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亡き城主のための叙事詩 後編

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亡き城主のための叙事詩 後編

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 フローラの魔剣による出鱈目な斬撃と切の抜刀術による神速の刃が衝突。
 魔剣と一刀七刃は悲鳴をあげ、火花を咲かし、弾かれる。
 そして怯んだ彼女の懐に潜り込んだのはフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)だ。

「すみません。お二方とマスターのために、倒させていただきます」

 フレンディスは鞘から忍刀・霞月と忍刀・影法師を抜き取り、がら空きになったフローラの胴体へ奔らせた。
 二つの刃が彼女の身体を切り裂く。傷口から鮮血が舞い、フレンディスの顔に付着。
 フローラは身体が切り裂かれたことなど、微塵も気にせず魔剣を振り上げる。

「……ぁぁあああ!」

 獣のような咆哮と裂帛の気合と共に魔の刃が振り下ろされた。
 フレンディスは素早く横に飛び、これを回避。
 フローラの周りに誰もいなくなるのを確認すると、ベルクが闇色の魔法陣を展開、エンドレス・ナイトメアを発動。
 頭痛、吐き気、不安などの負の力をもった大量の闇黒が彼女に迫る。

「陰府の毒杯!」

 フローラはすぐさま漆黒の魔法陣を展開。
 おぞましい邪気を大量の闇黒と衝突させ、相殺。闇黒と邪気が霧散して、黒い霧のようなものになった。

「――さて、終わらせますよ」

 朱鷺はその黒い霧のなかを突破。
 鬼祓いの薙刀に武器の聖化で聖なる気を纏わせ、英雄の如き洗練された一閃をフローラに放った。

「……!」

 フローラの口から声にもならない悲鳴があがる。
 朱鷺の一閃により切り裂かれた傷は深い。しかし、彼女は倒れない。

「邪魔、するなぁぁああ!」

 フローラは力を振り絞り、漆黒の魔法陣を複数展開。
 魔力を込めて漆黒の光を放つそれは、一斉に陰府の毒杯を発動。
 未曾有の量のおぞましい邪気が、四人を襲い吹き飛ばした。

「はぁ……はぁ……!」

 フローラの口から荒い息がもれる。
 そこに素早く無銘を抜刀しながら飛び込んできたのは、桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)だ。

「フローラ、俺達は似た者同士なのかもしれない」

 煉は何者も寄せ付けない修羅の闘気を纏い、アナイアレーションで斬りかかる。
 ラヴェイジャーの極みの剣技をフローラは魔剣で受け止め、両者は鍔迫り合いを行った。

「俺は君のことが理解できる。だから……渡せ、その魔剣を」
「ふざけるな……!」

 両者が渾身の力で互いの武器を弾く。
 そして間合いを保ったまま、同時に飛燕の速度を超えた一閃を放った。
 目が眩むほどの火花と鼓膜が破れそうになるほどの金属音が発生。

(彼女の太刀筋はこんな無様じゃなかった。
 速くそして鋭く、斬られた相手すらも魅了する技。
 何故彼女が死んで俺が生きている? あの時死ぬのは俺だったはずだ)

 互いの武器がもう一度弾かれ、煉は素早く無銘を打ち下ろす。
 がむしゃらに振ったその一撃は、フローラに避けられ、致命的な隙を生み出した。
 彼女はその隙に魔剣を煉に向けて奔らせる。それは、今の煉には回避のしようのない剣閃。

(これは、避けれないな……)

 煉は半ば諦めていると、その一閃が身を割り込んだ二人に止められる。
 それは煉のパートナーのエヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)エリス・クロフォード(えりす・くろふぉーど)
 エヴァは念動式パイルバンカーで、エリスは混沌の盾を使い、二人掛かりで魔剣を止めたのだ。
 二人は渾身の力で魔剣を弾き、フローラを後退させる。そしてすぐにエヴァは振り返り煉の襟元を掴み、言い放った。

「らしくねぇぞ煉!
 こんな攻撃いつものお前なら簡単に避けれるだろうが!」

 エヴァの怒号に、煉の目が見開かれた。

「エヴァから大体の話は聞きました。昔、煉さんを庇って死んでしまった人、その人を蘇らせるために魔剣を欲したと」
「お前が昔のことを引きずってることは知ってるけどよ、今の姿は無様すぎるぞ! あたしが知ってる煉はもっとこう、格好良かったはずだ!」

 二人の言葉に煉は我に返った。

「あたし達はお前のパートナーなんだぞ! ……辛かったらまずはあたし達を頼れよな」

 俺はこんなに心配してくれる二人がいるのに、何をしているんだ、と。

「……俺はほんと仲間に恵まれてるな。その分、自分が情けなく見えてくるよ。
 無銘を受けとったときに彼女の思いを継ぐと誓ったはずなのにな……」

 煉は落ち着きを取り戻して、無銘を構えなおし、フローラに向けて言い放った。

「気付かせてくれてありがとう、二人共。
 ――さぁ、今度は俺達が君を救う番だ、フローラ!」

 煉はアンボーン・テクニックの魔力による身体強化を行う。
 狙うは魔剣。救うはフローラ。放つのは稲妻の如き速さの剣戟、奥義、真・雲耀之太刀。

(この一撃で俺を、そして君の心を過去に縛りつける鎖を断つ!)