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【黒髭海賊団】名も無き島の探索を

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【黒髭海賊団】名も無き島の探索を

リアクション

「何で俺まで借り出されるかな……」
「文句言わないの。きみも今や黒髭海賊団の一員でしょ」
 ブツブツと文句を告げるランスロット・オズバーンの、レッサーワイバーンに乗せてもらった小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は、島の周辺を調査していた。
 ホークアイを用いて、優れた視界で以って、ぐるりと一周回ってみるけれど、辺りに他の海賊船の姿は見えない。
 海の沖を行く船にも目を向けてみるけれど、それは只の貿易船のようであった。
 高度を上げてもらい、島全体を見回してみると、入り江が目に付いた。
 その中を良く良く見てみると、いくつかの船影がある。
「船長に報告しないとね!」
 美羽がそう告げていると、船の中から甲板へと幾人かの船員が現れた。
「居たぞ!」
「やっぱりな!」
 船員たちが声を上げ、指差した先は美羽たちの方向であった。
「気付かれたみたいですよ!」
「ランスロット、早く! 船長のところへ!」
 ベアトリーチェが指摘する中、美羽がランスロットに移動を促す。
 甲板に出てきた船員たちが、弓を構えて矢を射ってくるけれど、高度を上げているレッサーワイバーンのところまでは届かないようだ。
 それでも念のため、美羽はドラグーン・マスケットを構えて、応戦した。直接、船員を狙うのではなく、甲板などへ数発打ち込んで、牽制しておく。
「お嬢のところだな。しょうがねえ、向かってやるか」
 落とされるなよ、と告げてランスロットはレッサーワイバーンを急旋回させる。
 ジャングルの中を探検しているはずの船長――美緒たちを探して、木々のすれすれを飛び始めた。



 その頃、セフィーは、見つからないよう、物陰に身を隠しながら、その船の倉庫へと向かっていた。
 見つからず辿り着いた先で、海賊たちが貯えこんでいる財宝や食糧を物色して回る。けれども。
「……何をしている?」
 気配もなく、突然背後から声を掛けられた。
 背には、銃口を宛がわれているようだ。
「別に、なぁんにも」
 苦笑いをしつつ振り返ったセフィーの目に飛び込んできたのは、声を掛けた1人の男だけでなく、彼以外にも数人が周りを取り囲んでいたことだった。
(いつの間に――!?)
 驚きを隠せず動揺を見せると、銃口を向けたままの男は、口元で笑い、セフィーの腕を捻り上げる。
「痛っ!」
「何処の誰だか、吐いてもらうか」
 静かに告げる男の手から他の男の手へと、掴まれた腕を渡されて、セフィーは倉庫から連れ出された。



 船内でもリネンは、物陰に隠れ、戦闘を避けるように、内部を探っていく。
 この船の船員たちも島の調査にでも出ているのか、人影は少なく、やり過ごしやすい。
「何処に連れてくってんだ!」
 ふいに女性の声が聞こえた。
 そして、複数人の足音が聞こえて、リネンは通路の影に隠れる。
 傍を通り過ぎていくのは、セフィーと、複数の男たちであった。
「……答える必要はなかろう? そちらの部屋に入れてろ、私は自室に寄ってから行く」
 リーダーらしき男が答え、セフィーを捕らえている男たちに告げる。
 手前の部屋に入れるのを見届けてから、そのリーダーらしき男は1つ奥の部屋へと入った。
(……あそこがあの男の部屋みたいね。身元の分かるもの、何かあるかしら?)
 その様子を確認しつつ、リネンは小声で、外で待つヘイリーへと連絡を取った。
「リーダーらしき男の部屋に入るわ。何かあったら、お願いね」
『了解よ』
 数分の後、先ほどの男が部屋から出てきて、隣の部屋に入るのを確認したリネンは、そっと移動して、男の部屋へと入っていく。
 テーブルの上には、近辺の海域の地図が広げられ、書類が積み重なっている。
「ないわね……」
 書類に目を通してみるも近辺海域に浮かぶ島の調査内容ばかりで、相手を特定できるようなものは、なかなか見つからない。
「……素性がばれるようなものを一緒に置いておくわけがなかろう?」
 声を掛けられて振り返れば、先ほどの男が扉を開けて立っていた。
(この男、出来る――!?)
 書類に目を向けて、少し集中していたとはいえ、扉を開けて入ってきたことを気付かせないほどの、男の所作にリネンは思わず身を硬くした。
「ネズミは先ほどの女1人だと思ったが、他にも居たんだな」
 呟きながら近付いてくる男の脇をリネンは魔法的な力場を使って高速ダッシュですり抜ける。
「かかれっ!!」
 通路へと出たリネンに対し、男が声を掛ける。
 左右に伸びた通路を船員たちが取り囲み、リネンへと襲い掛かってきた。
 彼女は、素早くカナンの剣を抜き、襲い掛かってくる船員たちを一閃する。

「ヤバくなってきたわね。美緒たちに連絡! あたしはリネンを援護に向かう!」
 一方、外で待機していたヘイリーは、外から見える範囲で船内がざわつき出したのを見て、伝令官へと告げた。
 飛装兵を連れ、飛竜のデファイアントへと跨ると、リネンが潜り込んだ船へと向かう。
 飛竜に炎を吐かせ、甲板を燃え上がらせると危機を煽らせ、隙を作る。

「外がっ! 甲板が炎にっ!!」
 通路の向こう側から、1人の船員が走ってきた。
「窓があるなら、ここは壁1枚ね」
 その言葉に気が引かれた隙に、ぽつりと呟いたリネンは、窓から見える外の景色を確認すると、壁に向かって、飾り気のない小型拳銃の引鉄を引いた。弾丸が埋め込まれ、若干強度の落ちたところに向かって、反対の手で抜いたカナンの剣で、叩き斬る。
「なっ!?」
 一撃で壁が崩れて、人1人通れるほどの穴が開いた。



「吐かせたいなら、吐かせればいいじゃない。何したって、答えないけどね?」
「この女……ッ!」
 強気なセフィーに対し、取り囲んだ男たちの怒りが頂点に達した。
「こうなりゃ、その身体に直接聞いたろうじゃねえか!」
 男の1人が、セフィーの防具に手を掛けた。
 脱がそうと留め具へと手を伸ばしたところで、船体が大きく揺れる。
 部屋の扉が開いて、リーダーらしき男が入ってきた。
「もう1匹のネズミが逃げやがった……。それと、甲板に火を付けられた。穴も開いたことだし、この船は捨ててく。残りの2隻に分割して乗り込め! 直ぐに出発だ!」
「頭! こいつは!?」
 告げて、すぐさま引き返そうとする男に、周りを取り囲んでいた男たちが問いかける。
「そのままそこに繋いでおけ。そのうち火の手が回って、焼かれるだろ」
 それだけ告げると、今度こそ男はその場を立ち去った。
「捨て置くなら1発……とでも言いたいところだが、そんなことしてる間に炎に撒かれたくねえしな。行くぞ」
「ちょっ! こら、解いていきなっ!!」
 立ち去る男たちに向けて、セフィーが声を上げる。
 だが、足音が完全に遠ざかったのを確認すれば、彼女はニッと微笑んで、捕らわれていた手の縄を外すのであった。