踏ん張り、高らかに頭を上げて咆哮した。
 その号令に従い、大量のピヨがトラックの前に突進する。
「おぉ!?」
 ポンチョはとっさにブレーキを踏んだ。トラックが急停止し、サンボの頭がダッシュボードに激突する。
「いってええ……、おい、なんで止まった!?」
「すんません! なんかピヨが飛び出して来たんで……」
「あぁ?」
 サンボは目をつり上げてフロントウィンドウの外を眺めた。
「……本当だな。構わねぇ、轢き殺せ!」
「が、がってん……」
 ポンチョはアクセルを踏み、トラックが再び動き出す。
 忍が目を疑う。
「あいつら本気か!?」
「戻れ、ピヨたち!」
 信長が叫び、ピヨ軍団は泡を食って引き返し始めた。
 が、トラックの車輪の方が速い。
 そのとき、建物の陰からにゅうっとティラノサウルスが現れた。伏見 明子(ふしみ・めいこ)だ。
「ピヨを轢き殺そうだなんて極悪非道ね。お仕置きしてあげるわ」
 明子はトラックのフロントウィンドウへと迫っていく。
「兄貴、恐竜ですぜ!?」
「バックだ! バックしろ!」
 サンボは仰天して手を振り回した。ポンチョはエンジンを唸らせて後退し、方向転換して逃げる。
「待ちなさーい! 怖くないわよー!」
 明子は地響きを上げながら追いかけた。黄色い眼はぎらついているし、牙は鋭く尖っているし、顎からはよだれが垂れているしで、超怖い。説得力ゼロ。
 止まらせるのは無理だったが、その代わり明子の巨体はとても目立った。小さな店なんかよりは一回り大きいから、ヴァイシャリーのあちこちから丸分かり。
「誰かそのトラック止めてー! 動物をさらう悪徳ハンターよ!」
 明子の咆哮が響き渡る。
 ハンターを捜していたコントラクターたちは、一斉に明子の方を振り向いた。

