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料理バトルは命がけ

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料理バトルは命がけ

リアクション

『さて、長々と続いてきたAブロック審査でしたが次のチームで最終回です』
『本当に長かったわね……見ているだけで疲れたわよ本当に……』
『現在最後のチームの方々が審査員席前で調理を行っております』
『このチームは今大会最多人数チーム……って、何あれ……ピュラわかる?』
『いえ……ですが、何やらとても嫌な予感だけします』

「いあ♪ いあ♪ ■■■■■■■■♪」
「「いあ♪ いあ♪ □□□□□□□□♪」」
 鳴神 裁(なるかみ・さい)アリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)が魔方陣に置かれた、何故か呻き声を上げる鍋の周りで踊っていた。
 唱えられる呪文は時折ノイズがかかり、何を言っているかよく解らない。
「い〜とみ〜♪」
 蒼汁 いーとみー(あじゅーる・いーとみー)も、裁の頭の上で一緒になって踊っている。
「それでは投入しますか、思うがままにやっちゃってー♪」
 裁の言葉に葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が頷くと、下ごしらえ済みの物を持ってくる。
 鍋の中には蜃気楼の怪異 蛤貝比売命(しんきろうのかいい・うむぎひめのみこと)の【蒼汁のフラワシ】のしぼり汁が入れられ、続いて裁が【生き蜂の巣の蜂】に【忍び蚕】、それと栄養価の高そうな野菜を投入。その後アリスが【エリンギ星人】に【キノコマン】に【種モミマン】、そして【アンデッド:レイス】をぶち込んだ。
 更にいーとみーが【野生の蹂躙】で呼び出した魔獣の肉片が投入され、ついでに吹雪が【法に触れるトリップできる物】とイングラハムが【モザイクがかかったなにか】を投入。映像ではないのにモザイクかかってる、というツッコミは今更野暮ってものだろう。
 それらを投入する度に、鍋から咀嚼音が響く。鍋から咀嚼音とか『そんな馬鹿な』と思うが先程踊っていた時から呻くような声が既に聞こえていたので気のせいではないのだろう。
「ってこれの何処が料理じゃ! 怪しい儀式にしか見えんわ!」
 あ、流石に蛤貝比売命がツッコんだ。
「どっかのサバトとかのがまだマシだろこれ……」
 柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)がげんなりした表情で呟く。
「……我は控室で寝ておるわ。この結末を見るのが怖い」
 そういうと蛤貝比売命はさっと戻っていってしまった。本当に寝てしまうんだろう。
 さて、儀k……調理は佳境へと入っていた。一体この結末は何処へ向かう――

「……さっきから何してんの、オデット?」
「ふぇ!?」
 アリスに声をかけられ、先程からずっと調理の様子をメモしていたオデット・オディール(おでっと・おでぃーる)が飛び上がらん勢いで驚いた。
「もーそんな事してないでこっちおいでって。もうすぐ完成するよ……あ、ほら」
 アリスの視線の先で、裁達が額の汗を拭って満足げな表情を浮かべていた。
「ふふ、中々の物が出来上がったでありますな」
 吹雪がそれを『見上げ』て、満足そうに頷いている。
「……え?」
 オデットは、彼女達の前にある物を見て言葉を失っていた。
「さーて、長い前置きは終わり。これからごにゃ〜ぽ☆なクッキングバトルはっじめーるよー☆」
 裁が審査員達に向き直って言う。本当、長い前置きだったよ。
 だが審査員含め、進行役の二人も言葉を失っていた。彼女の背後にある物を目にして。
「テレビの前のみんなは部屋を明るくして、画面から十分に距離を取り、常識は捨てて、SUN値の残量には十分に気をつけて、御覧ください♪ それじゃ、ボク達の料理を食らえぇー!」
 そう言って、背後にあるそれを見せつけた。

――それは、天井をも貫かんとそびえ立つシュークリームの山であった。
 しかも御丁寧に審査員分、山が用意してあった。

「ってちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! 今までの調理過程は何だ!? あれ鍋料理の前振りだろ!? なんでシュークリームなんてもんができてんだよ!」
 恭也がその場にいた全員の心の声を代弁する。本当なんだったんだ今までのあの調理過程は。
「ふっふっふ〜、ただのシュークリームではなーい!」
 しかし裁はそのツッコミに全く臆することなく、胸を張って言い放った。
「そのとーり! えぇい!」
 そして続いてアリスが山からシューを一つとると、恭也の口にねじ込んだ。
「あぐ……しゅぶぁッ!?」
 そして、一瞬間を置いて恭也が逝った。倒れてビクンビクンと痙攣しながら口から血を流している。
「御覧の通り、このごにゃ〜ぽ☆なシューはただのシューではなく、ほとんど当たりのロシアンシュー! しかも内側に行けばいくほど意見度は高いのさ! 青汁粉末、イナゴ、デスソースはまだ序の口。くさやとドリアンのシュールストレミング和えなんて基本中の基本だよ! あ、一応普通のシューもあるにはあるよー」
 裁が胸を張る。嫌な基本だ。
「内側は千六百万スコヴィル値のカプサイシン、一口で魂抜ける蒼汁(アジュール)、自立行動型シュークリーム『い〜とみ〜』なんてのもあるわよー♪ あ、魂抜けても向こうのマッシブなご先祖様が送り返してくれるから安心してねー♪」
 アリスが自慢げに言った。送り返されずいっそ逝った方が幸せなのではないだろうか。
 だが、審査員達はゆらりと立ち上がった。
「「「……ふ、ふふふふふ」」」
 そして笑みを浮かべる。壊れた、というより自棄になったような笑みであった。
 もう何を言おうが、結局アレを食べつくすか、散るしか終わりは無い。ならば、
「「「とっとと突入して終わらせる! 覚悟ぉー!」」」
 審査員一同がシューマウンテンに叫ぶ。この場合覚悟を決めるのは審査員側である。
 一気に体当たりするかのようにシューマウンテンに審査員達が突入。
 その衝撃で、山が揺れた。

