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忠告者と演奏家 恐怖はまだ先の事

 館へ入ったまーけっと・でぃる(まーけっと・でぃる)橘田 ひよの(きった・ひよの)

「ゾンビだか幽霊だかが暴れてるんだろ、早く出てこねぇかな」
「しかし、ざっくりした噂だな。来るつもりなら前もって教えてくれれば情報集めてやったのに」
「いいじゃん、いいじゃん! 怪しいヤツはぶっ壊す☆」

 どっからでも来い! といったひよのは指を鳴らしながらにやにやしている。
 まーけっとはまーけっとでどうせ噂だろと思いながら、ウキウキしているひよのの後ろを歩く。
 すると、どこからともなく足音と共に反響した男性の声が聴こえてくる。

―――誰かが……の右……なら、左の……なさい
―――貴方の……を愛……い。……を憎む…………さい
―――貴方を呪う……祝福……
―――……侮辱…………祈り……
―――もし主を……あれば、呪われ……!
―――我らは……の代理……
―――神罰……代行者
―――我らが…………その肉…………地獄の業火……絶滅すること……

 言葉と共にまーけっととひよのの前に魔物を狩る首切りエクソシストに扮した武崎 幸祐(たけざき・ゆきひろ)が、血糊の銃剣と分厚い聖書を持って現れた。

「ここから先の化け物達は実に凶暴だ。引き返した方が利口だ……」
「ヤだね! 凶暴だってなんだって私には関係ねーな」
「俺もそうだな。お前に帰れ言われる言われはない」
「ならば仕方ない」

 幸祐は1つのドアを示すように開け放つ。そこからはピアノの演奏が微かに聴こえてくる。

「引き返すなら今しかないが?」
「そんなんで私が怖くなるとでも思ったか! 行くぞーまーけっと!!」
「言われなくても」
「警告はしたぞ……」

 すう……っと影に紛れるように奥へ消えていく幸祐。
 消えたのを見て、まーけっととひよのは臆する事もなく、開けられたドアを入っていく。



◇          ◇          ◇




 一階の廊下を可能な限り無用心にテクテク歩きまくる屋良 黎明華(やら・れめか)

「んー、このヒモは何かな?」

 見るからに怪しいヒモをぐいっと引っ張る黎明華。
 ぶらんっと上から、コンニャクやらがんもどきが下がり落ちてくる。

「ふおーーー!! なぜにがんもどきまで!?」

 ぷらんぷらんしてるがんもどきを突いて遊んでいると、びゅっと上に戻って行った。
 それを見届け、気になるモノはないかと探索を再開する黎明華。

「これはいかにも動き出しそうな鎧だなー?」

 ぺしぺしと古びた鎧を叩くと、ギッギギ……という音と共に手にした斧を黎明華に向かって振り下ろした。

「きゃー! 鎧が動き出した―!!」

 緩慢な動きで黎明華を追いかける鎧。逃げる彼女の目の前に天井からボサボサの血みどろ人形が降ってくる。
 楽しげに逃げていた黎明華が、鎧を振り切ると、目の前には大きな二枚戸が存在していた。
 そこからピアノの音が漏れ出している。

「次はどんなのが来るのだぁ?」

 なんの躊躇もなくドアを開けると、そこは朽ち果てた大広間であった。
 奥にあるグランドピアノで薄暗いランプの灯りの元一心不乱に演奏する、白い仮面を着けて正装の上にシックな漆黒の外套を纏ったオペラ座の怪人に扮するローデリヒ・エーヴェルブルグ(ろーでりひ・えーう゛ぇるぶるぐ)

 トッカータとフーガニ短調やエリーゼのためになど一曲終われば次の曲、また一曲終われば次の曲と途切れることなく演奏を続けるローデリヒ。
 黎明華がローデリヒの演奏に圧倒されていると、銀の仮面を付けた男が黎明華をエスコートし、コーヒーとシュトゥルーデルを出して去っていった。

「さっきまで走り回ってたから、ちょうど良いわね」

 出されたそれを食しながら演奏を聞いていると、リブロとアルビダが入ってくる。

「ここにスタンプは……あるな」

 入って早々にスタンプを見つけたリブロはぽんと台紙に印をした。続いてアルビダも。
 先ほど黎明華をエスコートした銀の仮面がリブロとアルビダをエスコートしようと寄ってくるが、それを断る二人。

「レノアの組もゴール出来れば、ここでお茶でもしようか」
「それがいいな。演奏も聴けてゆっくり過ごせそうだ」
「では、ここに用はないな。次のスタンプを探しに行くぞ」

 大広間を出ていく二人を見ていた黎明華も、コーヒーとシュトゥルーデルを食べ切りスタンプラリー完全制覇の為に大広間を後にした。