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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 『私、お母さんになりますー』

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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 『私、お母さんになりますー』

リアクション

 少し時を戻して。

「ふふふ……さぁ、頃合いね。
 今からここに、魔法少女をおびき寄せるわ。あなたたちはやって来た魔法少女と戦い、倒すのよ!」
「はっ、姫子様」
「姫子様の仰せのままに……」
 姫子の指示を受け、進んで配下に加わった姫星、結局支配に負けてしまった歌菜が頷く。
「――――」
 小声で呪文らしき言葉を呟いた姫子が、掌を空にかざせばそこから一筋の光が生じ、夜空を切り裂くように煌々と輝く。
(ふふ……ここまでたどり着けるかしら? 魔法少女、あなたたちの相手はたんと用意してあげたわ)
 同時に先程生じさせた白い靄を生み出し、今度は魔法少女を襲わせるように調整した姫子が、光の中で不敵に微笑む――。

 突然、辺りが白い靄に包まれたかと思うと、前方に白くぼんやりとした影が映し出される。
「きゃああああああああ!! こ、来ないで、来ないで下さあああああいっ!!」
「ぶちのめす! テメー絶対ぶちのめす! お化けなんて嘘だと信じTeeeee!!」
 すっかり、前方の影をお化けの類と勘違いしたジーナが爆炎やら雷やらゲロマズ料理やら隕石にミサイルポッドをぶちかまし、パワードスーツを纏った衛がその中に特攻、メチャクチャに拳を振り回す。
(……出会い頭にあれだけかまされりゃ、契約者だろうとただじゃすまないね。
 操られたのだから、自身の責任でもあるけど……ま、最低限の治療くらいはしてあげようか)
 もし万が一動けた時のために、と狙撃姿勢で控えていた樹が、前方の惨劇を目の当たりにして相手に憐れみの視線を向ける。案の定、顔も知らない契約者と思しき者が地に伏せ、虫の息状態であった。
「おい、こいつ契約者だ、お化けじゃないぜ」
「そ、そうですの……ふぅ……はっ、ホッとしている場合じゃありませんわ。
 お化けじゃないと分かったなら、もう怖くありませんわよ! どきなさいバカマモ、ワタシ一人でカタをつけてみせますわ!」
「なんだよじなぽん、オレだってお化けじゃないなら普通に戦えんだ!」
「その名前で呼ぶんじゃありませんわよバカマモ!」
「いってー! なにすんだテメー!」
 すっかり調子を取り戻した二人に苦笑して、樹は伏せた契約者の身辺を調査した後、最低限の治療を施して後を追う。

 ぼんやりとした白い影に、レイナとセラは一瞬驚いたもののすぐに身構え、何かあった時に動けるようにする。
「あ、私何も見てませんよ? 見てないですからね? 見てないんですってばー!」
 美央だけが、その場で頭を抱えてうずくまっていた。「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ」と呟く声も聞こえる。
「レイナちゃん、女王サマをお願いね! ……本当にお化けかどうか、確かめてみなくちゃ」
 美央をレイナに任せ、セラが空中に魔法陣を複数描く。そこから無数の小さな魔弾を放てば、白い影は明確な意思を持ってそれらを避ける。
「違う、これはお化けじゃない! 多分、操られている何か、契約者の類だよ」
「……なんですって?」
 その言葉を耳にした途端、すっく、と立ち上がった美央が向き直る。いつの間にか槍を装備、生き生きとした表情で名乗りをあげる。
「魔槍少女スノークイーン、行きます!」
 それまで溜まっていた鬱憤を晴らすかのように、美央が襲いかかる白い影を薙ぎ払い、突き飛ばしていく。冷気を伴った槍の一撃を受け、うっ、と声を漏らして地面を転がる白い影に、確かにお化けじゃなかったと確信を得る。
「……もう……いないようですね」
 二人の支援に回っていたレイナが呟く、辺りには虫の息で地面に伏せる名も知らぬ契約者が数体見えた。
「……あなた方に罪はありません。今手当を……」
 癒しの力を順に施しながら、レイナはこのようなことをする相手への怒りを増大させていくのであった――。

