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イコン博覧会2

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イコン博覧会2
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リアクション

 

シャンバラ王国ブース

 
 
 各学校にとらわれない汎用イコンのブースは、前回とは大きく様変わりしていた。
 イーグリットの廉価版量産機として製造されていたクェイルと、ゴーストイコンとして大陸を騒がしていたイコンのベースとなった機体を鹵獲し改修したセンチネルはその役目を終え、現在では製造が中止となっている。
 代わりに一般に配備されているのがプラヴァーであり、これは第二世代機に属していた。
「これらプラヴァーは、他のイコンに見られないような高い汎用性を目指して開発されたんだよ」
 ずらりとならんだ各種プラヴァーを前にして、メイド服ふうのブース制服を着た小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が説明をしていた。
「プラヴァーの最大の特徴としては、第二世代機であるのにもかかわらず、高い汎用性を持っていることにあるんだよ。本当なら、ものすっごく訓練しないと第二世代機のパイロットってなれないんだけど、このプラヴァーはパイロットサポートシステムがあるから、初心者でも動かすことは可能なんだよ」
 熱くプラヴァーについて説明する小鳥遊美羽のそばでは、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)ローゼンクライネと一緒にパンフレットを配っていた。
「わーい、ありがとーですわ」
 よく分からないけれど何かもらったのでユーリカ・アスゲージが喜んだ。
「パンフレットですね。ボクにも見せてください」
 小鳥遊美羽の説明を聞きながら、非不未予異無亡病近遠がパンフレットをのぞき込んだ。
 そのパンフレットには、プラヴァーの各種タイプが写真入りで載っていた。もっとも、実機が目の前にあるのだから、今はそちらを見た方が早いわけだが。
 プラヴァーには、デフォルトタイプと、その他に四つのバリエーションがある。ただし、現在ここに展示されているのは四タイプのみだ。
 デフォルトタイプは全てのプラヴァーの基本形であり、特殊な機能を持たない代わりに、それによるデメリットも生じないため、比較的操作が簡単だというメリットがある。人形としては、大きく張り出した肩に小型の頭部というシルエットが特徴となっている。移動タイプは、地上と空中だ。
 
 肩から背部にかけてがハードポイントとなっており、そこに高出力ブースターを搭載した物が高機動パック仕様と呼ばれる物だ。
 本来であればオプションを換装することで高い汎用性を持たせるべきであろうが、性能を極端に変化させることができる反面、それに付随するコントロール系の変更が大きく、実際には仕様によってまったく別の機体となってしまっていた。だが、基本部品は共通であるため、量産性・メンテナンス性を考えれば、まさに汎用機という名を冠するにふさわしいイコンとなっている。
 プラヴァー高機動パック仕様は、追加ブースターによる高速移動が可能となっている。高い機動力を得ると同時に、この追加パックは水中移動能力も有しているため、活動範囲が増加している。戦術は、ヒットアンドアウエイがによる格闘戦が基本となる。
 
 プラヴァー重火力パック仕様は、大型キャノンをマウントした機体である。その加重から機動力は落ちてしまっているが、キャノン自体のジェネレーターが利用できるため、出力が高い。遠距離からの支援に主眼がおかれた機体である。
 
