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ぶらり途中テロの旅

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ぶらり途中テロの旅
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 四号車。
 宴会が行えるお座敷車両。
「子供の日も近いのでぇ、私を楽しませなさぁい!」
 エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)アゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)に無茶振りを強いていた。
「子供の日って、端午の節句で男の子の成長を祈願する日だよね?」
「そんなの関係ないですぅ。子供なら誰でも祝うべきですぅ」
「そうですよー、アゾートちゃん。祝ってあげましょー?」
「やっぱり明日香は分かっているですぅ!」
 エリザベートのわがままに賛同する神代 明日香(かみしろ・あすか)
「何をしたらいいか、ボクにはわからないよ……」
 ゴールデンウィークということで列車のたびに連れてきたのだけれど、それだけでは足りないらしい。
「校長のエリザベートさんじゃないですか」
「ん? あなたは誰ですかぁ?」
「インスミール魔法学校所属の非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)です」
 挨拶を交わすと、ポンと手を叩く明日香。
「だから顔を見た覚えがあったんですねぇ」
「入学してから結構経ちますからね」
「近遠ちゃん、どこに行きましたの?」
 辺りをキョロキョロ見渡し、近づいてくるユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)は、目的の人物を見つける。
「ここにいたのですわね」
「ユーリカさん、エリザベート校長がいますよ」
「そうなんですの?」近遠の横から覗き、「校長、ご機嫌麗しゅうですわ」
「あなたはユーリカですねぇ」
「覚えていただいて光栄ですわ」
 明日香はエリザベートに問う。
「エリザベートちゃん、知っているの?」
「以前、校長室に訪ねてきたんですよぅ」
「そうなんだぁ。私は神代明日香ですぅ。よろしくねぇ」
「よろしくお願いしますわ」
「それで、ユーリカさんはボクを探してどうしたんですか?」
 ここに来た理由を尋ねる近遠。
「そうでしたわ。向こうでイグナちゃんとアルティアちゃんが待ってますわよ」
 振り向いた先、、イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)が『お酒のような何か』を飲んでいた。
「待たせちゃってるみたいですね……そうだ、皆さんも一緒に楽しみませんか?」
 顔を見合わせる三人。
「ええ。やっぱり宴会は多い方が楽しいです」
「良い案ですわね。飲み物もたくさん用意してありますし、いかがですか?」
 無邪気な笑顔で誘うユーリカ。そして、
「ジュースが飲めるのなら参加するですぅ!」
「エリザベートちゃんが行くならどこへでも行きますぅ」
「丁度ボクたちも何をするか迷っていたんだよね。助かったよ」
 参加が決まった。

 保護者然として、主とパートナーの帰りを待っていたイグナ。ちびちび飲んでいる『お酒のような何か』もそろそろ注ぎ足さなければいけなくなっていた。
「戻りましたわ」
「ごめんね、お待たせです」
 ようやく帰ってきた二人。
「遅いのだよ。して、その後ろの三方は?」
 自己紹介する面々。
「校長であったか。貴公たち、我の連れが無礼を働いたりしておらぬか?」
「全然そんなことないですよぅ」
「むしろ、お誘いに招いてもらってありがとう、って感じだもん」
 明日香とアゾートの台詞に、胸を撫で下ろすイグナ。
「それでぇ、ジュースはどこですかぁ?」
「今、アルティアがお注ぎいたしますね」
 コップに注ぐ『お酒のような何か』。
「明日香さんもお注ぎいたしましょうか?」
「私は普通のジュースでいいですぅ」
「それじゃあ、乾杯ですぅー!」
「飲むの早いよ」
 早速飲み始めるエリザベートを嗜めるアゾート。
「ごめんね、好き勝手やっちゃって」
 申し訳なさそうにするアゾートに近遠は「いいんです」と応じる。
「ボクたちは気にしませんから。楽しめるならそれでいいんです」
「ほらぁ、だからぁ、大丈夫ですぅ」
「あらあらぁ、エリザベートちゃん。零しちゃダメですよぅ?」
 世話を焼く明日香。
「アゾートちゃん、こっちにお代わりくださいー」
「もう……」
 溜息をついてしまう。
「心配せずとも、こんな事で怒るような我らではない。貴公も存分に楽しんでくれて構わないのだよ」
 イグナはアゾートの肩に手を置いて慰めの言葉を掛ける。
「これはこれは、見目麗しい方々がたくさんだ」
 そんな集団に、気障な台詞を臆面も無く放つエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が現れた。
「旅がより楽しくなりますように」
 エースは懐から取り出したプチブーケを、女性陣にプレゼントして回る。ピンク、白、淡オレンジの花を咲かせたブーケはとても高級感溢れている。
「綺麗ですねぇ」
「ありがとうですわ」
「いえいえ、女性に礼を持って接するのが心情なので」
 にっこり笑うと歯が白く光る。
「あ、エース! こんなところに居た!」
 慌しくやってきたクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)はエースに近づくと、腕を取っておねだり。
「駅弁かってーかってー!」
「……今、皆さんと話をしているところなんだ。後にしてくれないか?」
「いーやーだー! だってエースはオイラのお財布さんだもん。居ないと買えないよ!」
「クマラ、乗り込む前にも買っていたよな?」
「にゃはは、食べちゃった!」
 頭を抱えてしまうエース。対してクマラは、
「列車の旅は駅弁の旅にゃのです!」
 決め顔で言い放つ。
「だからって食べすぎだ。俺の分も有ったはずだぞ」
「エースが全種類はダメって叱るからだもん。本当はもっと欲しかったんだよね」
「何種類あると思っているんだ?」
「えーっと、ます寿司、釜飯、カニ弁……」
 指折り数え、
「わかんにゃい!」
 音を上げる。
「十九種類だ」
「それだけあれば、ここに居る皆と分け合えられるよね?」
「……本当にお弁当は皆でわけるんだよね?」
 釘を刺す。
「もちろんだよ!」
「わかった、買って来ていい。ただし、全部ここに持ってくるんだ」
「さっすがエース!」
 お金を受け取り、意気揚々と去っていくクマラ。
「俺のパートナーが騒がしくて失礼した」
 頭を下げるエースに、明日香と近遠は労いの言葉をかける。
「いいですよぅ。お弁当までご馳走していただけるんですからぁ」
「そうですよ。騒がしいならボクたちも負けてませんから」
 車内に響く楽曲。マイクを持って歌っていたのはアルティア。カラオケが開催されていた。
「アルティアちゃんは歌を歌うのが好きですわね」
「その通りでございます」
「エリザベートちゃんも歌ってみましょうよぅ」
「歌いますぅ!」
 明日香に勧められ、マイクを受け取るエリザベート。
「♪♪♪」
「上手ですぅ!」
「いい歌声でございます」
 上がる歓声。エリザベートは気を良くしたのか、もう一本用意したマイクを差し出す。
「アゾートも一緒に歌うですぅ」
「ボクもなの?」
「アゾートさんの歌声、聞いてみたいですね」
「君もそう思うのかい? 俺もだよ。きっと素晴らしいに違いない」
 普段物静かなアゾートが歌を歌うとどうなるか、ハードルがどんどん上がる。
 緊張して手が震える彼女に思わぬ助け舟。
「買ってきたよー!」
 駅弁を両手に抱えたクマラの登場で、意識はお弁当に向く。
『お弁当ー』
 アレが食べたい、コレが食べたいと群がるエリザベートと明日香。
 近遠もユーリカ、イグナ、アルティアと物色を始める。
 クマラが暴走しないよう注意するエース。
「ふう、よかったよ」
 ホッと胸を撫で下ろすアゾート。
 宴会はまだまだ、和気藹々と続く。



