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リアクション
『長い夜の始まり』
『イルミンスール上空に、浮遊都市と思しき物体が出現!
同時に大量の魔族が、イルミンスールを包囲している!!』
放送を耳にしたフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)、フィリップ・ベレッタ(ふぃりっぷ・べれった)の表情が凍り付く。二人の脳裏に最悪の、魔族が『リュシファル宣言』を破棄して再び戦争を仕掛けてきたのでは、という可能性が過ぎる。
「フィル君、私達は街の混乱を抑えに行くわ。ザナドゥ戦役の記憶はまだ新しい、住民同士で暴動が起きてもおかしくないもの」
直後、放送を聞きつけてフレデリカのパートナーたち、ルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)、グリューエント・ヴィルフリーゼ(ぐりゅーえんと・う゛ぃるふりーぜ)、スクリプト・ヴィルフリーゼ(すくりぷと・う゛ぃるふりーぜ)がやって来る。
「ルーレンさんと町長さん、五精霊の皆さんの総意により『ブライトコクーン』の起動がもうすぐ行われます。
フリッカ、今後の私達の行動指針をどうぞ」
ルイーザの言葉に頷いて、フレデリカは先程フィリップに話した方針を口にする。
「……いいのか? 君の言う『小競り合いや暴動を抑止する』は、時には矢表に立って負の感情を浴びせられたり、敵意を向けられるかもしれないんだぞ?」
確認の意味を兼ねて問うたグリューエントに、フレデリカは強い表情で頷く。
「……そうか、それならいいんだ」
納得したように頷いて踵を返したグリューエントに代わるように、スクリプトがフレデリカの傍に駆け寄って口を寄せる。
「ね、ねぇ、ボク、こう言う時はハッキリキッパリ気持ちを伝えちゃった方がいいと思うな。
あんまりこんな事は言いたくないけど、万が一の事があったらもう会えなくなっちゃうかもしれないんだよ!?」
パートナーの絆からか、フレデリカが本当はフィリップに一緒に来てもらいたいと思っているのを感じ取ったが故のスクリプトの発言を、しかしフレデリカは無表情ではねのける。なおも口にしようとして、寄ってきたルイーザに後ろから抑え込まれ、口を塞がれる。
「ちょ、ちょっとま――むーむー!」
ズルズルと引きずられていくスクリプト、ルイーザとグリューエントが『ミスティルテイン騎士団イナテミス支部』へと足を向け、残されたフレデリカも後を追おうとして、背中越しにフィリップを振り返る。
「…………!!」
しかし結局何も言葉を口にせず、無理やりに引きちぎるように首を前へ向けて、フレデリカの姿が小さくなっていく。
「フリッカさん……」
彼女の行動が何を意味しているのか、分からないほどフィリップは鈍感ではなかった。だからこそ余計に、自分は行くべきなのか、行かない方がいいのか、考えざるを得なくなる。
「……? こんな時にメール、誰から……?」
メールの着信を告げる端末を開いて、送信者を確認するフィリップが、言い表し難い表情を見せる。
送信者は赤城 花音(あかぎ・かのん)――。
『フィリポ、こんな形で報告することになって、ごめんね。
今ボクたちは、イルミンスールにいるよ。ここで魔族に、ボクたちが魔族の攻撃を撥ね返す事実を突き付ける。それだけの覚悟は決めたよ。
「去る敵は追わず」!
でも、「戦意ある敵は確実に討つ」!
フィリポ……ボクはボクの思い描いた行動を信じる。だからあなたも、あなたが一番に思い描いた行動を信じて!
もし離れて行動することになっても、ボクは必ずあなたの所に帰るから。お互いに頑張ろうね♪』
ここで一旦本文が途切れ、そして長いスクロールの後、次の本文が現れる。
『あなたと出会って……ボクは転機を迎えようとしているんだと思う。
ボクは…心の支えになってくれた、フィリポが好き!』
●世界樹イルミンスール
(もし叶うなら……恋を愛に育てる事を認めて欲しい。でも、フィリポがフレデリカさんを選んだとしても、悔いはないよ)
施設を背に、花音がすぅ、息を吸う。
――二人のことは、ボクもよく知っている。フィリポがフレデリカさんに好意を持っていて、フレデリカさんもフィリポに好意を持っていることも――。
(ボクもあなたのために……何かを残せていると良いな)
「フィリポ! ありがとう☆♪」
花音の歌が、イルミンスールに響く。
誇り高き、あいのうた――。
端末を閉じて、フィリップは心底から、時間が止まってくれればいい、と思いたくなる。
しかし世界はあまりにも無情で、そして自分は決断しなければ、ここから先には進めないのだと悟る。
「僕は……!」
フィリップが向かった先、それは――。
「どういうことなんだい!? 魔族はもう攻めてこないって話だったんじゃないかい!?」
「ええ、仰る通りです。魔族は決して、皆さんに手は出しません。ですからどうか、安心してください」
詰め寄る住民へ、フレデリカが誠意ある対応で落ち着かせようと試みる。
「約束が違うじゃないか! クソッ、こんな街になんて居られるか!」
しかし、全員が納得するわけではなく、中には負の感情をむき出しにしてぶつけてくる者もいた。フレデリカもそれは仕方ないと分かっていても、面と向かって罵倒されたり、悲しまれたりすると怒りを覚えるし、悲しくもなるのを感じていた。
「フリッカ、無理はしないで。きつかったら、いつでも代わるから」
「うん、ありがとう、ルイ姉。……でも、これは私の仕事だから」
心配するルイーザに気弱に笑って、座っていた椅子から立ち上がったその時、遠くから見覚えのある顔が近付いてくるのが見えた。
「フィル君……!」
途端にフレデリカの顔がパッ、と華やぎ、即座に首を振って表情を引き締め、息を切らすフィリップに歩み寄る。
「フィル君、ここに来たってことは……いいの?」
「ええ……僕、決めました。
フリッカさんが背負うと決めたものを、僕にも背負わせてください」
その言葉に、今度こそフレデリカは表情を繕えなくなる。嬉しさのあまり目に涙が浮かぶのを拭いつつ、フレデリカが力強く頷く。
「うん……! フィル君が居てくれるなら、私、いつまでだって頑張れる。
だからお願い、一緒に……一緒に来て」
「はい、僕でよければ」
フィリップが差し出した手を、フレデリカが両手で包み込む。
「よかったね、フレデリカ! うんうん、やっぱりこうでなくっちゃ」
喜ぶスクリプトの横で、グリューエントが背を向け、心に呟く。
(でも、大変なのはこれからだ。フィリップ、君の覚悟が本物である事を願っているよ)
イナテミスの夜は、まだこれから――。
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