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【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ

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【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ
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リアクション

●神崎夫妻の、とある一日。

 ツァンダ某所神崎 優(かんざき・ゆう)神崎 零(かんざき・れい)の二人は、うららかな休日を穏やかに過ごしていた。
「どうぞ、優」
 テーブルの上には、零お手製の昼食が並んでいる。
 色とりどりのサンドイッチに野菜のスープ。零は小皿にいくつかのサンドイッチを載せて、優に差し出す。
「ありがとう、零」
 優は差し出された皿を受け取ると、早速一切れ口に運ぶ。
 中身は潰したゆで卵をマヨネーズで和えた物。添えられたレタスが、食感を添えている。
「うん、旨いな」
 手にした一切れを飲み込むと、優はフッと口元を緩める。
 しかし、零は自分の分も手に取らず、ぼーっと窓の外を眺めている。
「零? どうした、食べないのか」
「え? あ、うん、食べるよ」
「ほら」
 優に声を掛けられ、零はやっと我に返る。
 その鼻先に、優がサンドイッチをひとつ差し出した。
 零は少し頬を染めて、いただきます、と小声で呟くと、差し出されたサンドイッチをぱくりと頬張る。
「なんか、恥ずかしいな」
 ふふふ、と笑いながら、今度は零が優にサンドイッチを差し出した。

「お茶が入ったよ」
 それから暫くして、すっかり昼食の片付けの済んだテーブルの上に、零がティーセットを並べていた。
 暖めたカップと、二人分の茶葉の入ったティーポット。添えられているのはお手製のマドレーヌ。
 今日は特にすることも無い。零の入れた紅茶で、二人はのんびりと午後のひとときを楽しむ。
「なあ、零。さっきもだけど、最近ぼーっとしたり、遠くを見たりしてる時があるけど、何かあったのか?」
 かちゃり、と陶器の触れあう小さな音を立てて、優はカップをソーサーに下ろす。
 目が合った零が、あはは、と恥ずかしそうに笑う。
「ゴメンね、心配かけちゃったかな……」
「いや、心配っていうか、なんだかその時の零の顔が幸せそうだったから。気になっていたんだ」
 優の言葉に、零はぽっと頬を染めた。
「そんな風に見えてた?」
 ふふ、と柔らかい笑顔を浮かべると、零は手にしたカップを下ろして顔を上げる。
「あのね、最近夢を見るの。……私と優がね、ちっちゃな子どもと三人で、手を繋いで、幸せそうに歩いてる夢」
 零の口からこぼれた言葉に、優は少し驚いた様だった。
「だから時々、想像しちゃうの。私たちの子どもが一緒に居たら、こんな風にしてるのかな、幸せなんだろうな……って」
 そう言う零の顔は本当に幸せそうで、優の心もふんわりと暖かになっていく。
「ねえ優、もし子どもが生まれたら、どんなことを願う?」
 もし、の話だ。
 いまのところ、そんな予定は無い、はず、だけれど。
 しかし、自分たちの子ども、という言葉は、妙に腹の底をくすぐる物がある。
 優はそうだな、とぼんやり考える。
「どんな人にも思いやりを持てる、優しい人になって欲しい、かな。後は……出来れば一族の、神薙の血を受け継いでほしくない。地球にいた時の俺みたいな辛い事を味わってほしくないからな……」
 答えながら、優もまた自分たちの子どもについて思いを馳せる。
 今まで考えた事も無かったけれど、いつかは向き合わなければならない問題だ。出来れば、幸せな人生を歩んで欲しい。
「大丈夫だよ」
 少しシリアスに考えてしまって、眉間にしわを寄せていた優は、零の優しい言葉に我に返る。
「優は優しいもん。絶対に、優しい子どもになってくれるよ」
 そう言って、零は幸せそうに笑う。
 その笑顔を見て居ると、不思議と、心配事は薄れていって、大丈夫かもしれないという思いが沸いてくる。
 そうか、と呟いた優の眉間からは、すっかりしわが消えていた。
「心配してくれて、ありがとう」
 零はそう言うと、スッと椅子から腰を浮かせた。
 そして、零の顔に自分の顔を寄せて、ちゅ、と音を立てて口づける。
 触れるだけのキスだけれど、それだけで、暖かいものがふんわりと二人の間を包み込む。
「私からの、お礼だよ」
 そう言って至近距離で微笑む零に、優は思わず顔を赤くする。
 けれど、そこにある最愛のひとの笑顔が嬉しくて、優もふわりと微笑み返した。



