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早苗月のエメラルド

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早苗月のエメラルド
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The Castle of Sand-1


 掘り進め、掘り進め、キタ! と思った所で手をぐっと伸ばすと、向う側に突き破った穴が出来る。
 久遠 青夜(くおん・せいや)がグーパーグーパー手を動かして満足そうに引き抜くと、
 そこに空いた穴は城の真ん中に位置しているのが分かった。
 どういう訳か分からないが、青夜は砂浜に砂の城を作り続けている。
 サンドアートの中々の出来栄えに、皆は関心して見ていたが、
 青夜がヘッドライト付きヘルメットまで取り出して作業を続けていた頃には、皆飽きて何処かへ行ってしまった。
 そういう訳でそこに残されたのはたった一人。
 青夜と同じく御宮 裕樹のパートナーの麻奈 海月(あさな・みつき)だけなのだった。
 犠牲者と言ってもいい。
 何故なら青夜は変わりものだから。
 人を形容する言葉をこれだけで終わらせていいのかとも思うが、これしか言いようがないのだ。
 つまり青夜と一緒に過ごすのは、少々……
「あっ海っちゃん、それ取ってくれる?」
「……これですか?」
「そーそーそれー!」
 どうぞ、と手渡した海月は密かに思っていた。
 ――楽しいけど青夜さんテンション高くて……
「……はぁ」


 そんな彼女達のパートナーの裕樹は、五百蔵 東雲と共に皆が集めた食材を広げていた。
「で。集めて貰った食材と燃料が」
「これで全部だね」
 裕樹と東雲はチェックを始める。
 まず始めに裕樹が手に取……ろうとして取らなかったもの、
「肉」
 大地やレキが追いかけられた目玉イノシシだ。
「正直グロいね」
 と東雲が言うが、目玉の気持ち悪さを抜かせば一応イノシシに見えない事も無いし、と裕樹はスルーする。
 次に裕樹が手に取……ろうとして取れなかったもの、
「魚」
 釣り師またたび 明日風が、武尊や貴仁の協力の元釣り上げた所謂”主”は、約5メートルはありそうなチョウザメに似た魚だ。
「とんでもなくデカいね」
 と東雲が言うが、味は見た目から問題無さそうだと判断し、裕樹はスルーする。 
 次にやっと裕樹が手に取ったのは
「野菜」
「……と言っていいのか分からないけれど」
 パイナップルの葉の部分に葡萄を合体させたような見た目に、裕樹はもはや何を言ったらいいのか分からない。
 彼等の横に最後のフルーツを下ろしながら、無限 大吾が溜息混じりに言う所いよると
「南国みたいな島だからバナナかマンゴーでもあると思ったんだけどね」
 彼が永夜達と島を回って見つけたのはこのパイナップルグレープや、香りや色だけはマンゴーだったが明らかに怪しい汁を滴らせている果物。
 希望していたバナナは剥いても剥いても果実は出てこないし、最後に見つけたのは起爆手前みたいな音をたてているライチに似た怪しい果物だった。
 そんな中で選ぶとしたらパイナップルマンゴーが一番マシだったのだ。
 取り敢えず全部食べられはするのだろうと思う事にして、裕樹は東雲に言った。
「これだけあれば大体一食には十分だな。
 味付けはどうしよう」
「魚は海水で塩分が、あったりしないかな……」
「そこは匿名 某さんが準備してたから大丈夫そうですよ」
 声に振り向いた裕樹と東雲は小さく吹き出した。
 立っていたのは封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)の、樹月 刀真(きづき・とうま)のパートナーコンビなのだが、
彼女達の服装はというと、月夜は爽やかな青のビキニ、白花は背中が大きくカットされたホルターネックの白いワンピース水着を着ていたのだ。
 海で遊んでいた所、そろそろ料理が始められる時間だろうと戻ってきていたのだ。
 月夜は可愛らしい中にも何処かセクシーさを忍ばせていたし、白花のボリュームのある胸元には男ならずとも目を奪われるものが有る。
 そこに居る男達は、美しい二人の姿に動揺を隠せず目を逸らしていた。
 因みに彼女達が一番動揺して欲しい相手は、何時も通りの反応だったが、
 まあ、こんな状況でなければどのように反応したか定かでは無い。
「そ、そうなんだ、じゃあ安心して料理に取りかかろうか」

