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めざめた!

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めざめた!

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    ★    ★    ★
 
 カフェテラスの別のテーブルでは、佐野 和輝(さの・かずき)ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)が見つめ合っていた。
「なぁ、ルーシェリア。少し、俺の話を聞いてくれないか?」
 いつになく真剣なのにどこか怯えたような面持ちで、佐野和輝が切り出した。
「なんですか?」
 ちょっと戸惑うような期待するような顔で、ルーシェリア・クレセントが聞き返す。
「……その、なんだ。初めての感覚で、うまいこと言えないから……そのまま伝えるよ」
 そう言うと、佐野和輝はなぜか呼吸を整えて一拍おいた。
「ルーシェリア……好きだ。親愛とか友情愛とかじゃなくて、異性として、ルーシェリアが、好きだ」
 その言葉に、ケーキを突いていたアニス・パラス(あにす・ぱらす)が、むっとして佐野和輝を睨みつけた。それは、自分が言われるはずの言葉ではなかったのだろうか。
「……嬉しいですぅ。好きなのは私の方だけじゃなかったのですねぇ」
 ところが、ルーシェリア・クレセントは、うっすらと涙を浮かべつつその言葉を受け入れたのだった。これは、アニス・パラスにとっては、予想外の展開であった。
「俺を好きになってくれて……好きと言う感情を思い出させてくれて……ありがとう」
 すかさず、佐野和輝がルーシェリア・クレセントに口づけする。ルーシェリア・クレセントも、静かに情熱的にそれを受け入れていった。
「む〜」
 面白くないのは、アニス・パラスである。
「あれっ、でも?」
 面白くないはずなのに、なぜか心がほんのりしてきてアニス・パラスが戸惑った。今、何か新しい物が生まれたような気がする。何かが増えた。
「和輝のお膝は、アニスの物だったのにぃ……」
 それでもちょっと頬をふくらませてみせると、佐野和輝の唇をそっと引き剥がしてルーシェリア・クレセントがアニス・パラスの方を振りむいた。
「はい、アニスさん、ここ」
 そう言って、ルーシェリア・クレセントが自分の膝の上をポンポンと叩いた。
 一瞬考えてから、アニス・パラスが遠慮なくその膝の上に座った。
 うん、しっくりして、実に座り心地がいい。
「ここは、家族の定位置ですよ」
「そっか、家族が増えたんだ♪」
 ルーシェリア・クレセントに言われて、アニス・パラスは増えた物の正体に気づいてニッコリと笑った。
 
    ★    ★    ★
 
「本当に来るノかしらネエ」
 カフェテラスの別のテーブルで、フォスキーアセッカ・ボッカディレオーネ(ふぉすきーあせっか・ぼっかでぃれおーね)が、着飾った雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)に訊ねた。
「まあ、そのへんは五分五分ってところかなあ。もともと、この商売は賭けだしぃ」
 あっけらかんと、雷霆リナリエッタが答える。
 雷霆リナリエッタの言った商売というのは、彼女が考えついた出会い系のちょっと危なっかしい商売である。着飾った自分の写真をネットにあげて、それを餌にして体のいい貢君をゲットしようというのだ。うまくいけば、イケメンからあれもこれも好きな物を買ってもらえるという計算だ。
「それにシテも、今どき、『出会いを求め居る貴方へ。一夜限りの夢を見ませんか? 顔写真と貴方の年収を添えてお返事く・だ・さ・い(はーと)』なんていうキャッチなコピーに引っ掛かる男がイルのかしら……」
 フォスキーアセッカ・ボッカディレオーネとしてはちょっと懐疑的だ。
「だから、賭だって言ってるでしょぉ。そこがスリリングでいいんじゃない。たった一つの例外を除いてなら、そこそこの美少年で充分だしぃ」
 それはまたハードルが高いのではないだろうかとフォスキーアセッカ・ボッカディレオーネが思っていると、やがて件のお相手がやってきた。それにしても、たった一つの例外とはなんなのだろう。
「あら、結構イイ男じゃナイ」
 やってきた嘉月兔 ネヴィア(かげつと・ねう゛ぃあ)という青年を見て、フォスキーアセッカ・ボッカディレオーネはなかなかに気に入ったようであった。だが、雷霆リナリエッタの反応は予想外のものだった。
「あなたに罪のないことは分かってる。だけど、私は、あなたの顔をした人間が大嫌い!」
 椅子を蹴って立ちあがった雷霆リナリエッタが、周囲の視線を集めるのも構わず大声で叫んだ。雷霆リナリエッタの唯一憎む存在、それは彼女の兄であった。その仇敵と同じ顔が、目の前に現れたのである。
「二度とその顔を私の前に見せるな!」
 そう言い捨てるなり、雷霆リナリエッタは、つかつかとカフェテラスを出ていってしまった。
「参ったなあ。あまりネットで変なことをしないように注意しようと思ってアポをとったんだけど、状況は複雑なのかな?」
「サア、あんなに怒ったのを見たのはワタシも始めテヨ。でも、あなたが何かシタってわけじゃなさそうね」
「そうだといいんだけどね」
 なんだか、理不尽な扱いに対する憤りと絶句と好奇心で、なんとも不可思議な感情と表情をいだきながら嘉月兔ネヴィアが言った。
「確かめてミル?」
 フォスキーアセッカ・ボッカディレオーネが、誘惑するように言った。
 しばらく考えた後、嘉月兔ネヴィアは静かにうなずいたのだった。
 
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「うんうん、りっぱな屋台だ」
 レンタルしてきた屋台をほれぼれと見つめて、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が言った。
「たこ焼き器セットよーし、うどん粉準備よーし、タコ準備よーし、たこ焼きソース準備よーし、青のり、花鰹、マヨネーズ準備全てよーし」
 一つ一つを指さし確認しながら、葛城吹雪が満足気にうなずいた。
 今まではバイトで地道に稼いでいたのだが、どうにもお金が貯まらない。やっぱり、人にこき使われるのでは限界がある。だとすれば、自分で商売をすればいいのだ。
 ということでの結論がたこ焼き屋であった。もちろん、屋台他一式はレンタルである。
「さあ、空京で一稼ぎしてくるであります!」
 気合いを入れると、葛城吹雪は屋台を引っぱって走りだした。