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亡き城主のための叙事詩 後編

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亡き城主のための叙事詩 後編

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 十一章 悪魔の従士

 刻命城、作戦室。
 様々な種類の武具や防具が飾られているこの部屋では、悪魔の従士の怒号が響きわたっていた。

「オラァッ! こんなもんかァ、甘めェぞォ侵入者ァァアア!!」

 悪魔の従士は取り付けられている鋭利な装備品をサイコキネスで操作。
 四方八方から凄まじい勢いで投擲して、契約者たちに休む暇を与えない。

「ほらほらどしたァ? 守ってばっかじゃ勝てねェぞォ!?」

 悪魔の従士のその挑戦的な物言いにが癪に触ったのだろうか。
 それとも先ほどの戦いで随分と無茶をしたパートナーにイラついているのだろうか。
 とにかく全ての要素が組み合わさり、メイスン・ドットハック(めいすん・どっとはっく)は最高に不機嫌だった。

「……自分はものすごく不機嫌じゃ。今相手にすると手加減できんぞ?」
「何だァ? 手加減してくれてたのかァ? あまりにも弱いもんでよォ、相手にならねぇから本気でやってくれや」

 悪魔の従士は言葉と同時に一本の槍をメイスンに向けて投擲。
 メイスンは飛来する槍を両手で持った機甲斧剣フラガラッハの剣モードでなぎ払う。
 カキンと甲高い金属音と共に槍が弾かれ、一回転してから地面へと落下した。

「おーおーおーおー、気合入ってんねェ? なら、これはどうだァ!?」

 今度は成人男性がまるまる身を包めるほどの全身鎧をサイコキネスで操作。
 しかし、メイスンは機甲斧剣フラガラッハを斧モードに移行。大きく振りかぶり、飛来する全身鎧を勢い良くぶった切った。

「っとォー、割れたぐらいじャ攻撃は終わんねェぜ?」

 悪魔の従士は口元を吊り上げて、分離した金属鎧を挟み撃ちの形で、メイスンに迫らせた。
 機甲斧剣フラガラッハを振り下ろしたメイスンは防御することなく、ただ立ち尽くし――。

「……わたくしもとても機嫌が悪いんですの。容赦は致しませんよ」

 ルドウィク・プリン著 『妖蛆の秘密』(るどうぃくぷりんちょ・ようしゅのひみつ)が持つ魔導書『妖蛆の秘密』に記されたルーン文字が輝く。
 煌くルーン文字はページから飛び出し、文字で構成された魔法陣を描く。その魔法陣は『妖蛆の秘密』の魔力を受け、一層強く輝き。

「さて、それでは――平伏しなさい」

 歴戦の経験により培った魔術が発動。メイスンに迫る二つの元、全身鎧に炸裂。
 歴戦の魔術を直撃した二つの金属鎧は地面に叩き落された。

「さて、防御ばかりでは勝利できませんので、攻撃に転じるとしましょうか」

 『妖蛆の秘密』は先ほど、メイスンがなぎ払った槍を拾い上げ、ルーン召喚符を取り付ける。
 そして、槍をメイスンに向かって投げた。

「それでは、お願い致します。メイスン様」
「ああ、任せときー」

 メイスンは機甲斧剣フラガラッハを野球の打者に似たフォームで振りかぶり、『妖蛆の秘密』が投げた槍を横腹で思い切り打ち返す。
 剛速球の如きスピードで槍は、悪魔の従士に飛来するが避けられる。続けて、ルーン召喚符を取り付けられた分離した全身鎧も飛んでくる。

「当たるわけねぇだろうがァ! そんなもん!!」

 悪魔の従士は身体を反らすだけで、迫り来る真っ二つの全身鎧をそれぞれ回避。その二つは背後の壁に槍と共に勢い良くぶち当たった。

「なんだなんだァ? 攻撃ってのはそんなもんなのかァ? そんなんじゃ一生かかっても勝てねェぞ? アッヒャヒャヒャヒャ!」
 
 悪魔の従士は額に手をあて、見下すような視線で契約者を見ながら、下品な笑い声をあげる。
 それを耳にしながらテレジア・ユスティナ・ベルクホーフェン(てれじあゆすてぃな・べるくほーふぇん)は首元に片手を当て気だるそうに口を開いた。

「普通、悪魔ってのはもうちょっと高貴なもんだよな。おまえみたいな下品な野郎は初めてだ」

 テレジアに吐き捨てるかのようにそう言われ、悪魔の動きがピタッと止まる。
 もちろん、普段のテレジアならこんな言葉は口にしない。パートナーのマーツェカ・ヴェーツ(まーつぇか・う゛ぇーつ)が憑依して乗っ取っているからだ。

「あ? テメェ、いきなり何言ッて」
「ま、お前の戯言など聞く耳は持たないし、関係はないんだ」
「あァ!? テメェが聞いたんだろうがよォォ!」

 悪魔の従士は額に青筋を浮かべ、大声でマーツェカを怒鳴りつけた。
 マーツェカはというと大げさに肩をすくめてから、狂血の黒影爪を彼に向けて言い放つ。

「本当に厭味な野郎だな。恵まれた周囲の環境と多少の素養だけの能なしの癖して、自分が誰よりも上だと思ってやがる。
 忠告しておいてやるよ、身の程知らずは大概にしておくもんだ」

 ピキピキ、と悪魔の従士の額に浮かぶ青筋がはっきりしていく。
 その姿を見てマーツェカは、狂血の黒影爪を構え、睨みながら吐き捨てた。

「もう一つおまけに忠告しておいてやるよ。
 我の暗殺経典3章16節曰く、お前の天命は、我の刃に掛かり楽園に叩き込まれることだ」
「……テメェ、本当に死にてェらしいな」
「身の程を知れって言っただろ。地獄という楽園に叩き落してやるからよ。いいから、黙って掛かって来いよな」

 悪魔の従士の頭のなかでプツリと紐のようなものが切れた音がした。

「じャあお望み通りに本気でぶッ殺しにいッてやんよォォオオ!!」

 悪魔の従士は本気のサイコキネシスを発動。
 作戦室内の無数の武器と防具が空中へと浮かび上がる。
 彼の頭上で桁違いの念力により渦巻くそれは、喩えるなら嵐のようだった。

「ックハ、ご覧の通りあんたらが相手にするのは武具の大群!
 逃げ場もねェ、避けることもできねェ、防ぐこともできねェ!!」
「……能書きはいいから黙って掛かって来い、て言ってんだ」
「そうかよォ。じャあ無様に串刺しになッて今すぐ死んぢまえやゴルァァアアアアアア!!」

 悪魔の従士は激昂して、もはや冷静さはひとかけらも残っていない。
 彼が腕を突き出すと同時に、数多の武具と防具が飛燕の速度で契約者へと向かっていった。