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【神劇の旋律】旋律と戦慄と

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【神劇の旋律】旋律と戦慄と

リアクション

 託は本当に詰まらなそうな顔で、目前で奮闘している美羽とベアトリーチェを見つめていた。自分は必要ないのではないかと思わざるを得ない程の圧倒的な力で、敵を倒していく。
そもそも武器を使っていない美羽は、相手を殺傷せしめる、と言う事が極めて少ないからこそ、そしてベアトリーチェはその気性から殺害行動をとらないと言う事からこそ、彼はただただそれを見ているだけでいいのだ。
「ホント――これだけの敵を蹴りでどうにかするって、考えその物、それ自体が怖いよね」
 苦笑する。苦笑して、口を紡いだ。
「タックンも手伝ってよっ! あたしちょっと疲れた!」
 言葉とは裏腹に、まだ随分と切れのある蹴りを放ち、二人を纏めて吹き飛ばした美羽が頬を膨らませて託へと振り返る。
「美羽さん……その“疲れた”は説得力、ないですよ」
「もう! ベアちゃんまで! 良いじゃん良いじゃん! あたしも少し休憩したい! って言うかパフューム先行っちゃったし! あたしも一緒に行けばよかったかな」
「そうすると漏れなく僕はピンチだね」
「絶対嘘だね! だってタックン、此処に来る前もやる気満々でさ……!」
「うん? 何だい?」
 笑顔が真っ黒だった。
「み、美羽さんも、託さんも! とりあえず今は目の前の敵を倒しましょう?」
 ベアトリーチェが敵からの攻撃を手にする大剣で防ぎながら、二人の間に割って入る。
「そうだよ! だからいい加減タックンもさぁ!」
「わかったよ。ごめんねぇ」
 よっこらせ。などとでも言いたそうに体を持ち上げた彼は手するチャクラムを手首にひっかけて回す。
「じゃあ分担。とかそう言う面倒な話じゃなくてさ。一緒に倒して行こうよ。その方が効率悪くないし、労力も使わないでしょ」
 手首で回るチャクラムが、何処か不気味に光を放った。
「実験してみたいんだよね。これ。どうなんだろう」
 言いながら、彼は突如としてチャクラムを放った。
「ねえ美羽ちゃん。空を飛んでみたいと思った事、あるかい?」
 蹴りあげていた美羽の足、今託が放ったチャクラムが彼女の足首に通り、回っている。
「え――」
 返事を返す前に美羽が小さな悲鳴を上げたのは、彼女の体が突然宙に持ちあがったから。
「託さん!?」
「ジャンプ力があるのは認めるし、それは凄いと思うよ? だったらさ、ジャンプじゃ飛べない高さから打撃してみたいとは、思わないかな」
「ちょ、ちょっとタックン!」
 託が手元を動かすと、それに見合って美羽が宙を舞っていた。
「少し扱いは雑になっちゃうから申し訳ないんだけど、これって結構“何かのアトラクション”とかって割り切ったら、楽しめるかもね」
「楽しくないよ! わわっ!」
 恐らく彼のチャクラムの限界高度まで飛んできたのだろう。上空で投げ出された美羽が咄嗟に空中で体勢を立て直し、辺りを見回す。
「わぁ……! ベアちゃん! すっごい良い景色!」
「そこじゃないですよ! 美羽さん、気を付けないと落ちますよ!」
「え、わわわっ!」
 空中に投げ出されてのコンマ数秒、勢いが良ければいいだけ体は宙で停滞し、そしてその後に落下する。重力がかかっている空間である以上、その法則は歪められることなく適応されるわけで、漏れなく、例外なく、この時の美羽も落下を始める。
「ベアトリーチェさん。キャッチしてあげてね」
「そんなぁ!」
「うぁっっはー! はやーい! 楽しー! よーし、いっくぞー!」
 焦って地上であたふたし始めるベアトリーチェを余所に、美羽が案外楽しみながら、しかし両膝を抱えて回転し始めた。まるで空から転がり落ちてくるように、最初はゆっくり。しかし徐々に加速しながら、彼女の回転数が上がって行く。地上にいる敵は託とベアトリーチェを向いている為に気付かず、故に美羽が狙いを定めて踵落としをする体勢に変わった。とはいえ、踵ではなく、それは足の裏。相手を踏みつける要領で、彼女はそれを思い切り敵の頭部へと見舞う。
「いーたーいー! ジーンてしたっ! 足がジーンてしたよっ!」
 相手を蹴り倒した美羽をキャッチしたベアトリーチェに向かって美羽が涙を堪えながら訴えると、彼女も苦笑して美羽の言葉に頷く。
「タックン! あれも禁止ね! 横とかなら良いけど、縦は禁止だよっ! 駄目ゼッタイ!」
「あははは、ごめんね」
 随分と穏やかなやり取りをしながら、背後から忍び寄る敵にひじ打ちを入れる託と同じ要領で蹴りを入れるベアトリーチェ。
「でもさ。こうやって一人一人倒すのって随分時間かかっちゃうよね……どうする?」
 地面に下ろされた美羽が思い出したかの様に言うと、託が更に笑いながら返事を返した。
「さっき僕たちがこっちに来た時もこの人たちついてきたよね?って事は適当に戦いながら動けばいいんじゃないかな」
 なるほど、と合点のいった二人が前を向く。先程シェリエ、パフュームたちが走り去って行った方――門の方を向く。
「よーし! じゃあ競争ね! あっちまで一番先についた人が勝ちっ!」
「じゃあ美羽さんで」
「うんうん」
「へぅ!? 張り合いないよ二人ともっ!」
 肩を落とすが、どうやら彼女もそこまで本気にしていなかったのか、ふふん、と笑みを溢して敵を見やる。
「じゃ、行こっか」
「そうだね」
「はい」
 二人は返事を返し、足を進める。