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か・ゆ~い!

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か・ゆ~い!

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第2章 海だ! カップルだ! でも――(NOエロ)

「優斗さーん、こっちに来ていただけますかー」
「はい、今行きます」
「優斗お兄ちゃーん、こっちこっちー!」
「ああ、ちょっと待ってください」
「優斗……あ、あんまり見るのではない!」
「わ、分かりました」
 風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)は、ビーチの真ん中でリア充だった。
 本人がそうと認識していない分、余計に。
 優斗は、パートナーのテレサ・ツリーベル(てれさ・つりーべる)ミア・ティンクル(みあ・てぃんくる)鬼城の 灯姫(きじょうの・あかりひめ)たちと海に遊びに来た。
 優斗自信は皆が楽しめるようにサポートに徹するつもりだが、パートナーたち全員の目的は、優斗自身。
(恋人なんですから、私を妹ではなく、一人の女の子として意識してもらわなければ……)
 そう考えたテレサは、白いビキニの水着に包んだ身体を恥ずかしげに横たえる。
「優斗さん、サンオイル塗ってもらえます?」
「はい、今やりますね」
(もちろん優斗お兄ちゃんは婚約者の僕に夢中だと思うけど……僕の水着で悩殺だ!)
 可愛らしいピンクのワンピースを着たミアは、ビーチボールを持ってポーズを決める。
「ね、優斗お兄ちゃん、後でビーチバレーやんない?」
「面白そうですね」
(こ……こんな恥ずかしい恰好で人前に出るとは……!)
 灯姫は、パレオのついたワンピースのまま固まっていた。
 テレサとミアが選び、ほぼ強制的に着せられた新しい水着だ。
「よかった、やっぱりぴったりですね」
「灯姫お姉ちゃん、泳ぎ方を教えてあげるよ」
「そ……そう手を引っ張るでない!」
 テレサとミア二人に手を引かれ、ほぼ強制的に優斗の前に連れ出された。
「似合ってますね、その水着」
「な……っ!」
 優斗の何気ない一言で、灯姫の頭に血が昇る。
 今すぐどこかに隠れたい!
「それじゃあ、海で泳ぎましょうか」
「はい!」
「うん!」
「う、うむ!」
 優斗の言葉に、何故か全員が競うように海へと飛び込んだ。

「ゆ、優斗……泳ぎを教えてもらえるか?」
「そうですね、まずは浮き輪で海に慣れてみましょうか」
「きゃあ、優斗お兄ちゃーん! 流されないように捕まってていい?」
「良いですよ、気を付けてください」
「ゆ、優斗さん……水着が流されちゃったんです! くっついてても、いいでしょうか?」
「それは大変です! 僕に隠れていてください。すぐに探さなければ……」
 海の中で、ますます優斗に密着する3人。
 優斗自身は、自分の事よりも今日はただただ3人に楽しんで欲しいとサポートに徹するようにしている。
 それが、ますます3人を燃え上がらせる。

「わ、きゃ……っ!」
 灯姫の声の調子が変わった。
 何かが足に絡まったのか、海の中でもがいている。
「大丈夫ですかっ!」
 慌てて灯姫の元に泳ぐ優斗。
 溺れている彼女を抱えるとビーチに戻る。
「だ、大丈夫ですか?」
「灯姫お姉ちゃん……」
「大丈夫ですよ。ただ、水を飲んでいないか確認しなければ……」
 心配そうに覗き込むテレサとミアに微笑んで見せてから、優斗は灯姫の顔に顔を近づける。
「え」
「あ」
 その様子を見て固まるテレサとミア。
(……む?)
 気配を感じ、目を開ける灯姫。
 するとすぐ近くに、優斗の顔。
「あ、良かった気が付きましたか」
「……な」
「ん?」
「何をするのだぁああ!」
「わ、私以外の人にそんな目を向けないでくださいぃ!」
「お兄ちゃんは僕以外にそんなコトしちゃ駄目ーっ!」
 灯姫とテレサとミア、3人の声が響く。
 それと同時に、3人は手にした砂を優斗の顔に投げつける。
「ぷ……はあっ!」

 優斗は悪くない。
 悪くないが……この仕打ちはある意味必然だったかもしれない。

   ※※※

「ん、あれは……」
「どしたの、和輝?」
 ほんのりと緑がかったドレス型ワンピース水着にウサギ耳のパーカーを身に纏ったアニス・パラス(あにす・ぱらす)と共にビーチに寄った佐野 和輝(さの・かずき)は、砂浜に知った顔を見つけて足を止めた。

