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リアクション
「悪質な出会い系でもなさそうだしなぁ……。しかしなんでパンをくわえる必要があるんだ」
長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)は怪訝な顔をしてメモを見ながらため息をつく。
ここ最近、ヒラニプラの一角にある町工場で、特に曲がり角で衝突するという事故が相次いでいるという。長曽禰はその取り締まり役として派遣された。
多く寄せられる情報では、衝突による怪我よりもパンを落としてしまい、食事(特に朝食)を食いっぱぐれるという被害が大きいらしい。喧嘩等の騒動は起きていない。
「朝食をしっかり食べてくるのは基本だろうに」
わざわざパンをくわえて、というあたり、もしかしたら生徒たちは何かのまじないでもしているのではないか、と勘繰ってしまう。もしそのまじないだとするなら暴発したら危ない。
ヒラニプラに向かう途中、九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)に声をかけられた。
「あれ。長曽禰さん、お勤めお疲れ様です!」
「おお、九条か。町工場での衝突事故が多いらしくてな。ちと見回りに」
「元々、あそこは見通しききにくいですからね」
九条も噂を耳にしていたようだ。
ついでに、パンをくわえる必要があるかと聞いてみる。
「本当、なんででしょうね。そういえば、さっき通りすがりに耳邪魔だからあげるってパンの耳もらったんですよ」
「そうなのか? パンくず落としたりしていなければいいが……」
町工場では幾人もの人の気配と音がした。ぶつかり合いが続いているのかもしれない。
「私も一緒に見に行きますよ。怪我人が出たら対応できますし」
「そうか? なら助かる。原因がわかったら、知らせてくれよ」
問題解決要員は多い方がいい。長曽禰と九条は町工場へと向かった。
*
小暮 秀幸(こぐれ・ひでゆき)は、細々と情報を集めたノートの表紙に、この現象の通称は何にしようかと、“曲がり角のパン食いジンクス”と名付けた。
金元 ななな(かねもと・ななな)と、パートナーにまたもや「名付けダサッ」と気に障ることを言われたような気もするが、小暮はめげない。めげたら出会いの神様は逃げていく。
情報収集と分析を続けた結果、角でぶつかり出会った者たちは良き仲になる。そんなジンクスを信じようとする人は小暮以外にもぞくぞくと現れた。
「……ということで、是非とも皆に協力を頼みたい。これはもはや偶然ではなく、何かが作用していると思う」
協力者の一人、同じく出会いを求めてやってきた小谷 愛美(こたに・まなみ)は「どんなぶつかり方をしてもいいんだよね?」と質問する。
「そうだ。ありとあらゆる場合、を想定して角でぶつかる原因を掴んで欲しい。そうだな、具体的にこんな感じで」
小暮は近くの登り坂の曲がり角に引っ込み、全速力で駆けて行く――。
がつんっ
道路表記に思いっきり顔面を強打した。痛そうに顔を押さえて立ち上がる。
「い、今のは『坂道を急いで走ったら』という場合だ……」
「大丈夫か? 小暮、ここは俺たちが」
体を張る小暮見かねてダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が名乗り出た。
「そうだねダリル。まずはお手本を見せましょう! 秀幸は今から無理しなくてもいいって」
どうせ小暮は自分の出会いが目的なんだから、代わりにやるんだ、とお手本を二人ががりでやってみることにする。
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は曲がり角を基準に、ダリルとは反対方向に行く。
「今とは逆に、ゆっくり坂を下る場合と、平面を一直線に走る場合でやってみようか!」
「了解。ルカルカが走る側か?」
「うん。それじゃ、よーし……。今から行くよーっ」
ダリルが本を読みながら坂を下り、その前をルカルカが全速力で通る。
ドカッとダリルをふっとばすような勢いでぶつかってきた。掛け声をかけた上でだが、ナイスタイミングなぶつかり方だ。
だが、ダリルの方はよろめき尻餅をついても何事も無かったかのように立ち上がる。反動でしゃがみこんだルカルカの手を取って立ち上がらせた。
「さすが、なかなか勢いがいいな」
「これぐらいしないとね! ダリルはこれぐらいじゃなんともないでしょ?」
「あ、ああ。今度は違う道でやってみるか?」
「じゃあ、今度は速度も変えて……。そういえば、何度か同じ人と偶然ぶつかるっていうのも、無くは無いよね?」
ルカルカは皆に同意を求めて来た。そうだな……とダリルは頷く。
「一理あるな。同じ状況になるように出向けばいいんだから」
小暮のデータにはまだ無いが、毎日の登校ルートでもある道で、生活習慣を変えず同じ時間になどという条件がそろえば、十分可能だ。
「なんともない通りすがりが、再度会うとより親密になるしな」
二人の意見を聞いた小暮はより分析が深まる、と更にメモをしていく。
「状況が違ってもぶつかったら運命的だよね……! そう、これぞ『出会いと衝突を繰り返す事で大人の階段上る曲がり角』ってやつね!」
「なるほどな。繰り返しの積み重ねは大事だ。出会い率が上がる決定的秘訣がわかるかもしれない……」
「小暮、真に受けなくてもいんだけどな……?」
信憑性が無い見解にダリルは苦笑いする。今後の小暮が少し心配になった。
「むむ、なんだか根性入りそう……!」
ルカルカとダリルのお手本をもぐもぐとパンを食べながら愛美は見ていた。
「そうだな。腹ごしらえに少しくれないか」
小暮は手を出してパンを催促する。
「いいけど、少しだけなんだからね?」
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