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【第二話】激闘! ツァンダ上空

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【第二話】激闘! ツァンダ上空

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 現在の状況は両機の速度が互角に近い為、まるで並んで飛んでいるような状態だ。それでもじりじりと漆黒の機体が距離を詰め、ファスキナートルに追いつきつつある為か、その均衡は崩れつつある。
 そして、漆黒の機体がファスキナートルに追いつき、遂に超至近距離まで肉薄する。
『あばよ――嬢ちゃん!』
 そして、必殺の間合いで光刃を振り上げた瞬間、エレナが佐那に合図する。
『今です!』
『これが私の奥の手――ッ!』
 ファスキナートルは再びバレルロールを繰り出し、螺旋の軌道を描いて飛ぶ。そして、背面になった時ラダーを使うことで本来バレルロールで描く軌道よりも早く機体を回転させる。
 それこそが佐那の狙いだった。本来よりも早く機体を回転させたことでタイムラグが発生し、相手よりも一呼吸置いて本来のバレルロールの軌道に戻るために相手にオーバーシュートさせる――即ち、敵機を追い越させることが可能なのだ。
 このマニューバも左捻り込みと同じく、かつて人類史に燦然と輝く伝説的名パイロットが成し遂げたとされる空戦機動だ。
『横転コルク抜き……だとォッ!?』
 佐那の作戦によってファスキナートルを追い越していく漆黒の機体のコクピットでパイロットが再び驚愕に震えた声を上げる。だが、佐那の作戦はまだ終わっていない。佐那にとってのこの空戦機動は、オリジナルとなる空戦機動を基に、肉を切らせて骨を断つ戦術の機動へ独自に昇華させた物だ。
 ファスキナートルはこのタイムラグを使って変形し、人型になった機体で大型高周波ブレードを構え、追い抜かれざまに高速で振り抜いた。
 もはや人間業の域を超えた大技はすべてにおいて完璧だった。だが、大型高周波ブレードの刃に両断される直前、漆黒の機体は先刻の戦いでも見せた瞬間移動ですぐ横方向、それこそたった数メートル横に移動し、実に十数センチ差というまさに紙一重で回避したのだ。
 だが、さしもの漆黒の“フリューゲル”といえど、佐那の繰り出した技の前には完璧に回避することはできなかったようだ。左腕から先が斬り落とされて宙を舞う。宙を舞う前腕は空中で大爆発を起こして塵となり、残った上腕は切断面から覗く配線の先でスパークが散っている。
『驚いたぜ……もしかすると、さっきのミスター・ニンジャ以上かもな』
 通信機越しに聞こえてくるその声には、素直な簡単と称賛の色が窺える。共通帯域への一斉送信でその声が響いた直後、漆黒の機体とすれ違った所で人型形態のままホバリングしていたファスキナートルの身体が大きく袈裟懸けに斬り裂かれる。
 すれ違いざまに相手を斬っていたのはファスキナートルだけではなかったのだ。
 かろうじてコクピットは無事だったものの、胸から上を斜めに切り落とされて機体の三分の一を失った上、コクピット部分が露出したファスキナートルはもはや戦闘不能だろう。
 大ダメージを受け、残ったサブバーニアでかろうじて落下を免れているファスキナートルの方に向き直る漆黒の機体だったが、ほどなくして踵を返すと、そのまま去って行こうとする。
『待ちなさい……! まだ、私は、死んで……いない……!』
 荒く息を吐きながら、感情を叩きつけるように叫ぶ佐那に対し、漆黒の機体のパイロットは淡々と返す。
『生憎、もう用は済んだんでね。ここに留まってる理由はない』
 飄々とした調子で言う漆黒の機体のパイロットに向けて佐那は激昂しながら問いかける。
『それはどういう――』
 その時、眼下のイコン製造工場の一部が爆発を起こした。