『……あの、凄い揺れてますよあの山』
『ちょ、崩れ――ってこっちにくるぅ!?』

 根元に衝撃を受けた山はバランスが崩れ、上の方から雪崩の様にシューが崩れてくる。その量は凄まじく、審査員だけでは留まらず司会進行を務めていた二人をも巻き込んだ。
「あ、遭難には気を付けて☆」
「言うのがおせぇよ! は、早く助けないと!」
 裁に律儀にツッコミを入れた後、猿渡 剛利(さわたり・たけとし)が救助用装備を構える。
「よし、準備はいいか!?」
 同様に有事の際の為に待機していたエメラダ・アンバーアイ(えめらだ・あんばーあい)騎士心公 エリゴール(きししんこう・えりごーる)に突入の合図を出すと、二人が頷いた。
「それじゃ、突入!」
 そして、合図を出してシューマウンテンの崩れた場所に突入する――剛利だけが。
「「いってらっしゃーい」」
 エメラダ、エリゴールは剛利の突入後に、ただ手を振っただけであった。
「な、中はすげぇな……二人とも気を付け――っていない!? 何でだ!? ってうわなんだこれ勝手に口にぃぃぃぃぃ!」
 中から剛利の悲鳴が聞こえ、辺りが沈黙に包まれる。
「ムチャシヤガッテ」
「さらば剛利。お前の事は三日くらいは忘れない」
 エメラダとエリゴールが合掌。
「しかし惜しい人を亡くしたな」
「ま、ギャグ補正で次のシーンにはピンピンしてるしているだろう」
 そんな好き勝手な事を二人で言っていた。だが悪いな剛利、次のシーン無いんだ。

「ふふふ、中々面白い展開になっているではないか」
 運営ルーム。Aブロックの展開を見ていた金 鋭峰(じん・るいふぉん)が愉しそうに言う。
「え、えぇ……そうですね……」
 その隣にいたルカルカ・ルー(るかるか・るー)が苦笑混じりに頷く。
「しかし料理というのも奥が深いな。調理次第であのような兵器にもなるとは」
「あれは料理とは思わない方がいいと思いますよ。もっと別の物です」
「ふむ……しかし見ているだけというのも退屈だな――よし、私も審査する側で参加するか!」
「団長、それは危険です! 主に命とか!」
「しかし、私が見ているだけというのも拙いだろう?」
「そのとーり!」
 三船 甲斐(みふね・かい)が扉を破る勢いで開く。
「そんなところで団長ともあろうお方が見ているだけってのはいかがなもんだと思うんだぜ? よかったらこいつ、味わってみないかい?」
 甲斐が笑みを浮かべて自分の背後を指す。そこには、先程の量より少ないが山のようにあるシューマウンテンがあった。
「ちょーっと待った! そんな危険な物団長に食べさせるわけにはいかない! どうしてもやらせるっていうなら、まずはこのルカの屍を越えて行けぇッ!」
「ほい」
 ルカルカの開いた口に一つ、甲斐がシューを放り込む。
「あむ……んぶっ!?」
 そのシューを吹き出し、ルカルカは目を回して仰向けに倒れた。
「にっしっし、どうやら当たりだったみたいだね……ほとんど当たり、引いたらこうなる。このシューの山、団長ともあろう御方が逃げるわけないよねぇ?」
 甲斐の言葉に、鋭鋒は身を震わせる。
「……くっくっく……逃げる? 何故逃げる必要があるのだ?」
 その震えは、恐怖に寄る物ではなく歓喜の物。
「面白い! 丁度持て余していた所だ! 受けてたとう!」
 そう言うと鋭鋒は上着を脱ぎ捨て上半身裸でシューに挑みかかった。
 何故脱いだかって? 雰囲気ですよ、雰囲気。

 この様子を見て、泪がマイクを入れる。
『……えー、収拾がつかなくなったのでAブロック審査はこちらで終了させていただきまーす。このままBブロックのスペースを用意するので、それまでしばらくお待ちくださーい』
 そして、それだけ言うとマイクのスイッチを切った。