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【神劇の旋律】消えゆく調べを求めて

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【神劇の旋律】消えゆく調べを求めて

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第4章 尾行してストーカーしてのぞきまくり☆ですわ

「ディオニウスのパーティ。この宴の帰り道に、襲撃はあるはずだ」
 一人夜の道を歩きながら、リブロ・グランチェスター(りぶろ・ぐらんちぇすたー)は呟いた。
 ひゅううううう
 すると、どこからともなく、生暖かい風が吹いてきた。
 風が、リブロのスカートの裾を大きくまくりあげる。
 リブロが履いてきた、白豹柄のパンツが露になる。
 同時に、パーティの参加者として紛れこんでいた女戦士たちが、リブロの周囲を取り囲む。
「襲撃か。これはまた、はれんちな」
 リブロは、スカートの裾をおさえて戦闘態勢に入ろうとする。
 だが、再び風が吹き、リブロのスカートをまくりあげた。
 ぱおー
 月夜の光を受けたリブロのパンツの、白豹が大きく吠えた。
「くっ、いたずらな風が……」
 舌打ちして再びスカートをおさえるリブロの目に、眠気が漂う。
「しまった……が……これでいい……」
 倒れながら、リブロは、自分が囮役であったことを思い出した。
 下着の白豹が汚されるおそれもあるが、そのときは、自分自身が吠えるだけだ。
「リブロ、捕獲されたぞ。白豹の柄が目に入った。スカートがまくれあがり、危険な目にあった証拠だ」
 チェンタウロ戦闘偵察飛空艇に乗り込んで上級から状況をうかがっていたレノア・レヴィスペンサー(れのあ・れう゛ぃすぺんさー)が、同じく、めいめいの装備で上空に待機している仲間たちに通信で呼びかけた。
「了解だよ。追跡をまかれないように、それぞれ蛇行しながらバラバラに追跡しよう」
 航空戦闘飛行脚【Bf109G】を装着して浮遊していたエーリカ・ブラウンシュヴァイク(えーりか・ぶらうんしゅう゛ぁいく)が応答する。
「そうだね。そうするとしようか。アジトをみつけたら突入だね。合い言葉は『白豹を濡らさないで』にしようか。それじゃ、ミッションスタート!!」
 F4Uコルセアを装着して浮遊していたアルビダ・シルフィング(あるびだ・しるふぃんぐ)の言葉に、他の2人はうなずいた。
 無言のまま、夜空をはしる3つの影。
 敵の目には、3つの流れ星が競争しているようにみえるはずだった。

「本当に楽しかったですわ。このまま何も起こらなくてもOKなぐらいですわ」
 トレーネは、宴の後のうきうきとした余韻を味わいながら、夜道を歩いていた。
 その後方からは、ベルフラマントで姿を隠したルカルカ・ルー(るかるか・るー)がついてきている。
 やがて。
 トレーネもまた、女戦士たちに囲まれることとなった。
「あなたたちは!? まあ、眠い……です……わ……」
 トレーネは、あっさりと倒れてみせた。
 身体を抱えあげられ、秘密の場所へと運ばれていくトレーネ。
 ルカルカもまた、姿を消したまま、その後を追おうとした。
 すると。
「うん!? ルカも眠い……どういうこと……まさか、バレて……」
 ふいに眠気に襲われ、ルカルカもまた、姿を消したまま倒れてしまった。
 女戦士たちがルカルカのマントを剥いで、その身体を運んでいた。
(ダリル……計画が……予定どおりにいかなくて……どうし……)
 ルカルカは、消えゆく意識の中で、情報収集を行っているだろうダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)に呼びかけていた。

「ルカも捕まったか。予定どおりだ」
 ダリルは、ディオニウスのサイバールームのモニターで一部始終を確認しながら、一人うなずいていた。
 ルカにはいわなかったが、実はダリルは、ルカも捕まる可能性が高いと予想していたのだ。
 だから、ルカが捕まったときのこともシミュレート済みだったのである。
 もちろん、ルカの身体には発信器をつけておいた。
 敵も、囮を追跡する側に発信器がついていたとは、思わないはずだ。
 全ては、ダリルの掌の上で起きていることだったのである。
「それにしても、あのバルタザールという女は、真に警戒を要する。俺の手をもってしても、解析不能だった。だが、解析不能だったというその事実にこそ、ヒントがあるはずだ」
 ダリルは、今後の計画について想いをめぐらせた。

