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襲われた魔女たち

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襲われた魔女たち

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第五幕:おふろってなあに?

 リースや清泉たちが荒らされた家の片づけを初めて一刻ほど。
 ルーノはじっとその様子を眺めていた。
 帽子には一輪の薔薇、腕の中、ウサギのような猫のような謎の白い生物の人形が埋もれていた。薔薇はエースが、人形はアニスが元気が出るようにとルーノに渡したものだ。
「そろそろ手伝いに行くか?」
 彼女の頭の上から声をがした。佐野だ。
 彼の両隣りにはアニスとルナの姿もある。
「ありがとな。かずき、あにす、るな」
 言うと、恥ずかしかったのか帽子を深く被る。
「あいかわらず世話が焼けるな」
 佐野は笑みを浮かべるとルーノの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「なにをするかー!」
「ふむ、調子が出てきたな」
「よかったですねぇ〜」
「和輝、和輝!」
「なんだアニス?」
 呼ばれ、視線をアニスに向けるとこちらに近づいてくる人影が見えた。
 大きな本を手にしてやってきたのはクエスティーナだ。
付き従うようにサイアスが彼女の一歩後ろを歩いている。
「ルーノさんに提案があるの」
 彼女はルーノたちの前にやってくると手にした本を広げた。
 そこにはいくつもの住宅写真が載っていた。いわゆるカタログというものだ。
「これは?」
「せっかくですから、クウさんが戻ってらした時に驚かれるようなくらい綺麗な家にしてしまうのも良いと思ったものですから」
「だがこれは――」
 無理があるのではと続く言葉はルーノによって遮られた。
「すっごい綺麗だぞ、かずき!」
 家主には好印象の様子だった。
「きれいですねぇ〜」
「なんか上流階級って感じだね。結構好きかも」
 ルナとアニスからの評価も高いようだった。
 佐野は頭をかくと告げた。
「さすがに無理だろう。まず木材が足りない。この辺りを一気に伐採でもする気か。そんなことをしたら学園側から何を言われるかわかったもんじゃない」
「大丈夫よ。材料はすべてサイアスに手配してもらうわ」
「お安いご用です」
「材料は良いとしても時間が足りない。それにちゃんとした技術がないとここまで大きな建築物は造れんだろう。アマルナートはこういう作業は得意か?」
「破壊するのは得意だ。だがこのメイドロボがいれば――」
「だから欲しいのは専門知識のある技術屋だ!」
 ヒートアップする二人をよそに、クエスティーナたちは話し合いを続けていた。
「私は白い方が素敵だと思うわ」
「くえすてぃーなは清楚だからな。白がにあう」
「アニスは赤も悪くないと思うな」
「私は青ですねぇ〜」

 騒がしくなるルーノの周りを眺めていた久瀬が彼女の家の中に入っていく。
 中では片づけが現在進行形で行われていた。
「外が騒がしいですけど……な、何かありました?」
 リースの問いに久瀬は手を左右に振ると答える。
「気にすることのほどではありません。いつもの調子が出てきただけですよ」
「それは良かったです」
 事情を察したのだろう。
 その場にいた誰もが安堵の息をもらした。
「ルーノちゃんが入ってくる前に片づけないとねえ」
「あー、姫さんそこはもういいからリースを手伝ってくれ」
「はあい」
 セリーナがリースの元へ向かう。
 足元、レラが茶葉の入った瓶を加えて座っていた。
 どうやら指示を待っているようである。
「レラもあっちを頼んだ」
「そうそう。ここはあたしとナディムだけで十分だもんね」
「マーガレットはあれだ」
「なに?」
「ルーノのお嬢さんに中身入りの物、どれを外に出していいか聞いてきてくれ。できるなら手伝ってもらえると助かる。その間に俺は――」
 言うと自分と同じ身長ほどもある食器棚を持ち上げた。
「でかいのを外に運び出すわ」
「了解!」