「やっと見つかったみたいだね!」
「じゃな! 早う捕まえるぞ!」
 レキはミアを肩に乗せて明子の方へと走る。

「待ってろよ、グラキエス!」
 ドゥーエは地面を一際強く蹴って加速する。

「邪魔にゃ邪魔にゃー!」
 氷藍は重低音のクラクションを鳴らしまくり、道路に塞がる他の車を押し退けるようにしてロードローラーを疾駆させる。

 動物ハンターをハントせんとする猛者たちが、街中から集結しようとしていた。


 朝霧 垂(あさぎり・しづり)はパンダに変身していた。だが、彼女は自分が変身していることに気付いてもいなかった。
 ただ、ハンターが動物を連れ去る現場を目撃し、誅滅すべしとして追っていた。
 ゴッドスピード。千里走りの術。それらの能力を駆使し、自動車をしのぐ速度で疾走する。幾らも経たずにトラックに追いつく。
 ふと横窓の外を見たポンチョは、ぎょっとして叫んだ。
「兄貴! パンダが十傑集走りしてますぜ!」
「あー? 十傑集走りってなんだ?」
 サンボは怪訝な顔をする。
「いや、その、ほらこれ……」
 ポンチョが垂を指差すと、その先に視線をやったサンボも口をあんぐりと開けた。
 パンダが腕組みをし、トラックの横を猛スピードで走っている。足さばきは目にも留まらず、それでいて上半身はまったくぶれていない。しかも無表情。
 垂はトラックの正面に回り込んだ。今度は後ろ向きに十傑集走りしながら警告する。
「止まれ! さもないと身の安全は保証できないぞ!」
 サンボが怒鳴る。
「逃げろ!」
「へいいい!」
 ポンチョはハンドルを右に切った。車体をきしみませながら急カーブする。
 その上空を、ロック鳥に変身したエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が飛んでいた。エースの首には、黒ヒョウに変身したクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)がまたがっている。
「美味しそうな匂いがするのにゃ! さすがのオイラも密猟者は食べたことがないにゃ! エース、早く早く!」
「はいはい。足元に注意しなよ?」
 エースはトラックの屋根近くまで高度を下げる。
 クマラはエースの首から屋根に飛び降りた。爪を立て、振り落とされないよう踏ん張る。
「ん? なんだ?」
 物音を聞いたサンボはトラックの天井を見上げた。
 エースはトラックのボディをかぎ爪で鷲掴みにする。翼を大きく掻き、トラックが前進するのを妨げる。車輪は激しく地面を削っているが、トラックはなかなか進まない。
 サンボが尋ねる。
「おい、どうした? なんで動かねえんだ?」
「分からないでがす!」
 ポンチョはアクセルをいっぱいに踏み込んだ。トラックの速度が増す。
 ホッキョクグマに変身したリアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)ーは、道沿いの店の脇に光学迷彩で身を潜めていた。
 ――今がチャンスみたいだね!
 光学迷彩を解き、トラックの前に飛び出す。フロントウィンドウに体当たりし、トラックとがっちり組み合う。
「おぉう!? シロクマー!? んだこりゃぁ!」
「兄貴! どうすりゃいいんです!?」
 サンボとポンチョは仰天した。
 リアトリスは渾身の力でトラックを押す。その上で羽ばたいているエース。
 さらにそこへ、ドーベルマンに変身している林田 樹(はやしだ・いつき)も駆けつけた。フラット・コーテット・レトリバー
に変身した緒方 章(おがた・あきら)と、人間の六歳児に変身した林田 コタロー(はやしだ・こたろう)も一緒だ。
「ゆうかいはんしゃん、みつけたれすよーっと」
 コタローはこたのもびゃーるぱしょこんで氷藍に敵トラックの位置情報を送った。
 章が樹を見やる。
「どうするんだい、樹ちゃん。なんか凄い怪獣対決みたいになってるんだけど」
 樹は不敵な笑みを浮かべる。
「これはチャンスだ。我々も空と陸から同時攻撃を仕掛ける。コタロー、敵の操舵手を潰せ」
「りょーかいなのれす!」
 コタローはうなずき、メス型の空飛ぶ箒、レティ・ランセットに乗った。
「押さえろ!」
 樹が命令すると、魔獣たちがトラックの周りに押し寄せた。ホッキョクグマのリアトリス、ロック鳥のエースと力を合わせ、トラックのエンジンと拮抗する。
「しゅじゅちゅれーす!」
 コタローが、横から運転席のドアに突っ込んだ。レティ・ランセットがドアに突き刺さる。
 コタローはレティ・ランセットから飛び降りて跳ね退いた。
「ごくあくひどうなわるいこしゃんは、ねーたんにかわっておしおきなのれす!」
 レティ・ランセットにライトニングブラストを放つ。
「あばばばばば!」
 運転席にいたポンチョが電撃に痺れる。

「俺の嫁と息子返せごにゃあああ!」
 氷藍がロードローラーでトラックの背後に突進してきた。
 それだけではない。
 ハンターを捜していたコントラクターたちが大群を成し、ずどどどどど、と地鳴りを上げて押し寄せてきている。

 ヒョウに変身した狩生 乱世(かりゅう・らんぜ)と、虎に変身した四方津坂 彪女(よもつざか・あやめ)がトラックに駆け寄る。
「無垢な獣をかどわかし、売り飛ばすことを生業にするとは、不届き千万。我らが此奴等の手から獣を救わねば」 
 彪女は憤慨している。
「こいつの足を封じろ!」
 乱世が指示する。
「承知した! 目覚めよ! 鬼神力!」
 彪女の全身の筋肉が太く盛り上がり、牙が長く鋭く伸びる。その姿はまるで、太古の地球に権勢を振るったサーベルタイガー。
 彪女はその牙でもって、トラックのタイヤにかじりつく。分厚いゴムをやすやすと噛み裂く。
「おっとー、僕も負けてらんないねー」
 章も死のネクタイでタイヤをパンクさせていく。
 タイヤから空気が抜け、車体が沈み込んだ。これでもう、走って逃げることはできない。
「よし! 次はあたいの仕事だな!」
 乱世は後ろ足で立ってトラックの荷台の扉に寄りかかった。
 口に針金をくわえ、荷台の錠をピッキングしようとする。ピッキング自体には慣れているのだが、ヒョウの体、そして手が使えないとなっては、なかなかに難しい。
 彪女が隣に寄り添って尋ねる。
「どうだ、乱世殿。解錠できそうか?」
「あとちょいだ。くそっ、生意気に上等な鍵を使ってやがる……っと、できたぜ!」
 カチリと符合する音がして、鍵が回った。乱世は扉の取っ手をくわえて引っ張り開ける。
 虎に変身したラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)がのっそりと荷台に這い上がった。
「さーてと……、この体でどこまでやれっかなーっと」
 ラルクは黒猫のグラキエスが入っている檻に近づいて声をかける。
「おぉい、ちっとどいててもらえるか。いまいち加減ができなさそうだからよ」
「分かった」
 グラキエスは檻の端っこへと退避した。
「おら!」
 ラルクは雷霆の拳を用い、檻に前肢を勢いよく振り下ろす。檻の蓋がひしゃげた。
 空いた隙間からグラキエスが抜け出す。
「ありがとう」
「いいってことよ」
 ラルクが笑うと、他の檻からオコジョの大助が呼びかけた。
「すみません、こっちもお願いします!」
「任せとけ」
 ラルクは大助の入っている檻も破壊する。
「ありがとうございます!」
 大助は檻から抜け出し、幸村の肩に駆け上った。幸村は大助を乗せたまま荷台の外に出ていく。
 ラルクは次々と檻を破壊していった。閉じ込められていた動物たちのうち、コントラクターたちはラルクに礼を言って車外に出る。

