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イコン博覧会2

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イコン博覧会2
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リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「くんくん……、マッドな匂いがします……」
 何かに惹かれるようにして、ベネティア・ヴィルトコーゲルが個人ブースの一画にふらふらと引き寄せられてきた。
「こ、これはイーグリットのイコプラとダイノボーグ!?」
 ブースの左右に立つコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)を見てベネティア・ヴィルトコーゲルがちょっと絶句した。
『ガオォォォォォン!!(違うもん、恐竜型の魔鎧だもん!)』
「うるさいわよ、ドラゴランダー。静かにしていないと解体するわよ
 抗議の声をあげる龍心機ドラゴランダーを、高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)がぴしゃりと黙らせた。
『ガオォォォォォン!!(やってられるかぁ!)』
「ああ、ちょっと、ドラゴランダー、どこに行くのよ……」
 泣きながら走り去っていく龍心機ドラゴランダーを見て、キャンギャル姿ラブ・リトル(らぶ・りとる)が呼び止めようとした。だが、龍心機ドラゴランダーの方は聞く耳持たない。ラブ・リトルの方も、短いスカートが気になって、それ以上追いかけられなかった。
「もう、仕方ないわね。お仕置きは後でするとして、無駄かもしれないけど、残った二人、ちゃんと呼び込みしなさいよ」
「やってるわよ」
 高天原鈿女に言われて、ラブ・リトルがしきりに身体をくねらせたり、お尻を突き出したりして扇情的なポーズで観客を呼び込もうとしてした。
「よくできていますねー」
 ところが、ベネティア・ヴィルトコーゲルを始めとする通行人は、ラブ・リトルなど見むきもせずに、コア・ハーティオンのボディをぺたぺたと叩いて感心している。どうも、イコンの小型模型と勘違いされているようだ。そのため、コア・ハーティオンも今さら動いてしゃべりだせなくなってじっとしている。
「仕方ないわね。では、プラヴァー・ステルスの説明を始めます」
 資料をかかえた高天原鈿女が、龍帝機キングドラグーンの前で声をあげた。
 はっきり言って、見た目は蠍型にも見える黄金龍のイコンだ。変形合体で龍心機ドラゴランダーとコア・ハーティオンが合体した龍心合体ドラゴ・ハーティオンを被ってグレート・ドラゴハーティオンになれるというふれこみだった。だが、その変形があまりに早いために、しっかりと過程を見た者はほとんどいない。
 この龍帝機キングドラグーンはプラヴァー・ステルスをベースとして開発されたため、呼び出されたときに虚空から突然現れて合体することとなっている。
 高天原鈿女としては、この龍帝機キングドラグーンをサンプルとして蒼空学園のブースでプラヴァー・ステルスの説明をしようとしていたのだが、蒼空学園側から、こんなのがプラヴァー・ステルスと勘違いされたらたまらないと言う理由で個人ブースへと追い出されてしまっていた。もっとも、裏で、誰かが暗躍していたという噂もあるのだが……。
「ここにあるプラヴァー・ステルスですが……」
 高天原鈿女のその言葉に、すでに蒼空学園のブースを見てきた者たちからざわざわとざわめきがあがった。やはり、どう見ても、とてもプラヴァー・ステルスには見えないようだ。
「汎用機プラヴァーをベースとしていながら、ジェファルコンにも匹敵する性能を持っています。さらに、特記すべきは遮蔽装置です」
 高天原鈿女に合図されて、ラブ・リトルがよいしょっと龍帝機キングドラグーンのコックピットに潜り込んで遮蔽装置のスイッチを入れた。ブーンという軽い唸りと共に龍帝機キングドラグーンの姿が透明となる。
 おおーっと観客たちから歓声があがった。
「この龍帝機キングドラグーンは、そのプラヴァー・ステルスの性能をさらに高めたもので、プラヴァー・ステルスがもともと持っている発展性の高さを示していると言えます……」
 満足そうに高天原鈿女が続けたときであった。
「ふははははは、それではまだ不完全だ!!」
 突然の高笑いと共に、黒ずくめの男がそばの大地に降り立った。よく見ると、後ろで黒子の親衛隊員たちがワイヤーを引っぱっている。もちろん、中身はドクター・ハデス(どくたー・はです)である。
「ククク、見るがいい! これぞ、我らオリュンポスが誇る究極兵器、イコン用の最強武器として開発された神剣エクス・カリバーンだ!」
 ドクター・ハデスが言うと、高空から神剣勇者エクス・カリバーンが勢いよく降下してきた。ズンと、龍帝機キングドラグーンのそばに着地する。
「その機体は……」
 見覚えのあるイコンに高天原鈿女がちょっと絶句する。龍帝機キングドラグーンとともに開発されていた龍心合体ドラゴ・ハーティオン用のパワーアップ装備だったはずの機体ではないか。研究所から盗まれたと聞いてはいたのだが……。
「ということは、あなた御雷じゃないでしょうね……」
 ギロリと、高天原鈿女がドクター・ハデスを睨みつけた。
「な、何を言う。俺は、ドクター・ハ……、魔王クロノスである!」
 ドクター・ハデスが言いはった。
「とにかく、我が秘密兵器をとくとその目に焼きつけるがいい。ゆけ、聖剣勇者 カリバーン(せいけんゆうしゃ・かりばーん)よ!」
 これだけ派手にお披露目してしまっては、肝心なときに秘密ではなくなると思うのだが、どちらかと言うと秘密にしているのが我慢できなくなって見せびらかしたくなったというところなのだろう。
「おう!」
 ドクター・ハデスに呼ばれて聖剣勇者カリバーンが進み出た。見た目機晶姫かロボットだが、れっきとした剣の花嫁である。
「神剣合体!」
 またも、黒子の親衛隊員たちが一生懸命ワイヤーを引っぱる。聖剣勇者カリバーンの姿が変わりつつ空に舞った。とはいえ、変形できるわけではないので、背中に背負ったアーマーを回転させて自身が剣の柄状になり、頭の上に光条兵器を発現させて巨大な剣の姿になったように見せかけたものだ。本人が変形しているわけではないが、外装の追加ギミックがよくできているので本当に形が変わったように見える。
 同時に、空中にジャンプしたイコンの神剣勇者エクス・カリバーンが変形して神剣エクス・カリバーン形態になった。見た目は、巨大なイコン用の剣だ。その柄に聖剣勇者カリバーンが足から突っ込んで半身まで収納されていく。突き出ている青白くのびた光条をせり上がったカバーがつつみ、その部分が巨大な剣の輝く柄頭となった。
 そのまま空中で180度回転すると、落下してきた神剣エクス・カリバーンが深々と大地に突き刺さった。
『さあ、勇者たちよ! この俺を抜いてみるがいい!』
 聖剣勇者カリバーンが叫んだ。
「それは、正義に対する挑戦か。よろしい、受けてたと……、ああああ、ドラゴランダーがいない!」
 挑発に乗ろうとしたコア・ハーティオンだったが、肝心の龍心機ドラゴランダーの姿がなく、イコンと一体になることができなかった。
「ちょっと待っているのだ、今、相棒を探しに行ってくる」
「あっ、こら、ハーティオン、あんなのにつきあう必要はな……」
 高天原鈿女が止めるのも聞かず、コア・ハーティオンが走りだしていった。
「ふははは、勝った!」
 いや、何に勝ったのか分からぬまま、ドクター・ハデスが高笑いをあげる。
「えいっ」
 そのとき、龍帝機キングドラグーンに乗っていたラブ・リトルが、神剣エクス・カリバーンをちょんと押した。あっけなくバランスを崩した神剣エクス・カリバーンが、ドクター・ハデスの方へと倒れていく。
「ははははは……はっ!? うおおお、聖剣勇者カリバーン、ちゃんと立っていろ……うわあああ!」
 支え持つ持ち主がいなければ、大剣もただの棒である。
 地響きをあげて倒れた神剣エクス・カリバーンに、周囲の人々がドクター・ハデスも含めて蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
 
