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寂れたホラーハウスを盛り上げよう!!

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第一章 ホラーは大忙し!


「これが“ほらーはうす”なるお化け屋敷なんですね」

 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は、求人情報を得て社会勉強の一環としてやって来た。まず、何をするのか考えるためにハウス内を見て回っている。
 フレンディスはふと足を止め、一緒に来てくれたベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)の方に振り向いた。

「マスターにポチの助、お二人もお化け屋敷がお困りと知ってご協力頂けるのですね。私、嬉しいです。一緒に頑張りましょう」
 フレンディスは笑顔で言った。一人と一匹が自分を心配で同行したとは気付いていない笑顔。
「……まぁ、しゃーねぇからな」
 ベルクはそう答えた。ハウスに協力と言うよりもフレンディスが間違った知識を仕入れ無いようにするためなのだが。
「ご主人様のために頑張ります」
 手伝いをしてフレンディスに褒められたいポチの助はぴんと背筋を伸ばして言った。
「ありがとうございます、ポチの助」
 そう言ってポチの助の頭を撫でた。ポチの助は心底嬉しそうにしていた。
「どうやって驚かせましょうか。マスターは完璧ですね」
 フレンディスは困ったように考えていたがふとベルクの事を思い出し、にっこりと笑顔で言った。頼りになると。
「……そりゃ、俺はクラス的にも種族的にも向いてるかもしれねぇが……力の無駄遣いっつーかなんつーか」
 ベルクはため息をついた。今も『ダークビジョン』で館内は明確に見ており、心の目で自分を襲う疲れる予感も見えている。
「この僕は立派にご主人様の役に立ちますから見ていて下さい」
 ちろりとため息をつくベルクを見た後、ポチの助は胸を張ってフレンディスに主張した。
「ポチの助、少し待っていて下さい」
 ポチの助の発言で何かを思いついたフレンディスは待つように言ってこの場を後にしたが、すぐに戻って来た。手に魔女の黒帽子とマントを持って。

「ポチの助、これを付けてみて下さい。とても似合うはずです」
 そう言ってフレンディスはポチの助に帽子とマントを付けた。愛らしいさがアップした。
「素敵ですよ」
 嬉しそうに手を叩くフレンディスと満更でもない顔のポチの助。
「……そんなんじゃ、驚かせる事は出来ねぇな。せいぜい出入り口の看板犬だろ」
 恐怖を全く感じられないポチの助に対し、ベルクのきつい一言。
「まぁ、看板犬ですか。ポチの助、看板ですよ。重要任務ですよ。頑張って下さい」
 フレンディスはベルクの言葉に嬉しそうに手を叩いた。看板犬とは店を盛り上げるのに重要であると。
「……ご主人様。立派に看板犬の役目を果たします」
 フレンディスに言われると任務を果たすしかないポチの助は力強く答えるしかない。本当は一緒にいたかったのだが。
 ここで二人と一匹はそれぞれの場所に行くため別れた。

「あのエロ吸血鬼め!」
 体よく追い払われたポチの助は、余計な事を口にしたベルクに舌打ちしながらもフレンディスのために頑張る事に決めて顔を上げるといつの間にか見知らぬ所にいた。
「……だ、大丈夫。玄関なんてすぐだ」
 薄暗い中、自分に言い聞かせ玄関に向かうポチの助。フレンディスと一緒にいた一階の廊下から何かと呟き考えている間に二階に上り、人の気配の無い場所にいたようだ。それでも歩き続ける。フレンディスに褒めて貰うため。

 二階の廊下を歩いていた巫女姿の天野 木枯(あまの・こがらし)に狐の耳と尻尾が素敵な巫女姿の天野 稲穂(あまの・いなほ)

「ヤエトさん、妹さんの事を気にしていましたよね。宝物が気になるから探してくれと言うだけで独り占めするとか言っていませんでしたし」
 稲穂がおもむろに話し始めた。二人はヤエトの密命を受け、ホラーハウスに来たのだ。

「……不器用そうな人だったしねぇ」
 木枯も稲穂と同じように詳しい依頼内容を話す時のヤエトの様子を思い出していた。宝物が気になるからと口にしていたが、どう見ても宝物が気になると言うよりは宝物があると言い出したユルナが気になるといった様子。
「木枯さん、何とかなりませんか? 私達や他の皆さんがいれば妹さんともまともな話が出来ると思うんですが」
 キサラ兄妹を放っておけない稲穂は何か名案は無いかと木枯に訊ねた。
「そうだねぇ、少しだけ待ってみようよ。話を聞いた時の様子を見ると根っから嫌っている訳じゃなかったから心配して来るよ〜」
 木枯は二人が行動するのを待つ事を提案した。こちらが何かする前に二人が動く事を期待してもいいのではないかと。