「はいはーい、みんなー、順番に避難してねー。幼い貸さない死なないだよー」
 章は普通の動物たちの避難を手伝った。野良犬やら野良猫やらを引き連れ、トラックから離れた安全な場所へと先導していく。

 レキが檻から子猫やフェレットなどを取り出し、腕いっぱいに抱えて頬ずりする。
「わー、もふもふだー♪ もふぎゅー!」
「レキ、もふもふするなら、わらわにするのじゃ」
 肩に乗ったミアが不満げにレキの耳をつついた。
「じゃー、ミアもするっ!」
 レキはミアもまとめてぎゅうっと抱き締めた。
「ふむ……、なかなか良い心地じゃ」
 ミアはふかふかの胸に包まれてご満悦。

 グラキエスが荷台の外に出てくると、追ってきたゴルガイス、キープセイク、ドゥーエ、レヴィシュタールがグラキエスを取り囲んだ。
「大丈夫か、グラキエス!?」
 ドゥーエは心配でたまらない様子で尋ねた。
「ああ。ハンターの位置を皆に知らせようと思って、わざと捕まっていたんだ」
「……なるほどな。まったく、無茶をするでない」
 ゴルガイスは苦笑しながら黒猫のグラキエスを抱き上げた。怪我をしていないか確かめてから地面に降ろす。
「けど、良かったぜ、無事でー」
 ドゥーエはグラキエスの顔に鼻面を擦りつけた。首を甘噛み。ほっぺたをぺろぺろ舐める。
「……おい、くすぐったいぞ」
 グラキエスは眼を細めた。

 動物たちがすべて荷台から脱出したのを確認すると、氷藍はロードローラーに再び乗った。
「轢き潰す、にゃ!」
 非情な宣言。
 トラックに向かってロードローラーを走らせ、ローラーに車体を巻き込む。
 べきばきべきと轟音を立てて、トラックが潰されていく。
「おああああ!?」
「ひょげええ!?」
 サンボとポンチョが座席から飛び出した。
「人肉、人肉ーっと♪」
 黒ヒョウのクマラがポンチョのでかい尻にかぶりついた。
「あいたた! いたたた!」
 クマラを尻にぶら下げて跳ね回るポンチョ。クマラはがじがじと尻の肉をかじってから、ポンチョを離す。
 エースがそばに舞い降りて尋ねる。
「美味しかったか?」
「んーっ、あんまり。なんだか酸っぱい味だったにゃ」
 クマラは顔をしかめた。

