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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 3

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 3

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第7章 コレ、自分ノッ…わがままグレムリン Story3

 グラルダは店舗を見回し、騒ぎながら逃げる客の流れに逆らうように、ゆっくりと奥へと進む。
 彼女がグレムリンの存在を確認する手段は、他者の力を頼るか実害を目の当たりにするしかない。
 寧ろ、そこまでハッキリとしているのだからと、開き直って余裕を持つ。
「焦りも苛立ちも、術に影響するのよね…。さて…、あの2人はどこへ行ったのかしら」
 その頃、セレンフィリティとセレアナは…。
 不可視の魔性たちに囲まれ、いたずらの標的にされている。
「どれに憑いて遊ぼうカ?」
「湯沸かし器トカー?」
「おもしろソーッ」
「(フッ、ピンチをチャンスに変えてやるわ)」
 いっきに何匹も祓えるなら狙われるフリをしてやろうと冷静に判断し、セレアナは銃型HCでノーンたちに連絡しようとするが…。
 それをネコに盗まれてしまう。
「あ、返しなさい!」
「ヤーダ。仲間、呼ばせなイッ」
 ネコに憑いた魔性が銃型HCを持ち去ってしまう。
「こ、…こらっ、返して!それがないと連絡が取れないじゃないの」
「どーすんのよ、セレアナ。仲間も呼べないんじゃ、囲まれっぱなしってことよ!」
「そんな…。どうするって言われても…」
「決めタ、マッサージチェアで癒し潰しちゃおウー」
「仕方ないわね、ここはいったん外へ逃げましょう」
「逃がさなイー」
 マッサージチェアに憑いたグレムリンたちが2人を囲む。
「ドーンッ」
「―…ぁあっ、こんなものに潰されるわけには…っ」
 いくつも飛び重なり、下敷きにされる。
「ぅう、重すぎる…っ」
 必死に這い出ようとするが逃れられず、セレンフィリティは呻き声を上げる。
「なんなの…これ」
 投げ捨てられたかのように重なっているマッサージチェアを、グラルダは顔を顰めて見下ろす。
「た……助けて…」
「誰か下敷きにされているのね」
 裁きの章の酸の雨を降らせて魔性を弱らせる。
 どこから見てもただのマッサージチェアだが、器を変質させず正体を隠しているようだ。
「(離れたかしら?)」
 確かめようと触れてみようとすると…。
 重なり合っていたそれが、今度はグラルダを押し潰そうとする。
「大人しくなったフリでもしていたのか…。(術が間に合わないっ)」
 探知する力を持たない彼女は、器から確実に離れたかどうか、確認する手段がない。
 詠唱も間に合わず、走って逃げることも出来ず、このまま潰されてしまうのだろうか。
 だが、諦めて目を閉じたり、逃げる手段がないと判断するような負け方もありえない。
「単独行動するな、ということは…こういうことか」
「グラルダさん、そのまま走ってください」
「明日香…!」
「私が哀切の章で祓います」
 暴れ馬のように不気味に動き、暴走するマッサージチェアを光の嵐が襲う。
 酸の雨で魔法防御力を削がれた魔性は、聖なる光りに憑く力を奪われる。
「ふぅ〜、間に合ってよかったです。そろそろエリザベートちゃんのおやつの時間ですね。エリザベートちゃん、聞こえていますか?冷蔵庫にシュークリームを作って入れてあるので、おやつの時間に食べてくださいね♪」
 エリザベートがつけてくれた小型カメラに向かって話しかける。
「一緒におやつを食べられなくって残念ですけど、お夕飯までには戻りますので。一緒に食べましょうね〜」
