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夏合宿 どろろん

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夏合宿 どろろん

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    ★    ★    ★
 
「酒に釣られて参加したけどよ、なんだ、全然怖くねえなあ」
 王 大鋸(わん・だーじゅ)くんが、ちょっとつまらなそうに大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)くんに言いました。
「まあ、そう言うなって。若い衆に楽しませてやるのも、大人の責任ってやつでありますからな」
「おっと、すまねえ」
 苦笑交じりに言う大洞剛太郎くんにカップ酒をもらって、王大鋸くんが軽く手を挙げて礼のポーズをとりました。
「しっかし、俺様だって、まだ若いんだぜ。まあ、酒はおおっぴらに飲めるようになったがよ」
 カップ酒をグビグビとやりながら、王大鋸くんが言いました。
「おっ、こいつ飲みやすいな」
「そうでありましょう。こういうときのために、地方の銘酒ぐい呑みセットをとっておいてあったのでありますから。後で、他の銘柄も一気に開けてしまうであります」
「そいつはいいや。そうと決まったら、早く済ませちまおうぜ」
 王大鋸くんが歩みを速めます。
「それにしても、なんてえ格好だい。こんなときまで、パワードスーツもないだろう」
 王大鋸くんの言う通りです。大洞剛太郎くんはパワードスーツ改の一式を着込んで、ヘルメットとマスクだけを外して、後ろへと倒しています。
「落ち着けないんでありますよ。まあ、何かあっても、これならすぐに対応できますでありますから」
「でも、そんなんじゃモテねえぜ。まあ、言えた義理じゃねえが」
「そうなんでありますよ。聞いてもらえるでありますか。いや、別にパートナーを誘おうと思っていたんじゃないのでありますが、こっちから何か言う前に、むこうからこう言われたんでありますよ、『間違っても、剛太郎と肝試しには行きたくない!』って」
 大洞剛太郎くんの告白を聞いて、王大鋸くんが腹をかかえて笑い出しました。大洞剛太郎くんとしては、あまり笑い事ではないのですが、パートナーのソフィア・クレメント(そふぃあ・くれめんと)さんからそう言われたのでは仕方ありません。そのため、なんだか同じ境遇の男を救いたい、というよりは、酒を飲んで愚痴りあいたい語りあいたいと思って王大鋸くんを誘ったのでした。
 ひとしきり、女の子たちの身勝手さや、可愛さや、扱いづらさや、優しさなどを語り合いながら進んでいくと、ふいに何か車輪が軋むような音が聞こえてきました。何かと思って目を凝らすと、白いゴスロリドレスを着た車椅子の女の子が、たった一人で森の中を進んでいます。レーヌ・ブランエノワ(れーぬ・ぶらんのわ)さんです。不思議なことに、両手を銀細工の鎖で、両足を革のベルトで車椅子にくくりつけられています。目隠しまでされていて、介添人がいなければダメそうなのに、なぜか一人だけで動いています。もちろん、電動車椅子だったり、手で車輪を回している様子もありません。
 普通に考えたらかなり不気味なのですが、すでに酒の入っている二人はほとんど疑問を持ちませんでした。
「そこの人、こんな所で何をしているのでありますか?」
 まあ、お化け役だろうと思いつつも、大洞剛太郎くんが声をかけました。そのとたん、レーヌ・ブランエノワさんの姿が一瞬にして消えてしまいました。さすがにぎょっとして大洞剛太郎くんがあわてて周囲を見回しました。ところが、いつの間にか王大鋸くんの姿も見えなくなっています。
「ふふふ、君はここで終わるんだよ……」
 さっきの場所から少し離れた場所に、パッとレーヌ・ブランエノワさんが現れました。隠れ身を使って姿を隠していたようです。
「つかまえたぜ。ダメじゃないか、ちゃんと人に押してもらわなきゃな。家どこだ? 送ってくぞ」
 いつの間にか同じように隠れ身を使って様子をうかがっていた王大鋸くんが、いつの間にかレーヌ・ブランエノワさんの車椅子をガッチリ掴んで言いました。
「えっ、えーと……」
 さすがに、何がどうなったのか分からなくて、レーヌ・ブランエノワさんが口籠もります。
