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リアクション
『はじめてのデート』
(魔族とも手を取り合うと決めた街、イナテミス……。果たして、上手く共存できているでしょうか)
そのことを確かめるため、沢渡 真言(さわたり・まこと)とティティナ・アリセ(てぃてぃな・ありせ)は『こども達の家』へ向かっていた。こども達の交流を通じて、大人たちもお互いを分かり合う。それが一番ではないかと思いながら。
「…………」
と、真言の足がピタ、と止まる。視線の先に、街の人達と話を交わすケイオース・サイフィード(けいおーす・さいふぃーど)が映った。
「? お姉様、どうなさいましたの?」
首をかしげるティティナに振り返り、真言が告げる。
「私は先に『こども達の家』に行き、何かトラブルが起こった時の対応に当たります。
ティー、あなたはその他の街の様子について見てきて下さいますか?」
「はぁ……お姉様がそう仰るのでしたら……」
真言の意図がいまいち掴めないながらも、ティティナが頷く。
「お祭りでもありますしね、楽しんできて下さい。そうそう、一人では危ないのでどなたかとご一緒するように」
そこまで耳にして、ティティナは真言がお節介を焼いていることに気付く。おそらく足を止めたのは、ケイオースを見つけたからだろう。
「……お姉様の意地悪っ」
歩き去っていく背中に可愛らしく恨みをぶつけて、少しの間逡巡したティティナがゆっくりと、ケイオースの元へ歩き出す。
「ティティナ、君も来ていたのか。一人でかい?」
「いえ、こちらまではお姉様と。お姉様は別に用事があって先に行かれましたわ」
声をかけてきたケイオースに答えるティティナの、頬は既に赤く染まっていた。
「……あの、ケイオース様。もしケイオース様がお忙しくなければ、その……お、お付き合い頂けますか?」
ティティナの懸命の誘いを、ケイオースは快く了承する。
「ああ、大丈夫だ。遊びに行くと約束していたのに今日まで果たせず、すまない。
ここでは俺の方が詳しいだろう、ティティナ、行きたい所があれば気兼ねなく言ってくれ」
「は、はい……わたくしはケイオース様とでしたら、どこでも……」
そして、なんとも初々しい二人のデートが始まる――。
『はじめてのデート?』
「馬宿君、あれから身体の調子はどう?」
「ああ、事件が収まってからは騒音に悩まされることも無くなった。“聞こえて”しまうというのはもちろん便利でもあるが、不便でもある」
賑やかな街並みを、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)と飛鳥 馬宿が連れ立って歩く。今のような楽しげな賑やかさはよくても、前回の暴走族事件のような不快な賑やかさは馬宿にとっては大きな負担である。
「確かにね。……そして、相手も馬宿君のことを知っていれば当然、その力についても知っているはず。その馬宿君が豊美君の傍から離れているとすれば……尻尾を出すかもしれない」
「……リカイン、君はやはり、“彼女”が何か企んでいると思っているのか?」
馬宿の問いに、リカインは顔を向けて答える。
「二度あることは三度ある、って言うし。姫子君、だっけ? 関係者なんでしょ、讃良君と同じ。
……ま、何かあったら馬宿君が聞き取ってくれるわよね。それまでは折角のお祭り、楽しみましょ」
そう言うと、リカインが馬宿の手を取って駆け出す。
「お、おい、そんなに引っ張るな」
「時間は待ってくれないわ! 今日中に全部の場所、制覇するわよ!」
「走らずとも回りきれるはずだぞ……やれやれ」
強引に腕を引かれながらも、馬宿は決して嫌な思いにはなっていないのであった。
『ウィール砦にて』
●ウィール砦
市街地の賑やかな雰囲気をよそに、ここウィール砦には土方 伊織(ひじかた・いおり)とパートナー一行、セリシア・ウインドリィ(せりしあ・ういんどりぃ)とヴァズデルの姿があった。彼らはここで、『魔神』の一柱とある話し合いをしようとしていた。
「お待たせしました。……話はここ、ウィール砦についてでよかったかしら?」
来訪者、ロノウェが一行の前で一礼し、伊織からもたらされた案件の主旨を確認する。
「は、はいです。えっと……イナテミスが人間、精霊、魔族が共存する街になるみたいで、それはそれで良いことだと思うんです。
でも、僕たちは魔族さんに、地上での領地を約束しました。約束が守られないことで不満が起きちゃったら、後々良くないと思うんです。
だから、僕はここウィール砦を、地上での魔族さんの拠点としてもらうのはどうかな、と思うんです」
外見年齢は同じなはずなのに、醸し出す雰囲気に圧倒されつつ、伊織が何とか自分の考えを口にする。