「もし来なければ連絡しましょう」
「そうだねぇ。お宝見つけた人がそのまま持って逃げるかもよ〜って」
 稲穂は頷き、木枯は冗談めいて言った。

 ふと、稲穂が持つ一見すればランタンに見える熱さが無く光りだけを発する鬼火が愛らしい豆柴を照らしていた。
「木枯さん、ポチの助さんですよ。フレンディスさん達と一緒じゃなかったんですか?」
 木枯に知らせた後、稲穂はポチの助に声をかけた。
「……ご主人様から看板犬という重大な任務を受け、現在遂行中なのだ!」
 足を止めたポチの助は、ほんの少し気弱さが見え隠れする声で答えた。尻尾も何気に困ったようにしょんぼりしている。
「看板犬ですか。素敵な帽子にマントですね」
 フレンディスが着せた帽子とマントを褒める稲穂。
「ここは二階だよ〜。連れて行くよ。私達誘導員だから」
 ポチの助の様子から迷子だろうと察した木枯は手に持っていた食堂にある喫茶店を宣伝するプラカードを稲穂に手渡し、ポチの助を抱き上げた。
「やめろ! この忍犬であるこの僕に触れるな!」
 誇りある忍犬であるポチの助は木枯の腕から脱出しようとするもがっちりと抱かれていて不可能。
「仕事ですよ」
 嫌がるポチの助に笑顔で稲穂も言い、二人でポチの助を玄関まで連れて行く事にした。

 一階の廊下に到着したところでポチの助は頑丈な木枯の腕から抜け出した。
「ふん、忍犬である僕にとってこれぐらい何でもないんだぞ。ただお前達に付き合ってやっただけだぞ」
 助けて貰って嬉しかったがそんな事は言えず強がりを口にする。
「ありがとう。また付き合ってね」 
「玄関はここからまっすぐですよ」
 全然気にしない木枯と稲穂は心温かくポチの助を見送った。
 ポチの助は颯爽と玄関に向かい、無事辿り着いた。

 二人だけになり話は再び宝物に戻った。
「……木枯さん、宝物の事ですけど、見回りで部屋を見て回りましたよね。地下室も」
「何も感知出来なかったんだよね〜」
 木枯は少し困ったように言った。 
 稲穂の『トレジャーセンス』を使いながら営業前の部屋を見て回るも無反応だった。
「そうです。それから考えると、もしかしたら金品財宝では無いかもしれません」
 稲穂は、宝物の正体について推理を進める。ヤエトと話をした時、彼の父親についても話を聞いた。家族を顧みないふざけた事ばかりする父親だと。
「それともハウスの中には無いかもねぇ。礼拝堂と食堂の様子を見ようか」
 木枯も推理を進める。確証は無いが、念頭には入れておいた方がいいだろうと。
「……そうですね」
 稲穂は頷き、木枯と共に礼拝堂へ向かった。

 ホラーハウスの玄関。

「……これでいい案配やな」

 受付担当の瀬山 裕輝(せやま・ひろき)は客に配るリタイアボタンにこしょこしょと小細工をしていた。
「何してるアルか?」
 同じように受付係のチムチム・リー(ちむちむ・りー)が隣で作業をしている裕輝に声をかけた。
「めっちゃ、面白いことや」
 裕輝は小細工が終わったリタイアボタンを確認しながらチムチムに答えた。裕輝がしていた小細工が一体何なのか後ほど判明する事に。

「魔女帽子とマント、似合ってるよ」
 受付のレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、通り過ぎて行く黒い魔女帽子とマントを着せられた愛らしいポチの助に声をかけた。
  ポチの助は足を止め、
(この下等生物め! この僕の迫力に怯えるのだー)
 と思いながらレキを睨むも迫力は全く無い。むしろさらに可愛い。

「かわいいな。少し、撫で撫でさせてよ」
 レキは思わず受付カウンターから出てポチの助の毛並みが良い体を撫で撫でした。

「やめろ、この下等生物が!」

 ぶるりと体を震わせてレキの手を払い、さっさと出入り口に移動し、背筋を伸ばして待機。

「……もう少し撫で撫でしたかったな」
 レキは愛らしいポチの助を見ながら残念そうに言った。
「準備するアルよ」
 チムチムが声をかけた。
「大丈夫だよ。衣装もこの通りだし、あとはチムチムの目だけだよ」
 ポニーテールを下ろし、日本人形を思わせる着物。そして、にっこり笑うレキの唇の端からたらりと血が滴る。
「分かってるアルよ」
 そう言ってチムチムは白目状態の笑顔を作って出迎え準備完了。
「客が来たみたいやで、精を出して宣伝や」
 裕輝は開くドアを見つめつつ声を上げた。
「チムチム頑張るアルよ」
「だね」
 チムチムとレキも不気味に元気に客を迎えた。