「仕方ねえ、とりあえず、悪いが肝試しにつきあえ。後で、ちゃんと家まで連れてってやる。さあ、行くぜ、剛太郎!」
「ええっ!? ちょっと、待て、こら!」
 レーヌ・ブランエノワさんに有無も言わせず、王大鋸くんが車椅子を押して走りだしました。孤児院を経営している王大鋸くんとしては、介護もごくあたりまえのことなのです。
「おーい、待つであります!」
 あわてて、大洞剛太郎くんも後を追いかけます。
「ははははは、行くぜ、行くぜ!」
「あわわわわわ!」
「おーい、酔ってるのでありますかあ?」
 一気に森を抜けて、車椅子を押しながら王大鋸くんが浜辺を疾走していきます。砂浜も、ものともしません。
「一気にゴールだぜ!」
 そのまま、洞窟に突入しました。
「ふふふ、来た来た。あれ? なんでレーヌまでいるんだもん? まあいいやあ」
 洞窟で待ち構えていた深夜・イロウメンド(みや・いろうめんど)さんが、使い魔の猫さんの頭をなでました。分かりましたとばかりに、猫さんが不気味な唸り声をあげます。名演技です。
変身!
 深夜・イロウメンドさんが、無数の猫の目に分裂して洞窟内にへばりつきました。さすがはポータラカ人、芸達者です。
「ピカーッ。キラン」
「さあ、ゴールは近いぜ!」
「どーしてこーなったあ!?」
 思いっきり不気味さを出そうとした深夜・イロウメンドさんでしたが、みごとに王大鋸くんに無視されました。王大鋸くん、今は、レーヌ・ブランエノワさんの車椅子を押すことしか考えていません。代わりに、大洞剛太郎くんが、一応猫の目に気づいて立ち止まりました。
「か〜ごめ、かごめ〜」
 待ってましたとばかりに、深夜・イロウメンドさんが少女の姿になって手鞠をつき始めました。暗い洞窟の中でこれはちょっと怖いです。……のはずだったのですが。
「ちょっと酔ったでありますかなあ。おーい、待ってくれでありますー」
「ああ、ちょっと、行かないで、見てって。ただだからあ」
 深夜・イロウメンドさんが必死に引き止めようとしましたが、酔っ払ったせいだと決めつけた大洞剛太郎くんは行ってしまいました。
「さあ、ここがゴールだぜ!」
「はあ、ぜいぜいぜい」
 一気に駆け抜けて、王大鋸が祠の前にやってきました。いろいろと振り回されて、レーヌ・ブランエノワさんは肩で息しています。
「ふう、やっと追いついたぜ」
 ヘルメットを被って、完全武装状態の大洞剛太郎くんがそこへやってきました。パワードスーツ改を完全に着込むことによってスピードを増し、遅れを取り戻したようです。
「んじゃ、お供えをするであります」
 大洞剛太郎くんが、持ってきた貝とカップ酒を祠にお供えしました。
 王大鋸くんも、同じように貝をおくと、それを杯に見立てて酒を注ぎました。
「コイツの脚が治りますように」
 パンパンと手を叩いてから、王大鋸くんがお祈りします。
「なんでそんなことを……」
「意味なんかねえ。あたりまえだからだ」
 同然だと、王大鋸くんがレーヌ・ブランエノワさんに答えます。別に、誰かが元気になるように祈ることに特別な意図はありません。ごく普通のことです。相変わらず、王大鋸くん、いい人の不良です。
「さあ、帰るか」
 王大鋸くんが言ったときです。ふいに、大洞剛太郎くんがパワードアーム改を、むんと頭の横に振りました。カキンと、何か金属的な音が響きます。
「どうかしたか?」
 怪訝そうに王大鋸くんが訊ねました。
「いや、気のせいだったような……。さあ、帰るであります」
「よし、行くぜ行くぜ行くぜ!」
「うわああぁぁ」
 あまり考えないで、再び王大鋸くんがレーヌ・ブランエノワさんの車椅子を押していきました。
「あーあ、連れていかれてしまったのう」
 神凪 深月(かんなぎ・みづき)さんが残念そうに言いました。
「しかし、なんで完全装備で肝試しに来ているのじゃ。あれは、絶対反則じゃぞ!」
 光学迷彩で姿を隠したまま自在刀を首のそばに出し入れして脅かそうと思っていた神凪深月さんでしたが、危なく刀を折られそうになってそのまま隠れたのでした。
「レーヌは……、まあ、大丈夫じゃろう。んー、後は任せたのじゃ
 とりあえず、神凪深月さんの予想通り、スタート地点に戻ってきた王大鋸くんたちは、無事に救護所にレーヌ・ブランエノワさんを送り届けました。
「さて、飲み直しだあ」
「そうするであります」