「! あの光は……怪しいですね。これは事件の兆候に違いありません。
 リリー、パパは行ってくる、リリーはお家に帰って――」
「リリーも行くよ! リリーも強くなりたいから、パパのお手伝いする!」
 リリー・アシュリング(りりー・あしゅりんぐ)を家に送る途中だった博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)が、空に燦然と輝く光の筋に危険な兆候を感じ取る。現場に向かおうとするのを付いて行こうとするリリーに、やはりリンネさんの『子供』だなと苦笑する。厳密にはリリーは未来人であり、通常の感覚では子供、と呼ぶには違和感があるが、そこはパラミタ。博季もリンネも、そういう事情を把握した上でリリーを二人の『子供』として扱うと互いに了承し合っていた。
「……分かった。決して無理はするな、パパの傍を離れるなよ」
「うんっ!」
 頷くリリーを連れて、博季は光の元へと向かう。途中、上空を翔ける二つの影がやはり光の元へと向かっていくのを見届け、自分の直感は正しかったことを再確認する。

「街を覆う白い靄、現れる正気を失った人達、そして出現する光柱……いいね〜ワクワクしてきちゃうね!
 本物のゴーストに会えるかもしれない、捕まえられるかもしれない! ジュレ、行くよ! 魔法少女の出動だ!」
 そう言って箒にまたがり、夜の街へと文字通り飛び出していったカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)を、ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)はやれやれといった思いで後を追う。
(ここパラミタには英霊という存在がおる、別に幽霊など珍しくもなかろう。
 さて……事件の黒幕は誰か。豊美の元にやって来た者とは別の英霊か、あるいはもっと別の存在か。我は一旦、様子を見るとしようか)
 こういう時、まず表で騒いでいる輩は黒幕などではなく、その裏で密かに動いている者が怪しいというのが相場だな、とジュレールが思い至った頃、件の光柱が出現している場所へ近付く。そこでは既に、戦闘が行われているようであった。
「歌菜、俺だ!どうした、何があった!」
「姫子様に敵対する者は……全て討つ!」
 振るわれる槍の穂先を、すんでの所で避けた羽純が歌菜に呼びかけるも、光の消えた瞳で羽純を見ることはない。
(途中からテレパシーが途絶えたと思ったら……! 姫子とやら、只者ではないな。
 歌菜のクセは知り尽くしているからいいが、他の相手となると……厳しいな)
 パートナーであり、今はかけがえのない伴侶でもある歌菜の立ち振る舞いは、平時と何ら変わらない。それ故に対処はしやすかったが、全体的な動きのキレは上がっているため、余裕が持てる状況でもない。
(敵の狙いはおそらく、派手な現象を起こして魔法少女を引き寄せ、殲滅すること。
 あの光柱に仕掛けがあるとしたら、危険だな。とはいえ俺一人では突破もできない……まずは、耐えるしかないか)
 騒ぎを聞きつけ、街に散っているであろう者たちが集まってくる。羽純のその予想通り、上空から一人目、『魔法少女ジュエリー☆カレン』が舞い降りてくる。
「現れたな、魔法少女! この『百魔姫将キララ☆キメラ』が相手だ!」
 そこへ、姫星が槍を手に、不運にも巻き込まれた契約者を伴って襲いかかる。
「この先に怪奇現象を解く鍵があるんだ、邪魔はしないでよ!」
 カレンが杖に魔力を溜め、敵を粉砕する力として放つ。幾多の戦いを勝ち抜いてきたカレンにとって、特に名の明かされない契約者など敵ではない。
「我、築き上げるは炎熱の城砦!」
 さらには、魔法少女側に強力な援軍も現れる。現場に到着した博季が両脇に炎の壁を生み出し、多くの敵に対して襲撃される方向を限定する。それでも向かって来た敵――操られているであろう契約者――に対しては、まず敵の攻撃を的確に避け、拳と蹴りで隙を作り、そこに風の力を凝縮した一撃を見舞う。
「我、誘うは刃なる疾風!」
「ぎゃあ!」
 弾かれるようにして地面を転がった契約者は、がくり、と力尽き意識を失う。
「いっくよー! 火の魔法は得意なんだからね!」
 博季の傍ではリリーが、ママ譲りと称するべき炎の魔法で敵を翻弄する。ただ直接見舞うだけでなく、博季の炎の壁を突き抜けさせて見舞ったりと、流石炎の魔法に関してはなかなかのものだった。
「天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ! 悪を倒せと我等を呼ぶ!
 武闘派魔法少女ストライカー☆ルリ、参上なのだ!」

