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亡き城主のための叙事詩 後編

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亡き城主のための叙事詩 後編

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 作戦室内で飛び交う武具と防具と超能力の嵐に晒されながら、クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)は極めて冷静に考える。

(武器防具が飛び回り、超能力が吹き荒れるとすれば……飛び込むべきは台風の目、吹き荒れる力の中心だ)

 クレアは右側から身に迫る剣を最小限の動きで回避すると、指揮官の懐銃を悪魔の従士に向けて発砲。
 それは直接的に危害を加えるためではない。陽動射撃。つまりは彼の注意を射撃によって少しでも逸らすのが目的だ。

「ちょろちょろちょろちょろ鬱陶しいんだよォォ!!」

 悪魔の従士は自分の頭上で渦巻く武器と防具を射出。
 と、同時にクレアは地を蹴り駆ける。

(悪魔かなにか知らないが、自分の行動を把握していれば、弱点も見えている。
 つまり、悪魔が「敵(こっち)が懐に飛び込んでくる」ことを予測している可能性もある。敵が素手と思って舐めてかかると痛い目に合うかもな)

 クレアは思考を張り巡らしながらも足は止めず、高速回転する小型の斧が彼女に迫る。
 斧を回避することで体勢を崩す愚を避け、凶器が自らの肩口を切り裂き、鮮血が跳ねるに任せる。
 さらに軸足を一歩踏み込み、指揮官の懐銃の照準を悪魔の従士の頭に合わせ、引き金を引いた。
 悪魔の従士は頭を反らし服の襟元を撃たせるだけでかわし、クレアにサイコキネシスで剣を飛ばすが、もう片方の指揮官の懐銃で叩き白い鋼の悲鳴と火花を散らす。
 しかし。

「距離が近づけば俺様に一太刀でも入れれると思ったのかァ? 残念でしたァァ!!」

 悪魔の従士は咆哮を上げ、カタクリズムを発動。
 彼を中心として放たれる強力な念力がクレアを襲おうとした、が。

「そんなことだろうと、予想していた」

 クレアは言葉と共に一方の指揮官の懐銃を捨て、光条兵器のレーザーメスをその手のうちに発現。
 彼女は懐に潜り込み、刃は小さく戦闘には向かないそれを、強力な念力が自分を襲うより先に喉元に向けて奔らせた。
 レーザーメスが悪魔の従士の外頚動脈を正確無比に切り裂く。喉元から吹き出す赤々しい血がクレアの顔に飛び散る。

「ぐッ、がァ……!!」

 悪魔の従士は自分の血を見て逆上。大量出血により身体から力が抜けていくのに構わず、カタクリズムを継続して発動。
 強力な念力はまるで拳聖の拳の如き威力でクレアの腹部に直部。彼女の動きが一瞬止まり、その隙に槍で串刺しにしようとサイコキネシスを行使するも。

「飛び込んできたのが私一人だと思っているのか?」

 クレアの不敵な物言いと同時に、悪魔の従士はすぐ背後から濃厚な気配を感じ取った。
 彼はサイコキネシスを行使するのを止め、振り返り正体を確かめるより先に、フォースフィールドを発動。
 精神力によるバリアを展開して、背後のそいつを吹き飛ばそうとした。が。

「……流石に影の中にまで力場は張れないよなぁ?」

 背後のそいつはマーツェカだった。狂血の黒影爪の力を使って、重なった自分の影から悪魔の従士の影へと移動したのだ。
 マーツェカはフォースフィールドによるバリアの内側に姿を現し、罪と死によって闇黒を放つ鉤爪を背後から突き刺した。

「が、がは、げェ……!」

 罵詈雑言を放っていた口と、切り裂かれた外頚動脈と、三本の刃により貫かれた腹部から血が吹き出す。
 同時に、視野の狭窄が始まる。力もほとんど抜けていく。悪魔の従士は前のめりに倒れようした、が。

「……終わる、わけには、いかねェ。
 あの人のためにも、こんなところで、倒れるわけにはいかねェんだ……!」

 瞬間、悪魔の従士の血管が強く浮かび上がり、本能によるデバステーションが発動した。
 今までのものとは比べ物にならない超能力が彼を中心として吹き荒れる。本物の嵐に似た渦巻く念力がクレアとマーツェカを吹き飛ばし、壁に叩きつけた。
 悪魔の従士は間髪入れず、自分の頭上で渦巻く防具をサイコキネシスで二人に向けて弾丸のように射出。

「――ルーン召喚術式、発動じゃ」

 しかし、静かに響いた声と共に生まれた炎によって、射出された防具は全て焼却された。
 声の主は、不敵に笑う鵜飼 衛(うかい・まもる)。炎の主は、メイスンが打ち返した槍に貼り付てある炎のルーン召喚符により召喚されたカグヅチだ。

「おぬし、顔に凶と出とるぞ? カッカッカッ!」
「……うるせェ」
「カッカッカッ。しかし、おぬしただの大言壮語かと思いきや、わりと根性はあるではないか」

 衛は愉快そうに笑いながら、真っ二つの金属鎧に貼り付けられたもう二つのルーン召喚術式に魔力をこめる。

「おぬしはそんな状況でも立ち上がるのじゃな。できれば、その理由を教えてもらっても構わんかの?」
「……子供は親を、見捨てねェ。立ち上がる理由なんてそれだけで十分過ぎんだろうがァ!!」

 悪魔の従士はもう一度、渾身の力を振り絞りデバステーションを発動。
 桁違いの念力がカグヅチを襲い、吹き飛ばす。カグヅチが離れると共に数多の武器をサイコキネシスで操作しようとした。

「カッカッカ。その気迫、心地よいのぉ。傭兵時代を思い出させてくれる。では、少々名残惜しいが、フィナーレじゃ!」

 衛はそれよりも早く、雷のルーン召喚術式を発動。全長四メートル程の雷電を纏う神獣の化身、麒麟を召喚。
 麒麟は大気を揺るがす咆哮をあげ、身体の雷電を口に招来。広範囲の稲妻を放出した。
 悪魔の従士の身体はサイコキネシスで操作する武具の大群を、衛からその雷撃へ方向転換。それぞれの武具に帯電させることで辛うじて防御。
 しかし、衛の攻撃は終わらない。最後の一つ、氷のルーン召喚符を発動。
 そして召喚された氷の全身甲冑を身に纏った鬼神、オーズの化身が魔術の術式を組み込んだ魔斧、スワンチカを振り下ろす。

「ッ、がァ! ……まだ……まだ……終わるわけに、は」

 スワンチカの斬撃が悪魔の身体を深く切り裂く。
 大量の血飛沫が舞い上がり、床を汚していく。彼はまだ立ち上がろうとした、が。

「終わりじゃよ。さあ、少しばかり眠っておれ」

 衛の言葉と共にオーズが氷術を発動。
 悪魔の従士を凍りつかせ、氷のなかへ閉じこめた。