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亡き城主のための叙事詩 後編

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亡き城主のための叙事詩 後編

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 十三章 死神の従士

 刻命城、回廊。
 死神の従士と契約者が戦うこの部屋の扉が勢い良く開いた。
 満を持してやってきたのは、鮑 春華(ほう・しゅんか)だ。

「ちょっと待った〜っス!」

 春華はそう言うと、決まったとばかりに目を閉じた。
 きっと他の契約者や死神の従士とやらは自分を見て驚いているだろう、と思って。

(多分、この目を見開けたら誰かが自分に質問するッスね。おまえは誰だ!? ってな感じで。
 そうしたら言ってやるのッス。死神を名乗るのは、この鮑春華を話を通してからっス! って)

 春華の妄想はさらにさらに加速する。

(そして次には、チュイン(ハツネ)にバオミン(保名)、バイフー(葛葉)も!
 こんな楽しそうなことに自分だけ除け者なんて酷いッス! ……と言うことでチュイン、合体っス!
 って言って魔鎧になったら、みんなが私に注目するッス。これで死神の従士とやらの視線も自分に釘付けになって楽しい殺し合いが――)

「あのー、春華さん?」

 そうやってずっと目を瞑っていた春華に声をかけたのは、天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)だ。

「ん、んん? どうしたッスか、バイフー?」
「そろそろ目を開けてください。危ないですよ」
「……え?」

 春華が目を開ける。
 そうして目に飛び込んできた風景は、自分に気がつかいてない様子で戦いを繰り広げている死神の従士と契約者達だった。

 ――――――――――

(皆様を護ることが烈士として役割。なら、詩穂がすることは――!)

 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)はそう思い、全員の支援を行うために魔法と複数のスキルを発動する。

 飛行できる種族のヴァルキリーである死神の従士と全員が対等に戦えるように、空飛ぶ魔法。
 各種属性の耐性を八十パーセント以上になるように常時発動スキル、フォーティテュード。
 更にお下がりくださいませ旦那様と護国の聖域で、全員の防御力と魔法防御力を底上げを行う。

 詩穂の献身的な支援を受けた契約者の身体に、優しく暖かいものが広がり力を生み出した。

「あの侵入者、厄介だね」

 それに気付いた死神の従士は足元に魔法的な力場を作成。
 強く蹴りだし、詩穂に向けて凄まじい速度で突撃を開始。
 しかし、そんな二人の間に素早く身を割り込んだのは保名だ。

「さて、わしの相手をしてくれるかのう?」
「……はは、さっき名乗りをあげた侵入者だね。いいよ、君とは戦ってみたかった」

 死神の従士が大鎌を振るい一閃を放つ。それは的確に死を齎せんとする剣閃だ。
 鎌を得手とする者なら一生に一度でもこのような刃を繰り出したいと渇望するほどの峻烈な黒刃が、間合いを詰めた保名に迫る。

「ハハッ! いい太刀筋じゃ」

 眼前に肉迫する死の刃を前にしても、保名は好戦的な笑みを崩さない。
 それどころか果敢にも前へ進み、横薙ぎの刃を紙一重で避けて、懐へ潜り込む。
 保名の構えは後の先。カウンターである狐手掌を放とうと貫手を作る、が。

「甘いよ。まだまだ僕のほうが早い」

 異常な反射速度で反応、大鎌が振り切る前に急速方向転換して、飛燕の速度を超えた縦の一閃が発生。
 保名は本能的に危険を感じて構えを雷霆の拳に移行。黒刃が自分の身体を切り裂くよりも早く、飛び蹴り――白狐神拳の白狐の舞を繰り出した。

 二人の身体が交差する。保名の頬から一条の血液が零れ、死神の従士の腹部には鈍い痛みが走った。

 死神の従士は背後に移動した保名と距離を置くため、バーストダッシュを使役。空へと逃げる。

「空へ逃げても、無駄ですよ」

 葛葉はそう呟くと奈落の鉄鎖を発動。重力が彼を地面へと叩き落す。
 同時に葛葉は疾風迅雷で行動。二人の下忍と呪い影で生み出したもう一人の自分と共に、墜落した死神の従士の行動を阻害しようと近づく、が。