 プラヴァーマジック仕様は、魔法戦闘に主眼をおいた機体である。主に中近距離用の機体で、魔法防御に優れている。
 
 さらにもう一タイプ存在するのだが、それはここには展示されていなかった。
 
「うむ。似て非なるイコンか。描き分け甲斐があるな」
 原稿用紙を手に、新型イコンをスケッチして回っている土方 歳三(ひじかた・としぞう)が、興味深そうにならんだ同型のイコンを見比べた。
「それでは、誰か、乗ってみたい人いますかー」
 なんだかヒーローショーのお姉さんの乗りで、小鳥遊美羽が観客たちに呼びかけた。
 土方歳三はスケッチに夢中で、元から興味のないイグナ・スプリントとアルティア・シールアムは知らん顔だ。ユーリカ・アスゲージがどうしようかと非不未予異無亡病近遠の顔色をうかがっていると、誰かが手を挙げた。
「はーい、はーい」
「じゃ、そこのちっこい子」
 小鳥遊美羽が、彩音・サテライトを指さす。
「えっ、えっ? ちょ、ちょっと……」
 綺雲菜織が止める間もあらばこそ、彩音・サテライトがふわふわと浮いてプラヴァー・デフォルトのコックピットに入っていった。
「分かりますか?」
 すでにコックピット内で待ち構えていたコハク・ソーロッドが、パイロットシートに座った彩音・サテライトに訊ねた。下に待機して、上を見あげることがなかったのが幸いだ。
「こんな感じ?」
 ハッチが開放された状態のプラヴァーのコックピットの中で、彩音・サテライトがコントロールレバーを引いた。それに合わせて、プラヴァーが左手を挙げる。
「うん、上手だよ」
 初めてにしては慣れているなと、コハク・ソーロッドが彩音・サテライトを褒めた。
 そこへ、水鏡 和葉(みかがみ・かずは)たちが近づいてくる。
「大丈夫ですか。ここは人が多いですね」
 小鳥遊美羽の説明を聞きに集まっている人混みから須藤 香住(すどう・かすみ)を守りながら、神楽坂 緋翠(かぐらざか・ひすい)が言った。
「そ、そうですね……」
 須藤香住が、ちょっと小走り気味に神楽坂緋翠のすぐ後ろをついていく。
「うんうん、いい感じだね。さすがは、ボクに朱音ちゃんと手を繋いで歩けと強制したことだけはあるよ。うん」
 言われた通りに 祠堂 朱音(しどう・あかね)の手を握って、二人からちょっと距離をおいて歩く水鏡和葉がしきりにうなずいた。今日は祠堂朱音と共に、神楽坂緋翠と須藤香住の進展を見守る役どころである。
「演舞って、どこでやっているのかなあ」
「多分こっちだよ。ボクがエスコートするから任せて」
 あてずっぽうの方向を指で差しながら、水鏡和葉が言った。
「あれ、あの動きって、ちょっと興味深いかも」
 祠堂朱音が足を止めて、プラヴァーの動きに注目した。
「このように、プラヴァーであれば、まったくの初心者でも、一人で動かすことは可能となるわけで……」
 下では、小鳥遊美羽が、自慢げに説明を続けている。
「わーい、なんだかおもしろーい」
「ちょ、ちょっと、そんなに急に動かしちゃ……」
 調子に乗ってレバーを左右に振る彩音・サテライトに、コハク・ソーロッドが焦った。だが、すでに遅い。プラヴァーの腕が勢いよく横に振られて、隣に立っていたプラヴァー高機動パック仕様を軽くこづいた。誰かが乗っていれば問題はなかったのだが、こちらは無人である。衝撃でバランスを崩したプラヴァー高機動パック仕様が、隣に立っていたプラヴァー重火力パック仕様に倒れかかっていった。このままでは、イコンが将棋倒しになって大惨事だ。
「コハク、なんとかして!」
「やってます……」
 小鳥遊美羽の悲鳴に、あわててサブパイロット席に飛び込んだコハク・ソーロッドが、デフォルトタイプを操作して、倒れかけた高機動パック仕様を掴んで止めようとした。だが、それでも、残る二機が倒れていく。
「まずくない? 逃げよ」
 水鏡和葉が、祠堂朱音に声をかけた。このままでは凄くやばそうだ。
「翡翠たちは?」
 水鏡和葉が、パートナーたちの方を振り返った。
「こっちです!」
 神楽坂翡翠が、素早く須藤香住の手を掴んで走りだしている。これは、予想外にいい展開だ。
「は、はい」
 ぎゅっと力強く手を握りしめられ、須藤香住が走った。そのまま、その手をずっと離さずに二人は走り続けた。
「早くこっちへ!」
 イグナ・スプリントが非不未予異無亡病近遠たちを避難誘導する。
「おお、なんという臨場感。これを描かずしてなんとする」
 周囲の人々があわてて逃げだす中、土方歳三だけが動じずにスケッチを続けていた。
「私のプラヴァーが、壊れちゃう!」
 いつ小鳥遊美羽の物になったのかは謎だが、このままではプラヴァー二機が損壊は必至だ。修理代を考えて、小鳥遊美羽が青くなった。
『よいせっ!! ま、間にあった……』
 あわやというところで、別のイコンの手が倒れかかったプラヴァーを支えて元の位置に戻した。
 あわてて駆けつけた有栖川美幸の乗った不知火・弐型だ。彩音・サテライトがイコンに乗った瞬間に、嫌な予感がした綺雲菜織がとっさに呼び寄せたのが幸いした。
「綾音さん、こっちに来なさい!」
「はーい」
 不知火・弐型のコックピットハッチを開いた有栖川美幸に呼ばれて、彩音・サテライトがイコンを飛び移っていった。
「じゃ、お騒がせしました」
 彩音・サテライトを回収すると、有栖川美幸はあわててその場から逃げ去っていった。