「……話は理解しました。まずこちらとしては、あなたの提案を誠意を持って受けたいと考えています。最終的な決定は今後の話の内容と、パイモン様の意向を確認してからになりますが、パイモン様もおそらくは肯定的に捉えてくださるでしょう。翻ってそちらは、関係者の意思疎通は取れているのかしら?」
ロノウェの疑問に応えるように、セリシアとヴァズデルが進み出、それぞれ発言する。
「私は、ウィール砦を魔族の皆さんに使っていただくことに賛成です。この土地に住まう者が一致団結して難に立ち向かう、その架け橋になれるよう、協力は惜しみません」
「私もセリシアと同じ思いだ。三族が分け隔てなく接し合い、共に手を取り合うために、力を貸そう」
二人の発言が終わり、続いて馬謖 幼常(ばしょく・ようじょう)が進み出、意見を発する。
「ウィール砦を魔族に割譲することは、すなわちイルミンスールが内に潜在的敵対国家の拠点を持つ事になる。位置的にも丁度、イルミンスールとウィール遺跡の中間に値し、重要な拠点である。
となれば、砦にイルミンスールから監察官を派遣して魔族を監視する事、独自行動を掣肘する為にウィール方面司令官の指揮下に入る事の二つは必要になるであろう」
「よ、ようじょさんっ。相手の目の前でそれは失礼ですー」
「黙っておれ。ただ約束を違えんがためだけに砦を割譲します、では賛同など得られるはずがないであろう。伊織はここの司令官だが、であるからこそ勝手働きは許されんのだ」
ひそひそと話し合う伊織と幼常の前で、ロノウェは特に表情を変えず答える。
「これまでのことを鑑みれば、ある意味当然の措置でしょう。……分かりました、その条件は飲みましょう。
監察官とウィール方面司令官の人選は既に済んでいるのかしら?」
「うむ、決まっているぞ。監察官がそこのようじょで、ウィール方面司令官は伊織だの」
サティナ・ウインドリィ(さてぃな・ういんどりぃ)の横からの発言に、伊織と幼常がそれぞれ「え?」「何?」と反応を返す。
「考えてもみろ、伊織が司令官を退いてしまえば、今の約定が果たされる保証は無くなるぞ。つまり今日の約定を果たすためには、伊織はここの司令官で居続けねばならぬのだ」
「そ、それは……でも、もう争乱は終わったから、僕は司令官職返上のはずで……」
「……お嬢様。その件ですが、不肖私、アーデルハイト様より言伝を承っております」
サー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)が進み出、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)から受け取ったという言伝を皆に読み聞かせる。
『伊織、随分と思い切ったことをしたものじゃな。
私は賛成も反対も出来ぬ立場故、おまえの発言はそのままイルミンスールの意思となろう。その時は伊織、やはりおまえが責任を持ってこの件に当たる必要がある。
……と、いうわけでだ。私はおまえに『終身名誉要塞群司令官』の役職を与えようと思う。
拒否すれば即座に『お仕置き』が飛んでこよう。これからも励むのじゃぞ』
「そ、そんなーーー!!」
これでやっと返上できると思っていたら、さらに凄い役職を与えられてしまい、伊織がガックリとうなだれる。
「伊織さん、私もついています。一緒に頑張りましょう?」
降ってきた声に伊織が顔を上げると、微笑を浮かべたセリシアの顔があった。
「あっ……は、はいです」
答えながら伊織は、自分の胸がドキン、と高鳴るのを感じる。思えば最近どうも、セリシアのことを思うとドキドキする。
(え……こ、これってもしかして、恋……なのです?)
自分が抱いている感情に気付こうとしている伊織の背後で、ベディヴィエールとサティナが顔を見合わせ、ふふふ、と笑う。
「これからが面白くなりそうですわね」
「まったくだの。からかいがいが増えて愉しみじゃて」
そうして、ウィール砦は魔族の管轄に入る方向で、各方面に話が付けられようとしていた。
果たしてこのまま、すんなりと行くのだろうか――。
『ようこそイナテミスへ』
「へぇ、イナテミスには初めて来たけど、結構いい雰囲気じゃない。素朴さを残しているのがポイント高いわね」
背負っていたバックパックを下ろして、アーミア・アルメインス(あーみあ・あるめいんす)が一息つけつつ、お祭り中のイナテミス市街地を一望する。流石にお祭りだけあって賑やかだが、普段はどこかの田舎町に似た雰囲気を醸し出しているのだろう、アーミアにはそう感じられた。
「さて、何から行こうかしら。イベントも見てみたいし、折角来た以上はここでしか食べられないものも食べてみたいわね。
今日のブログ更新ネタには困らないわ」
やりたいことを色々と思い浮かべながら、バックパックを背負い直し、アーミアは広場の方角へと歩いて行く――。
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