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【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ

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【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ
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リアクション


・対決! コリマ・ユカギール


(遠路はるばるよく来たな)
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)の脳裏にコリマ・ユカギール(こりま・ゆかぎーる)の声が響いた。天御柱学院室の校長室に通された弥十郎と兄の佐々木 八雲(ささき・やくも)は、室内にあるソファに腰を下ろした。
「その節は世話になった」
(礼を言われるまでもない。些事なことだ)
 八雲は強化人間だ。普段は弥十郎と共にタシガンにいるが、検査のため定期的に海京を訪れている。弥十郎は当然承知しているが、いつも一緒に来ているわけではないため、何のことについて示し合わせているのかはわからない。
「こちら、理事長から預かってきたものです」
 今回、二人がここまでやってきたのは薔薇の学舎の理事長から届け物を頼まれたためである。
(うむ、確かに)
 コリマが確認を終えると、それを非物質化して「収納」した。弥十郎も八雲も中身については知らされていないが、コリマの様子を見るからに何か重要なもののようである。
「それにしても……」
 コリマの周囲を見回し、八雲が苦笑した。
「そんだけ霊がいたら、ホンとチートだな」
 見鬼によって、彼にはコリマのフラワシや契約している多くの霊体であるパートナーの姿が見えているらしい。
(何を言う? 私はあくまでこの者たちから力を貸してもらっているに過ぎん)
 それより、とコリマが言葉を続けた。
(この時代の契約者の方が反則染みているだろう。単身、その者の契約者としての力のみで、パラミタにおいて「神」と呼ばれる者たちと渡り合えるのだからな)
 いくら数千とも数万とも言われるパートナーをその身に宿しているようなものとはいえ、五千年前にたった一人でシャンバラと地球の間を取り持った男が言ったところであまり説得力はない。だが、本人に自覚はないようだ。
(自分の身以外の力を使っているという点では、そこにあるような緑色の蠢く何かや、金色の式神を操っているお主となんら変わらぬと思うが)
 そもそもただの人間の視点からすればどちらも普通ではないのだが、どうやらコリマの言葉が八雲の癇にさわったらしい。
「ならば、互いにその身一つだけで勝負しようじゃないか」
 どうしてそういう話になるのかは謎だが、ほとんどその場の勢いでコリマと八雲が勝負することになった。
(して、何で勝負をしようというのだ?)
「回り将棋だ。僕が勝ったら、弥十郎に学院の敷地がある海京南地区での『料理☆Sasaki』の営業許可を与えてほしい。それと、学食の新メニューの提案も」
(ふむ、賭けか。私が望むものは特にないのだが……そうだな、薔薇の学舎のシパーヒーを提供してもらうとしよう。あの機体は旧世代機にも関わらず、未だに解析が済んでいないからな)
 ジール・ホワイトスノー博士が失踪してから滞っていたイコン研究も、司城 雪姫という少女によって再び活発になっているという。ならばこの機会に、と考えてもおかしくはない。
「じゃあ、早速始めようか」
 幸い、校長室にはチェス盤も将棋盤もある。たまに聖カテリーナアカデミーの校長であるシスター・エルザと打っているという話だ。
 ルールは、至ってシンプルだ。歩兵の駒をそれぞれ将棋盤の角(1九と9一)に置き、金将四枚を振る。金の出方に応じて進む数が決定――表1、裏0、横5、立10(斜め含む)といった具合である。盤を一周したら香車に、次の周以降は桂馬、銀将、王将の順に昇進し、先に王将が一周した方の勝利となる。
「持ち時間は二時間。もちろん、お互い契約者としての能力は一切使わない」
(承知した)
 加えて、一手指すごとにしりとりを行う、とした。それを続けられなくなった時点でも負けとなる。
 専攻は八雲だ。
「りんご」
 表2、裏2だ。
(ゴマ)
 表2、横1、裏1。
「マンゴー」
 その後も、順調にしりとりが続いていった。コリマが超能力で出目の細工をしている気配はない。弥十郎の方に八雲からの精神感応やコリマからのテレパシーが伝わってくることが一切ないことからも、二人が本気になっていることがうかがえる。
 二人とも王将となると、そろそろしりとりの単語も思いつきにくくなってきたのだろう。八雲は悩むように視線を落とすようになっていた。
「パジャマでコリマ」
(それはありなのか?)
 なお、その前の単語は「電波」である。かなり無理やりだが、
「大した問題ではない。つうか、『マ』だよ『マ』」
と、八雲がそのまま流そうとしていた。
(ふむ……)
 いつもの厳めしい表情のまま、コリマが告げた。
(間抜けなヤクモ)
 なお、「大した問題ではない」というのはコリマの口癖である。声に出しているわけではないが。それを物真似っぽく口にされたことでムッとしたのだろうか。なお、このターンでコリマがあと2、八雲があと12だ。
「むむ……」
(大した問題ではない)
「真似すんな」
(先に真似したのはどちらだ? さあ、言うがいい)
 コリマは微妙に勝ち誇ったような顔をしている。ここで、八雲からの精神感応を弥十郎は受けた。もちろん、真剣勝負なのでスルーである。
「モノケロス」
 八雲の目は表2、直立1、裏1。
 ギリギリのところで、コリマより先に上がったのだ。
(私の負けか。いいだろう、屋台の営業は認める。それで、新メニューはどうする? 学食といっても、うちには複数あるわけだが)
「そうですねぇ……まだ充実してないところでお願いします」
 弥十郎が任されたのは、最も新しい普通科の学食だ。後日、そちらで打ち合わせをすることになるのだろう。一応、天学の接点を今後も持ち続けることはできそうだ。
(……なぜ笑っている?)
 八雲の表情を見て、彼に向けられている言葉だというのは分かった。コリマの視線は弥十郎に向いたままだったからである。
「いやあ、この試合が熱かったなと。それに、短時間だったけど議論もなくて静かだったろ?」
(ふ、大した問題ではない)
「スマートじゃないね」
 実際のところ、本当にコリマが超能力を使っていなかったかは分からない。さりげなく出目をいじることくらいはできそうだからだ。
 が、脳内会話をしていなかったというのは、今のコリマの様子から一目瞭然だ。
「ん、どうした? 急に固まって」
(…………)
 どうやら一気に大量の情報(交信)がなだれ込んできたために、フリーズしてしまったらしい。処理が終わるまで、彼はこのままだろう。
 弥十郎と八雲は静かに校長室をあとにした。