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さびしがり屋の人形と

 古びた大きな二枚扉の前に立っているさゆみとアデリーヌ。

「(うう……怖いけど……リタイヤするのはもっと嫌……)」

 なかなか踏ん切りが付けないでいると、室内から黎明華の悲鳴が聴こえてくる。


「キャーーーーー!!」


「な、なに……今の悲鳴」
「気になります?」
「う、うん……でも………………いく」

 きつく手を握って勇気を持って扉をあけるさゆみとアデリーヌ。
 少し暗めの部屋に日本人形、西洋人形、ぬいぐるみ、ブリキの人形等で壁一面を覆い尽くしてあって、全部の人形が入口を向いている。
 また、部屋の中には大きな作業台があるが赤黒い染みがついており、鋸とか、鉈とかが無造作に置いてあった。
 中に入って来たさゆみとアデリーヌに車いすで人形職人の好々爺の格好をした夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)とクマの着ぐるみを着たホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)が出迎える。

「「ようこそ、人形部屋へ」」

 室内には先ほど悲鳴をあげた黎明華は、入口付近で人形が宙に浮いた状態で囲まれていた。

「おぬしたち、人形はお好きかな? 気に入った子が居れば差し上げよう、友達になってあげて下さい」
「友達になって―」

 甚五郎に柔らかい不気味な笑みで言われ、着ぐるみのホリイの棒読み加減が不気味さを増長させる。
 それと共に薄暗い部屋に紛れるように隠れている草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)は、サイコキネシスを使って入って来たさゆみとアデリーヌの方へ人形たちを動かして囲んだ。

「……友達に逢いに来たよ」
「友達になりに来たよ……」
「……馬鹿にしないで」
「嫌わないで……」

 人形に仕込まれたマイクから変声機を通して羽純が話しかけていく。
 囲まれた恐怖心からアデリーヌに抱きつくさゆみ。

「と〜も〜だ〜ち〜」

 先ほど友達になってと言ったホリイは手に血が付いた鋸を持ってさゆみたちに近づいて来る。

「と〜も〜だ〜ち〜」
「と〜も〜だ〜ち〜」
「と〜も〜だ〜ち〜」

「いやーーーーー来るなぁぁぁぁ!!」

 黎明華が叫びながらホリイを勢いよく押し返した。

―――ぽろり

 押し返された反動でホリイがかぶっていたクマの頭が外れる。
 中には特殊メイクで血みどろになっていたホリイの顔が現れた。

「と〜も〜だ〜ち〜」

 それでもなお近づいてくるホリイに、黎明華は部屋の中を逃げ回る。

「まって〜」

「来ないでーーーーー!!」

 血みどろのホリイに追いかけられる黎明華、未だに自分たちを見ている宙に浮いている人形たち。
 それについに耐えきれなくなったさゆみがアデリーヌに抱きついたまま半泣きの状態で人形を貰うと言う。

「そうか、そうか。して、どの子が良いのかの?」

 嬉しそうに甚五郎はそう言って、選びやすいようにさゆみの前に囲んでいた状態の人形を一列に並ばした。

「こ、この子で……お願い、します」

 さゆみが指さした人形はすぅっとさゆみの手に収まる。
 人形は小さめのスタンプを抱えるようにして握っていた。

「よろしくね」

 人形を投げ捨てようとしたのを堪えてさゆみはアデリーヌの手を引いて人形部屋から出ていく。

「そちらのお譲さんも一体どうかね?」
「はぁ……はぁ……じゃ、この一体を貰うわ」

 息も絶え絶えの状態で部屋に置かれていた人形を手にする黎明華。

「ほぅ……この子を手にするとは、の」

 意味深に微笑む甚五郎。
 黎明華はそれを気になりながらもそれを聞くことなく人形部屋を後にした。

 とうとう泣くのを我慢できなくなったさゆみは、人形部屋から少し行ったところでしゃがみ込んでいた。

「も、もう嫌よ……なんで人形なんか宙に浮いてるのよ。ぐすっ……」
「大丈夫ですわ。わたくしが傍におりますのよ。だから、もう少しこのままでいましょう?」

 そう言って泣き止むまでさゆみを自分の胸に抱き寄せて髪をなでてやるのだった。

「……こんなところなんてさっさと出よう。スタンプはもう全部集まったんだから」
「そうですわね。立てます?」
「ありがと。行こっか」

 立ち上がり、出口を目指す。
 出口はすぐに見つかり、ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)が出迎える。

「お疲れ様です。どうです? 人形部屋で撮影した写真がありますが」

 ブリジットが差し出した写真には、人形部屋での騒動を撮影した写真が数枚印刷されていた。

「い、いいよ。私たちは」
「そうですか。ではこちらのカーテンからどうぞ」
「ありがとう。今回のホラーハウス、けっこう楽しかったよ」

 アデリーヌに慰められ冷静になったさゆみは写真を見て恥ずかしくなる。

「で、出よう?」

 出ていこうとした二人に後ろからブリジットが声をかけてくる。

「大丈夫ですよ、皆さんが大事にしてくだされば、人形たちもいい子ですよ」

 それに肩をビクつかせるさゆみ。さっさとカーテンを潜って外へ出ていった。
 出口をくぐると、そこには受付の裕輝がいた。

「やーやーお疲れ。どうやった? 楽しんで来たん?」
「ま、まあね」
「サキュバスや妖狐、人形師などいろいろいて面白かったですわ」
「んじゃ、ちょお台紙の確認させてな」

 スタンプの確認をして、コンプリートしているのを確認するとチケットを渡す。

「これは?」
「ティファニーが言うてたやろ? 脱出者にはイイモノがあっとさ」
「あぁ……確かそのようなこと募集のチラシに書いてありましたわね」
「そういうことや。まだ全員出て来ぉへんから、ちょお待っとってや」

 裕輝と一緒に脱出者を待っていると、黎明華が出てくる。