「さあ、三人でハート型の砂を探すですぅ!」
「え?」
「ええー!」
 佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)の言葉に、アルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)佐野 悠里(さの・ゆうり)は思わず声を漏らした。
 三人は、水着。
 すっかり海水浴仕様。
 そもそもルーシェリアは海水浴だと言ってこのビーチに二人を連れてきた。
 何故、今ここで探しを……と、文句の一つも言いたくなる。
「ハート形の砂は、恋のおまじないだと聞いたですぅ。アルトリアちゃん悠里ちゃんにハート型の砂をプレゼントして、幸せになって欲しいのですぅ!」
 嬉々として告げるルーシェリア。
 彼女自身は和輝という素敵な旦那さんがいて現在新婚真っ最中。
 その幸せをパートナーにもぜひ味わって欲しいという、彼女なりの親心らしい。
「あ、いや、その……」
 ルーシェリアの言葉に何故か酷く動揺するアルトリア。
「お母さん、悠里にはまだそういうのは早いです。順番からすると、まず師匠でしょ?」
「ゆ、悠里殿まで何を言いますか」
 悠里の無邪気で残酷な言葉が、更にアルトリアを追い詰める。
「自分なんてまだまだ未熟なのですから、そういうのはまだ先のことで……」
 まさか、気になっている相手がいて、しかもそれがルーシェリアの相手の和輝だなんて言えるわけがない。
 ルーシェリアと悠里の攻撃をひたすら受け流すしかない……そうアルトリアが考えていた直後のことだった。
「ルーシェリア達じゃないか」
「和輝さん!」
「か、か、か、和輝殿っ!?」
「あ、おと……んっ」
 和輝に声をかけられ、思わず目を輝かすルーシェリア。
 必要以上に動揺してしまうアルトリア。
 何か言いかけ慌てて口を塞ぐ悠里。
「むっ」
 その、アルトリアの様子を見てアニスのセンサーがきゅぴーん☆と光った。
 彼女のセンサーは、和輝への想いに対して敏感に反応するのだ。
「ね、ね、何か危険な事、考えてない?」
 水着を着たままずずいとアルトリアに近づくアニス。
 その手と膝には、先程まで砂遊びをしていた名残か、砂がびっしり。
「べ、別に何も……わ、そ、そう詰め寄らないで」
 アニスの、想像外の攻撃に更に追いつめられるアルトリア。
「何やってんだ。せっかくだから、デ……いや、皆で泳がないか」
「はーい」
 嬉しそうに和輝の元に駆け寄るルーシェリア。
「ん? 砂遊びでもしてたのか?」
 彼女たちの砂だらけの手を見て、首を傾げる和輝。
「い、いえこれは何でもないですぅ」
 思わず誤魔化すルーシェリア。
「砂遊び?」
 和輝の言葉に反応したのは、アニスだった。
「アニス、砂遊び得意だよ? 一緒にお城、作る?」
「ええ。作るですぅ」
 早速きゃいきゃいと砂遊びに興じる少女たち。
 その様子を見つめる和輝の口には、ほんの少し微笑みが浮かんでいた。

   ※※※

「……ここがサイトに上がっていたビーチか」
 WEBから得た情報をプリントアウトした紙を持った玖純 飛都(くすみ・ひさと)は、ハート・ビーチを見渡した。
「パラミタラブクラゲにラブイソギンチャク…… 珍しい種類の生物が流出したという記述もある。それが本当なら、実際の生態を見学できるいい機会だ」
 探究心の塊の飛都の後ろに、不満気な様子の人物が二人。
「夏のビーチといえば出会いとか、もっと似つかわしい物があるでしょうに。それがクラゲとイソギンチャクとは……」
「ああ、ビーチといえばあんな事やこんな事が……」
 飛都を嘆く矢代 月視(やしろ・つくみ)フェレス・レナート(ふぇれす・れなーと)が続ける。
「君が言うと何故かいかがわしい響きしか聞こえませんね」
「とんだ濡れ衣だな!」
 フェレスの言葉を月視が冷たく切り捨てる。
 否定はしてみたものの、ビーチを眺めるフェレスの脳内はもう大変な状態になっていた。
(せっかくの好奇。飛都を捕まえクラゲかイソギンチャクの餌食にした上で、絡ませ身動を取れなくさせ、噛み付かせ痒みで悶絶し俺に助けを懇願させて……)
 しかし外見は、そんな爛れた内面などおくびにも出さずひたすら紳士的に振る舞っている。
 ぴしり。
 紐と紐を打ち合わせる音に、フェレスは月視の方を見る。
 ロープだった。
「おや月視、いいモノを持ってるじゃないか。そういうのが好きなの……おい」
 月視が、黙ったままフェレスに近づくとロープで体を拘束し始めた。
「ちょっと待て。どうして飛都じゃなくて俺が縛られるんだよ?」
「また碌でもない事を考えていたんでしょう。件の症状に必要なのは愛であって欲望ではありませんよ」
 月視に釘を刺されるが、そんな事で怯むフェレスではない。
「ああ、もしかしてこれで俺を牽制してるつもりなのか?」
 鼻で笑う。
「甘い甘い! この程度で俺が大人しくしてるとでも思ったか?」
「何とでも言いなさい。飛都君への健全教育の邪魔はさせません」
 ばちばちばち。
「なるほどあれがラブイソギンチャクの効果か。なるほど悶えている……ああ、すぐ相手が助けに行ったな。なら大丈夫か」
 ビーチで想定外の火花が飛び散る中、飛都はパートナーたちの意識が自分の方に向かないのを幸いと、じっくりと見学に勤しんでいた。

