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亡き城主のための叙事詩 前編

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亡き城主のための叙事詩 前編

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「パラディンは、炎や氷に比べ雷属性に対して有効な防御手段を持っていないはず。ならば、これで……!」

 黄色の魔法陣から発せられた雷が、意思を持ったように正義の従士に向けて飛翔。
 バチバチと鳴る轟音と共に雷は正義の従士の身体を灼く。真人は続けて透明の魔法陣を描き、息をつく暇も与えず歴戦の魔術を唱えた。
 雷に耐えた正義の従士に、無属性の魔法が炸裂。正義の従士は吹き飛び、地面に転がり、数回バウンドするが、すぐに立ち上がった。
 そして、バーストダッシュでセルファに向けて飛来する。セルファも同時に同じ技で正義の従士に向けて飛翔した。
 王者の剣と無骨な槍が交錯する。二人は鍔迫り合いを行いながら、睨みあう。

「キミの正義とは、その程度か……!?」
「まだまだ、こんなものじゃないわ……!」

 同じ種族、同じクラス。二人の力が拮抗し、意地と意地の張り合いとなる。
 やがて拮抗が崩れ、槍が弾かれる。心の力で勝ったのはセルファだった。

「真人!」
「ああ、一気に行きます!」

 セルファの呼びかけに呼応し、真人は禁じられた言葉を詠唱しながら、稲妻の札を抜き取った。
 空の霧が一瞬だけ晴れ、轟音と共に天から巨大な稲妻が落ちる。その稲妻を正義の従士は避けることが出来ず直撃した。
 しかし、まだ二人の攻撃は終わらない。巻き添えを食らわないよう飛び退いたセルファにすかさず、真人はパワーブレスで祝福を与えた。

「これが私たちの、全力の正義よ――!」

 セルファがバーストダッシュの加速を利用して、ランスバレストを放つ。
 タイミングを見計らい繰り出される息の合ったそのコンビネーションを、正義の従士は避けることができなかった。
 セルファの強力な推力を有した突進攻撃は、正義の従士の亀裂の入った鎧の各部を砕き、ジョワユーズの刃が身体を穿つ。
 そして、そのまま近くの刻命城の外壁まで押し切り、壁に正義の従士を縫い付けた

「……ッ!」

 正義の従士は身体を駆け巡る激痛に耐え、セルファを殴り飛ばそうと篭手を振り上げた。

「……動きを封じさせてもらうよ」

 鴉はそう呟くとバーストダッシュで一気に距離を詰め、二本のカットラスでその篭手をはさみ身動きを封じる。
 そして、鴉は素早く青の魔法陣を展開。放出された氷術の冷気が、正義の従士の篭手を凍らせ、外壁に固定した。
 と、同時。鴉とセルファが飛び退き、代わりに宙を舞いながら現れたのはアルティナ。
 聖剣ティルヴィング・レプリカの刃に刀身の二倍ほどの炎を纏わせ、動けなくなった正義の従士に放つのは全力の爆炎波。

「これで、決めます……」

 アルティナは炎の柱のような爆炎波を、重力の勢いを乗せて正義の従士に力一杯叩き込んだ。
 轟々と燃え盛る炎と刃が、正義の従士の身体を深く切り裂く。悲鳴をあげる暇さえなく、正義の従士は力無くその場に倒れこもうとした。が。

「まだ……まだ……私は、戦える……!」

 正義の従士は踏ん張り、槍を思い切り薙いだ。

「な――!?」

 予想外のその反撃にアルティナは直撃を受け吹っ飛ぶ。
 その隙に正義の従士はゆっくりと白の魔法陣を描き、魔力を込めて光り輝かせる。
 発動されたサクリファイスは、正義の従士の傷をみるみるうちに塞いでいく。
 正義の従士は倒れない。倒れない限り、魔法を使い、何度でも戦い続ける。

「……これで、多少は回復した。さあ……続けるぞ、侵入者」

 正義の従士は足元に魔法的な力場を展開し、弾丸の如き速度で低空飛翔。疲労した鴉とセルファに向かう、が。

「こっちだ、正義の従士」

 グラキエスは魔法陣を描き、アシッドミストを発動。酸の霧が正義の従士を包み、体力を削る。
 正義の従士は目標をグラキエスに変更。バーストダッシュで巧みにベクトルを制御し、グラキエスに飛来する。