「我空翔鋼鉄ノ魔法少女也
 異色派魔法少女鉄姫美空推参」

……ちょっと待ておまえらー!
 瑠璃、その口上魔法少女じゃねぇからな!? 美空、おまえのだけテイストちがくねぇか!?
 ……はぁ……なんとなく分かってたことだけど、こいつらといるといつも以上に疲れる……」
 思えば、「魔法少女は名乗りが大切だと思うのだ。口上は我輩が考えておいたので大丈夫なのだ!」と自信満々にメモを渡してきた時に、このような事態になることは気付くべきだった。しかし、事態は既に動き出してしまっている。先に名乗りをあげた瑠璃と美空へ盛大にため息をついて、カレンも瑠璃から渡されたメモ通りに名乗りをあげる。
「ふりふり衣装に身を包み、正義の業火で悪を焦がす!
 正統派魔砲少女バーニング☆カレン参上!」


「「「三人合わせて、魔法少女隊アイダースリー!
 勇者に代わって、おしおきよ!」


(そこで我が家の名前出すのかよ! ……あいつら、あんなんで大丈夫なのか……?)
 三人揃ってあげた名乗りへ、なぶらが言葉に出さずツッコミを返す。大丈夫なのか、といえば――。
「くぅ……すやすや……んぅ……えへへぇ……」
(やっぱり、寝ちゃいましたねぇ。寝顔が可愛いです、ノルンちゃん♪)
 やはり5歳児、時折幸せそうな表情を浮かべながら寝息を立てるノルンをおんぶしながら、明日香は騒動の中心となっている光柱の下、見覚えのない人影に視線を向ける。
(……もしかしたら、とても単純な状況なのかも?)
 思うにあれが今回の黒幕で、彼女がきっと今回の事件について勝手に独白を始め、そして私はそれを目撃する、なんて展開が浮かんできてしまう。あぁでも、そうなったら自分は家政婦になってしまう、私はメイドであって家政婦じゃないのに、といった思いが一瞬浮かんだが、とりあえずなかったことにする。
「ちっ……思った以上にやるじゃない!」
 魔法少女と剣戟を交える姫星の表情が、急速に険しくなっていく。この場に集まった魔法少女(ではない者たちも含む)は、いずれも強者揃い。加えて数の差は今やひっくり返った以上、劣勢に立たされるのは自明の理でもあった。
「黒幕らしき人物がそこにいる以上、この映像は用済みであるが……まぁいい。撹乱させるには十分であろう」
 ジュレールの、カレンには『幽霊をおびき寄せるため』と言って作成した映像が、メモリープロジェクターを介して映し出される。
「ちょ、ちょっと! 私の真似しないでよ!」
「姫子様、どうされました――ぐはっ!」
 映し出された複数の白い影に、光の中心にいた人物が明らかに動揺した声を漏らす。その声に気を取られたのが運の尽き、奮戦虚しく姫星は魔法少女の攻撃を受けて吹き飛ばされる。
「あ、あれ? 羽純くん……えっと、私もしかして……」
「……気が付いたか、歌菜」
 眠りから覚めた歌菜が、羽純の腕の中で自分が操られ、羽純に矛先を向けていたことを知る。ごめん、と謝りつつも、歌菜は羽純から離れようとはしなかった。
「魔穂香さん、あそこッス! 他にたくさん、魔法少女もいるッスよ!」
「ちょっと遅れちゃったみたいね。事件の黒幕は……もしかして、あの子?」
 銃のような形をした箒から降り、肩に乗せた六兵衛と共に、魔穂香が光の中心を見据える。
 集結した魔法少女たちの視線を浴びて、光を収束させた少女、姫子は不敵に微笑んだ――。