 幼い校長がいる教室では…。
 スピーカーから聞こえる明日香の声に、“分かりました〜♪おやつはもういただいてますよ”とモニターに向かって話しかける。
 校長の返事は明日香に届かないが、リア充的ノリで返事をしてみた。
 彼女が冷蔵庫にシュークリームをしまっていた姿を、エリザベートはこっそり見ていたようだ。
「わっ、何これ。いっぱいいるよ!」
「気配は感じるけど…見えないね」
「弥十郎の宝石はアークソウルだからね」
「うぅ…見てみたいな…」
「不可視の相手でも、章の力の効き目はあるんですよね。場所を教えてください」
「あの2人の周りにいっぱいいるよ」
「分かりました!」
 セレンフィリティたちを助けるため、不可視化している者にお仕置きする。
「もう悪いことしちゃいけませんからね。またいたずらしたら、今度はべしべしする感じになっちゃいますよ?」
「分かったヨー…ッ」
「気配が消えちゃった。店の外に出て行ってくればいいけど…」
「ありがとう、助かったわ」
 セレンフィリティとセレアナは床からゆっくりと立ち上がった。
「怪我したりしてない?」
「硬い椅子ってわけじゃないから大丈夫よ」
「―…セレン、助けてもらえたからいいものを。今度から勝手に突っ走っていかないでよ」
「うっ、分かったわよ…」
「まぁまぁ。助かったんだからいいじゃない?」
「帰ったらしっかりお仕置きしてあげるから、今は我慢するわ」
「ひぇええ…セレアナ、許してーっ。私とセレアナの仲じゃないの。ねっ?」
「ねっ?じゃないわよ。まったくもう…」
 ここで怒鳴るより、助けがこない自宅で叱ればよいかと、いったん怒りを静める。



 教室では実戦に参加せず、魔道具の扱い方をもっと学ぼうと、清泉 北都(いずみ・ほくと)リオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)がスクリーンに映された現場の映像を眺めている。
「地球人以外の憑かれていない対象を、探知出来るアークソウルも便利そうだけど。不可視化した相手を見る宝石も必要なんだね」
「両方持っていれば、安心度も高いでしょうね」
「パートナー同士で、別々の宝石を持っているっていうのもいいね。弥十郎さんたちがそうしているみたいだし」
「誰かと一緒に組むことも、やっぱり大事みたいですね。標的にもされやすいでしょうし」
 先走ってしまえば、あっとゆう間に魔性の餌食になるのでは、と言う。
「連絡手段を失った時のことを考えるとそうかも…」
「ルカルカさんたちの様子も見てみましょうか〜」
 エリザベートは観戦用に他のチームの様子を見てもらおうと、モニターの画面を切り替えた。
 日曜大工コーナーにいる7人は、電動ノコギリに憑いたグレムリンを祓おうとしている。
「思ったよりもすばしっこいわね」
「触れただけでヤバな」
「ちょ、ちょっと!いたずらのレベル超えてない!?物理体制があっても、くらったら痛いじゃ済まないわよっ」
 ルカルカは仰け反り、ノコギリをかわす。
 ギュィイイインッ。
「んもうっ、なんでルカばっかり狙うのっ」
「リトルフロイライン。弱らせる程度で狙ってくださいな」
「はい、綾瀬様!」
 使い魔のことを知らない者から見えれば、幼い子供が水鉄砲を撃っているように見えるが、それに触れたグレムリンは鞭でぶたれるのと、同じくらいの痛みを受ける。
「へぇー、やっぱり器にはダメージがいかないのね?」
「本来スペルブックの力なども、器にされたモノを傷つけにくいものですわね。無傷かどうかは、扱う者の精神次第ですわ」
「なるほどー…」
「のんびり離している暇はないぞ、ルカ」
「はーい♪ダリル、酸の雨で囲んじゃおうよ。それなら外しにくくなると思うの。誰かの術があたればいいからね♪」
「ふむ…、そのほうが早く片付くか。ルカ、当てにいけ」