「追跡のデータはとれているか」
 ダリルは、背後で作業している佐野和輝(さの・かずき)に声をかけた。
「ああ。順調だ。俺自身の従者は、主にトレーネを追っている。が、アニスの放った白鳩の群れが、誘拐された他の生徒たちをいっせいに追っている。おかげで、誘拐された生徒たちが、だいたいひとつの場所を目指して移動しているようだとわかった。その場所がどこかは解析中だが、じきに特定できる」
 端末を操作して情報を解析しながら答える和輝だが、心の奥底では、どこか首をかしげたくなるのだった。
 ディオニウスのサイバールームは、情報処理を駆使して囮を追跡する生徒たちのために解放されているのだが、和輝たちが使おうとしたところで、ダリルがいきなり入ってきて、作業を始めたのだ。
 それだけならいいのだが、ダリルが自分たちが部下であるかのように勝手にみなしている気がして、何だか落ち着かないのである。
 もっとも、生徒同士の連携を重視することになったシェリエの意向もあり、和輝は、努めて和を崩さないようにしていた。
「アニス? ああ、そこの強化人間か」
 ダリルは、和輝の隣で肩を小さく丸めるようにして端末をいじっていたアニス・パラス(あにす・ぱらす)に目を止めた。
 アニスから直接情報を引き出そうとしたダリルは、口をつぐんだ。
 アニスは、ダリルの視線を感じただけでブルブルと震えだし、それこそ和輝を盾にして隠れるような仕草を始めたのだ。
「アニスに聞きたいことがあるなら、俺を経由してくれ」
 和輝のその言葉に、ダリルはうなずいた。
 どうやら、アニスは極度の人見知りのようだった。

「トレーネ君の囮調査に協力させていただきますよ。ボクとしてものっぴきならない状況ですから」
 突然、サイバールームの扉が開かれたかと思うと、アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)が現れ、そう宣言したのである。
 ダリルと和輝は冷静だったが、アニスはすぐに和輝の陰に隠れた。
「協力は嬉しいが、どうしてかな?」
「我が娘、シシィが行方不明なんですよ。これ以上は口にしたくもありません」
 そういって、アルテッツァは下唇を噛んだ。
「なるほど。確かに、それ以上いう必要はない。それだけ聞けば理由としては十分なのだから」
 ダリルはうなずいて、サイバールームの一席をアルテッツァに示した。
「ちょっと、聞いてよ!! あたし、セシルと一緒に公園で音楽のレッスンをしていたのよ。そしたら、何だか知らないけど、セシルだけがさらわれたのよ!! ふっざけんじゃないわよ、あたしじゃ色気が足りないっていうの? ねえ?」
 アルテッツァに続いて入ってきたヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)が、カンカンになってまくしたてている。
 今度は、ダリルも無言だった。
 無視、というより、関心がない様子である。
 そのダリルの態度にも、レクイエムはムカッときたが、アルテッツァにたしなめられた。
「ヴェル、いまは囮調査に協力して、シシィの居場所を突き止めることが先決です」
「どんな情報を持っている?」
 ダリルが、アルテッツァに尋ねた。
「今回の失踪事件について、ネットでみかけたあらゆる情報を分析して、ファイルにしてあります。このファイルを提供するので、あなたたちがリアルタイムで把握している追跡のデータを利用させて下さい」
「了解だ。2つのデータをあわせて、真相の解明に努めよう。ところで、シシィのフルネームは?」
セシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ)です。何か情報があれば是非」
 アルテッツァは、沈鬱な表情で頭を垂れた。
「いいだろう。捜索リストに加えよう」
 ダリルにとっては、関連データは多いに越したことはないのだ。
「で、何でみんなあたしを無視してるの? 特にそこの、丸くなっているあなた!! 何だっていうの、あたしが怖いの?」
 レクイエムは、ますます身体をかたくしているアニスを睨んで、いった。
「そうだ、怖いんだよ。当然だろう?」
 和輝が、冷ややかな視線をレクイエムに向けていった。
「何よ、それー」
 和輝に詰め寄るレクイエムをみて、アニスはますます小さくなって、床にうずくまってしまった。
「それ以上はよせ。アニスの情報収集能力は重要だ」
 ダリルがたしなめた。
「つまり、あたしより価値があるってこと?」
「ヴェル、よして下さい。いま何が大事かはいったでしょう」
 アルテッツァがレクイエムの腕を引いて、無理に座らせた。
「少なくとも、この場では」
 ダリルが低く呟くのを聞いた和輝は、ぴくりと顔をしかめた。
 ダリルときたら、自分の仲間のルカルカもさらわれたのに、心配しているような素振りもみせない。
 それなりに情熱はありそうだが、和輝は、同じ冷静なタイプでも、自分の内面世界とダリルのそれとに、大きな隔たりを感じたのだった。