   ※※※

「そこのお嬢さん、俺と遊ばない?」
「やーよ」
 海といえばナンパ。
 シェリオ・ノクターン(しぇりお・のくたーん)にとって当然の方程式だった。
「ちぇー。また駄目だったか」
「いい加減にしなよ。せっかく海に来たんだ、遊ばないと」
「海で遊ぶなんてガキのやることさ。俺はいい女をナンパするだけさ!」
 嗜める花京院 秋羽(かきょういん・あきは)の言葉に耳を貸さず、シェリオは更に先に進んでナンパしようとする。
 が。
「ん?」
 いつもなら、ここで更に文句が続くはずの秋羽が妙に静かだ。
 妙な胸騒ぎを感じて振り返ると、そこには。
「……なんだこりゃ」
「しぇ、シェリオ、たすけ、て……」
 ピンクやオレンジ色の触手に足を絡まれた秋派の姿があった。
「これって、噂のイソギンチャクって奴か?」
 その触手に、シェリオは心当たりがあった。
「それなら、抵抗すると噛まれ……って!」
 ちゅ。
 絡まれて、抵抗しない人間はいない。
 足を噛まれる秋羽。
「あ……痛、か、痒い痒い痒い……」
「あー、どうすっかなぁ。近づいたら俺が餌食になっちまうし……」
 痒がる秋羽を前に、困惑するシェリオだった。

 その頃、偶然秋羽たちに近づく一行があった。
「えへへへへ」
「楽しそうじゃのう、イリア」
「えへ、ダーリン、そりゃもう!」
 イリア・ヘラー(いりあ・へらー)の希望で海にやって来た、ルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)たちだった。
 ルファンとのデートで上機嫌のイリア。
 更にその隣には。
「ウォーレンもまた重装備で、やる気まんまんのようじゃのう」
「あ、ああ、まあ……」
 浮き輪にシュノーケル、足ヒレを装備したウォーレン・シュトロン(うぉーれん・しゅとろん)だった。
 その時、ルファンの耳に声が届いた。
(か、痒い痒い痒い、誰か、助けて……っ)
「む?」
 周囲を見渡すルファン。
「今、誰かの声がしなかったかのう」
「えー、そう?」
 首を傾げるイリアの隣で、ウォーレンが真面目な顔をする。
「これか……あっちだ!」
 ウォーレンが指差す方角。
 そこには、イソギンチャクに絡まれ、苦しんでいる秋羽の姿があった。
「大変じゃ!」
「あっ、ダーリン!」
 その姿を見た途端、荷物を置いて駈け出すルファン。
「大丈夫じゃ、今助ける!」
「あ、ありがと……う」
 ルファンが秋羽に触れると、イソギンチャクは素直に秋羽を開放した。
 秋羽の肩を抱くようにして、ビーチに横たえる。
「赤くなっておる……痛むか?」
「いや……か、痒い」
「痒い?」
「痒い痒い痒い……っ」
「ああ、掻いてはいかん」
 患部を掻きむしろうとする秋羽をルファンが慌てて止める。
「こ、これは……!」
「知ってるの、レオ」
 イソギンチャクと秋羽の様子を見たウォーレンがはっと声を上げる。
 その様子を見上げるイリア。
「聞いたことがある。これはラブイソギンチャク…… 噛まれると痒くなり、その痒みを取る唯一の手段が『愛情』って奴だ」
「な、なんですとー!? って、そんな話聞いたことないよ。レオの妄言でしょ?」
 ウォーレンの言葉に冷たく返すイリア。
 デートが台無しになって、少し不機嫌らしい。
 しかし、その言葉を真に受けた人物がいた。
「ふむ、愛情か……とりあえず、こうすればよいのかな」
「痒い痒いかゆ……あっ」
 痒みで悶える秋羽を、ルファンが抱きしめた。
 まるで母親のように。
「ダーリン!」
「な、なんだってー!」
 その様子を見て驚愕するイリアとウォーレン。
 しかし驚くべき事態なのは、その後だった。
「あ……ありが、とう……」
「いや、無事効いて良かった」
 ルファンの腕の中で、秋羽の顔が苦痛から穏やかなものになっていくのが分かった。

「いやー無事助かって良かった。という訳でお嬢さん、オレと遊ばない?」
「……イリアにはダーリンがいるからダメーっ!」
 秋羽が助かった途端、誘ってきたシェリオにべーっと舌を出すイリア。
 本格的にむくれているらしい。
「ちぇー」
「ま、気を落とすなよ。ほら、二人連れの女の子も結構いるぜ。二人で声かけてみないか?」
「お、話分かるじゃねーか」
 ウォーレンと肩を組みナンパに繰り出すシェリオ。

「本当に、助かった。その、君の、名は? あ、俺は秋羽だ」
 ルファンの腕から出た秋羽は聞いた。
 僅かに顔を赤らめた様子で。
「ルファン。ルファン・グルーガじゃ」
 二人の出会いだった。