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取り憑かれしモノを救え―救済の章―

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取り憑かれしモノを救え―救済の章―

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●時間稼ぎ

 まずは周りを見渡して、ミルファの体を操る剣の怨念は呟いた。
「こそこそ、隠れてないで出てきたらどうだい?」
 それは挑発であり、宣言でもあった。
 しかし、それに対しての答えはなく現れたのは、霧。
 酸が含まれている【アシッドミスト】に紛れる【氷術】から精製された氷柱がミルファを襲う。
 それに対して、ミルファは薄く笑うと、
「あのさ……、君たちはボクがあの氷の檻を切り崩してきたこと、わかってる?」
 発生した霧ごと払う【ファイアストーム】。
 ごうごうと燃える業火が、全てを消し飛ばした。
 そして、
「――ノインスフィア
 一節の詠唱の後に現れる九つの火炎弾が全方位にむかって放たれる。
 その場で機を伺っているものにとっては、理解しがたい行動だったが、すぐさまその行動の意図に気づくべきだった。
バーンカラム!!
 着弾した九つの火炎弾が円柱形の炎となって周囲に炎を振りまく。
 これは【火術】と【ファイアストーム】を複合して放たれる炎の術式だった。
 そうして、あぶりだされたのはエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)榊朝斗(さかき・あさと)ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)東朱鷺(あずま・とき)の四名だった。
「くっ……」
 あたり一面の木々を焼き尽くされ出てきた四人。
 エヴァルトが冷や汗を浮かべて小さく呻いた。
 氷の檻の補強へと出向いていたのが仇となったか、エヴァルトは本来なら結界が全て壊れてから行動するつもりだった。
 だが、見誤った。怨念が、剣を振るうことが得意だと勘違いしたせいだ。
「行きなさい!」
 炙り出されてもなおも冷静に朱鷺は自信のペットたちに指示を出した。[使い魔:大蜘蛛]2体には、ミルファの足止めを。そして[戦闘用イコプラ]を【式神の術】で式神化し陽動を。最後にぽいぽいカプセルを全力で投擲し、体長3メートルのゴーレムを呼び出した。
「だから、さ!」
 行動の遅いゴーレムに飛び乗ると、ミルファは腕を駆け上がり剣で文字を削るとゴーレムの機能を停止させる。
 そこから飛び降り、撹乱するように動き回る3体のペット相手に、
「――ドライスフィア
 また一節の詠唱の後に、朱鷺のゴーレムの頭ほどもある火炎弾を生成すると、それ自体が意思を持っているかのようにペットたちを焼き尽くした。
 先ほどまでのは遊びだといわんばかりの攻勢に、連絡を密に取っていた朝斗と朱鷺は戦慄する。
 しかし、ミルファは今、限りなく無防備に近い。
 それに気づいた朝斗は、宙を舞うミルファの体に向けてまずは[ウィンドシア]から【真空波】を放ち、続けざまに[シュタインフェブリーゼ]から同様に【真空波】を放つ。
 咄嗟に放った2連撃は、ミルファの体をざっくりと切り刻むと糸の切れた凧のように地面に落ちた。
「やったか……!」
 多少なりとも力が戻っていることを確信していた朝斗は、そう希望的観測を持って言う。
 しかし、その思いはいとも容易く打ち砕かれることとなった。
 むくりと起き上がると、たんっという一拍の間を置いて、朝斗に肉薄。剣が朝斗を襲おうとしたところで、風切り音がミルファを襲った。
 状態を逸らすことで回避し、ミルファは朝斗から距離を置く。
 朱鷺が[五行の弓]を構えて矢を放っていた。
 そして、ルシェンが【氷術】でもって、ミルファの着地点を穿つ。
 ごろごろと無様に地面を転がって避けるミルファの目の前に立つのは、エヴァルトだった。
「君とは遣り合いたくないな」
「いや、戦ってもらおうぞ。お前が取り憑いているその子を助けるために!」
 ミルファが回避行動を取るよりも早く、エヴァルトがミルファの体を押さえ込む。
 それは自身の筋力が少女の体であるミルファよりも上だということを、先の戦いで分かった上での行動だった。
 怪力にも近い力がミルファを押さえ込む。
「今のうちに、剣の破壊を!!」
 エヴァルトが言う。
 それにいち早く朝斗が動くが、
「だから、甘いって――」
 ミルファがあざ笑う。
 指だけを動かして、ミルファがその場に雷を呼ぶ魔法陣を描く。
 そうして光が走ると、エヴァルトの押さえが弱まり簡単に抜け出した。
「遊びは終わりだよ――ノインスフィア
 もう一度九つの火炎弾を呼び出すと、四人全員を囲うように炎が着弾し、
バーンカラムスフィア
 囁いて言うミルファの声に呼応するように、四人全員を炎の檻が包み込んだ。
 半球形の炎の檻はめらめらと燃え続ける。暫くは消えそうになかった。
「その中で暫く遊んでなよ」
 そう言ってミルファは踵を返しその場から離れた。


 朱鷺のゴーレムが出現したことをルビー・フェルニアス(るびー・ふぇるにあす)は確認していた。
 そして、すぐさま炎のドームが出来上がるところまでまざまざと目にし、ルビーは焦りつつも、朱鷺を信じその場へと向かった。
 そこは焦げた木々と、狭まる半球上の炎だった。
 術者がいないのに消えない炎を目の前にして、しばし思案するが、ルビーは【ブリザード】で持って、消火することを考えた。
 それは成功したようで、起点に見える一つの炎を消すことが出来ると、後の全てが一斉に消失。中にいる3人を無事に助け出すことが出来たのだった。