 コントラクターの変身した動物たちは、サンボとポンチョを取り囲む。狩るものと狩られるものが逆転。
 今、ハントされているのはハンター自身だった。
「兄貴! 囲まれてますぜ!」
「やるしかねえ!」
 サンボは懐から拳銃を取り出し、ポンチョは腰帯から手斧を抜き取った。
「なんなんだ! なんなんだよ、てめえらは!?」
 サンボが拳銃を握り締めて怒鳴る。
「ふふ、ワシらか……?」
 九尾の白ギツネに変身した天神山 保名(てんじんやま・やすな)が、前に進み出た。
 その横に並ぶ、斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)。二匹とも白いキツネで、葛葉は六尾の子ギツネだ。
「ワシらは、通りすがりの『フォックス・アイ』。不当な手段で獣を捕らえんとするその性根、天が許してもワシらが許さぬ! 少々痛い目に遭ってもらおうかのう……?」
 保名はノリノリだった。
 ハツネが葛葉に言う。
「ハツネ的にはフォックス・アイより、ホワイトフォックスズの方がいいと思うの」
「名前はどうでもいいですが……、こいつらは万死に値する」
 葛葉はぎりっと歯を噛み締めた。保名に聞こえないよう声を潜める。
「……ハツネちゃん、どさくさに紛れて一緒に殺りましょう」
 葛葉の瞳が狂暴にぎらついた。
「死ねェ!」
 サンボがハツネたちに向かって銃をぶっ放す。
 即座にフラワシ『ギルティ・オブ・ポイズンドール』が立ちはだかって、銃弾を防いだ。
「なっ!? てめぇら獣人のコントラクターか!?」
「クス……外れなの」
 ハツネはフラワシでサンボを包み込んだ。猛毒でサンボの肌を焼いていく。
 保名はポンチョに飛びかかった。ポンチョは手斧を薙ぐ。保名は舞うようにしてかいくぐり、ポンチョの股間に強烈な頭突きを喰らわせた。ポンチョは苦悶と共にうずくまる。
 保名はポンチョの手斧をくわえて遠くに放り捨てる。
「さてさて、あなたたちが傷つけた動物の気持ち、しかと味わってもらいます。殺処分される動物になる悪夢でも見てもらいましょうか……」
 葛葉はサンボとポンチョに恐ろしい幻覚を見せた。
 サンボたちは泡を吹いて悶える。
「ハツネ、葛葉。もうよい。そのくらいにしておけ」
 保名がいさめた。
 ハツネはため息をついてフラワシを引っ込め、葛葉も不承不承、幻覚を止める。
 サンボとポンチョは地面に倒れ込んだ。

「終わり、のようじゃな」
 信長がサンボたちに歩み寄った。
 サンボとポンチョは満身創痍。サンボはフラワシの猛毒でほぼ裸になってしまっている。
「これだけやればもう動けないだろう」
 忍がサンボの手から拳銃をくわえ取って放り捨てる。
「この人たち、どうするの?」
 香奈が尋ねた。
「このまま放っておくってわけにもいかないよね」
 とリアトリス。
 山猫に変身したレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)と、大鷲に変身したミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)が、自走式人間大砲に乗ってやって来た。
 レティシアが大砲から軽やかに飛び降りる。
「どうせだから、この大砲の砲弾にして警察署に撃ち込んでやりましょう」
 ミスティも砲塔の上から舞い降りる。
「そのぐらい怖い思いしないと懲りないわよね。署内に叩き込めば、怠け者の警察もさすがに逮捕してくれるだろうし」
「了解。じゃ、まずは砲弾に丸めるよ」
 リアトリスはサンボとポンチョの体を縄でぐるぐる巻きにした。コンパクトかつ風の抵抗が少ない流線型に整えてから、ポンチョを大砲へと運んでいく。砲塔に詰める。
 ミスティはサンボの体を運び、砲塔に詰め込んだ。二人を無理して詰め合わせてるもんだから、圧縮ぶりが酷い。
「……ぎゅうぎゅうすぎないかしら?」
 ミスティが首を傾げる。
「ぎゅうぎゅうの方が爆発力が大きくなっていいですよ」
 レティシアは呑気に笑った。
 犯人の罪状を書き連ねた書類や証拠写真なども、サンボとポンチョの顔に貼り付ける。
 準備万端済ませてから、レティシアは操縦席に乗り込んだ。
 砲塔の方向を警察署に向ける。角度を二階に入るようセット。
「ぷにっと、にゃ!」
 レティシアは発射スイッチを肉球で押した。
 爆音が轟き、砲身がわずかに跳ねる。
 サンボとポンチョは見事な放物線を描いて警察署へと飛翔する。

 その頃、警察署の二階の部屋では。
 刑事たちがヴァイシャリーの騒動に気付きもせず、だらだらしていた。
 カップラーメンをすする者。カップうどんをすする者。カップ焼きそばを食べる者。
 そんなんばっかだった。
 が、突如、窓ガラスが弾ける。
 突っ込んでくる人間砲弾のサンボとポンチョ。
 なぎ倒されるデスク。吹っ飛ばされる刑事たち。宙に舞う麺類。
「な、なんじゃぁ……?」
 禿げ上がった頭の捜査部長が、口からラーメンを垂らして呆然とした。
 こうして、ヴァイシャリーの街を西から東まで騒がせた事件は、皆の協力もあって決着を見たのである。