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【神劇の旋律】ストラトス・チェロを手に入れろ

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【神劇の旋律】ストラトス・チェロを手に入れろ

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第二章 セニエ氏の疑心 2

 そんなこんなで、セニエ氏の別宅にたどり着いた一行。
 しかし、ここでいきなり予想外の事態に遭遇することになった。

「悪いが、帰ってもらおう」

 ディオニウスの名前を出した途端、彼の態度が突然硬化したのである。

「ちょ、ちょっと! どういうことなの!?」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が抗議してみたが、彼は冷ややかな目で一同を見つめ返し、こう言い放った。
「狼を追い払うために虎を引き入れるほど私は愚かではない、ということだよ。
 それとも、私に一から説明されなければわからない、とでも言うのかね?」
 これ以上問答を続けても、ますます心証を悪くする以上の効果は恐らく期待できないだろう。
「わかりました。それでは、私たちはこれで失礼します」
 納得できる状況ではなかったが、ここは一度引き下がるより他になかった。

「参りましたね……どうしてこんなに警戒されているのか」
 小さくため息をつく御凪 真人(みなぎ・まこと)
 そこへ、どこからともなく佐野 和輝(さの・かずき)が姿を現した。
「シェリエ、今回は下手を打ったな」
「どういうこと?」
 尋ねるシェリエに、和輝はこう続けた。
「手助けを頼むのは信頼できる相手だけにすべきだった。
 こちらの動きが妨害者……おそらく今回の事件の黒幕に筒抜けになっている」

 彼が集めてきた情報によると、どうやらセニエ氏におかしなことを吹き込んだ輩がいるらしい。
 その噂では、今回の事件は「チェロを手に入れようと企てた三姉妹による自作自演」ということになっていた。
 三姉妹のうち二人は魔女であり、使い魔や野生動物を操って襲撃事件を起こしては、それをチェロのせいにしてセニエ氏がチェロを手放す方向に持っていこうとしている、というのがその大筋である。
 さらに、彼女たちがその魔力と色気で多くの契約者たちをたぶらかし、自らの目的のために使役している……などというオマケもあるため、「三姉妹に協力するつもりである」ということを知られただけでも、セニエ氏の心証をひどく損ねる結果になってしまっていた。

「そんな、ひどいよ……誰がそんな噂を!」
 悲しげにうつむくパフュームに、涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)がぽつりと言った。
「中には私利私欲で動く契約者もいる。
 自分たちが依頼した相手以外は信用するな……と言うつもりだったが、まずはその依頼する相手を吟味すべきだったらしい」
 そこで、先ほどから何事か考え込んでいた真人が再び口を開く。
「しかし、考えようによっては一歩前進かもしれません。
 この事件が、言われているような『チェロの仕業』でない可能性は飛躍的に高まりましたし……先ほどの噂の前半部分、黒幕の部分を差し替えれば、恐らくそれが真相でしょう」
 なるほど、言われてみればその通りである。
 つまり、黒幕は三姉妹にその罪をなすりつけるつもりで、うっかり自分たちの手の内をばらしてしまったことにもなるのだ。
「確かにそうかもしれないわね……そうなると、やっぱりその真犯人を捕まえるしかないかしら」
 シェリエの言葉に、美羽たちも賛同する。
「そうだよ! こんな卑怯なことをするやつは許せないよ!」
「だとすると、依頼ではなく『こちらの勝手で』モンスターを撃退するしかなさそうですね」
 真人の言葉に、トーマ・サイオン(とーま・さいおん)がぐるぐると腕を回す。
「なんだ、要するにどっちにせよモンスターを倒せばいいんだろ?」
「そうとも言えますが……そう簡単にいくでしょうか」
 不安そうにつぶやくのはベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)
 確かに彼女の言う通り、あくまで三姉妹とその協力者だけで動くということになれば、おのずから行動できる範囲も限定され、また自分たち以外の「モンスター退治に来ただけの契約者」との連携は難しくなる。
 さらに言うなら、「依頼の報酬代わりにチェロを譲ってもらう」というのも厳しくなるだろう。
「でも、やるしかないよ。友達が悪者にされてるのを放っておくことなんてできないもん」
 そう言って、クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)が拳を握る。
 その様子に、パフュームも大きく一度頷いた。
「うん、やるしかないよね! 汚名挽回しないと!!」
 そのパフュームに向かって、ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)の肩の上のちび あさにゃん(ちび・あさにゃん)が何事か書いたお絵かきボードを見せた。
「ん?」
 パフュームを筆頭に、一同がそのボードに目をやり……。
『汚名は挽回するものじゃないよ。ちゃんと返上しないと』
 その的確かつかわいらしいツッコミに、たちまち辺りは笑いと和やかな空気に包まれたのだった。