    ★    ★    ★
 
「さあ、貴様ら、目の玉ひんむいてよく見ていきやがれ。これこそが、内緒で開発されていたパラ実の第二世代イコンだぜ!」
 ソードウイング/Fの前で、ヴェルデ・グラント(う゛ぇるで・ぐらんと)が叫んでいた。
 パラ実の次世代イコンと言えば量産型饕餮になるわけであるが、完全な第二世代イコンは存在しないはずである。
 ブラウンの機体は、パラ実イコンの特徴である巨大な頭部のような胴体から四肢が突き出ている。そのシルエットからは、確かに喪悲漢などの直系の後継機のようにも見える。
 喪悲漢よりも二回りは大きい機体は、それだけで圧巻ではある。均整のとれた機体よりも、敵を威圧するには効果的であろう。元となったのはあろうことかフィーニクスのようである。
「これは強そうかも……」
 神剣エクス・カリバーンの倒壊から逃げてきたベネティア・ヴィルトコーゲルが、興味深そうにソードウイング/Fを見つめた。
「これが、本当に第二世代機?」
 さすがににわかには信じられずに、笠置 生駒(かさぎ・いこま)が、キャンギャルからもらったパンフレットを読み返してみる。
「見た目と違って、こいつは空も飛べる。さらーに、変形も可能だが、それはまだひ・み・つだ」
 実は、まだ変形機能が完成してはいない。なにしろ、変形するとベースモデルであったフィーニクスに近いプロボーションに変わるのだが、変形が複雑すぎて、現状ではカチャカチャとあちこちのパーツが複雑に動いて変形完了まで一時間かかるのである。
 とりあえず、動かさないので未完成はばれはしないと、ヴェルデ・グラントは自信満々だ。ここで人気が出れば、本気でパラ実の第二世代機として正式採用されるかもしれないではないか。えっへん。
「パンフでーす。見てって欲しいのだー」
 雇われキャンギャルのドラゴニュートの娘が、一生懸命パンフレットを配っていた。どことなく大人びた姐御だ。
 黒いビキニにエプロンを捲きスカート状に斜めに腰につけ、その上からは黒い紗のマントを羽織っている。豪奢な鬣状の紫の髪が背中へと流れ、頭の上には金のリボンのついたミニシルクハットを載せていた。
「それで、バイト代はちゃんと出るのだろうな」
 娘が、ヴェルデ・グランに念を押した。
「出すって言ってんだろ」
 ヴェルデ・グラントが生返事をした。どうもちょっと怪しい。
「ふん。嘘だったら、壊すからな」
 そう言って、娘がソードウイング/Fを見あげた。