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仁義なき場所取り・二回戦

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仁義なき場所取り・二回戦

リアクション

「……演習は大丈夫だっただろうか」
「あーもう、まだそんなこと言ってる! 今日はオフ! だろ?」
 相変わらずきまじめなレリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)の言葉に、思わずハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)が嘆きの声を上げる。
 小暮から演習の話を聞いていたレリウスだったが、パートナーであるハイラルに半ば無理矢理、今日は休日だから演習とか無し! と言われ、演習に参加すること無く今に至る。
 ちなみに、今日のレリウスの格好は、いつもの軍服ではなく、ハイラルが見立てたモード系の洋服に身を包んでいる。
 厚手の布で作られている軍服とは違い、今日の服は生地が薄いためなんだか落ち着かない様子だ。
「しかし、やっぱり騒がしいなー」
 静かな方に行こうぜ、というレリウスに引っ張られるまま、ハイラルは北エリアまでやってきていた。
「あ、見ろよレリウス、なんかやってるぜ」
 と、ハイラルが野点のセットを発見した。何だろう何だろう、とひょいひょい歩いて行ってしまう。
「やあ、いらっしゃい」
 すると、丁度手持ちぶさたにしていたパトリックが二人を出迎えた。
「な、コレは何をしているんだ?」
「野点、と申します。桜の下で、お茶とお菓子を楽しむ会です。今日は桜餅をご用意しておりますので、よろしければ、お二人もどうぞ?」
「マジで? な、レリウス、折角だからごちそうになってこうぜ!」
「まったく……済みません、私のパートナーがご迷惑を」
「丁度お客様がいらっしゃらなくて、暇をして居たところです。どうぞ」
 笑顔のパトリックに促されて、二人は敷布の上に上がる。
「どうぞ、ゆっくり楽しんでらしてください」
 ののがにこりと笑って、桜餅を差し出した。
「……これがさくらもち、ですか……」
 すごい色だなぁ……というのが、レリウスの正直な感想だ。そう、どちらかというと、アメリカ辺りで作られていそうな、人工的な蛍光マゼンダ。
「おおっ、これが噂の桜餅か? すげえ、桜の葉っぱなのか、これ。食えるのかな」
「そんなに気になるなら、俺の分もどうぞ」
「え、マジ、良いのか? サンキュー、レリウス!」
 一方のハイラルは、何故そこまで興奮出来るのかと思うほどに桜餅一つでテンションが上がっている。
 その様子を見ていると、なんだか可笑しくなってくる。
「ぷっ……ははは……お菓子にそんなにはしゃぐなんて、子どもみたいですね」
 思わず、レリウスは吹き出した。
 その顔をみて、ハイラルは固まった。
「……笑った」
「え?」
「今、笑ったよな?」
「え……ええ、笑いましたけど」
「うおおおおおお、レリウスの笑った顔、初めて見たぞ!」
 ハイラルが、これ以上嬉しいことはない、という顔でぱあっと笑う。
「……そうでしたか」
「ああ、いっっっっつもぶっちょーづらばっかで、お前ちゃんと楽しいことあるのか、心配だったんだぞ!」
 ああ、良かった、とハイラルは感動に男泣きしそうな勢いだ。
「よかった、今日連れてきて、本当に良かった……」
 ハイラルのあまりの喜びっぷりに、レリウス本人はむしろ呆れてしまうくらいだ。しかし、こうしてハイラルが喜んでくれることに、悪い気はしない。

「……たまには、こういう日があっても良いかもしれませんね。たまに、なら」
 野点の席を後にして、ぽつりと呟いたレリウスの一言に、いよいよハイラルが男の涙を落としたとか、なんとか。 


「ののさん、今日はお招きありがとう」
 続いてやってきたのは、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)の二人だ。
 エースは挨拶と一緒に、ピンクの薔薇のプチブーケをののに向かい差し出した。
「あ、ありがとうございます」
 思わずののの頬が赤くなる。基本、美形に弱いののだ。
 敷布の上に案内されたエースとメシエに、桜餅が振る舞われる。
「ああそうだ、ののさん、これはお土産」
 桜餅を見て思い出したか、エースはごそごそと荷物から風呂敷包みを取り出して差し出す。
 中身は桜の塩漬けだ。
「本当は、みんなに桜茶でも振る舞おうかと思って作ってきたんだけど……今日は、お持て成しされる側だからね。出しゃばるのも、無粋かなって」
「まあ、わざわざありがとうございます。じゃあ、有りがたく頂きますね」
 ふふ、と笑って、ののは二人のために抹茶の支度を始める。
 その間エースは、桜餅を頂きながら頭上を見上げ、美しい桜の花を楽しんでいた。
「今年も綺麗な君たちを見れて、とても嬉しいよ」
 まるで恋人に語りかけるような甘い口調で、優しく語りかける。
「桜はなにも無い所に花が咲くから、命の象徴とも言われていて、日本では花を代表する存在と言っても良い。薔薇の仲間だから、八重咲きもとても美しくて……」
 エースはつらつらと、隣に座るメシエに向かって桜の蘊蓄を語る。
 しかし、聞かされているメシエの方はあまり乗り気では無いようで、ふぅん、と気のない相づちが帰ってくる。
「それにしても、本当に恋人のように花を褒めるね。妬けるよ、それだけ讃えると」
 苦笑混じりにメシエがぼやくと、エースはハッと我に返ったようで、
「実際、好きなんだから、仕方ないじゃん……」
と肩を落とした。
「さあ、お抹茶をどうぞ」
 丁度その時、二人の前にお茶が運ばれてきた。
 二人は頂きます、とかしこまって椀に手を伸ばす。
「ああ、そういえば桜酒を持ってきていたね。飲まないのかい?」
「そうだなあ、流石にここで頂くわけにはね……あ、いや、待てよ、酔わせて、また血を吸ったりそれ以上の事するのは、駄目だぞ」
 これでメシエの口車に乗ってしまっては、いい加減同じような事案三度目だ。エースだって学習している。
 ぴしゃりと釘を刺してくるエースに対して、メシエはやれやれと首を振る。
「君がそうやって拒むから、入院までする羽目になったんだがね……」
 悲観的な調子でメシエがそう言うと、エースはぐっと言葉に詰まる。
 確かに、血を与える約束はして居るのだから、約束不履行になるのも気が引ける。
「だって、昼間だし。公衆の面前だ」
 しかしエースとしても、そこは譲れない。何しろメシエときたら、多少人目の少ないところを選びはするものの、屋外だろうが公共の場だろうがお構いなしなのだ。いたたまれない。
「じゃあ、夜で、他の目が無いなら良い訳だ」
 メシエの目がすぅっと細くなる。
 エースがう、と身構えるのにはお構いなしで、メシエはエースの顎にひょい、と指を掛けた。
「今夜は、君の部屋で夜桜を見ようか……」
 くすり、と微笑むと、エースの頬がぽっと染まる。
(ののが、デジカメを持って居ないことを心から悔やんでいるのは、彼女だけの秘密。)
「……だから、公衆の面前でそういうことをするな、って言っている」
「つれない」
 やれやれ、とメシエは肩を竦めながら、しかしこれ以上押しては逆効果、と手を引っ込める。
「……夜に、だぞ」
 しかし、エースがメシエにも聞こえるか聞こえないかの小さな声でぼそり、と呟いたのは、聞き逃さなかった。