 隣の部屋、寝室を片づけていた清泉が顔をあげた。
 客間にルーノの姿があることに気付いたのだ。
「良かった。元気が出たみたいだね」
 一緒に掃除に勤しんでいたモーベットも彼女の姿を見た。
 彼女が中心になって行動しているあたり、どうやらリースたちと一緒に片づけをしているようだった。
「なによりだ」
「あーあ、このカーテンはもう使い物にならないね」
「こっちはシーツもベッドも使い物にならないぞ。新調するしかないな」
「あはは……」
 いきなり笑い出した清泉をモーベットは訝しんだ。
「ごめん。何かおかしくってね」
「何がだ?」
「ルーノさんが元気にならなかったら、僕たちはいつまでたっても掃除が終わらなかったんだろうなってね」
「当たり前だ。家主にしかわからないこともあるだろう……なるほど
 何かに気付いたようにモーベットは清泉に振り向いた。
「そうだよ。次はこっちの手伝いをお願いしないとね。新調するのもあるし、色とか種類の希望を聞かないとね」
 彼らの視線の先、ルーノは忙しそうに指示を出していた。

 家の外、笠置とジョージの二人は用意した木材を用いて、運び出された家具の修繕をしていた。折れてしまったものは木材を差し替えて、傷がついたものには溝に木くずを流し込み、粘着液で固定していく。
「どうやら思ったよりも増築しないで終わりそうだね」
「らしいのう」
「ところで気付いた?」
「なんのことじゃ?」
 笠置は真剣な面持ちになると告げた。
「この家、お風呂ないんだよね」
「みたいじゃのう」
「作るとしたら脱衣所と浴槽は仕切りで分けて――」
「落ち着かんか。ここは都会と違って浄水施設などはない。もちろん天然の温泉などがあるわけでもない。少し歩けば川はあるのじゃが……」
「お風呂無理かー」
 笠置が諦めようとするが、ジョージは何かを思いついたようだった。
「簡易風呂なら作れそうじゃ」
「さすがだね。どうするの?」
「円筒形の筒が必要なんじゃが……」
 ジョージは言うと、近くを通りかかったサイアスに声をかけると、あるお願いをした。
 返事はオーケーだった。

 そこからの作業は流れるように進んだ。
 修繕した家具を家の中へ戻し、壊れて使い物にならなかったものは買い替え綺麗にセットする。そしてクエスが持ってきたぬいぐるみの量があまりにも多かったので部屋を増設することになり、ルーノとクエスご用達のぬいぐるみ部屋ができあがった。
 お風呂に関してルーノに聞いてみると、彼女はお風呂というものを知らなかったようで、普段は川の水浴びだけで済ませていたという事実が皆に衝撃を与えたのは言うまでもない。

 かくして時間は過ぎ、日が傾くころに森の奥からクウたちが姿を現した。
「ルー……無事でよかった」
「それはこっちのセリフ! よかったくーちゃんがぶじで」
 二人は抱き合うと皆に礼を言った。
「ところでルー。それ何?」
 クウの視線の先にはドラム缶が置いてあった。
 それはジョージがサイアスに頼んで用意してもらったものだ。
「おふろだって! 私の家もきんだいてきになったな」
「近代的なドラム缶風呂ってのは聞いたことがないな」
「うらやましいか? 一緒に入るかかずき!」
 ルーノの言葉に皆の視線が佐野に集まった。
 何とも言い難い空気である。
「……俺はいいからアニスと入れ」
「そうか。ならそうするか!」
 今のやりとりで疲れが出たのだろう。
 佐野は彼女たちから距離を置いた。
「一緒に入らなくてよかったのですか?」
 久瀬の問いに佐野は答えた。
「俺はあいつの保護者じゃないからな」
「似たようなものだと思いますけどね。少なくとも私には見えましたよ」
 久瀬は言うとルーノに近づいた。
「ルーノさん。お願いがあるんですが」
 彼は手にした袋をルーノに渡すと言った。
「それを使って私たちにおいしいお茶をごちそうしてもらえませんか?」
 手渡された袋の中にはいくつかの茶葉が入っていた。
「ちょうど良かった。これアルクラントさんが見つけてくれたんですよ」
 エースの手元には男たちに奪われていた茶器があった。
「ほんとうにありがとな。おいしいお茶ごちそうするからまってて!」
「私も手伝う」
 ルーノが家の中へ向かうのをクウが追いかけた。
「僕たちも手伝おうかな」
「我は紅茶にはうるさいのだよ」
「アニスもお茶入れるー!」
「騒がしいわね」
「とか言いながら手伝いに行くのよね」
「あ、お菓子なら持ってきてるからな」
「アル君ってば待ってよ! ワタシもお茶会楽しみにしてたんだからね」
「楽しみじゃ」
「ブルーセも早く来なよ! お菓子なくなるよー」
「ま、待ってよー」
 皆が皆、ぞろぞろと彼女たちのあとに続いていく。