「シロ、お魚出して。シロ?」
 東雲が相棒のンガイ・ウッドを呼んでみるが返事が無い。
 何処に行ったのかと思っていた矢先、雅羅の声が東雲の耳をつんざいた。
「きゃあああ猫ちゃんがお魚くわえてるー!」
「お魚くわえたどら猫なんて風流ですわ」
「本当ですわ」
 チェルシーと美麗が感心する中、周囲を囲む少女達は「超可愛い超可愛い!」とそれしか言う事ないのか位の勢いで同じ言葉を繰り返している。
 ンガイの方はといえば何処か不満げで、
「猫ではない! 我は今流行のポータラカ人であって……」
 等と口にしているものの、その声は「喋ってるー超可愛い」の声にかき消された居た。
 大体女なんて流行に乗せられやすいものなのだから、逆効果だ。
「妬ましい、その女子人気が妬ましいでネコ……」
 妬み隊隊長こと瀬山 裕輝がその様子を遠くから見ていた。
「にゃんにゃんにゃんにゃん」
 ジゼルと柚が手を出すと、ンガイも「にゃんにゃんにゃん」と鳴きながら尻尾を絡めて懐いている。
 ノリのいい奴だった。
「って聞いておるのか!」
 憤慨しているのは台詞だけ、ンガイは少女達に腹を差し出していた。
「おなかプニプニしてるーっ」
「きゃー肉球まふまふーっ」
 この日何度目だ、な、超可愛いが出た所で、ンガイは勝ち誇った顔――とは言っても猫なのでよくわかりません――で、不敵に笑った。
「ふふふ。
 その肉球で、その獣の手で採取された餌を食えると言うならば食ってみるが良い!
 ふははははは」
「……シロ」
 冷めた視線と声が、少女達の間を割って落ちてくる。ンガイのパートナー、東雲がそこに立っていた。
「はは……は……どうした我がエージェントよ。そんな顔をして……」
「…………」
「待って待って、そんな目で見ないで! 冗談だから!
 ちょっとした冗談だから!」


 後ろで行われている騒ぎも気にせず、裕樹は作業を続けている。
「取り敢えず燃料だな。

 爆薬から取り出した固形燃料を……」
「あ、あの、火術なら任せて下さい」
 申し出たのはリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)だ。
 頼りなげな声とは違い、魔法の方は正確かつ強力だ。
 燃料に燃え移った炎はごうと音を立てて、大きなものになっていく。
 そこへトゥマス・ウォルフガング(とぅます・うぉるふがんぐ)が準備していた木を入れていった。 
「ちょっとしたキャンプファイヤーみたいね」
 セリーナ・ペクテイリス(せりーな・ぺくていりす)はパートナーが作った炎がどんどん勢いを増していく様を、笑顔でみている。
 元々自然の中で暮らしていたカルキノス・シュトロエンデは生き生きとしながら「あ、お前ら焚き火するなら生木は燃え難いから気をつけてな」と皆に注意していた。
「じゃあ早速インベイシアが仕留めてくれた肉を捌くか。
 トゥマス、頼む」
 裕樹の声に、トゥマスは待ってました、とばかりにビームライフルを持ち上げた。
 肉を調達したインベイシア・ラストカードが期待の眼差しで見つめる中、トゥマスはビームライフルをぶんぶんと振り回す。
「ヒャッハー! 獣は解体だー!!」
 白星 切札は笑顔のまま閉口し、隣に座る義娘のカルテの目を覆った。
「ママー見えないー」
「いいからね、ちょっと我慢してなさい」
「スプラッタ酷い!!」
「血が飛び散ってる!!」
 女子連中が逃げ惑う中、「これは……ちょっと……」と、ロイメラ・シャノン・エニーアは口元を抑え、もはや倒れてしまいそうだ。 
「っぶねー!! 濡れるわ!」
 余りの惨状に、肉を取りに来た大谷地 康之も遠くへ逃げてしまった。

「もうちょっと離れてよ海ちゃん、血とかドブシャーってなってるから」
 未だ城を作り続けている黙々と青夜の言葉に、 海月は頷いてその場から離れて行った。

 海岸にはもう日の光は消え、夜の暗闇が彼等を包んでいた。