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リアクション
第6章 コレ、自分ノッ…わがままグレムリン Story2
突然扇風機が目の前で暴れたかと思うと、また突然動きを止めたことに驚いた子供は、キャンディーを床に落としてしまう。
「刀真、皆を外に非難させよう」
「客や店員たちを守りながら戦うのは厳しいな。いったん外に出てもらおう」
「非常口から逃がしてあげよう!」
「待って、魔性がいるかもしれないわ」
そこにグレムリンが待ち構えているかもしれないと言い、フレデリカは祈りに集中する。
「―…無理ね、いくつか気配を感じるわ。別のルートから非難させましょう」
いたずらしようとグレムリンたちは非常口の前で通せんぼして待ち構えているようだ。
フレデリカはかぶりを振り、店内にいる人々が傷つかないよう、魔性の気配が少ないルートを探す。
「こっちの食材売り場とかがよさそうね。憑ける対象も少ないし。ルイ姉、涼介さんたちに伝えて」
「―…涼介さん、フリッカが割り出した脱出ルートを伝えますね」
ルイーザはパートナーに頷くと、ティ=フォンで涼介に連絡する。
「憑く対象の少ない食材売り場などなら、魔性の気配が少ないみたいです。ただ、何か機械を持っている人が一緒にいると、寄ってきてしまう可能性があるので、気をつけてくださいね」
「あぁ分かった。ありがとう」
「何かあったらまた連絡しますね」
「ルイ姉。いったん店から脱出するわよ」
「小さい子供が一緒では、負傷者を探しながら出るのは大変ですからね」
何が起こったのかまだ理解出来ていない子供の手を掴み、店の外へ出ようと走る。
「玉ちゃん、私たちもついていってあげよう」
「なぜ我が…。分かった、分かったからそんな顔をするな」
またもや瞳を潤ませ、悲しそうな顔になる月夜のために、2人についていく。
玉藻たちが去った後、修理屋の方から少女の悲鳴が響き渡る。
「きゃぁあああぁああ!やめてくださいミシンさんっ」
修理に出したミシンに襲われ、三つ編みの少女が泣き叫ぶ。
「誰か魔性に襲われてるんだわ。ベトリーチェ、急いで!」
「は、はい。美羽さんっ」
「あれってもしかして…。ジュエリンじゃないの!」
少女の声を聞き、駆けつけた美羽は見知った姿の者の名前を呼んだ。
「美羽さん、私のミシンさんが…私のミシンさんがー!!」
「ジュエリンが大切にしている物に、魔性が憑いてしまったのね。私たちが祓ってあげる」
「って、あそこにいるのはロリオさん?(…なんか形容しがたい切なそうな表情やなぁ)」
彼女が愛用しているミシンなんて壊れてしまったらいい、でも壊れたらジュエリンが悲しんでしまう…と悩んでいるようだ。
「いやまずは助けないとな」
「魔性を祓う実戦に来たら、ジュエリンとロリオに会うとは…」
「ミシンさんを傷つけないように返してあげなきゃ!」
「器にされている物はともかく、魔性は祓わないとな」
「その子が大切に使ってるもんだろ?手荒なことをしないようにな」
そんな危険物はぶっ壊れてしまえ、と言い放つ羽純にグラキエスが言う。
「あれがなんだか知らないんだろ?」
持ち主がソレを操り、作り出した存在は、羽純をいろいろな目に遭わせてきたのだ。
「原型は普通のミシンじゃないのか?」
「とっても素敵なミシンさんなんですよ!」
「素敵?邪悪の言い間違えだろ」
「ひ、酷い羽純くんっ。大切な物が壊れてしまったら、持ち主が悲しんじゃうんだから!」
彼のセリフにムッとした遠野 歌菜(とおの・かな)は眉を吊り上げ、プンスカと怒り顔をする。
「あぁ、はいはい…}
服を作ってもらえなくなる!と思っているのだろうと、はぁー…と嘆息した。
「他にも修理に出されてる物に憑いてるかもな。グラキエス、調べてみてくれ」
