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【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持

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【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持
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リアクション

 
  
武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)達の更なる交渉が始まって程なく
打って変った中心地にある酒場【蜜楽酒家】の奥にある部屋
店に馴染みのある者だけが使える場所でレン・オズワルド(れん・おずわるど)を中心とした面々は
樹月 刀真(きづき・とうま)の放った【下忍】の独りから交渉の報を受け取っていた

 「ガイナスの一端とのパイプはどうにか繋げたか……だが予想通り手間取る様だな」
 「空賊としては最高のカードを手に入れたんです
  彼女がタシガンの空に及ぼしている影響を考えると慎重にもなると思います、事は白黒では収まりませんから」

レンの微かな苛立ちを感じメティス・ボルト(めてぃす・ぼると)が言葉を返す
彼の胸中を考えると簡単な気休めも言えるわけがなく
茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)もかける言葉も見つからなく心配そうにレンの顔を覗き込む

 「そんな目で人の顔を覗き込むな、俺なら大丈夫だ
  俺達よりももっと辛い奴がいるだろう?彼女の方を気にかけてやれ」

そう言いながらレンが目を向けた先に、衿栖達も視線を向ける
そこにはずっと膝を抱えたままでいるパフューム・ディオニウス(ぱふゅーむ・でぃおにうす)の姿があった
【ディオニウス三姉妹】を知る者なら、いつもの明朗快活さが微塵も無い彼女の姿に戸惑うしかなく
傍らの小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)二人も顔を見合わせる他なく
溜息と共に彼女を見守るのであった


【誰もが知っているタシガンの英雄……フリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)が捕まった】


その噂は誰が伝えたとも無く、瞬く間にパラミタ中に数日の間に広がっていき
彼女に救われたものは憤慨し、その命の行く末を案じ
彼女に煮え湯を飲まされた者達はその朗報に喚起し、相応の最期を願った

故に、力あり縁の者達が彼女の救出に立ち上がる事も当然の流れなのであるが
たった一つ、他の英雄の危機と違う点が、立ち上がったレン達の行動を黒い霧の中に包ませるのだった

彼女が他と異なる点……それは彼女が【空賊】であるという事である

例え、その行いが【弱きを助け悪を挫く『義』に基づく行い】であったとしても
『賊』である限り『法という秩序』には決して守られる事はない
彼女が守られるのは【法】ではなく【空賊】という秩序から外れた者達に貫かれた【弱肉強食のルール】のみであり
残念なことに、今回の事はその【ルール】から外れる事がなかったのである

一隻の商船を巡って二組の空賊が争っただけ

その争いで一方が人質を取り、また一方がその命を守るために交渉に応じて代りに捕まる
人質が卑怯という言葉をここで正論として扱うのは、あまりにもタシガンの裏の空を知らなさ過ぎる

それでももし、ガイナスがフリューネを捕まえ、パフュームすら解放しなかった
……つまり、ガイナスがフリューネと交わした約束が違えられたのであれば話は別になる
だがパフュームが交渉の通りに解放された以上
ガイナスに筋を通す連中がその関係を破ってまでフリューネを助けるには、それ相応の矜持が必要になる
しかし、こと【運び屋】と【魔獣売買】の稼業において同属に相応に商売をしている【ガイナス空賊団】との関係を
態々蹴ってまで、フリューネの救出に手を貸す空賊など多いはずも無く
裏の情報に手を回してみても、たちまち情報の出所も確実性も曖昧になっていく

つまり、最も平たく言えば『捕まった奴が悪い』だけに過ぎない出来事に手を貸す同業者は多くはなかったのである

その事実は原因になってしまったパフュームが自分を責めるには十分な理由であるし
誰も彼女が悪くないと言うこともできずにいるのである
ツテを通して情報を探るより牙竜達のように闇の業者を装って一からパイプをつなげて情報を探る方法を選び
地道に情報を集める事を選んだのだが、待つ身としては焦りばかりが募っていく

 「とにかく今はフリューネを助ける事だけを考えよう、僕達のことはいいからさ」
 「でも………」

コハクの言葉に、膝にうずめた顔を微かにあげてパフュームがつぶやく
そんな彼女の背中をなでながら美羽が答えた

 「さっきも言ったよ?周りがそうであるように、私達は助けたくて勝手に集まっているんだって」
 「それに、君の行動を考えずに明確でないまま楽器の情報を話してしまった俺達にも責任がある」
 「そうだよ!パフュームだけが悪くないよ!」

佐野 和輝(さの・かずき)アニス・パラス(あにす・ぱらす)も美羽達の言葉に続いて彼女に話しかける
仲間の言葉にようやく埋めた顔を見せた彼女の頭に手を置き
フェイ・カーライズ(ふぇい・かーらいど)が彼女の髪に触れながら自分の気持ちを伝えた

 「それに、パフュームを心配して来ている者もこうやってちゃんといるんだから
  そうやって悲しむのもフリューネが傷つくのも私は見たくない、だから手伝うの」

フェイの言葉にパートナーの匿名 某(とくな・なにがし)も黙って頷く
衿栖もパフュームのそばにやってきてアニスと共に彼女を励ますのだった

 「あなたが責任を感じて謝ればいいのはフリューネ、そして他につかまったお友達だけ。
  だからちゃんと会って謝れるようにしなきゃ。できる事を考えてやろう、ね?」
 「パフューム、一緒にガンバロー!」
 「……うん」

ようやく顔を見せ、涙で赤くなった眼と共に笑顔を見せたパフュームに安堵し
衿栖は遠くにいるレンに声をかけた

 「……というわけで、肝心の人間が焦っていたらどうしようもないんだよ?レン」
 「そうだな、まずはやるべき事をやろう。助けるべき人はフリューネだけではないんだからな
  これ以上俺達が焦って、同じ穴のムジナになるわけにもいかない、メティス」

彼の言葉にメティスが頷き、改めて集めた資料を机に広げる
そこには客として乗船していた者や、パフュームの友人のカッチン 和子(かっちん・かずこ)
彼女と共に荷物の捜索を別で手伝っていた五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)とその仲間達
そしてフリューネを助けようとして行方が分からなくなったリネン・エルフト(りねん・えるふと)
そのパートナーのフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)の名前があった

 「リネンか……大人しく捕まっているとは思わないが無茶をしてないといいんだが……」
 「ある意味、一番フリューネに関して命を顧みないタイプだもんね、彼女……」

リネン・エルフトという人物をよく知るレンと美羽はその身を案じて顔を見合わせる
ある意味、一番その身が心配なのはフリューネより彼女かもしれない
そんな心配をしている面々の傍らで、フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)の【下忍】から情報を受け取り
情報をまとめていた漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)の手が止まった

 「……? どうしたんだ月夜?何かわかった事があるのか?」

そのまま無言でいる彼女の姿に困惑の気配を感じ取り、和輝が近づき問いかける
その問いに答える月夜の声は予想外の結果に微かに震えていた

 「色々調べてもらってる皆さんの情報からガイナス空賊団のアジトを絞り込もうと思ったんです
  けれど……おかしいんです。どれも情報同士が繋がらない、フェイクも含め情報に纏まりが無さ過ぎます」


その言葉に、誰もが息を呑み、活気付いた部屋の空気が再び凍りつく
差し伸べようと伸ばした救いの意志はまだ遠く、場違いな陽気な時計の鐘のみが部屋に響き渡っていた