「私?おっけー」
 誰かというよりも、役割を決めてしまったほうがよいだろうと言うダリルの提案に、ルカルカがグレムリンの魔法防御を力を削ぐ担当を引き受ける。
「で、では…私が哀切の章で祓います」
「頼んだわよ、フレンディス」
「お任せください…っ」
「通常パターンの雨を降らせるわよ」
 パートナーたちに合わせ、ルカルカも詠唱を始める。
「グレムリンをこのエリアから逃がさないようにしてくださいな、リトルフロイライン」
「はいっ」
「ワ、ワワッ。おまえも魔性なのに、どうして邪魔すルッ」
「わたしは綾瀬様のもの。綾瀬様のご命令限り、他の者には従いません」
 リトルフロイラインは冷酷に言い放ち、逃げようとするグレムリンを撃つ。
「ウァアンッ。雨イヤッ」
「だったらそれから離れて!器にされている物は、お店の商品よっ」
「ヤダー、ヤーダァッ」
「わがままっ子にはお仕置きよ」
 逃げ場を失った魔性に酸の雨を浴びせる。
「それは…、あなたの所有物ではありません。まだ返す気がないようなので…、少々罰を受けてもらいます…」
 相手はいたずらが大好きな子供のようなもの。
 叱ってやるくらいの力に加減してやる。
「―…気に入ってたのニ。元気になったら、また別のモノに憑いてやルッ」
 グレムリンは逃走しようと器から離れた。
「不可視化したのね」
「フレイ、あの蛍光灯の近くを狙え!」
「は、はい…マスター」
 ベルクが指差す方向へ、光の波を放った。
「それって波でも嵐でもどっちでもいいのか?」
「そ、そうですね。術のイメージですから…」
「…で、こいつはどうするんだ?」
「えぇと…。大変申し訳ございませんがこれ以上悪さをするようでしたら、ここから立ち去っていただきたく…。聞いて頂けないようでしたら手加減は致しませぬ故、お覚悟を…」
 低姿勢な口調だが、悪さを続けるなら相応の覚悟をしてもらおうと、彼が視線を向ける方へゆっくりと歩み寄る。
「もゥ…しないヨ…」
 ぷるぷると震え、ホームセンターの外へ走り去っていった。
 …ように思えた。
「また戻ってきたのか」
「コレ、じぶんノッ」
「しつこいヤツだな」
「それはおまえの物ではないっ」
 すでに憑く力がほとんど削がれているグレムリンは、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)夏侯 淵(かこう・えん)にあっさりと祓われてしまう。
「これ以上、いたずらを続けるなら…」
「チェー…」
 淵が言い終わる前に器から離れ、店の外に逃走した。
「また戻ってきた…ということはないか?」
「いや、気配を感じないし、不可視化しているようなやつもいないな」
「ふむ…」
「園芸コーナーに行ってみない?危なそうな機械とかありそうだし」
「機械と呼べるものは、レジがあるくらいだったな」
「そうなの?」
「入荷待ちとかじゃないか?なぁ。折角だし、終ったらちっと買物してかね?」
 店内が落ち着いたらショッピングでもしないか、とルカルカたちに言う。
「それは言うてはならぬ言葉…。「終わったら」というのは禁句だ」
「死亡フラーグ♪」
「…気ぃつけるぜ」
「おい、またグレムリンが来たぞ!」
「なっ、何!?」
 ベルクの声にカルキノスたちが身構える。
「どこだっ」
「後ろだ、後ろ!」
「うぉあぁあっ!?」
 とっさに床にふせ、カルキノスは電動ドリルをかわす。
「いたずらおもしロッ。満足」
 脅かしただけで満足した魔性は器を捨てて去る。
「なんだんだ…」
「うん、きっと死亡フラグ♪」
「背中に風穴が空くのか…。今のうちにカルキノスという者を、記憶の中に刻んでおこう」
「いや、まだ空いてねぇから。確定的なセリフ言うのやめろっ。旗なんて圧し折ってやる」
 フラグクラッシュしてやると、ぶんぶんとかぶりを振った。