「分かった。ん、宝石の反応が…。このテレビの近くにいるな」
「グラキエスさん、テレビの中に魔性が入り込もうとしてるみたいや!」
修理屋に預けられているデジタルテレビの中に、侵入しようとしている不可視化した魔性の姿を、七枷 陣(ななかせ・じん)が見破り声を上げる。
「なんだと…」
「グラキエス様、お下がりください!」
エルデネストは彼を守るように立ち、器にされた物を睨む。
グレムリンは器を歪に変形させ、べろりと出した舌のようなものでディスクを巻き取り、ごくりと飲み込んだ。
飲み込んだディスクを再生し画面に映す。
「ホットカーペット…?」
「なんだか季節はずれ的な映像ですね、グラキエス様」
「カートペットの上に、トカゲのような生き物がいるな」
「トカゲが…こっちに向かって歩いてきますよ、エンド!」
「怖いダロ……。トカゲが、おまえたちに近づいていくゾ」
この映像に何の意味があるのか分からない彼らに、グレムリンはケタケタと笑う。
「そ、それは呪いのディスク!?見たものは必ず幸せになるっていう呪いの映像が流れるんだよ!」
「リーズ、そんな情報どっから仕入れてくるんや!?つーか、不幸じゃなくって幸せになる呪いってなんやっ」
「っていう伝説を、今思いついてみた」
「黙レ、ぺったんこ。トカゲの恐怖がおまえみたいなぺったんこに分かるはずはなイ」
「貧乳はステータスだ!希少価値だ!ってどっかの偉い人が言ってた気がするもん!」
挑発に乗るものかとリーズは自慢げに言い放つ。
「まさかトカゲが画面の外に出てくるというのか?」
「どうカナ。ホラ、超ドアップをミロッ」
「ぎゃわぁああ!トカゲの口の中に、数字の7とシって文字がぁああっ」
お子様のクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)には刺激が強かったらしく悲鳴を上げる。
「クマラ、ただの映像だ。そんなことで驚くなよ」
大人のエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は驚く様子を見せず、呆れたようにため息をついた。
「怖いだロ、子供を怖がらせるのオモシロイッ」
「オイラのこと呪ってない…?」
「アァ、そんな力はナイ」
「ただの脅しか。ヴァイス、さっさと祓ってしまおう」
「はぁ〜…。なんだ、ただの脅しだったのか」
「まさか、呪われたなんて思ってないだろうな?」
「オレをちびっこと一緒にすんなっ。おいグレムリン、その器から出ていくんだ!」
「イヤダ。コレ、気に入ってル。アワワ、雨…ッ。イヤイヤッ」
酸の雨を浴びるものかと、ドンドンと身体を弾ませながら必死に逃げる。
「雨イヤッ、ヒギャァアアアアアッ!!」
「えぇえーーーっ、加減したはずだぞ!?」
「冗談。脅かしてみただケ」
加減してくれたおかげで痛みはないが、わざとらしく悲鳴を上げただけのようだ。
「魔性の言葉に惑わされるな、ヴァイス」
「んなこと分かってるって!力入れすぎたかと思って、めっちゃくちゃビックリしたな…」
「クマラ、2人がけでやるぞ」
「うん!」
エースとクマラはハイリヒ・バイベルを開き、疾く還れと詠唱を始めた。
小さな光の礫がテレビを襲う。
「ムゥー…ちょっとだけイタイ。脱出ッ」
「テレビから気配が消えたな…」
「本当!?わーい、祓えたよエースッ」
「降参したのか?」
「してないッ」
首を傾げるエースの傍から、不可視となった魔性の声が聞こえる。
「でもイタイのキライ。そのうち、またいたずらしちゃウ」
「(……グレムリンって悪戯好きが有名だけれど、お菓子にも弱かったよーな?)」
いたずらをやめさせようと、クマラはリュックから持って来たおやつを取り出す。
「これあげるから、いたずらやめてくれる?」
