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〜 episode6 〜 予選ダイジェスト

 さて、ちょっとレースの様子を見てみよう。
 300羽ものガッツ鳥が出場する予選レースは最初から混戦を極めていた。
 参加者全員が本気でしのぎを削り、出場した鳥たちも必死で走る。
 観客席も遠方から来た客まで混ざりいっぱいになっていて、熱気に満ち溢れていた。
「まさか、三日で3レースも乗らなければならないなんて。結構ハードよね」
 一日目、第5レース。
 出場のために招集をかけられた高崎 朋美(たかさき・ともみ)は、気合の入った表情の他の選手たちを見回しながら、呼吸を整える。首尾よく、可愛い鳥を借りることも出来たことだし、その鳥自身とても素直な性格で足が速い有望な一羽だ。出るからには是非とも勝っておきたい。
「おいおい、これだけ選手がいるのにもう決勝進出したつもりか? ずいぶんと自信満々じゃないか」
 付き添いのパートナーウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)が、レースプログラムを見ながら朋美をやや心配な目で見る。
「おまえの鳥のオッズ知ってるか? 単勝3倍、ド本命だ。奴らが何かやらかす気なら仕掛けてくるぞ、油断しない方がいい」
「このレースで一番人気じゃない。これで負けたらかっこ悪いよね。……ちょっと緊張してきたわ」
 朋美はコースとなっている広大な草原に視線をやる。彼女がこれまでに関係者たちから話を聞いたところ、すでにこの町で黒ローブの男たちが出現したらしい。幾人かが対応して処理したそうだが、まだ他にも出てきそうだった。さらには、運営関係者にまで不正を手伝っていた者がいたという話もある。敵はどこに潜んでいるか分からなかった。
「うん、やっぱり決勝まで行かないとね……」
 そんな朋美をからかうようにウルスラーディは言う。
「体重減らせよ。乗せる側の鳥が可哀想だろ」
「むー、ダイエットしろっていうのー、ボクに? まぁ、鳥さんの負担がなるべく減った方がいいから、出来る範囲でそれはやってはみたけど」
 係員の笛が鳴り、鳥にまたがる朋美。鞍は乗せずに素またがりだ。鳥の羽のクッションがふわふわで座り心地は悪くない。くちばしを輪っかにしてつないである細い手綱を手にして、彼女は他の出場者と共にスタートラインに並ぶ。
 この町に早めにやってきて、体調管理から練習まで出来るだけの対応は済ませてある。後は、鳥と自分を信じるだけだ。
「朋美は呑気でいいな。まあ、そういうところが俺としては気に入ってる性格でもあるが……コホン。と、とにかく無事に戻って来いよ、見守っていてやるから」
 レースの邪魔にならないように後ろに下がりながら、ウルスラーディはパートナーを見送る。
 ピストル音は鳥が驚くと言う理由で、スタート音は呼び笛だ。
 ピッ、という音と共に白い旗が振り上げられる。
 同時に……、朋美を含む第5レースの10羽が一斉にスタートした。
「綺麗なスタートだね。みんな練習してきてるなー」
 自前のビデオを手に上空からスタート地点を俯瞰していた崎島 奈月(さきしま・なつき)が、箒にまたがり舞い降りてくる。町長にお願いして、このレースの撮影役を買って出た魔法使いの男の娘だ。
 スタート前は上空から。レースが発走したら走るガッツ鳥と併走して直線2000mを疾走するレースの模様を撮影すると言う結構ハードなアクションだった。もちろん、不正の抑止のための行動だが、想像以上にレース数は多い。これを、朝の第1レースから繰り返しているのだ。決勝まで含めると、3日で41レース。競争中の鳥たちを驚かせず競技の邪魔せず、淡々と映像を撮り続ける簡単じゃないお仕事……。大観衆が見守る中、神経も使わなければならない。
「明らかに割に合わないよ〜。早くご飯食べて、帰って寝たい〜」
 ゴール地点の上空から撮影している、奈月のパートナーのヒメリ・パシュート(ひめり・ぱしゅーと)は早くもテンションだだ下がりだ。話が違いすぎて超勤手当てでももらわないとやってられない。
 ぶっちゃけ、どれだけ激しいレースでも出場選手はせいぜい1レース数分だけ鳥を走らせれば済む話だ。全レース撮影しなければならない彼女たちこそが鉄人レース参加者と言ってよかった。無茶しやがって……、いや、ご協力ありがとう。
 さて、そんなバックアップも後押しに、朋美はいい調子で鳥を走らせる。レース中に怪しい事件は起こらないかどうか、しっかりと見極めながら、他の9羽と共に、晴天の下草原の風を切る。
(少し、前に出てみようかな……)
 鳥のスタミナを考慮しながら、朋美が少しペースを上げようとしたときだった。
 何かに躓いたようにがくん、と鳥がよろめく。
「!」
 転びはしなかったが、体勢を立て直すだけで朋美はあっという間に最後方まで下がってしまった。鳥がびっくりしたように頭を振っている。
「……え、事故? 何が……」
「鏡だ! 太陽光を反射させている奴がいる!」
 客席に混じっていた黒いローブの男が鏡を手にしているのを見つけ、ウルスラーディがそちらに走る。どうやら直射日光を鳥の目に当てて妨害しようとしていたらしい。時速60キロもの速さで走る鳥の視界をつぶせば大きな事故につながる可能性も高い。
「単純だが、たちの悪いことしやがって。ちょっと来い……」
 ウルスラーディはすごい勢いで男を捕まえると、鏡を取り上げあっという間にボコボコにしてやる。
「朋美は……無事かっ!?」
「ああ……負けちゃった……」
 わあああっっ! という歓声とともに、鳥たちがゴールインする。朋美は必死に追い込んでも二着に入ってくるのが精いっぱいだった。かなりの潜在能力だったらしいが後半無理させたおかげで、鳥がしんどそうにしている。
「ごめんね。もっと早く異変に気を付けていれば……」
「だが、まあ二着ならギリギリ一次予選通過だ。おめでとう……」
「何があったの?」
「……なんでもねえよ。まあ、次からは大丈夫だってことだ……」
 何事もなかったかのように、ウルスラーディは笑顔で朋美を迎え入れた。