「主、今すぐにお下がりください!」

 グラキエスが纏う魔鎧に変化したアウレウスがいち早く忠告を行う。
 以前、バーストダッシュの機動力で危うい目に遭ったので、同じ事が起こらないよう気を張ったゆえの行動だ。

「ああ、分かった。レリウス、頼む」
「了解した。グラキエスは俺が守ろう」

 グラキエスが後退すると同時に、逵龍丸を構えたレリウスが前へ出る。
 レリウスは自分の背後にいる者を守る護衛技術、ガードラインをフル活用。また、エンデュアと龍鱗化で自身の防御力も極限まで高める。
 グラキエスを危険から守るよう動き、鬼気迫る正義の従士の槍捌きを一人で受け止め、後ろに刃が届かないよう最大限の注意を払った。

 逵龍丸と槍の剣戟。けたたましく打ち鳴らされる音が、戦場に響く。
 油断など一瞬たりとも許されない打ち合いを行いながら、レリウスは厳しい口調で言い放った。

「その執念は敬服に値する。……が、あなたたちの目的は、俺が絶対に潰す」
「……やってみるがいい。私は私の正義を貫くまで。キミたちに邪魔はさせない」

 お互いの武器が弾かれ、間合いが開く。途端、正義の従士にグラキエスが放ったブリザードが襲いかかる。

「……ッ、このコンビネーション厄介だな」

 氷の嵐に晒され、正義の従士はそう呟きながらバーストダッシュで後退。
 逃げたさきに、グラキエスが今度は赤の魔法陣を展開しファイアストームを発動。
 氷と炎の温度差により、正義の従士の鎧を脆くなる。幾分か攻撃が通りやすくなった。

「回復を行う暇も与えず、一気にケリをつけてみせしょう」

 そして、正義の従士に追い打ちをかけるのは来栖。接近するやいな、歴戦の武術で立ち回り、肉弾戦に持ち込む。
 来栖の裂帛の気合がこもった拳打により、脆くなった鎧が剥がれていく。正義の従士は反撃を行おうと槍を振り上げる、が。
 シャープシューターとホークアイを併用し、二丁の拳銃を構えたクドが魔弾の射手で計八発の弾丸を武器に向けて集中射撃。
 槍の根元に向けて八発の銃弾が被弾する。思わず槍を手放してしまうのと同時に来栖は、ヴィストラで知覚不能の速さまで加速し、ヴラストにより強化された力で正義の従士を地面に片手で抑えつけた。

「これで終わりです。数多の武器の雨、あなたに耐え切れるでしょうか」

 来栖は意識を集中させ、虚影魔術を発動。それは心象の映像を現実に映し出す「虚」の魔術。
 来栖がイメージした無数の聖武器、魔武器は宙に創りだされ、一斉に正義の重視に向けて魔弾のように射出された。

「……!!」

 数多の武器の雨に貫かれ、正義の従士が声にならない悲鳴をあげる。

「おやおや、まだ生きていますか。大した生命力です。……ですが、これだけ消耗してれば他の人でもいけるでしょう。温存しておきたいのでね、私は一度戻ります」

 来栖はそう呟くとスカーレットネイルを用い、クドの影を切り裂いて、もう一度影の中へと消えていった。
 正義の従士はまだ動く手でゆっくりと白の魔法陣を描こうとした、が。

「そうはいくか」

 レリウスがそう呟き、片手で魔法陣を描く手を掴み、回復を阻止。

「少し、眠っていてもらうぞ」

 グラキエスが倒れている正義の従士に近づき、黒の魔法陣を展開。その身を蝕む妄執を発動。
 弱った精神と身体のまま、恐ろしい幻覚を見せられた正義の従士は、そのまま意識を失った。

 ――――――――――

 正義の従士が戦っていた戦場にはもう誰もおらず、傷口を綺麗に治療された気絶した正義の従士のみ寝かされていた。
 その治療を行ったのは正義の従士と戦った人物なのだろうか。それとも、剛毅の従士を救ったように愚者が行ったのだろうか。
 その真相は、彼女と戦った者しか知らない。