 五号車。
「お前、本当に金持ってるんだな……」
 貸切状態のプールに、瀬乃 和深(せの・かずみ)は驚きながらルーシッド・オルフェール(るーしっど・おるふぇーる)を見る。
「ま、このくらい当然よね」
 ロッキングチェアに座り、優雅にジュースを飲むルーシッド。ビキニ姿がまぶしい。
 しかし、和深はルーシッドなど見向きもせず、
「くそっ、貸切じゃなけりゃ、女の子たちのはしゃぐ姿が見れたのに……」
 見果てぬ妄想に呟きをもらす。
「いや、そんなこと考えてると思ったから貸切にしたんだよ」
 呆れのこもった嘆息で突っ込むルーシッド。ストローに口を付けると、氷が音を立てて崩れた。
「まあ、いいや。早速泳がせて貰おうかな」
 言っても仕方ないなら、状況を楽しんだもの勝ち。切り替えてご相伴に預かろう。
 準備体操を終えて踏み出そうとした和深だが、
「ちょっと和深くん」
 すぐに引き止められる。
「何だ?」
「これ」
 差し出されたグラス。揺らされると、氷がカラカラッと抗議を発する。この擬音を考えた人は天才だと思う。
 交差する二人の視線。降りる沈黙。
 そして、ルーシッドは笑顔で切り札を切る。
「今日のスポンサーは誰かな?」
 そうなると和深に対抗する術はなかった。
「……はあ、わかったよ」
「それが正しい選択よね」
 渋々グラスを受け取る。
「早めにお願いね」
「了解……」
 とぼとぼとプールサイドを歩く。
「何で給仕をさせられているんだろうな……」
 ぼやきつつ、ふと視線をプールに向けると、張り合うように泳ぐ二人の女の子。
 白いワンピース姿の上守 流(かみもり・ながれ)と、胸元に『せどな』と書かれたスクール水着のセドナ・アウレーリエ(せどな・あうれーりえ)
 こうなったのは数刻ほど前。
 照れくさそうにプールサイドでゆったりしていた流の元へ勝負を挑みにやってきたセドナ。「和深に負ける姿を見せるのが怖いのか?」というセドナの挑発に乗った結果がこれである。
「セドナ、早く、諦め、なさい」
「流が、先で、あろう」
 速さは互角。ならば勝敗は耐久力に移り変わる。
 もうどれくらい泳いでいるのか、二人は分かっていない。
「二人とも楽しそうだな」
 それを眺める和深は原因が自分にあるなど露ほども思っていない。水しぶきを上げて泳ぐ姿が楽しんでいるようにしか見えなかった。
 チラリッと振り返る。
「まだまだ子供だねぇ」
 ルーシッドは呟きながら勝負をカメラで撮影していた。
 その視界に入ったのか、和深の懇願の眼差しに気づく。
「ん? いいんじゃない? その前にジュースだけど」
「よしっ!」
 許可を貰うことができた和深。意気揚々と駆け出す。そして、ものの数秒。
「はい! これ!」ジュースを渡し、「いやっほーう!」
 プールへダイブ。立ち昇る水柱。
『何です!?』
 突然の乱入に驚きを上げ、勝負を中断させる二人。
「和深! いきなり驚かせるな! 我らがおぼれでもしたらどうするのだ!」
「そうです。飛び込みは危険です。もう少し考えてください」
 二人から非難を浴びるのだが、
「冷たくて気持ちいい! 最高だ! 今ならバタフライでもできちゃうぜ!」
 お構いなしにはしゃぎ出す。
「子供がもう一人増えたね」
 その光景に苦笑を浮かべるルーシッド。手にしたカメラはしっかり時を収めていた。