「お菓子スキー」
「じゃあ、もう悪いことないでね」
「うン」
「ねーエース。他のグレ子も、オイラのおやつでおびきよせられないかにゃ?」
「憑いたモノが気に入っているなら、なかなか離れてくれないと思うけど…」
「もしかしたら、お菓子売り場とかにたむろっているかもしれないよ。先を越されてなるものか」
育ち盛りならきっといるはず!と、クマラはお菓子売り場を目指し走る。
「お前…それじゃグレムリンと間違われてお尻叩かれても知らないぞ?」
「オイラは良い子だからそんなことはしないのです」
くんくんくん…。
鼻をひくつかせ、グレムリンたちからお菓子の匂いがしないか、スナック菓子やビスケットの棚がある周辺の匂いを嗅ぐ。
エースとクマラが修理屋のエリアから去った後、グラキエスは預けられている物に憑いていないか調べる。
「この辺りにはいないみたいだな」
「運び出したほうがよくないか?」
「いや、たくさんあるから俺たちだけじゃ厳しいな。騒ぎがおさまるまで、魔性が近づかないように守るしかない」
「そーするか。じゃあ後、修理に出されて憑いている物って、あのミシンだけか?」
「たぶんな。早めにここへ着たから、被害も少なくすんだのかもな」
「他のところに行ってたら、他の物にも憑いていたかもしれないってことか」
セリカの言う通り、一番最初にここへ来てよかったみたいだな、と言う。
修理屋に預けられた物の被害は少なく、残るはミシンだけなのだが…。
魔性は酸の雨を浴びながらも、跳ねながら抵抗する。
「あれー?3人を追っていたはずなんだけど…。どこにいっちゃったんだろう」
セレアナたちをすっかり見失ってしまった佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が、彼女たちを探し回る。
「向こうに人がいっぱいいるね。あれはグラキエスさんたちかな。それと陣さんと……!?」
陣の近くにいる見知った顔の少年が視界に飛び込み、“げげぇ、ロリオ!”という顔をする。
「どうしたの、弥十郎」
顔面を蒼白させる彼の顔を斉民が覗き込む。
「な、なんでもない…。うん…。何か困ってるみたいだから、声をかけてみる…べきだよね」
トラウマ的に苦手だったが、スルーしていくわけもいかない。
「なんだか彼女が泣いてるみたいだけど、何かあった?」
「ジュエリンが修理に出したミシンが突然暴れだしたんですよ。あれがないと服が作れないって泣いてしまっているんです…」
「うん…。代わりのミシンじゃいやだってことだよね」
「えぇ、そうみたいです」
「そっか…。うん、元に戻してあげるから、待っててね」
彼の言葉の中に、彼女を思っている気持ちが見え、ここで恩を売っとくかぁ、と算段する。
「アルト、ネーゲル。我らのフォローをするのじゃ!」
ジュディ・ディライド(じゅでぃ・でぃらいど)はグレムリンにアルトやネーゲルをけしかける。
だが、彼らの気配にビビることも、拘束されることもなく、逆に“縫うゾッ”と彼らを脅す。
すっかり怯えきった者たちは、ジュディの後ろに隠れてしまった。
「こ、こらっ。我の後ろに隠れるでない」
「―…頑丈なヤツめ。裁きの章の雨を、もう1度くらわせてやるのじゃ」
「(飛び跳ねたところを狙ってやるか)」
ドスドスと飛び跳ねる器の中へ、羽純が光の嵐を送り込む。
「ミシンさんが元に戻った!―…よかった、おっこちたら壊れちゃう」
「あー…残念」
ほっと息をつく歌菜に、羽純は彼女に聞こえないように小さな声音で言う。
「歌菜ちゃん、グレムリンがミシンの中に入ろうとしてるみたいやっ」
「気配がたくさん…ミシンを囲んでるよ!」
「そんな…、また気配が…!?これは大切な物なの。もうこれで遊ばないで!」