「……!?」

 四人のなかで葛葉だけが何か底知れぬものを感じ、足を止めた。
 二人の下忍と呪い影は構わず、死神の従士に近づく。そして、彼の身体に刃を振り下ろそうとしたとき。
 ――三人の身体が異界の魔力を受けて、吹き飛び、壁へと強く叩きつけられ、身体を侵食されていく。
 死神の従士が放ったのは、崩壊の術。異界の異なる物理法則を用いて勇士が編み出した奥義だ。

「危ない、危ない。もう少しで傷を負うところだった」

 死神の従士は素早く立ち上がり、また大鎌を構える。
 そんな彼のもとに間髪入れずに突撃したのはリーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)を纏った柊 真司(ひいらぎ・しんじ)だ。

「悪いが……倒させてもらうぞ」

 真司はナインブレードのうちの短剣二本を両手に持ち、死神の従士との間合いを詰め双刃を奔らせた。
 迫る二本の刃を、死神の従士は大鎌の長い刃で受け止める。二本の鋼の刃と黒の刃が悲鳴をあげて、火花を咲かせた。

「角度も、速度も、素晴らしい剣閃だね」
「お褒めに預かり光栄……だ!」

 真司は大鎌の刃を二つの刃を滑らせて受け流し、高速で懐に潜り込む。
 そして身体を切り裂こうと斬撃を放とうと構えるが、それよりも早く死神の従士は床を強く踏み怒りの煙火を発動。
 二人の間の地面が割れて、地母神イナンナの怒りの発露のような溶岩が噴出した。

「くッ」

 真司は後ろで跳躍することで溶岩を辛うじて避ける。
 しかし、間髪入れずに死神の従士はバーストダッシュを使役して、真司に追撃をかけようと凄まじい速度で加速する。

「真司、短剣を!」
「ああ、分かってる!」

 真司は間合いを詰められる前に両手に持つ短剣を縦に投擲。
 下の短剣から命中するように微妙に時間をずらして投げつけたため、相手は下方からの斬撃を余儀なくされる。
 大鎌の初太刀を迎撃に使わせ、もし相手がそのまま間合いを詰めても、少なくても手傷を負わせられる奇襲だ。
 死神の従士は大鎌を振り上げて、飛燕を超える速度の縦の太刀筋が発生。二本の短剣をまとめて弾く。
 真司はナインブレードのうちから大剣を掴み、続けて真空波を発動。
 超能力による破壊エネルギーを纏った斬撃は、素早い斬り返しの大鎌の刃により相殺された。

「まだまだ、行くぞ……!」

 真司は床を強く蹴り、大鎌を振り下ろし隙が出来た死神の従士との間合いを詰める。
 しかし、大剣の間合いに入ったところで、大鎌の刃がすぐそこまで迫っていた。

「残念。勇士の剣技は隙を生じぬ三段構えなんだ」

 死神の従士の斬撃が、真司を切り裂く。
 が、切り裂いたそれは真司の身体ではなく、リーラの空蝉の術によりすり返られたブラックコートだった。

「そんなことなど、予測済みだ」

 行動予測により先読みしていた真司は、死神の従士の死角に潜り込み、ブラインドナイブスによる大剣の一撃を放つ。
 神の力が籠められた鋼の刃は彼の身体を深く切り裂いた。鮮血が飛び散る。紅い飛沫が真司の身体と床を汚した。
 死神の従士は即座にバーストダッシュを発動。真司から距離を取るため、引き潮の如く後退した。

「ッハ。久しぶりだよ。こんなに大きな傷を受けたのは」

 死神の従士は自分の身体に走る傷口を見ながら、不敵に笑いそう呟いた。