●天学生徒会室の、とある一日。

 生徒会総選挙後のとある日。
 生徒会長に就任したばかりの山葉 聡(やまは・さとし)、そして同じく、役員に就任した茅野 茉莉(ちの・まつり)の二人は、生徒会室で書類仕事と向き合っていた。
 いつもであれば他の役員の面々も居るのだが、今日は皆それぞれの都合で出払っていて、今この時間は、聡と茉莉の二人きりだ。
「んー、こうずっと座って仕事してると肩凝るわ……」
 今まで二人とも、存外まじめに書類を片付けていたのだが、ふと茉莉の集中が切れた。
 うーん、と一つ大きく伸びをして、肩をぐるぐる回したり自分の手で軽く揉んでみたり、肩凝りの解消に良さそうな動きをしてはみるが、やはりどうにもすっきりしない。
 茉莉は一人熱心に仕事を続けている聡の方をちら、と見る。
「ねえ、ちょっと肩揉んでくれない?」
「はぁ?」
 突然の要求に、聡も流石に手を止めて顔を上げた。
 何で俺がそんなこと、と不満を隠そうともしない。
「いいじゃない、減るもんじゃなし。なんならお返しに揉んで上げるけど?」
「あー、はいはい、わかったわかった」
 茉莉の表情に何かを感じ取ったのだろうか、聡は渋々といった表情で立ち上がると、椅子に腰掛けている茉莉の後ろに立った。
「この辺でしょうかお客様ー」
「んー、もっと下ー、あ、もうちょい右」
 へいへい、と気怠げな反応を見せながら、しかし聡は結構まじめに肩揉みをしてやる。
 というのも、まあ、その視線の先には、男子に取っては嬉しい物体。
「ちょっと、どこ見てるのよ?」
 自らの胸に注がれている視線に気づいた茉莉が、とげとげしい声を上げる。
 慌てて聡は視線を逸らす。
「い、いやー、重たそうだなー、と思ってさ。肩凝りの原因、それなんじゃねえ?」
「そんなわけ無いじゃない……ああでも、ここ最近肩凝りが酷いのってもしかしてその所為なのかしら、急に大きくなったから」
 言いながら茉莉は豊満な胸を下から持ち上げてみる。
 今までは割と控えめだったのだが、最近急に膨らんできたのだ。やっと成長期が来たのかもしれない。
 確かに胸が大きいと肩が凝る、とは聞いたことがあるけれど、どうなのだろう。
「そんなことが有るのかよ? どうやったんだ?」
「セクハラよ、生徒会長」
 『せいとかいちょう』という単語をことさら強調して発音する茉莉に、聡はぐ、と黙る。
 ナンパをしたら辞任、が公約の聡、就任したての現在、その辺には敏感になっている。
「って、ナンパとセクハラは違わねぇ? あと、肩揉ませるのはセクハラじゃないのかよ」
「おなじことよ。あと、それとこれとは別」
 ひでぇ! と頭を抱える聡の様子を少し楽しそうに眺めながら、茉莉は満足そうに口角を上げる。
「ま、ひとまずお礼は言っとくわ。ありがと。さて、仕事仕事」
 ひとしきり聡をからかい終えると、茉莉は再び書類に視線を落とすのだった。