陣と弥十郎の声に、歌菜も自分の宝石の輝きに気づき、ミシンを抱えて守ろうとするが…。
他の魔性が入り込んでしまい、ガタガタと動き出す。
「離れろ、歌菜!」
羽純は彼女を抱きかかえ、再び変質させられたミシンの傍から離した。
「縫ってヤル、縫ってヤルッ。どこを縫ってやろうカッ」
「陣くん、危ない!」
「おわっ!?」
「この、陣くんに何するんだよっ」
「縫ってやったダケ。ギャハハハッ」
「うわ…、これはちょっとっ」
「なんや?へっ…なんやコレッ!?」
顔を真っ赤にしてパッと傍を離れたリーズから、ズボンの裾へ視線を移すと、そこにはリーズ・ぺったんこラブ、とミシン糸で縫いつけられていた。
「それが真実」
「ふっふーんだ。リア充羨ましいの?羨ましいんだねっ」
からかわれ少しだけ気恥ずかしかったが、キミは非リア充じゃないの?と挑発する。
「うらましく…ナイッ。充実爆発しちゃエッ」
「今だよ、祓っちゃって!」
わざと怒らせたリーズは、標的を自分に向けさせる。
「うむっ」
「ベアトリーチェ、ジュエリンのためにも早く祓っちゃおう!」
「はい、美羽さん!」
「キャァアアーーーッ!…ヤダッ、出て行かなイ」
憑く力が弱まっても、器から離れようとしない。
「そのミシンさんは素晴らしい衣装を作るために必要なものなんです!」
器としている者の姿は見えないが、離れてくれるように歌菜が説得しようとする。
「そのミシンさんのお陰で、こんな面白…げふんげふん、素晴らしい光景が見れるんですよ!」
以前、写真に収めていた羽純のお宝女装写真をグレムリンに見せる。
「ナニソレ、ナンカおもしろいネ」
「だから、ミシンさんを解放してください!」
「ウン。おもしろいモン見れたから、返してあげル」
「ありがとう!」
「はい、これ。ジュエリンにとって、大切なものなんだよね」
元の形にミシンを美羽がジュエリンに渡す。
「皆さん…ありがとうございます!これがないとロリオのために、衣装を作れなくなってしまいますの」
これでまた彼のために衣装が作れると言い、大事そうに抱きしめる。
「お前…なんで、そんな写真を持ち歩いてるんだ…」
「だって、お宝写真だもん」
なぜ持ち歩いているのかと羽純に聞かれた歌菜は、胸を張って堂々と言い放つ。
「捨てろ!寧ろ焼き払え!」
「何てことするのー!」
写真を火術で燃え散らされ、メソメソと悲しむ。
「(いいもん。データがあるから♪)」
それを彼に気づかれないように泣くフリをし、心の中で舌をペロッと出した。
「お腹がすいたなぁ」
実戦の場で魔性の探索には慣れていないためか、精神力を使いすぎた弥十郎は、斉民が持ってきた鉄火巻きを食べる。
「弥十郎はグレムリンが見えないんだよね?」
「うん、そうなんだよね」
「そのほうがいいかも」
「えっ…?」
斉民の言葉に鉄火巻を頬張ったまま、弥十郎は首を傾げた。
彼女には魔性の姿がしっかりと見える。
それは、彼の頭の上でくつろいでいるのだ。
お世辞にもかわいい姿ではなく、手足の細いトカゲのような容姿をしている…。
物体としての質量がないため気づかない。
「何か忘れているようなー…。あっ、そうだ!セレンフィリティさんたちを探している途中だったね」
「私たちはラルクたちと合流するわね」
「分かった、頑張ってね」
「オレたちは2人を外へ非難させるか」
騒ぎがおさまるまでいるわけにもいかないだろうと、陣たちはジュエリンとロリオを連れて、ホームセンターの外へ向かう。
「私たちは脱出した人たちの治療しよう羽純くん」
「結構な騒ぎになってるだろうからな。怪我人も何人かいるだろうな」
救出された人々の傷を治すために、歌菜と羽純は店の外で待機することにした。
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